膵臓
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25 巻, 1 号
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特別寄稿
会長講演:2009年膵臓学会
  • 白鳥 敬子
    2010 年 25 巻 1 号 p. 6-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    膵疾患の病態解明には膵機能とその調節機構の理解が重要である.膵外分泌は神経と消化管ホルモン(セクレチン,コレシストキニン(CCK))により制御される.胃酸はセクレチン遊離の生理的因子であり,膵切除術に伴う胃・十二指腸切除はセクレチン動態にも影響を及ぼす.防御因子系抗潰瘍薬にセクレチン遊離作用を発見し薬理作用の一端を解明した.空腸への成分栄養剤投与によるセクレチンとCCKの血中動態,膵液分泌に対する影響を検討し,経腸栄養が膵刺激性の少ない安全で生理的な栄養管理であることを証明し急性膵炎での臨床応用を進めた.膵島インスリンが膵液分泌を促進させ,慢性膵炎モデルでインスリン抵抗改善薬が膵外分泌機能を回復させたことから膵内外分泌相関の意義を証明した.膵機能研究から得られた知見から,膵疾患の病態解明,治療法の提案や開発にヒントとアイデアが提供された.近い将来,未知の膵機能が膵臓病克服に繋がることを期待したい.
特集:膵臓癌におけるトランスレーショナルリサーチの展望
  • 古川 徹
    2010 年 25 巻 1 号 p. 11-12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
  • 佐藤 賢一, 濱田 晋, 下瀬川 徹
    2010 年 25 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    Epithelial to mesenchymal transition(EMT)は通常密に結合している上皮細胞がその極性を失って遊走能が亢進し間葉系細胞の形質を獲得する現象であり,上皮由来の癌が転移する際にも認められる.我々は,BMPシグナルの膵癌細胞に対するEMT誘導機構とその臨床応用の可能性について検討した.その結果,BMP4は膵癌細胞のEMTを誘導しその過程に標的遺伝子であるMSX2が必須であった.また,MSX2それ自身が単独で膵癌のEMTを誘導し膵癌の転移を促進していた.さらに,ERCP時に採取した膵管擦過細胞におけるMSX2 mRNA量を測定すると,膵癌において慢性膵炎に比べ有意に高いことが確認された.以上のことから,膵癌の進展にEMTが重要な役割を果たしていること,並びにEMT誘導シグナルに関与する分子の発現量測定による臨床応用の可能性が示唆された.
  • 大内田 研宙, 大塚 隆生, 水元 一博, 田中 雅夫
    2010 年 25 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    膵癌患者の予後改善にはできるだけ早い時期に膵癌を検出するための新たな早期診断法の確立が必要である.また,腫瘤形成性膵炎などとの鑑別診断やIPMNなど悪性度診断に難渋する症例も少なくない.我々は,これまで膵癌診断能の向上を目指し,膵発癌過程における詳細な癌関連分子の発現変動を検討してきた.具体的には,膵癌の前癌病変である各異型度のPanIN細胞やIPMN細胞,さらに浸潤性膵管癌細胞,正常膵管細胞を凍結切片からレーザーマイクロダイセクション法により選択的に単離し,定量的real-time RT-PCR法を用いてS100 familyやMUC familyなどの膵癌関連分子のmRNA発現解析を行ってきた.また術前にERPにより採取した膵液の解析を行い,各分子の術前診断における意義を検討した.本稿では,これまでの我々の取り組みについて概説し,今後の膵癌診断の展望について述べる.
  • 伊地知 秀明
    2010 年 25 巻 1 号 p. 28-34
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    ヒト膵癌に高頻度な遺伝子やシグナル伝達系の異常をマウスの膵臓に導入することにより,通常型膵癌をよく近似する膵発癌モデルが得られるようになった.恒常活性型Krasが生理的なレベルで膵臓に発現すると前癌病変であるPanINが生じ,同時に癌抑制遺伝子(p16,p53,TGF-βシグナル等)の不活性化が加わると浸潤癌に進行し,著明な間質の増生・線維化を伴う管状腺癌というヒト膵癌の組織学的特徴をよく模倣する.これら膵発癌モデルは,従来のxenograftモデルに比べ,多段階発癌過程を模倣している点・腫瘍の微小環境が保たれている点において臨床の膵癌像に大きく近づいたモデルであり,その詳細な解析から,膵癌の発癌から進展までの病態をよりよく理解することができ,膵癌の新たな診断法・治療法の確立や膵癌の起源細胞の解明へとトランスレーショナルリサーチ発展への寄与が期待される.
  • 島崎 猛夫, 石垣 靖人, 源 利成, 元雄 良治
    2010 年 25 巻 1 号 p. 35-45
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    膵癌の治療がいかに困難かはこれまでの幾多の臨床試験と治療成績が物語っている.根治切除の限界や化学療法,放射線治療の効果が乏しい現状では,膵癌の治療はチャレンジングな領域の一つであり,分子標的治療に期待が寄せられている.本稿では,膵癌の分子特性とゲムシタビンとの併用による分子標的治療の第III相臨床試験の現状を概説する.現在,これらの分子標的治療は小細胞肺癌や大腸癌などいくつかの癌種では良好な治療効果を示しているが,膵癌に対する効果は期待とは程遠い状態である.このため,新しい分子標的の探索が重要視されている.我々は最近,glycogen synthase kinase(GSK)3βが膵癌を含む消化器癌の治療標的であることを同定したので,その概略を紹介する.
  • 粕谷 英樹, 竹田 伸, 野本 周嗣, 野村 尚弘, 杉本 博行, 鹿野 敏雄, 西川 洋子, 三澤 真, 城田 高, 山田 豪, 神崎 章 ...
    2010 年 25 巻 1 号 p. 46-52
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    数々の抗腫瘍薬が開発され外科的な切除術が進歩を遂げている中で未だ膵癌のコントロールは不良である.特に固形癌に有効な副作用の少ない抗腫瘍薬は殆ど存在しない.こうした状況の中で難治膵癌に対する副作用の少ない新規の抗腫瘍薬の開発が切望されている.腫瘍溶解性ウイルスを用いる癌治療は,ウイルスが癌細胞に感染し増殖して内部から癌細胞を破壊するため,従来の遺伝子治療よりも強力な治療効果が期待される.また,最近では腫瘍特異的リンパ球など,癌ワクチンすなわち全身療法としての効果も明らかにされつつある.文献上の検索では,新薬として認可された物やPhase III臨床試験として,全世界で癌患者に対し腫瘍溶解性ウイルスによる癌治療が行われている現状がある.腫瘍溶解性ウイルスの中でも特に当科で行われた膵癌に対する基礎研究と臨床研究に焦点を当てて解説する.
  • 宮澤 基樹, 山上 裕機
    2010 年 25 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    Vascular endothelial growth factor receptor 2(VEGFR2)は腫瘍血管新生と腫瘍増殖において重要で,VEGFR2由来エピトープペプチド(VEGFR2-169)は癌患者の末梢血よりペプチド特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が誘導可能であり,VEGFR2-169ペプチドワクチン療法は臨床効果の改善が期待できる.われわれは切除不能進行膵癌に対するVEGFR2-169と塩酸ゲムシタビンを併用する第I相臨床試験を行った.推奨投与量決定のためVEGFR2-169は0.5mg,1.0mg,2.0mg/bodyとdose escalationし,各コホート6名ずつで鼠径部に皮下投与した.全例でDose limiting toxicityは出現せず安全に施行できた.VEGFR2-169特異的CTLは18例中11例(61%)で誘導可能であった.生存期間中央値は前治療未実施の15例で8.7ヶ月であった.本プロトコールは安全に施行でき,塩酸ゲムシタビン併用にもかかわらず,高率に特異的CTLが誘導できた.免疫学的観点からは2.0mg/bodyが推奨投与量と考えられた.進行膵癌に対するVEGFR2-169と塩酸ゲムシタビンの併用による臨床的有用性を検証するため,2009年1月よりランダム化第II/III相臨床治験を開始した.
症例報告
  • 岡村 行泰, 竹田 伸, 神田 光郎, 藤井 努, 金住 直人, 野本 周嗣, 杉本 博行, 廣岡 芳樹, 丹羽 康正, 後藤 秀実, 中尾 ...
    2010 年 25 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    自己免疫性膵炎は本邦から提唱された比較的新しい疾患概念で多彩な膵外病変が認められる症例が多く,IgG4が関連した全身性疾患の1病変とする考えもある.今回,多彩な膵外の病変を伴った自己免疫性膵炎の3例を経験したので報告する.全例が中年男性で,血清IgG4値が高値であった.膵外病変は2例で胆管,腎病変の合併,1例で後腹膜線維症を合併していた.いずれの症例もステロイド治療を開始し,治療効果が認められた.1例で経過観察中,肺癌の合併が認められた.
  • 鈴木 慶一, 和多田 晋, 三井 洋子, 朝倉 博孝, 坂元 亨宇, 谷本 伸弘
    2010 年 25 巻 1 号 p. 67-72
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    症例は58歳男性.腹部USにて約7cm大の右腎細胞癌と膵頭部の約2cm大の腫瘤を指摘された.Dynamic CT,MRI検査で膵頭部腫瘤は動脈早期から強く造影され,平衡相まで遷延した.PETでは原発巣に淡いFDG集積を認めたものの膵腫瘤には全く集積を認めなかった.右腎細胞癌と良性非機能性膵内分泌腫瘍と診断し,右腎摘出術および幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理学的には右腎は淡明細胞型の腎細胞癌であり,膵頭部腫瘍は腎細胞癌の単発転移として矛盾しない像であった.腎細胞癌膵転移と膵内分泌腫瘍はともに多血性腫瘍であり造影CT・MRI検査等で強い造影効果を示すため,しばしば鑑別に苦慮する.自験例ではFDG-PET/CTにおいて転移巣の集積も認めず,低悪性度の内分泌腫瘍と診断した.更なる高精度の術前鑑別診断を目指すためには,より多くの症例の集積・検討が必要と思われた.
  • 藤本 康二, 東田 明博, 芦田 兆, 山田 元, 小柴 孝友, 東山 洋, 坂野 茂, 山本 正之
    2010 年 25 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    症例は49歳女性.人間ドックで施行した腹部超音波検査で,膵頭部に17mmの嚢胞性腫瘤を認め,精査・加療目的で入院となった.腹部造影CTでは膵頭部に辺縁に造影効果を有する低吸収性の腫瘍を認め,MRIで嚢胞性腫瘍と診断した.ERCPで嚢胞と膵管の交通はなく,膵液細胞診はClass IIIであった.経過観察することも選択肢の一つと考えたが,最終的に内分泌腫瘍などの前癌病変を含めた悪性腫瘍の可能性も否定出来ないことを説明し,本人の希望により幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本では,膵頭上部に厚い線維性被膜に囲まれた血性の内溶液を有する2cm弱の嚢胞性腫瘍を認め,病理診断は非機能性高分化型の内分泌腫瘍であった.2cm未満の比較的小さな無症状の嚢胞性膵腫瘍は経過観察可能な場合もあるが,本症例のごとく,悪性率の高い非機能性膵内分泌腫瘍などの可能性も念頭におき治療方針を決定する必要がある.
  • 旭吉 雅秀, 千々岩 一男, 矢野 公一, 今村 直哉, 永野 元章, 大内田 次郎, 甲斐 真弘, 近藤 千博
    2010 年 25 巻 1 号 p. 80-84
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    主膵管損傷を伴うIIIb型膵損傷に対して,膵胃吻合による膵中央切除術を施行し良好な結果を得た1例を報告する.症例は27歳の女性で仰臥位となっているところで心窩部を踏まれ,その後,腹痛が出現,当科に緊急入院した.腹部US,CTで主膵管完全断裂を伴う膵損傷と診断し,受傷後約12時間後に手術を施行した.術中所見で,膵臓は門脈前面で完全に離断されており,同部から横行結腸間膜,小網に広がる血腫を認めた.他臓器損傷は認めなかった.膵損傷部を含めた膵中央切除後に頭側の膵臓は主膵管を結紮し,断端を縫合閉鎖した.尾側の膵臓は膵胃吻合で再建を行った.術後は特に問題なく経過し,術後31日で退院となったが,退院前の膵機能検査では,膵内外分泌機能に異常は認めなかった.
Selected Expanded Abstract:Topics in the Pancreas
学会紀行
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