海水利用施設の適切な立地計画および環境影響評価への参考資料を提供するため, 最近4力年間に日本沿岸域で調査した水質を整理し, 各海域における水質の特徴について次の結論を得た.
1) 水温は親潮の影響する東北地方以北では最高水温は低く, 夏季でも20℃ を超えることは少ない. 一方九州地方では暖流の影響で最低水温は12℃ 以下になることはない. 内湾や瀬戸内海は大気温の影響を受け, 水温変動の幅が大きい.
2) 塩素量は対馬暖流の影響下にある九州西岸および日本海沿岸で19%前後と高く周年変動は少ない.親潮系の影響を受ける太平洋東北岸, 北海道南岸では平均18%前後で海流の消長により1%程度の年変化がみられた.一方, 瀬戸内海では中央部で低く, 豊後水道にかけて高くなり, 季節的変動の幅は1%程度であり, 秋季に最も低下する. 内湾域では季節変化は著しく, 変動幅は4%にも及ぶ.
3) CODは内湾域を除いて1ppm以下であった.
4) DOは夏季の内湾域では, 成層条件下で表層で過飽和, 下層で貧酸素となり, 生産と分解の両極の現象がみられた.その他の海域では年間を通じてほぼ飽和状態にあった.
5) 透明度は開放的な海域で一般に高かつたが, なかでも, 日本海は15mを超え最も高く, つづいて九州西岸で10mであり, 親潮の影響を受ける海域では暖流域にくらべて低い. 瀬戸内海や内湾域ではさらに低下する.
6) 栄養塩類は内湾域で高く, 富栄養化した海域が多い. つづいて瀬戸内海中央部で高く, また, 親潮影響域でも同レベルであり, 豊富であった. 一方, 対馬海流の影響を受ける九州西岸では最も貧栄養であつた. 栄養塩類の季節変化は九州西岸を除いて顕著な傾向がみられ, 一般に秋季~冬季に増加する傾向にあつた. 窒素化合物のうち, 内湾や瀬戸内海ではNH
4-Nを主体とし, 噴火湾, 東北岸ではNO
3-Nを主体としていた.
7) クロロフィルσは栄養塩類の濃度におおむね比例し, 内湾域で高く慢性的な赤潮状態にあり, つづいて瀬戸内海と親潮影響域で比較的高かった, 対馬海流の影響を受ける九州西岸や日本海西部は最も低い海域であった.
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