スギ, ヒノキ, サワラの3年生挿し木苗を, 黒ボク土を充填した1/2000aワグネルポットに植栽し, 1990年10月-1992年8月までの23ヶ月間にわたって人工酸性雨 (SAR) を暴露して, 生育に及ぼす酸性雨の影響について検討した。SARのpHは, 2.0, 3.0, 4.0および脱イオン水 (pH5.6) の4段階とした。更に, 土壌養分状態の相違並びに生長期に相当する4月-9月の期間の降水量と降雨の酸性度の影響との関係を検討するため, 施肥の有無とSARの降水量を720, 1440および2160mmの3段階に設定した合計24処理区について検討した。
施肥条件あるいは降水量の多少に係らず, pH2.0のSAR暴露によって, 3樹種の葉が褐変・壊死し, ヒノキとサワラでは落葉が観察された。しかし, スギの場合は, 葉や緑枝の褐変が観察されたものの, 落葉は観察されなかった。一方, pH3.0あるいは4.0のSAR暴露では, いずれの樹種にも可視害の発現は観察されなかった。
樹高, 幹直径および個体乾物重量は, 無施肥区よりも施肥区の方が大きく, また, 施肥条件によってSARに対する生育反応が異なることが明らかとなった。個体乾物重量を指標とした場合, 3樹種とも施肥区ではpH2.0で乾物重量が減少した。一方, 無施肥区の場合, スギではpH2.0で乾物重量が増加し, ヒノキとサワラでは減少する傾向にあった。なお, pH2.0では降水量が多いほどpH5.6に対する個体乾物重量の減少率が大きくなる傾向にあった。しかし, pH3.0ではSAR暴露による生長抑制は3樹種とも認められなかった。
pH5.6に対するpH2.0の個体乾物重量の減少率をもとに樹種間差異の程度を検討した結果, スギがもっとも影響を受けにくく, 次いでヒノキ, サワラの順となった。また, 土壌が無施肥状態の場合には, 降雨によってもたらされるSやNが生長促進効果をもたらすと考えられた。
抄録全体を表示