日本海水学会誌
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73 巻, 6 号
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Preface
Special Issue : “Frontier Research Papers (4)”
Original Paper
  • 寺田 淳, 三角 隆太, 上ノ山 周, 仁志 和彦
    2019 年 73 巻 6 号 p. 314-321
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    貧溶媒晶析をシミュレートするために三成分相図を組み合わせた数値流体力学の計算方法を構築した.この研究のモデルケースとして,Y字マイクロミキサーでのKCl-エタノール系の貧溶媒晶析を対象とした.Y字ミキサー内の層流流れと成分の濃度はCFDを用いて計算した.局所過飽和度は,溶解度や拡散係数などの物理量に対する貧溶媒濃度の効果を踏まえて計算した.結晶の核発生速度と成長速度の計算にはポピュレーションバランスモデルを使用した.結晶の核発生速度と成長速度に対する貧溶媒濃度の効果も同様に考慮した.CFDと晶析過程の計算を効果的に連成させるために,濃度の表記方法と計算の時間刻みを具体的に検討した.この構築した計算方法により,実験による計測が困難であるKCl-エタノール系における混合状態と晶析過程を良好にシミュレートすることができた.これらの結果は,この計算方法が晶析過程において貧溶媒の濃度の局所的な分布の効果を定量化するために効果的な手段であることを示している.
  • 正岡 功士, 峯尾 隼人, 中島 聖珠, 中原 憬, 新堀 和馬, 山下 麻貴, 畑ヶ谷 颯, 鈴木 康広, 市村 重俊
    2019 年 73 巻 6 号 p. 322-327
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    製塩晶析工程におけるスケーリング抑制のためにカルシウムイオン除去を目的とした検討を実施した.まず,イオン交換膜濃縮海水に苛性ソーダと炭酸ガスを供給した.本法により,カルシウムイオンは炭酸カルシウムとして濃縮海水から選択的に除去できた.このとき,苛性ソーダの使用量は0.2 mol/L-濃縮海水であり,固定化される炭酸ガス量は0.10 g/g-塩である.このとき,炭酸ガス供給口周辺のpHが高いほど,析出物中のアラゴナイト/カルサイト比は低下する.次に,カルシウムを除去した濃縮海水を蒸発濃縮した.その結果から,製塩晶析工程においてカルシウムスケールは析出しないことが明らかとなった.本法により製品収率に与える影響は些少である.
Report
  • 藤原 正浩
    2019 年 73 巻 6 号 p. 328-338
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    世界規模で水不足問題が進行しているが,特に近年は地球温暖化等の気候変動もこの問題を助長していると思われる.地球の総水量の97 %以上となる海水から淡水を有効に製造することは,水不足問題を抜本的に解決すると期待できるが,このプロセスに化石燃料を使用すれば,更なる地球温暖化をもたらすことになる.そこで再生可能エネルギーである太陽光を用いて海水を淡水化することが求められる.筆者らは,光の作用により分子や物質の放出・拡散を制御および促進する技術を研究してきた.例えば,3 nmの微細な細孔を持つメソポーラス・シリカを用い,光で開閉するクマリンの分子ゲートを施すと細孔内の薬物分子の放出を光刺激で制御できること,あるいはアゾベンゼンの分子羽根(インペラー)を修飾することでその放出を促進できることを見いだしている.後者の場合,アゾベンゼンの光異性化の分子運動が分子のインペラーのように作用して薬物分子を押し出し,その放出速度を高めるのである.規則的な貫通細孔を持つ陽極酸化アルミナ膜にアゾベンゼン化合物を修飾し,その上に水を置き,アゾベンゼンの光異性化運動を起こす光を照射すると水は膜の下部に透過する.これは,膜に修飾されたアゾベンゼン基の連続的光異性化による分子運動が水を気化し,この水蒸気が陽極酸化アルミナ膜の細孔を透過するためと考えられる.この膜透過は蒸留と類似の効果を持つため,海水と同濃度の3.5 %塩化ナトリウム水溶液を用いた場合,膜透過した水の塩濃度は0.01 %未満となり脱塩・淡水化できる.疎水性のPTFE膜に太陽光を有効に吸収できる色素類を修飾した膜を用いると,人工太陽光による海水の淡水化も可能となり,太陽光のみを利用した海水淡水化が実現できた.
Note
  • 和嶋 隆昌
    2019 年 73 巻 6 号 p. 339-342
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    海水中で再構築したハイドロタルサイトのリン除去能をライムと塩化ナトリウム溶液中で再構築したハイドロタルサイトと比較検討した.海水中で再構築したハイドロタルサイトは,塩化ナトリウムで再構築したハイドロタルサイトよりも広いpH領域において高いリン除去能を示し,ライムを利用するとリン除去後の溶液が強アルカリ性になるのに対して,ハイドロタルサイトの緩衝能によりリン除去後の溶液のpHを8.5に緩衝した.これらのことより,海水を利用して新たな特性を持つハイドロタルサイトが生成できる可能性が示唆された.
  • 久保 成永, 佐藤 敏幸, 日秋 俊彦
    2019 年 73 巻 6 号 p. 343-346
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    日本の製塩工程で排出される脱K苦汁にはMg2+が豊富に溶存しており,回収が求められている.本研究は,脱K苦汁(RPB)からMg資源回収に向けた基礎データの収集を目的としている.実験には,製塩企業に提供していただいた脱K苦汁を使用しており,Ca(OH)2(CH)を石灰乳または粉末で加えてMg(OH)2(MH)を生成して結晶評価を行った.実験の結果,石灰乳を添加したときはRPBの濃度が減少するにつれてXRDパターンのピーク強度は増加したが,粉末添加では濃度変化には依存せずにピーク強度は一定だった.生成した結晶はSEMで観察した.その結果,粉末で添加した方が相対的に粒子径は大きくなることが観察された.また,結晶形状は石灰乳で添加したときが球状,粉末で添加したときが不定形となった.一方,RPBの濃度を減少させて反応を行うことは,反応終了後のpHを増加させ,回収率を多くすることが明らかとなった.したがって,本研究はRPBを原料にMH回収プロセスを構築するための基礎データとして有用であると考えている.
  • 長 秀雄, 西宮 康冶朗
    2019 年 73 巻 6 号 p. 347-351
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    鋭敏化されたオーステナイト系ステンレススチール(SUS304)に起こる粒界型応力腐食割れ(SCC)をアコースティック・エミッション(AE),腐食電位,鉄イオンの溶解の可視化によって計測した.鉄イオンの溶解の可視化法ではSCCの発生と成長のタイミングと位置を計測した.突発型のAE波形は腐食電位から推定したSCCの発生期と成長期のいずれでも検出された,SCC発生期ではAEと腐食電位振動はおおむね同じタイミングで検出され,その時期には孔食が観察された.SCC発生に伴うAE音源は,カソード反応に伴うガスの発生,移動,脱離によるものである.一方,SCC成長期でのAEの振幅は発生期に比べて強いが,AEの発生頻度は低く,SCCによるき裂の成長速度との関係はない.SCC成長期でのAEの音源は未溶解の粒界がき裂先端近傍での引張負荷によって破壊されたためである.
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