日本海水学会誌
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63 巻, 3 号
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巻頭言
特集「海からの贈りもの:ミネラル・生物・地域振興」
解説
資料
報文
  • 勢村 均, 山本 孝二, 佐藤 利夫
    2009 年 63 巻 3 号 p. 130-136
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/14
    ジャーナル フリー
    島根県の隠岐島島前の浦郷湾において,イタヤガイの母貝集団を人工的に形成させ,イタヤガイ稚貝の天然採苗に及ぼす効果を調査した.
    母貝として養殖1令貝約15,000個を数群に分けて水深5,15,25,35mに1987年6月から垂下し,各水深における生残率,周辺4カ所のステーションにおける浮遊幼生出現頻度,および付着稚貝の出現状況を測定した.
    1988年3月までの生残率は水深25mに垂下した群で80%以上と最も高く,また付着物も少なかった.この結果から,母貝集団形成には水温や付着物の影響が小さい水深20mから30mの範囲が適していることが示唆された.
    また,浦郷湾内では1令貝の成熟・産卵時期と浮遊幼生出現時期,稚貝の付着時期が関連することが明らかとなり,母貝集団形成が稚貝の天然採苗量の増加に寄与していると推定された.しかし,母貝集団の量と生産された稚貝量の量的関係は推定できなかった.
  • 山岡 到保, マルベリサ カルモナ
    2009 年 63 巻 3 号 p. 137-143
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/14
    ジャーナル フリー
    瀬戸内海から単離されたGordonia terraeは,マンノース,グルコース,マニトール,フラクトース,サッカロース,ラミナリンを炭素源として増殖した.
    最適増殖条件は,塩分0~9%,温度23~35℃,グルコース濃度3%,酵母エキス濃度0.3~1%であった.カロテノイドの最適生産は,グルコース5%,温度23℃,塩分1.5~3%であった.カロテノイド組成は,ニコチン濃度に影響された.
  • 村上 崇幸, 門脇 みとせ, 大島 朗伸, 佐藤 利夫
    2009 年 63 巻 3 号 p. 144-149
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/14
    ジャーナル フリー
    著者らは野生植物ミネラル末を「安全・安心」かつ「高品質」の食品作りの素材に利用する研究を行っている.本報では,タラコ製品への添加効果,特にタンパク質変性抑制と卵細胞維持効果について検討を行った.野生植物ミネラル末は塩タラコ製品の塩蔵工程でタラコ重量に対し0.05%添加した.その結果,野生植物ミネラル末を添加した塩タラコ製品の方が,添加していない塩タラコ製品に比べ明らかに揮発性窒素発生量が少なかった。さらに,SEM観察結果から,野生植物ミネラル末を添加した塩タラコ製品ではシュリンクもなく,濾胞細胞槽が保持されることにより,卵細胞形状が維持されていた。これらの結果から,野生植物ミネラル末の塩タラコ製品への添加は,タンパク質の変性抑制および卵細胞維持に効果があることは明らかである.
  • 高瀬 清美, 佐藤 聡, 村上 崇幸, 門脇 みとせ, 角田 出
    2009 年 63 巻 3 号 p. 150-157
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/14
    ジャーナル フリー
    養殖場では,魚の成長率低下や感染症の頻発が生じている.体の恒常性を保つためには適切なミネラル摂取が必須である.本研究では,ヒラメ稚魚を対象に,野生植物由来ミネラル(植物ミネラル)の経口投与が,その成長,生体防御活性,ストレス応答に及ぼす影響を調べた.体重約6gのヒラメを3群に分け,市販飼料を与える群(対照群;C群),同飼料に植物ミネラルを0.25%の割合になるように添加した餌を与える群(低濃度群;L群),同2.5%の割合になるように添加した餌を与える群(高濃度群;H群)とした.投与試験開始から3および6週間後に魚を取り上げ,体重と全長を測定すると共に,生体防御指標として,体表粘液中の総溶菌活性,各血球組成,顆粒球の貪食率およびNBT還元(殺菌)活性を測定した.また,飼育中におけるストレス状態の把握のため,無眼側の黒化率を調べると共に,投与試験開始から6週間後では,空中曝露試験に伴う血漿中コルチゾル濃度の経時変化を調べた.結果は以下の通りであった:(i)6週間の投与試験終了時にはL群,H群ともに,C群に比べて,体重や肥満度が増した.(ii)L群およびH群では,体表粘液中に分泌されている総溶菌活性,顆粒球の貪食能やNBT還元活性が有意に上昇した.L群では,顆粒球数も増加した.(iii)L群およびH群の無眼側の平均黒化面積率は,C群に比べて低くなった.また,空中曝露後の血漿コルチゾル(ストレスホルモン)濃度は,H群とC群の間に差はみられなかったものの,L群はC群に対して有意に低い値を示した.以上のことから,ヒラメ稚魚への植物ミネラルの投与は,成長促進,生体防御活性賦活および過剰なストレス反応の抑制効果を有していることが分かった.
報文
  • 張 経華, 佐藤 友規, 丸山 亮馬, 高尾 雄二, 畝中 佑, 藤田 雄二, 山崎 素直
    2009 年 63 巻 3 号 p. 158-166
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/14
    ジャーナル フリー
    色落ちノリ試料を分析した結果,色落ちの直接原因は,窒素,リンの栄養塩の欠乏に加えて微量元素Fe, Cu, MnおよびZnの欠乏によることを見出した.ノリの色落ちは陸上植物に見られる鉄欠乏クロロシスと同義の微量元素欠乏症であると推定した.これら微量元素の光合成色素クロロフィルおよびフィコビリンの生合成に及ぼす効果を見るために,スサビノリを鉄欠乏培地で培養し,色素の生産量を観測した.また,有明海で採取した浮泥には各種微量元素が含まれていたので,これを鉄欠乏培地に加えノリを培養したところ,顕著な色素回復が見られたことから,浮泥が微量元素供給源になっている可能性を指摘した.有明海におけるノリの色落ちをノリと珪藻における微量元素摂取の面から考察した.
  • 三好 和義, 宮澤 忠士, 佐藤 直大, 梅野 太輔, 斎藤 恭一, 永谷 剛, 吉川 直人
    2009 年 63 巻 3 号 p. 167-174
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/14
    ジャーナル フリー
    電子線グラフト重合法を適用してエポキシ基を有するモノマーをグラフト重合した後,エポキシ基の一部をスルホン酸基およびトリメチルアンモニウム基に変換して,それぞれ陽イオンおよび陰イオン交換膜を作製した.基材フィルムの材質として,低密度(LD),高密度(HD),および超高分子量(UHMW)のポリエチレン(PE),ポリアクリロニトリル(PAN),ナイロン6(NY),芳香族系高分子(PETおよびPEN),およびフッ素系高分子(ETFEおよびPFA)を用いた.グラフト重合の重合速度および重合後の物理的強度の点から,HDPEおよびナイロン6製フィルムが基材フィルムとして好ましかった.HDPEおよびNYを基材としたイオン交換膜の,電気透析によって得られるかん水濃度は,市販のイオン交換膜のそれの半分程度であった.小角X線散乱(SAXS)の解析から,HDPEの結晶部間隔が,GMAのグラフト重合および後続のスルホン酸基およびトリメチルアンモニウム基の導入に伴って,25から45および35nmに拡がることが示された.
  • 宮澤 忠士, 浅利 勇紀, 三好 和義, 梅野 太輔, 斎藤 恭一, 永谷 剛, 吉川 直人
    2009 年 63 巻 3 号 p. 175-182
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/14
    ジャーナル フリー
    陰イオンおよび陽イオン交換膜を,ナイロン6製のフィルムにそれぞれビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBTAC:vinyl benzyltrimethylammonium chloride)およびスチレンスルホン酸ナトリウム(SSS:sodium styrenesulfonate)をグラフト重合し,作製した.VBTACのメタノール溶液中で48時間およびSSSの水溶液中で8時間,グラフト重合して得た膜の0.50mol/L NaCl水溶液中での膜抵抗は,それぞれ3.2および2.2Ωcm2であった.これは,それぞれ現行の製塩に使用されているAGCエンジニアリング(株)製の陰イオン交換膜(ASA)および陽イオン交換膜(CSO)の膜抵抗の20%高い値および8%低い値であった.電気透析を行い0.50mol/L NaCl水溶液を電流密度30mA/cm2(25℃)で濃縮した.VBTAC膜およびASAを対としたときのかん水中の塩化物イオン濃度3.8mol/Lは,ASAおよびCSOを対としたときの95%の値であった.また,ASAおよびSSS膜を対としたときのかん水中の塩化物イオン濃度はASAおよびCSOを対としたときの105%の値であった.
  • 峯尾 隼人, 斎藤 結子, 大野 文子, 中村 和正, 新藤 斎
    2009 年 63 巻 3 号 p. 183-189
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/14
    ジャーナル フリー
    食塩粉末の固結過程のモデルとして,NaCl単結晶の間を食塩水溶液で橋架けし,それが固体に変わる様子を光学顕微鏡で観察した.室温で水分が蒸発すると溶液が過飽和になるが,低湿度で蒸発が速いと溶液表面で生成した小さな結晶がつながって固体架橋に至ることもある.通常は結晶基板/溶液/空気の接する三相の境界部から基板面の成長が起こり,上下から溶液表面に沿って筒状に伸びた結晶が接合して橋が架かる.このとき筒の内部は溶液で満たされており,長時間放置すると接合部から溶液が滲みだして食塩の開花成長が起こる.-10℃の低温で同様の実験を行うと,溶液中で二水塩結晶(NaCl·2H2O)の生成が見られた.この結晶の成長に伴う体積変化を考慮し,食塩の低温固結のメカニズムを提案した.固結防止剤であるK4[Fe(CN)6]を加えて常温での架橋実験を行ったところ,架橋壁には無添加の場合と比較して多くの孔ができた.媒晶効果により架橋先端面が平坦にならず,欠陥の多い構造になると考えられる.固結防止剤のうち水分保持効果を持つCaCl2は,結晶粒子の接触部で水を液体状態に保持し固体架橋を防ぐこと,被覆効果を持つ塩基性炭酸マグネシウムは,粒子同士の接触を防いで毛管凝縮を防ぐことを確認した.
ノート
  • 塩田 浩太, 三村 治夫, 吉田 和利, 三輪 誠
    2009 年 63 巻 3 号 p. 190-194
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/06/14
    ジャーナル フリー
    復水器に使用されるアルミ黄銅製の引抜き管を使用し,海水通水時間に依存した本管の熱貫流率を測定した.熱貫流率から本管の汚れ係数を算出した.熱貫流率は通水7日目まで殆んど変化しなかったが(3.5×103(W m–2·K–1)),それ以降は直線的に減少し,35日目には2.4×103(W m–2·K–1)となった.一方,汚れ係数は通水開始7日目の2.4×10–5(m2·K W–1)から直線的に増加し,35日目には1.5×10–4(m2·K W–1)に達した.通水開始21日目までは海水に浮遊している有機物質の吸着のみが観察された.35日目の試料からは,海洋細菌の付着や成長した糸状の微小生物が観察された.これらの結果は,汚れ係数の増加は,生物か無生物かに関わらず,管内面に付着した有機物質の総量に依存することを示唆している.
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