日本海水学会誌
Online ISSN : 2185-9213
Print ISSN : 0369-4550
ISSN-L : 0369-4550
53 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 大嶋 雄治, Kukuh NIRMALA, 横田 佳子, 島崎 洋平, 井上 英, 仲山 慶, 今田 信良, 本城 凡夫, 小林 邦男
    1999 年 53 巻 4 号 p. 224-228
    発行日: 1999年
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    3種の養殖魚 (ブリ, マダイ, ヒラメ) および天然のマコガレイの血漿より最高4,870ng/gという高濃度のトリブチルスズ (TBT) が検出され, 筋肉の2.5~52.5倍も高かった. ヒラメの血清をゲル濾過にかけた結果, TBTは分子量約5万のタンパク質と結合していることが明らかとなった. ヒメダカにTBTとPCB含有飼料を1μg/gb.w./dayの割合で単独もしくは複合投与し, その産卵・発生を調べた結果, TBTとPCBの複合投与は親魚の内分泌をかく乱し, 生殖を相加的に阻害することが明らかとなった. またTBT単独投与は親魚の生殖には殆ど影響を与えなかったが, 次世代へ移行してふ化仔魚の遊泳成功率を低下させることが明らかとなった.
  • 松田 治
    1999 年 53 巻 4 号 p. 229-240
    発行日: 1999年
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    瀬戸内海は四方を囲まれたわが国最大の内海で, 外海とは豊後水道, 紀伊水道, 関門海峡の三海峡部のみで接する極めて閉鎖性の強い海域である. このような瀬戸内海の水圏環境は, 日本経済の高度成長に伴う産業, 人口, 都市化の集中が沿岸部を中心に著しく進行したため, 1960年代の後半頃から著しく悪化した. しかし, その後様々な環境保全施策がなされ, 今日に至っている. 本稿ではまず瀬戸内海の自然環境と社会環境の特徴を述べ, 水圏環境の歴史的推移を概観した. 次に水質と底質の現状を明らかにした上で, 瀬戸内海の環境に密接に関わる水産養殖や海砂利採取のもつ問題点を指摘した. 現在, 瀬戸内海はその環境管理のあり方をめぐって大きな転換期にさしかかっているため, 瀬戸内海の環境管理に関する新しい動きを紹介した. 瀬戸内海はその歴史的な経緯により水圏環境と水産資源管理に関する生きた実験海域の性格を持っている. 将来の研究と環境管理のあり方については, 特に瀬戸内海の持続性に関する研究の重要性と包括的環境管理の必要性について新しい考え方を提唱した.
  • プランクトンから漁業生産へ
    上 真一
    1999 年 53 巻 4 号 p. 241-247
    発行日: 1999年
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    瀬戸内海の単位面積当りの漁獲量は世界の最高レベルにある。なぜだろうか. この間に答えるためには魚類の生産を支えるプランクトンと呼ぼれる微小生物が関与する低次生産過程を解明する必要がある. 1993年から1994年にかけて実施された植物プランクトンによる一次生産速度, 動物プランクトン, プランクトン食性魚類による二次, 三次生産の調査結果から, 瀬戸内海は生物の生産性と食物連鎖の効率の高い海であることが明らかとなった. 瀬戸内海が兼ね備えているこの特性を将来にわたって維持するには, 今後海洋環境をどのように保全すべきかを論議する.
  • 道端 齊, 宇山 太郎, 植木 龍也, 金森 寛
    1999 年 53 巻 4 号 p. 248-257
    発行日: 1999年
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    海水中にはバナジウムやコバルト等の希少金属 (レアメタル) が溶解している. 海産無脊椎動物のホヤは, レアメタルの一種であるバナジウムを高選択的かつ高濃度に濃縮している. その濃度は海水のバナジウム濃度の1,000万倍 (107) に達する, われわれは最近, この特異な濃縮機構を解明するカギとも言えるバナジウムと高選択的に結合する12.5kDaおよび15kDaのパナジウム結合タンパク質をホヤの血球から抽出・精製するとともに, それらをコードする遺伝子をクローニングすることに成功した. われわれは, ホヤの特異な生理機能の解明を進め, その応用によって海水中に含まれるレアメタルを効率的に分取する研究を推進しようと考えている.
  • 山岡 到保
    1999 年 53 巻 4 号 p. 258-266
    発行日: 1999年
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    海洋性微細藻類 (Dunaliella salina, Chattonella antiqua, Heterosigma akashiwo, Skeletonema costatum, Chaetoceros debile and Thalassiosira weissflogii) のAs (V), As (III) とカコジル酸 (DMAA) に対する耐性とヒ素蓄積について調べた. D. salinaのヒ素蓄積に対するグルタチオンの影響を研究した. ヒ素化学種による微細藻類の増殖阻害は, As (III)>As (V)>DMAAの順であった. 海水中のヒ素濃度100mg/LでのD. salinaの蓄積は, As (V)≧As (III)>DMAAの順であった, D. salinaのヒ素蓄積化合物には, メチル化合物が僅かに検出された. ヒ素蓄積含量は, 海水中のヒ素と鉄濃度の増加で増加した. また海水中のリンとセレンの濃度の増加で減少した. 海水中のグルタチオン濃度が10-100mg/Lの範囲で, ヒ素蓄積含量は増加した.
  • 勢村 均, 山本 倫久, 佐藤 利夫
    1999 年 53 巻 4 号 p. 267-275
    発行日: 1999年
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 飼育水中の細菌相の変化が二枚貝幼生の生残および成長に与える影響について検討するため, イタヤガイ幼生を対象に, 換水方法を変えた場合の飼育水中の全生菌数と細菌の属組成を調査した.
    浮遊幼生の飼育は, 500L円形水槽を用い, 連続微流水換水飼育系 (流水系) と止水換水飼育系 (止水系) の2つの換水方法により行った.
    海洋細菌の分離および計数にはZobell-2216E平板培地を用い, グラム染色試験, 運動性試験, O-F (Oxidation-Fermenntation) 試験, 塩類要求性試験, DNA分解性試験, 発光性試験, オキシダーゼ試験および寒天分解性試験の計8項目の試験により属の同定を行った.
    幼生の生残, 成長とも, 止水系は流水系より高かった.飼育水中の全生菌数は, 両系ともほぼ類似した変動傾向を示したが, 属組成では, 全飼育期間を通して, 流水系は止水系に比べて, 各属の占有率が大きく変動する, 安定性の低い状態にあった.
    このことから, 水中の全生菌数よりも細菌の属組成の変化が幼生の生残および成長に大きな影響を与えること, および, 幼生に良好な影響を及ぼす属組成は, 複数の属を含む安定性の高いものであることが推測された.
  • 角田 出
    1999 年 53 巻 4 号 p. 276-282
    発行日: 1999年
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    耳石の元素組成の変化から魚類の生息環境履歴を捉えるための基礎資料を得ることを目的として, 飼育環境水の塩分濃度および水温の急激な変化がヒラメ稚魚耳石の元素組成に及ぼす影響を調べた。耳石中元素の分析には荷電粒子励起X線放射化 (PIXE) 法を使用した. ヒラメ稚魚の耳石より, Ca, Mn, Zn, Sr が検出された. 100%海水中, 20℃で飼育したものを対照群とすると, 30日間以上の長期飼育実験では, 低塩分濃度 (50%海水飼育) 群で耳石のSr濃度とSr/Ca比は低下し, MnとZn濃度およびMn/CaとZn/Ca比は上昇する傾向を示した. 低温度 (15℃飼育) 群では耳石のSr濃度とSr/Ca比がわずかに上昇した. しかし, 環境塩分と水温の急激な変化の直後では, 耳石のSr濃度とSr/Ca比が上昇し, Zn濃度とZn/Ca比は低下した. 急激な環境変動直後にみられる耳石元素組成の変化は, この時期には魚がストレス状態にあった事を示すと同時に, ストレス魚では耳石の元素蓄積状況が通常時とは異なっていることを示すものと考えられた. 以上の結果から, 耳石のSrとZn濃度および当該元素とCaの濃度比は, 耳石から魚の生息塩分や水温履歴を予測する際の有効な指標となるが, 耳石の元素組成データから環境履歴を予測する際には魚の生理状態変化にも十分に注意する必要のあることを示唆している.
  • 沼田 哲始, 宮田 康人, 豊田 恵聖, 佐藤 義夫, 小田 静
    1999 年 53 巻 4 号 p. 283-294
    発行日: 1999年
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    製鋼スラグの, 沿岸海域における水質・底質の改善, および魚礁材等への有効利用の可能性を検討するため, 製鋼スラグを海底に設置して基礎的研究を行った. 実験では, 1997年1月の海水循環期および8月の海水停滞期に製鋼スラグを海底に設置し, pH, マグネシウム, カルシウム, アンモニウム塩, 亜硝酸塩, 硝酸塩, リン酸塩および硫化水素の経年変化を調べると共に, スラグ表面への付着生物についても検討を行った.
    粒径の小さいスラグ (30mm以下) については, スラグ設置直後に近傍海水およびスラグ間隙水中でのpH上昇が認められたが, 近傍海水のpHは数時間で周辺海水と同程度まで低下し, 数百時間後には影響が全く認められなくなることが分かった. 海水のpHが高くなる影響として, 粒径の小さいスラグの設置層表面には, 海水中のマグネシウムとスラグから溶出したカルシウムの水酸化物および炭酸化物の白色固結物の析出が観察された. さらに, 製鋼スラグ近傍海水および間隙水中でアンモニウム塩とリン酸塩の低下が認められた. また, 製鋼スラグの表面には, 付着珪藻類, ゴカイ類, フジツボ類, ホヤ類, 緑藻類などの繁殖が観察されたことと, 粒径の大きな製鋼スラグ (150mm-70mm) の間隙にハゼ, アナゴ, カニなどの棲息も観察されたことから, 製鋼スラグが水質・底質改善材, 魚礁材として利用可能であることが明らかになった.
feedback
Top