現在,高速増殖炉(FBR)サイクル実用化戦略調査研究をはじめ,NaCl-2CsCl溶融塩を用いた酸化物電解法による乾式再処理プロセスの研究開発が行われている。酸化物電解法プロセスは,U, Puを酸化物(UO
2, PuO
2)として回収するロシア原子炉科学研究所(RIAR)で開発された技術であり,その後,核拡散抵抗性の観点から,PuO
2単独回収を避けるため,RIARでの混合酸化物(MOX)燃料製造技術であるMOX共析電解技術を適用したプロセスに改良された。
酸化物電解法プロセスでは,NaCl-2CsCl中に溶存するU, Puの酸化物イオン(UO
22+, PuO
22+)を酸化物(UO
2,MOX)として電解析出させることから,NaCl-2CsCl中に酸素イオン(O
2-)が共存する。また,MOX共析工程では,NaCl-2CsCl中へ酸素ガスを吹き込み,酸素イオン濃度を高めることにより,NaCl-2CsCl中のPuをPuO
22+に安定させた状態でMOXを析出させることから,NaCl-2CsCl中に酸素ガスが溶存する。このため,酸化物電解法プロセスのNaCl-2CsCl中に溶存する核分裂生成物(FP)イオン等は,酸素イオンや溶存酸素による影響を受けると考えられる。なお,金属電解法乾式再処理プロセスで用いられるLiCl-KCl溶融塩については,酸素イオンが共存する場合,溶存する希土類元素イオンはオキシ塩化物を形成して沈殿することが報告されている。
また,乾式再処理プラントを想定した場合,建設および運転コストを削減するため,酸化物電解法プロセスでは乾燥空気雰囲気の適用が期待できる。しかし,従来の研究開発は,水分や酸素の濃度を大幅に低く抑えた乾燥Arガス雰囲気で実施されており,乾燥空気雰囲気における溶融塩中の溶存イオンの挙動は明らかにされていない。特に,雰囲気中の水分が溶融塩中へ混入した場合,水分が酸素イオンの供給源になるため,乾燥空気雰囲気を適用するには,雰囲気中の水分濃度による影響を確認しておく必要がある。
そこで,筆者らは,乾燥空気雰囲気でSmCl
3を添加したNaCl-2CsCl中へ乾燥空気を吹き込み,吸収スペクトル測定および電気化学測定によりSm
3+濃度の変化を評価した。また,空気吹込みによって生成した析出物を回収し,X線回折(XRD)により析出物の同定を行った。なお,SmCl
3は,酸化物電解法プロセスのNaCl-2CsCl中にFPとして含まれており,筆者は,溶存イオン濃度のその場測定手法の研究開発として,ディファレンシャルパルスボルタンメトリー(DPV)によるNaCl-2CsCl中のSm
3+濃度測定の可能性を評価している。
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