海水中での有機物分解過程に対する初期有機物濃度の影響を調べるため, 室内実験系において植物プランクトン (珪藻
Skeletonema costatum) を用いた有機物分解実験を行った. 実験では培養した植物プランクトンと天然海水中の分解・捕食者を混合し, 光合成の起こらない暗条件・恒温 (20℃) 下に数週間置いて, 有機物分解の経時変化を観察した. 初期有機物濃度は, 培養した植物プランクトンを実験海水に加え, 全有機炭素濃度 (Total organic carbon: TOC) として4.1mg-C/L, 9.8mg-C/L, 26mg-C/L, 73mg-C/Lを設定した。 環境条件の指標として水温, 塩分, 溶存酸素, pHを測定し, 有機物分解過程の解析のために全菌数, 粒子状有機炭素 (Particulateorganic carbon: POC) と粒子状有機窒素 (Particulate organic nitrogen: PON), 溶存態有機炭素 (Dissolved organic carbon: DOC) 濃度について測定を行った. POCの分解過程は, 分解速度定数および回転時間の違いにより, 分解開始から20日目までと20日目以降に分けることができた. 分解開始から20日目までと20日目以降の分解における回転時間は各々9~11日, 29~88日となり, それぞれ易分解性と準難分解性有機物に相当した. このことから準難分解性のPOMが存在することや, POMの分解過程における分解速度定数及び回転時間は濃度依存性がないことが明らかとなった. 初期有機物濃度の違いによらず, 初期TOC濃度に対して約10%が, 準難分解性のPOCとして残存した. よって, 珪藻 (
Skeletonema costatum) を構成している有機物のうち, 約10%が準難分解性の粒子状有機物 (Particulate organic matter: POM) である可能性が示唆された.POMのC/N比の経時変化や生成される準難分解性POMのC/N比は, 濃度依存性がなかった. DOCの変動パターンも濃度依存性がなかった. また, 分解の進行に伴いPOMからDOM画分への移行が確認されたが, その大部分が蓄積することなくバクテリアによって無機化されることや, DOMの一部が無機化されることなく準難分解性有機物として残存する可能性が示唆された.
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