膵臓
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35 巻, 5 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
追悼企画
症例報告
  • 荒田 了輔, 眞次 康弘, 大下 彰彦, 佐々木 民人, 中原 英樹, 板本 敏行
    2020 年 35 巻 5 号 p. 378-386
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代男性.4年前に食道癌に対して右開胸開腹食道亜全摘術・胸骨後胃管再建を施行し,無再発生存中であった.2年前にintraductal papillary mucinous neoplasm(IPMN)の診断を受けたが,経過観察中に主膵管拡張増強と主膵管内壁在結節を指摘された.造影される壁肥厚や主膵管径10mm以上の拡張よりhigh-risk stigmataの混合型IPMNと診断し,右胃大網動脈,右胃動静脈を温存した幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的診断は混合型IPMNであった.術後経過は良好で12日目に退院した.食道癌根治術後に膵頭十二指腸切除術が行われることは稀で,2018年までに本症例を含め29例の報告を認めた.血管走行の確認には3D-CTAが有用で右胃大網動・静脈温存が多かったが,切除する場合は右胃動・静脈温存や血行再建も考慮することが望ましい.

  • 土橋 篤仁, 小林 慎二郎, 土屋 淳一, 片山 真史, 小泉 哲, 有泉 泰, 大坪 毅人
    2020 年 35 巻 5 号 p. 387-393
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    症例は65歳の女性.近医にて肝嚢胞の経過観察中に膵頭部に造影効果を伴う充実性腫瘍を指摘され当院へ紹介された.血液検査で各種ホルモン値の上昇は認めず,腹部造影CT検査で膵頭部に15mmの境界明瞭な類円形の腫瘤を認めた.動脈相で不均一に低から等吸収,門脈相から遅延相にかけて均一な強い造影効果を示した.EUS-FNAで病理組織学的診断はつかなかった.画像診断にて非機能性膵神経内分泌腫瘍を疑い幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を行った.膵頭部に境界明瞭な結節性病変を認めた.病理組織所見で線維化を背景に膵管,腺房組織増生と小膵管弾性板,末梢神経細胞,ランゲルハンス島の消失を認め膵過誤腫と診断した.膵過誤腫は報告例が41例と稀な疾患である事に加え,術前組織診断を得る事は非常に困難である.術前に非機能性膵神経内分泌腫瘍との鑑別に難渋した膵過誤腫の1例を経験したので報告する.

  • 布施 匡啓, 藪下 泰宏, 土屋 伸広, 澤田 雄, 本間 祐樹, 熊本 宜文, 松山 隆生, 山中 正二, 細野 邦広, 遠藤 格
    2020 年 35 巻 5 号 p. 394-402
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    症例は78歳女性,経胃的EUS-FNAによる膵体尾部癌確定後に膵体尾部切除術を施行した.病理結果は高分化型膵癌,進行度は「膵癌取扱い規約 第7版」でpT2N0M0 pStage IB,治癒切除であった.S-1による半年の補助化学療法終了後,外来で経過観察していた.術後4年6ヶ月,PET/CTで胃体上部後壁に異常集積を認め,上部消化管内視鏡検査で同部位に粘膜下腫瘍を指摘された.経胃的EUS-FNAの既往より,needle tract seeding(NTS)で穿刺経路に発症した孤立性胃転移の疑いで胃部分切除術を施行した.病理結果で筋層を中心に腺癌を認め,免疫組織染色で膵癌原発巣と染色パターンが類似しており,NTSによる膵癌胃転移と診断した.

    EUS-FNAの穿刺経路を切除範囲に含まない膵体尾部癌術後はNTSによる胃転移に注意が必要であり,早期発見のために定期的な上部消化管内視鏡検査を考慮すべきである.

  • 下川 雄三, 宮ヶ原 典, 寺松 克人, 末廣 侑大, 久野 敏, 植田 圭二郎, 山本 一郎, 山田 裕一, 小田 義直, 麻生 暁, 藤 ...
    2020 年 35 巻 5 号 p. 403-411
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy:TMA)とは血小板血栓による臓器障害を特徴とする疾患群であり,生命予後・腎機能予後とも不良な病態である.今回,膵癌に対するgemcitabine(GEM)投与中に生じたTMAを早期診断し,腎機能改善が得られた2症例を経験した.

    症例1は40代男性.局所進行膵癌に対し重粒子線治療とGEMによる化学療法を開始した.投与開始後26ヶ月から腎機能障害が進行し同32ヶ月に血栓性微小血管障害と診断した.症例2は70代男性.局所進行膵癌に対するGEM投与開始後10ヶ月に腎機能障害を契機に診断に至った.2症例ともGEM休薬のみで腎機能は改善した.

  • 吉村 昂平, 池野 嘉信, 豊田 英治, 河南 智晴, 奥野 知子, 土井 隆一郎
    2020 年 35 巻 5 号 p. 412-417
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    症例は64歳,男性.健診の腹部超音波検査で膵体部に腫瘤性病変を指摘された.術前に組織学的診断を得ることはできなかったが,画像検査では膵神経内分泌腫瘍を第一に疑い,また膵粘液癌などの悪性疾患を否定できなかったため,手術の方針とした.術式は腹腔鏡下膵体尾部切除術とした.病理診断は後腹膜神経鞘腫であった.本疾患の術前診断は困難であるが,CTで遅延性に造影される腫瘤を膵周囲に認めた際は,本疾患を鑑別の1つに挙げることが重要であると考えられた.

  • 澤野 武行, 梅原 豊, 島谷 孝司, 棟方 正樹, 村田 暁彦, 髙橋 賢一, 黒滝 日出一, 袴田 健一
    2020 年 35 巻 5 号 p. 418-428
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    【症例1】29歳男性,膵癌疑いにて亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,結腸右半切除術,上腸間膜静脈部分切除術施行.膵腺房細胞癌(T3N1aM0 Stage IIB)にて術後S-1療法を行ったが局所再発を認めた.nab-PTX+GEM療法を開始したが再発腫瘍増大を認め,mFOLFIRINOX療法開始.12コース施行後,再発腫瘍消失.術後44か月生存中.【症例2】69歳男性,膵神経内分泌腫瘍,膵腺房細胞癌疑いにて膵体尾部切除術施行.膵腺房細胞癌(T3N0M0 Stage IIA)にて術後S-1療法を行ったが多発肝転移,AFP上昇を認めた.nab-PTX+GEM療法を開始したが肝転移増大,AFP高値悪化を認め,mFOLFIRINOX療法開始.12コース施行後,肝転移消失,AFP基準値内に低下.術後19か月生存中.【結語】術後再発に対して,FOLFIRINOX療法により長期生存を期待し得る可能性が示唆された.

  • 松本 一秀, 藤森 尚, 末廣 侑大, 村上 正俊, 寺松 克人, 高松 悠, 高岡 雄大, 大野 隆真, 五十嵐 久人, 伊藤 鉄英
    2020 年 35 巻 5 号 p. 429-438
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    症例は86歳女性.パーキンソン病に対して内服加療中であったが,低血糖による意識障害で救急搬送された.造影CTにて膵尾部腫瘤,多発肝腫瘤を認め,悪性インスリノーマを疑った.精査の結果,肝転移を伴う膵神経内分泌腫瘍と診断し,48時間絶食グルカゴン負荷試験からインスリノーマと診断した.繰り返す低血糖症状のため中心静脈栄養を必要とする状態であり減量手術も検討したが,SASIテストにて多発肝転移巣からホルモン産生が確認され,年齢からも外科手術は困難と判断した.ソマトスタチン受容体シンチグラフィにて病変に高度の集積を認めたことから,ソマトスタチンアナログで治療を開始したところ血糖が上昇し,日中は点滴によるブドウ糖補充が不要となった.ジアゾキシド併用の上で自宅退院となり,低血糖の再出現なく外来にて定期観察中である.高齢発症の悪性インスリノーマは稀少であり,内科的治療が奏功した一例として報告する.

  • 伊藤 孝, 鬼頭 祥悟, 甲津 卓実, 阿部 由督, 金田 明大, 中村 直人, 松林 潤, 中山 雄介, 北口 和彦, 浦 克明, 豊田 ...
    2020 年 35 巻 5 号 p. 439-446
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    退形成性膵管癌は非常に頻度の少ない腫瘍でその悪性度は非常に高い.われわれは,2回の膵切除手術と化学療法で長期生存した退形成性膵管癌の症例を経験した.症例は70歳男性.糖尿病の悪化を契機に膵頭部癌と診断し手術を施行した.病理組織検査は腫瘍径9mm,TS1の破骨細胞型退形成性膵管癌の診断であった.術後2年5か月の腹部造影CT検査で残膵に22mmの腫瘤と尾側膵管の拡張を認めたため,腫瘍の再発を疑い残膵全摘術を施行した.病理組織検査は,初回と異なる亜型の紡錘細胞型退形成性膵管癌であり,残膵の新規病変と判断した.退形成性膵管癌が異時性に膵内に重複発生した例は本邦初である.残膵全摘術後に再発をきたしたものの,2回の手術を含む集学的治療で本患者は長期生存しており,積極的な手術加療が予後を改善する可能性が示唆された.

  • 矢野 弘樹, 橋元 慎一, 田口 宏樹, 田ノ上 史郎, 岩屋 博道, 有馬 志穂, 佐々木 文郷, 上村 修司, 東 美智代, 井戸 章雄
    2020 年 35 巻 5 号 p. 447-454
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    症例は46歳女性.心窩部痛,嘔気を主訴に受診した.膵酵素の上昇を認め,急性膵炎の診断で保存的に加療された.画像所見で膵体尾部実質の不均一な造影効果と尾側膵管の拡張を認め,膵腫瘍が疑われた.EUS-FNAにおける組織診断で確定診断が得られなかったが,膵体部癌の可能性が否定できず,手術治療を行った.切除標本にて特徴的な組織所見を示し,2型自己免疫性膵炎の診断に至った.

  • 中島 隆善, 生田 真一, 笠井 明大, 一瀬 規子, 友野 絢子, 浜野 郁美, 岡本 亮, 仲本 嘉彦, 相原 司, 栁 秀憲, 吉本 ...
    2020 年 35 巻 5 号 p. 455-462
    発行日: 2020/10/30
    公開日: 2020/10/30
    ジャーナル フリー

    症例は64歳,男性.膵尾部癌の診断で膵体尾部切除術を施行し,病理組織学的に中分化型管状腺癌と診断された.S-1内服による補助化学療法を1年間行い外来通院中であった.初回手術より6年3か月無再発で経過していたが,血液検査にてCA19-9値の上昇,CT検査で残膵頭部に30mm大の腫瘤性病変を認めた.EUS-FNAを施行し,組織診で多核巨細胞を含む高度の核異型を呈する腫瘍細胞の増生像を認めた.遠隔転移所見はなく残膵全摘を施行した.腫瘍は線維性被膜を有する境界明瞭な結節性病変で,破骨型多核巨細胞を多数伴い,多形性に富む腫瘍細胞の充実性増殖像を呈しており,破骨型多核巨細胞を伴う退形成癌と診断した.退形成癌の関与した残膵癌の報告は少なく,自験例に文献的考察を加えて報告する.

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