1998年5月と11月に多摩川と北上川下流域で捕獲したコイを対象に, 両河川に生息する水生動物の内分泌攪乱化学物質汚染実態を調ぺた.
5月に両河川で捕獲した雌コイの生殖腺指数 (GSI) や生殖腺組織像に異常はなく, 血漿ビテロゲニン (VTG) 濃度にも河川差は認められなかった. 雄コイでは, 5月に多摩川で捕獲した魚の約25%に精巣の萎縮が確認されたほか, VTG濃度の高い個体も見つかった. なお, VTG濃度は精巣の発達に逆比例した. 11月でも, 多摩川の雄の一部には, 同時期の雌の2~6%の高いVTG値がみられた. 北上川の雄コイにはこの様な異常は認められなかた.
肝ミクロソーム中チトクロムP-450 (Cyt.P-450) 含量や血漿チロキシン (T
4) 濃度には, 河川間に差はなかった. 5月の多摩川の雄コイでは, 血漿VTG濃度と肝Cyt.P-450含量間に正の相関がみられた. 血漿T
4濃度と肝Cyt.P-450含量間では, 多摩川の雄, 北上川の雌雄に, 負の相関が認められた. 両河川とも, 血漿T
4濃度とVTG濃度間に有意な関係は認められなかった.
以上の結果は, 多摩川では女性ホルモン様作用を有する内分泌撹乱化学物質による汚染が進んでいること, 北上川でも当該作用物質汚染は多摩川ほどではないが, 内分泌撹乱作用を有する化学物質汚染が進行している可能性を強く示唆する.
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