現行の「慢性膵炎臨床診断基準2009」が提唱されてから10年間が経過した.世界ではじめて早期慢性膵炎の概念を取り入れた診断基準であるが,その後蓄積された知見や膵炎診療の変化をふまえて,その改訂が必要となっていた.今回,日本膵臓学会膵炎調査研究委員会慢性膵炎分科会が中心となり,診断基準の改訂を行った.新基準「慢性膵炎臨床診断基準2019」の最大の特徴は,mechanistic definitionを慢性膵炎の概念として取り入れ,早期慢性膵炎の診断項目を危険因子の観点から改訂したことである.新たに膵炎関連遺伝子異常と急性膵炎の既往を診断項目に組み入れ,診断特異度の向上を意図した.さらに,多量飲酒歴の基準を純エタノール換算80g/日から60g/日に変更するとともに,画像診断としてMRCP所見の格上げ,早期慢性膵炎の画像所見の整理を行った.新しい診断基準が慢性膵炎診療のさらなる質の向上や患者の予後改善に寄与することが期待される.
症例は70歳,男性.良性胆管狭窄にて肝左葉切除の既往あり.上腹部中心の腹痛で受診,膵酵素上昇,CT,MRIで膵周囲に嚢胞を伴うびまん性膵腫大を認め急性膵炎の診断で入院.一旦軽快退院するも下痢,腹部不快が続き1ヶ月後膵炎再燃にて再入院となる.保存的加療にても2週間後著明な腹水増加,また大動脈,門脈内血栓形成も認め抗血栓療法を開始した.腹水は血性でアミラーゼ高値,ERCPで主膵管の不整狭細像,膵尾部嚢胞から腹腔内への造影剤漏出が確認され膵液瘻と診断された.EUS-FNAにて腫瘍性病変は認めず,膵びまん性腫大,高IgG4血症より1型自己免疫性膵炎確診例としてステロイド加療開始,同時に膵液瘻に対し膵管ステント留置を行った.以後腹水,膵腫大,高IgG4血症とも改善傾向を認めステロイド減量,4ヶ月後膵液瘻の消失を確認し膵管ステントを抜去した.自己免疫性膵炎に合併した膵嚢胞の破綻により膵液瘻を来した稀な症例と考えられた.
症例は71歳女性.腹部US検査で膵頭部に14mmの低エコーの腫瘤像が認められた.超音波内視鏡では膵頭部病変の他,膵尾部に膵頭部と同様なエコー所見を呈する2つの腫瘤(13.4・17.4mm)がみられた.膵頭部・膵尾部病変に対し超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(endoscopic ultrasonography-guided fine needle aspiration:EUS-FNA)を施行したところ,膵尾部病変から膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor:pNET)を疑う所見が認められたため,膵頭部腫瘍核出術及び尾側膵切除術,リンパ節郭清術を施行した.手術標本の病理組織検査では膵頭部病変の1つはpNETと診断された.しかし,膵尾部病変は著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を伴う線維化の強い炎症性腫瘤で自己免疫性膵炎と診断された.これ以外に,摘出された膵尾部には病理組織検査でのみ確認できる2mm程度の微小なpNETの組織が2箇所認められた.術後経過は良好で,4年間無再発で外来通院中である.
症例は60歳,男性.17か月間で8回の急性膵炎を繰り返し,7回の入退院を要した.各種検査を施行したが,急性膵炎の成因は同定できなかった.膵炎再発の予防を期待して,ブロムヘキシン塩酸塩を開始した.以降は42か月間,膵炎の再発を認めていない.本症例の経過はブロムヘキシン塩酸塩の再発性急性膵炎に対する再発抑制効果を示唆すると考えられた.