膵臓
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28 巻, 2 号
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特集 IPMN国際診療ガイドライン2012の解説と残された課題
  • 田中 雅夫
    2013 年 28 巻 2 号 p. 121-130
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    改訂版では主膵管型の管径基準を>5mmにした.分枝型の悪性化のリスクに"high-risk stigmata"と"worrisome features"を定義し経過観察を高頻度にする目安とした.主膵管型の切除適応は変わらないが分枝型の切除適応はより控えめにした.その経過観察の方法と間隔を"high-risk stigmata"と"worrisome features"を用いてアルゴリズムで示した.分枝型に通常型膵癌が比較的高率に発生することから,日本では6か月毎の経過観察が行われる.一方で,癌を疑う場合はリンパ節廓清を伴う膵切除術が標準治療で,縮小手術は疑いのない症例に限る.浸潤癌の組織型,IPMNの亜型は予後を示唆する.切除時には膵断端に浸潤癌・高度異型がないことを迅速組織診で確認し,軽度・中等度異型しかなかった例でも経過観察を最低年2回行うのがよく,高度異型や浸潤癌ではより短くする.
  • 山雄 健次, 水野 伸匡, 原 和生, 肱岡 範, 今岡 大, 清水 泰博
    2013 年 28 巻 2 号 p. 131-135
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    IPMN/MCN国際診療ガイドライン2012年版が改訂された.今回の改訂版における診断面での新たな記述は,主として分枝型IPMNの精査や経過観察を中心とする膵嚢胞性腫瘍の検査計画,MCNその他の膵嚢胞と分枝型IPMNの鑑別診断方法,嚢胞性膵疾患の鑑別に関してEUS-FNAにより得られた嚢胞液の分析と細胞診の役割,分枝型IPMNの悪性度診断における膵液細胞診と膵液分析の役割,分枝型IPMNと漿液性嚢胞腫瘍の臨床的特徴や画像診断による鑑別等が主なものである.診断方法に関して前回と異なる点は,MRIとEUSの重要性・有用性がより強調されたこと,EUS-FNAによる細胞診や嚢胞液分析の記載が増えたものの,その実施に当たっては限られた病変に対して限られた施設で行うべきこと,膵嚢胞の主な成因である分枝型IPMN,MCNに加え,漿液性嚢胞腫瘍,仮性嚢胞などの特徴が一覧表として示されたことなどである.
  • 山口 幸二
    2013 年 28 巻 2 号 p. 136-140
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    IPMN/MCN国際診療ガイドライン2012が2006年ガイドライン初版を改訂する形で発表された.与えられたテーマである"IPMNの手術適応"を考える時,IPMNの型分類が基本となるが,従来,施設間で型分類の混乱が認められた.今回,MD-IPMN,BD-IPMN,混合型IPMNの定義が初めて示され,定義の混乱が解消されることが期待される.また,新たな分枝型IPMNの診療のアルゴリズムも示された.アルゴリズムでは,診療を考える起点となる"high-risk stigmata"に修正が加えられ,さらに"worrisome features"が新たに加えられた.こうした因子を中心に経過観察,手術適応を考えることとなった.手術適応は概ね,現在,我が国で行われている適応に近いと思われるが,2~3cmのBD-IPMNや>3cmのBD-IPMNでは若い患者さんの場合,手術を考慮しても良い,もしくは,強く手術を考慮するとの記載があり,我が国の現状とはやや異なっていると考えられる.ガイドライン2012の解説とその問題点について概説した.
  • 清水 道生
    2013 年 28 巻 2 号 p. 141-147
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    IPMNから発生する浸潤癌では,粘液癌や管状腺癌がみられるが,通常,粘液癌は管状腺癌よりも予後が良好であるため,IPMN症例で浸潤癌を認めた場合には,その組織型を病理報告書に記載することが大切である.IPMN由来微小浸潤癌の病理組織学的定義は現時点では明確なものがなく,今後は実測値での表記が必要であろう.IPMNの亜分類では,胃型が最も予後がよく,胆膵型が最も予後不良である.今後は術前の膵液の細胞診などを含め,亜型診断を行い,術前の治療方針に利用すべきであろう.また,IPMNの切除術における術中迅速組織診断では,膵断端の異型度の評価が重要で,高度異型あるいは浸潤癌が認められた場合には,追加切除を行うべきである.分枝型のIPMN(BD-IPMN)と主膵管型のIPMN(MD-IPMN)の鑑別のための切除標本の取り扱いでは,主膵管を可能な限り正確に同定することが最も重要である.また,IPMN由来膵癌とIPMN併存膵癌の定義にも熟知しておく必要がある.
  • 真口 宏介
    2013 年 28 巻 2 号 p. 148-155
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    ガイドラインの改訂により,分枝型IPMNの手術適応が控えめとなったが,併存膵癌の問題が浮上してきた.従って,経過観察にはIPMN病変の悪性化の監視と併存膵癌の早期診断を行う必要がある.
    分枝型IPMNの経過観察法としては,拡張分枝径別にMRIとEUSを中心とした3~6ヵ月毎のfollow-upが推奨されているが,"high-risk stigmata"を有さない例の経過観察成績では進展率0~17.8%,悪性率0~2.6%と低く,短期間での検査は必要としない.一方,併存膵癌の早期診断には短期間での経過観察を要する.
    「分枝型IPMNの前向き追跡調査」では,6ヵ月後CT,12ヵ月後にMRCPとEUSを行い,これを6ヵ月毎に繰り返す経過観察法とした.
    IPMNの自然史のさらなる解明と併存膵癌の早期診断法を明らかにすることが課題である.
  • 福嶋 敬宜
    2013 年 28 巻 2 号 p. 156-162
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    IPMN/MCN国際診療ガイドライン2012では,病理組織学的事項について,(1)浸潤癌組織型,(2)「微小浸潤癌」,(3)腫瘍組織亜型,(4)術中迅速診断,(5)主膵管型,分枝型の判別と病理学的検索,(6)浸潤性膵管癌とIPMN由来癌の鑑別などの各問題を取り上げ,現時点での推奨内容が述べられている.そして,それぞれにはさらに細かな問題が内在している.一方で,これらを突き詰めて考えると,病理組織学的課題は,組織標本上でどのような基準を用いて評価判定すべきか,ということと,その評価判定の問題を検討するための検体処理や標本作製の問題からなっていることがわかる.とくに検体処理の問題は,ある意味で組織診断基準の設定より標準化の難しい側面であり,今後,病理医のみならず,科横断的な取り組みが必要である.
  • 木村 理, 渡邊 利広
    2013 年 28 巻 2 号 p. 163-172
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    IPMNに残された課題についての切除術式の選択について論ずるには,IPMNの病態を明らかにすべきである.IPMNは浸潤しはじめてからもslow growingなのか? IPMN由来浸潤癌では5年生存率が約40%とかなり悪い.IPMNは少なくともin situ carcinomaの段階で手術すれば治る病気である.もちろん浸潤して宿主の命を奪うことのない症例に対する不必要な手術は回避すべきであるが,手遅れになってしまって癌死させてしまうのはいけない.この点において,外科医はきちんと手術・術前術後管理をして治し,患者を手術の合併症で失うことがないように,細心の注意をはらわなくてはならない.IPMNの手術術式には,定型的な膵頭十二指腸切除術,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術や膵体尾部脾切除術以外に,膵分節切除術,膵鉤部切除術,十二指腸温存膵頭十二指腸切除術,脾動静脈を温存した脾温存膵体尾部切除術などがある.
  • 高折 恭一
    2013 年 28 巻 2 号 p. 173-177
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    IPMN国際診療ガイドラインは,2006年に初版が出版され,2012年に改訂された.日本膵臓学会が行った全国多施設研究の解析結果から,IPMNと膵癌の関係などが明らかにされ,これらの知見を踏まえて,分枝型IPMNの手術適応や経過観察の方法についても見直しが行われた.しかし,諸外国では,医療体制の相違から,緻密な経過観察が困難な国も多く,2012年版診療ガイドラインに準拠した診療が可能かどうかは疑問が残る.高いレベルのエビデンスを構築することにより,国際的コンセンサスを得られる診療指針を示す必要がある.また,生体試料を用いたゲノム・エピゲノム・プロテオーム解析が国際的に注目されており,今後の研究の発展が期待される.さらに,安全な低侵襲手術の普及により,IPMNの外科治療をより受け入れられ易いものとすることも重要と考えられる.
原著
  • 北川 裕久, 田島 秀浩, 中川原 寿俊, 牧野 勇, 中沼 伸一, 林 泰寛, 高村 博之, 二宮 致, 伏田 幸夫, 萱原 正都, 太田 ...
    2013 年 28 巻 2 号 p. 178-184
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    膵頭部癌の膵頭十二指腸切除術後消化吸収障害に対する,腸溶性高力価膵消化酵素剤パンクレリパーゼの有効性を,従来の膵消化酵素剤から本剤に切り替えた7症例で評価した.消化吸収障害は下痢の程度,体重の増減,日常生活の活動性,消化不良の症状を織り交ぜWong-Bakerのフェイススケールにあわせて,0から5までのGrade分類を新たに作成して評価した.1例で重度の下痢がみられ投与中止した.他の6例では腸溶性パンクレリパーゼへの変更によって,5例で体重増加がみられ,4例で止痢剤減量を要した.消化吸収障害Gradeは,体重増加のなかった症例,止痢剤減量ができなかった症例も含め6例全例で0または1にまで改善していた.膵頭部癌術後の消化吸収障害の改善に,腸溶性パンクレリパーゼの投与は,有用であることが示唆された.また,今回考案した臨床に即したGrade分類は,消化吸収障害の評価に有用であった.
  • 久保田 倫代, 安田 武生, 武 強, 荒木 麻利子, 中多 靖幸, 亀井 敬子, 山崎 満夫, 石川 原, 中居 卓也, 竹山 宜典
    2013 年 28 巻 2 号 p. 185-190
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    [目的]肥満患者に膵頭十二指腸切除術を行うことはリスクを伴う.今回,われわれは膵頭十二指腸切除術後の膵液瘻に対する肥満の影響について検討した.
    [方法]2007年7月から2010年3月に膵頭十二指腸切除術を施行した58人について後ろ向きに解析した.肥満の評価は体重,体格指数とCT上の臍の高さにおける内臓脂肪面積,皮下脂肪面積を用いた.周術期のデータを収集し,各データと肥満の関係について検討した.
    [結果]対象症例の年齢平均値は65歳.58症例中,14例(24%)で膵液瘻を合併した.膵液瘻を合併した患者群と合併しなかった患者群について肥満に関して検討したところ,体格指数,内臓脂肪面積,皮下脂肪面積,体重は膵液瘻合併群で有意に高値であった.また,膵液瘻を合併した患者群では,手術時間は長く,術中出血量,輸血量ともに多い傾向があった.
    [結語]肥満はPD後の膵液瘻の危険因子となる可能性があると考えられた.
症例報告
  • 花本 浩一, 余語 覚匡, 松林 潤, 鬼頭 祥悟, 浦 克明, 平良 薫, 大江 秀明, 吉川 明, 石上 俊一, 垣内 伸之, 白瀬 智 ...
    2013 年 28 巻 2 号 p. 191-196
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    肝膿瘍に対して経皮経肝膿瘍ドレナージを行い軽快した患者に,2か月後に腹部超音波検査を行ったところ偶然に膵頭部腫瘍が発見された.CTでは膵鈎部に4cmの低吸収域,EUSでは不均一な低エコー腫瘤があり,内部に小嚢胞成分を認めた.MRIでは腫瘍部分の拡散制限を認めた.主膵管や総胆管拡張は認めなかった.胃体部に早期癌を認めた.膵頭十二指腸切除術を施行したところ膵腫瘍は腺扁平上皮癌であり,胃癌はm癌であった.術後1か月目から塩酸ゲムシタビンによる術後補助化学療法を開始したが,術後17か月に腫瘍マーカーSCCの上昇を伴って局所再発をきたした.FP併用放射線療法を行ったところSCCは基準値内になり病巣は縮小した.術後28か月経過したが明らかな活動性再発病巣なく経過している.本患者の膵腫瘍は2か月の経過で急速に増大しており,膵腺扁平上皮癌の生物学的特性を示していると考えられた.
  • 浅井 浩司, 渡邉 学, 松清 大, 齋藤 智明, 児玉 肇, 道躰 幸二朗, 榎本 俊行, 中村 陽一, 岡本 康, 斉田 芳久, 長尾 ...
    2013 年 28 巻 2 号 p. 197-203
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/30
    ジャーナル フリー
    膵管胆管瘻を伴う膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の2例に対し,異なる術式を選択し,異なる術後経過を認めたので報告する.症例1は80歳代の女性.発熱,眼球結膜黄染を主訴に入院となった.胆管炎に伴う頻脈発作と心不全を入院経過中に認めた.根治術は不能と判断し,手術は胆管空腸吻合術を選択した.術後4か月で膵管胃瘻を発症し術後8か月で死亡された.病理解剖所見では中等度異型の膵管内乳頭粘液性腺腫と診断され,膵と胃に瘻孔形成を認めた.症例2は70歳代の女性.黄疸を主訴に入院となった.根治術可能と判断し膵全摘術を施行した.病理組織結果では非浸潤型の膵管内乳頭粘液性腺癌と診断された.術後9か月経過した現在,再発なく外来通院中である.膵管胆管瘻を伴うIPMNは黄疸が遷延するため,不必要に胆道ドレナージに固執することなく,早期手術を考慮し適した手術療法を選択するべきと考えられた.
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