瀬戸内海の中部から東部に位置する燧灘, 播磨灘, 大阪湾の堆積物について有機炭素, 形態別リン酸塩組成等について調査した.
リン酸塩の形態分析に際して, 試料の乾燥によりカルシウム結合態リンの増加が認められたので, 分析は湿泥を用いて行った. 堆積物中の有機炭素濃度と有機態リン濃度との間には正の相関が認められたが, 無機態リンについてはそれが認められなかった. 可溶性全リンと有機炭素濃度との関係をみたところ燧灘, 播磨灘においては比例関係は認められずほぼ一定値となった. ただ大阪湾では正の相関が認められるものの, 有機炭素の増加に比べればリンの増加割合が少ない. 無機態リンの形態はカルシウム結合態がもっとも多く, ついでアルミニウム結合態リン, 鉄結合態リンの順となっていた. 有機炭素が多い海域ではCa-P, Al-P, Fe-Pの割合が大きく, 逆に有機物の少ない砂質の好気的な堆積物中にはそれ以外の無機態リン酸塩が多く検出された. 還元状態下ではカルシウム, アルミニウム, 鉄以外の金属とのリン酸塩の形成が妨げられるとともに, そのリン酸塩は不安定でリンを遊離しやすいと考えられる. N/P比は海中懸濁物, 沈降物, 堆積物の順に小さくなるが, その中では沈降物と堆積物の間での変化が大きく, 堆積後の変化は小さい. したがってN/P比は堆積初期に決定されるが, その際に堆積環境がそれに反映され, 還元状態下ではリンの堆積物への移行率が低下し, N/P比が大きくなることが明らかとなった. また, 海中沈降粒子が堆積物になる過程では, 有機態窒素は無機化されるとただちに海水中に回帰していくのに対し, リンは海水中の粘土粒子や金属水酸化物に吸着, または化合結合して粒子に捕捉され海中に遊離しにくい. しかしながら堆積物が還元状態になるとそれらは遊離し, 海水中に回帰することから窒素とその挙動が大きく異なっていた.
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