本研究では,淡水化および製塩プロセスを核とした海水総合利用システムにおいて,スケーリング対策としての溶存Ca・Mgの分離・回収法を確立するとともに,海水資源利用に向けたCa・Mg塩の合成・高品位化が可能なプロセスを開発することを目的とした.濃縮海水中の溶存Caの効果的な分離・回収法として,塩の溶解度の観点から二酸化炭素(CO
2)との反応晶析によって炭酸カルシウム(CaCO
3)を生成させる手法が考えられる.さらに,CaCO
3にリン酸および水酸化処理を行うと,ハイドロキシアパタイトとして高品位化できる.また,Ca回収後の濃縮海水から,所望の結晶品質(組成・粒径)を有する炭酸マグネシウム(MgCO
3)を晶析させれば,溶存Mgも効率的に回収・高品位化できるものと考える.本稿では,水溶液のpHが8.0,温度が313 Kにおいて,製塩脱K苦汁から溶存CaをCaCO
3として回収した後の濃度に調製した脱Ca濃縮海水に,平均気泡径(
dbbl)の異なるCO
2気泡または炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)水溶液を連続供給し,MgCO
3の反応晶析に対するCO
2気泡の導入および微細化効果について検討を行った.その結果,以下に示す知見を得た.1)Na
2CO
3水溶液を供給した場合,晶析時間によらず平均粒径が25 µm程度の塩基性炭酸マグネシウムが生成する.2)
dbblが2000 µmのCO
2気泡の導入により,晶析時間が30 min以内では正炭酸マグネシウムが選択的に得られ,60 minでは塩基性炭酸マグネシウムが生成する.3)CO
2気泡を20 µmまで微細化すると,30 min以内で得られる正炭酸マグネシウムおよび60 minで得られる塩基性炭酸マグネシウムの生成量が増大し,60 minでのCO
2基準の転化率はほぼ100 %に達する.4)CO
2気泡の微細化により,平均粒径が約4.5 µmの塩基性炭酸マグネシウム微粒子が得られる.さらに,
dbblが20 µmのCO
2微細気泡供給下において水溶液pHおよび温度の影響を検討した結果,5)pHを7.0に減少させると核発生誘導期が顕著に増大し,正炭酸マグネシウムのみが生成する.6)温度を333 Kまで増大させると,晶析時間によらず塩基性炭酸マグネシウムが高選択的に生成することを明らかにした.
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