著者が設立した研究グループが哺乳類時計遺伝子Period2(per2)を発見したのは1998年である。本稿では、その後の生物時計分子機構の進展についてまとめる。マウスやヒトの生物時計による睡眠覚醒を始めとするさまざまな24時間振動現象にClock/Bmal、Period/CryによるE-box制御だけでなく、bZIP型転写因子E4BP4によるper2振動発現やグリコーゲン合成酵素キナーゼによるper2リン酸化の時間特異的核移行が重要であることを明らかにした。また滋賀県のツジコー株式会社が植物工場で育てたアイスプラントの機能分析をお手伝いした過程で、イノシトールが体内時計の周期を延長することを見出した。研究開始当初は24時間のリズム生成機構のみを研究しているつもりだったが、日長を測れる生物が持つ季節時計も時計遺伝子からその新たな分子経路が解明された(休眠)。我々は基礎シフトといわれた時代に国研に入所したが、それから24~5年ほど経ったころに基礎研究予算が大幅にカットされた。「すぐ役に立つ研究をやれ」という世の中の大きなうねりが来た。悩んだあげくお金のかかるマウス研究をあきらめショウジョウバエに絞った。その結果、神経変性疾患と体内時計分子機構が関わることを見出し、中でもパーキンソン病、ゴーシェ病モデルショウジョウバエで若年期から睡眠覚醒リズム異常を示すことを見出した。現在はこれらのモデルを用いて認知症の分子機構を遺伝子レベルで研究しており、その成果と応用についても報告する。1986年の工業技術院微生物工業技術研究所入所以来、30年間生物時計一筋で研究者生活を送れたことに感謝しつつこの論説をまとめている。
抄録全体を表示