ブナ (
Fagus crenata Blume) の3年生苗の成長, ガス交換速度およびクロロフィル含量に及ぼす環境レベルのオゾンの影響を調べた。人工気象室内で, 1994年5月16日から9月18日までの18週間にわたり, ブナ苗に, 75または, 150ppbのO
3を, 6時間/日 (10:00~16:00), 3日/週で暴露した。なお, 同期間中において, 対照区の苗は活性炭フィルターによって浄化した空気を導入した人工気象室内で育成した。
ブナ苗の個体および根の乾物成長は, 75または, 150ppbのO
3暴露によって低下した。成長解析の結果, O
3暴露によって純同化率 (NAR) が低下したことより, O
3による乾物生産効率の低下が示唆された。18週間にわたるO
3暴露によって, ブナ苗の純光合成速度は低下したが, CO
2気孔拡散コンダクタンスは有意な影響を受けなかった。したがって, O
3による純光合成速度低下の原因として, 気孔閉鎖ではなく, むしろ葉内のCO
2固定能の低下が考えられた。O
3暴露終了時におけるブナ苗のCO
2一光合成曲線を解析した結果, O
3はRuBP再生速度の低下とRubiscoの活性または, 量の低下を引き起こしたことが示唆された。さらに, 75または, 150ppbのO
3暴露によって, ブナ苗のクロロフィル含量が低下した。
本研究の結果より, 我が国の森林衰退地域で観測されている濃度レベルのO
3により, ブナ苗の乾物成長, 純光合成速度およびクロロフィル含量が低下することが明らかになった。
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