地球環境問題の一つである地球温暖化に寄与する温室ガスは, 二酸化炭素, メタン, 亜酸化窒素などである. その寄与割合は, 49%が炭酸ガス, 17%がメタンとされている. メタンは, 近年大気中の濃度が年間1.1%以上という急速な割合で増加し, また温室効果に対するポテンシャルが二酸化炭素の32倍で, 生物作用の寄与が大きいメタンは, 温暖化の原因物質として最近急に注目を浴びつつある.
ICPP (気候変化の政府間パネル) の報告によると水田, 湖沼, 沼沢地および沿岸域などの湿地帯がメタン発生源の45%を占めていると計算されている. 高井の研究 (1960) では, 湛水下のメタン発酵は, 硝酸還元, マンガン還元, 鉄還元, 硫酸還元などが行われた後に生起する点を明らかにしている. この点から推測すると海水・汽水の影響を受けている沿岸域では, 有機物が供給された場合還元状態下で硫酸イオンを微生物の受容体とする硫酸還元が卓越することが予想される6).
このことを証明するために, 本研究においては, 河川水から有機物が供給されるとともに, 河口から海水が供給されて淡水と混合する汽水域を対象として硫酸還元菌とメタン生成細菌の相互作用について検討した. 干潟から採取した堆積物と各種濃度に海水を薄めた溶液をいれた注射筒を30℃で72日間インキュベートした. その結果, 硫化物生成量の大小は, 海水区>海水1/2区>海水1/4区>脱イオン水区の順で, 硫酸イオンを多量に含む海水区で硫化物の生成がもっとも急速に多量に起こった. メタン生成量は, 硫酸イオン含量と対応し, 硫酸イオンが多いと硫酸還元が盛んとなリメタン生成量が減少する逆比例の関係を明らかにした.
汽水域で海水が淡水で希釈された場合の化学組成の変化についても検討した. 淡水として, 河川水および脱イオン水を用いた. いずれの希釈においても海水中の硫酸イオンは希釈倍率に比例して低下する傾向を示した. また, Na
+,K
+,およびCa
2+イオンにおいては希釈効果が認められ, 高希釈倍率ほどその濃度低下は顕著であった.
なお, この研究は, ソルト・サイエンス研究財団1990, 1991年度の研究助成を受けた記して謝意を表する.
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