症例は79歳女性.突然の上腹部痛と嘔吐を主訴に当院受診.造影CT検査で脾臓の造影不良域と,下行大動脈の不整形な低吸収域を認め,大動脈内血栓症,脾梗塞と診断し,ヘパリン,アスピリン投与を開始した.翌日,急激に腹痛増悪し,血液生化学所見で膵酵素と炎症反応の上昇を認めた.造影CT検査では大動脈の低吸収域は消失し,胃十二指腸動脈の造影欠損像と膵臓の造影不良域が出現した.胃十二指腸動脈塞栓症による虚血性膵炎と診断し,膵炎治療を追加した.その後壊死性膵炎に至ったが保存的治療により軽快退院した.
虚血性膵炎とは,膵への血流低下により発症する急性膵炎であり,他の成因による急性膵炎と比較しても重篤化しやすく予後不良な病態である.今回,下行大動脈内血栓症による胃十二指腸動脈塞栓症が原因と考えられる虚血性膵炎に対して,抗血栓療法と急性膵炎治療により良い経過が得られた1例を経験したので報告する.
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