ヒト膵癌に高頻度な遺伝子やシグナル伝達系の異常をマウスの膵臓に導入することにより,通常型膵癌をよく近似する膵発癌モデルが得られるようになった.恒常活性型Krasが生理的なレベルで膵臓に発現すると前癌病変であるPanINが生じ,同時に癌抑制遺伝子(p16,p53,TGF-
βシグナル等)の不活性化が加わると浸潤癌に進行し,著明な間質の増生・線維化を伴う管状腺癌というヒト膵癌の組織学的特徴をよく模倣する.これら膵発癌モデルは,従来のxenograftモデルに比べ,多段階発癌過程を模倣している点・腫瘍の微小環境が保たれている点において臨床の膵癌像に大きく近づいたモデルであり,その詳細な解析から,膵癌の発癌から進展までの病態をよりよく理解することができ,膵癌の新たな診断法・治療法の確立や膵癌の起源細胞の解明へとトランスレーショナルリサーチ発展への寄与が期待される.
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