膵全摘では周術期血糖・栄養管理が重要である.12年間の膵全摘32例の周術期血糖・栄養状態を検討した.一期的・二期的膵全摘は各々16例で計48病変の約80%を膵管内乳頭粘液性腫瘍と浸潤性膵管癌が占めた.5年生存率は60.2%,一期的・二期的膵全摘で差はなかった.HbA1cは術前6.7%,術後1年は7.7%と上昇,prognostic nutritional index(PNI)は術前47.8,術後1年は43.0と低下した.予後因子を単変量解析すると術後1年neutrophil-lymphocyte ratio,術前platelet-lymphocyte ratio,術後1年PNIが抽出され,多変量解析では術後1年PNIが有意な因子であった.術後1年PNI 40.5未満は予後不良で,高力価パンクレアチン製剤投与群は予後良好であった.膵全摘後は正しい病態把握のもとに内外分泌治療を行うことが重要である.
症例は71歳,男性.上腹部痛を主訴に近医を受診し,急性膵炎を伴う膵動静脈奇形の診断で当院放射線科に紹介となった.CTで膵体部に拡張した血管の集簇を認め,門脈系血管が早期相で造影された.また膵尾部周囲には脂肪壊死と仮性嚢胞を認めた.血管造影では動静脈奇形の分布が広範囲であり,動脈塞栓術は困難と判断された.その後保存的治療が行われたが,食事再開に伴い膵炎を繰り返した.手術目的に当科紹介となり,尾側膵切除術を行った.膵炎による膵周囲の癒着や線維化が高度で,門脈や総肝動脈,脾動脈周囲には異常短絡吻合を多数認めた.病理組織学的検査では多数の毛細血管と線維化,大小の血管を認め,慢性膵炎と膵動静脈奇形の所見であった.術後は膵液瘻なく経過し,10日目に退院した.術後4年経過し,膵炎の再発は認めていない.内科的治療に抵抗性の急性膵炎を伴う膵動静脈奇形に対して,外科的治療は有効な治療法となりうると考えられた.
症例は57歳男性.検診で膵体部の嚢胞性病変が指摘され,当院を紹介された.造影CTでは膵体部に17mm大の中心部に嚢胞成分を伴う充実性腫瘤が認められた.3年後の造影CTでは,嚢胞成分を伴いながら23mm大に腫瘍径が増大し,MRIでは中心部の嚢胞成分はT1WI,T2WIともに高信号を示し,辺縁は拡散低下を伴う充実成分として観察された.超音波内視鏡検査でも同様に,中心に嚢胞成分を伴う充実性腫瘤として観察された.膵体尾部切除が施行され,病理学的にmixed acinar-neuroendocrine carcinoma(MAcNEC)と診断された.腫瘍中央の嚢胞成分は壊死によるものが疑われ,その周囲にsynaptophysin陽性の領域が,更にその周囲にBCL10,trypsin陽性の領域が分かれて確認された.本症例はMAcNECの発生様式を考察する上で示唆に富む症例であり,文献的考察を加え報告する.
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は胆管や十二指腸など他臓器に穿破することが知られており,胆管へ穿破した場合,多くが閉塞性黄疸を来す.今回,我々は内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)を施行し,定期的なチューブ洗浄で良好な減黄後に根治手術をした症例を経験したので報告する.症例は84歳男性,繰り返す発熱を主訴に近医を受診した.精査の結果,IPMNの胆管穿破による閉塞性黄疸と診断された.内視鏡的胆管プラスチックステントを留置するも減黄不良で全身状態悪化のため,当院へ紹介入院となった.プラスチックステントからENBDチューブへ入れ替え,管内閉塞予防にENBDの定期的洗浄を繰り返し,減黄後に全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織では膵管内乳頭粘液性腺癌(IPMC)の診断となった.術後経過は合併症なく退院となり,術後1年経過しているが再発兆候は認めていない.
膵切除後の膵液瘻は致死的となりえる合併症である.われわれは敗血症性ショックを伴った重篤な膵空腸縫合不全に対し再手術,interventional radiology(IVR)によるドレーン管理,経腸栄養によって救命し得た症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は76歳男性,IPMC疑いに対しSSPPD-II-A-1を施行した.術後重篤な敗血症性ショックを伴う膵液瘻を発症し6PODに再開腹し腹腔内洗浄,ドレーンの再留置,挙上空腸内に減圧tubeを留置した.集中治療管理の後,27PODに経腸栄養tubeを挙上空腸から胃空腸吻合部を越えて留置し,経腸栄養を開始した.37PODには,吻合部背側に留置したドレーン孔より透視下逆行性に造影を行い,それを頼りに主膵管に直接tubeを挿入することに成功し膵管外瘻とした.以後膵液瘻は徐々に改善しドレーンは全て抜去,92PODに退院した
症例は74歳,男性.前医で実施した腹部超音波検査で胆嚢に隆起性病変を指摘され精査目的に当院紹介となった.精査にて胆嚢の隆起性病変は胆嚢腺筋症と診断したが,造影CTで偶発的に膵尾部に径20mmの辺縁石灰化を伴う造影効果の乏しい腫瘍を認めた.MRIでは病変はT1およびT2強調画像で高信号を呈していた.超音波内視鏡検査(EUS)では膵尾部に辺縁石灰化を伴う均一な低エコーの充実性腫瘍を認めた.また,膵体部にCTおよびMRIでは描出されなかった径6mmの円形低エコーの充実性腫瘍も認めた.2病変について超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を行い,多発膵solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)と術前診断し,胆嚢摘出術および膵体尾部切除を実施した.最終診断もSPNであった.今回EUSが腫瘍発見に有用であった多発膵SPNの稀な1例を経験したので報告する.
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