製塩装置にステンレス鋼加熱器を用いた場合の適正材料, 施工, 使用上の問題点についての資料を得るため, 実地2工場の結晶缶に小型モデル加熱器を付設し, 腐食試験を実施し, 次の結果を得た.
1) 再製塩プラントにおける延7, 113時間の試験結果では, 供試伝熱管のSUS304 (2本), SUS316 (3本), SUS316L (3本) のいずれにも応力腐食割れが発生しなかった.しかし, SUS316L以外の伝熱管は液出入口端に孔食, デポジットアタックを発生していた.SUS316Lの液出口側管板にはほとんど腐食がみられなかったが, SUS304の液入口側管板には伝熱管装着のための拡管部, 溶接部近傍にご応力腐食割れがみられた.SUS316の水室は溶接ビードに若干の腐食がみられた.
2) イオン製塩プラントにおける延5,737時間の試験結果では, 供試伝熱管のSUS304 (2本), SUS 304L (4本), SUS316L (4本), SUS329J1 (3本) 中, SUS316L (1本), SUS329J1 (3本) を除き, いずれも貫粒型の応力腐食割れを発生した.割れの発生位置は, SUS304, 304Lの各1本は液出口側管端の溶接装着部の近傍, その他は管板外の中間部である.伝熱管中間部に発生した割れの原因は, 管東組立の管端溶接で生じた塑性変形部の引張残留応力によるものと考えられる.また, いずれの管も中央部にデポジットアタック状の孔食が発生し, SUS304およびSUS304Lの電縫管の溶接ビードが激しい腐食を受けた.SUS316Lの上部管板, SUS316の上部水室にデポジットアタックおよび応力腐食割れ, SUS316Lの下部管板, SUS316の下部水室の溶接部近傍に応力腐食割れを発生した.このように, イオン製塩プラントでの腐食状態が再製塩プラントのそれにくらべ激しかったのは, 腐食媒としての塩化マグネシウム濃度が大きいためと考えられる.
3) 上記の結果から, 製塩プラントにおけるステンレス鋼伝熱管材料としては, 耐食性の点からSUS329J1がすぐれており, とくに腐食条件の過酷なイオン製塩プラントの高温度域の結晶缶用として有望な材料と考えられる.SUS316, SUS316L級材料は, 再製塩プラントの結晶缶用, イオン製塩プラントの低温度域結晶缶あるいは濃縮缶用としては使用可能と考えられる.
4) 伝熱管の管板への装着方法と応力腐食割れの関係については, 明確な結論が得られなかった.
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