大気環境学会誌
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34 巻, 2 号
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  • 安達 隆史
    1999 年 34 巻 2 号 p. 43-52
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    ここでは, 著者が学術研究および規制用を目標として, 長年に渡って取り組んだ大気拡散推定に関する研究開発の概要を紹介する。この研究開発においては, 大気境界層理論を適用するとともに, 大気拡散に関する実測データを取得するために多くの野外拡散実験を実施した。主な結果は次の通りである。(1) 気象学の分野の接地境界層においてほぼ確立されているモニン・オブコフの相似則を利用して, PG拡散幅に対応するモニン・オブコフの長さの値を準理論的に導出した。それによって, 大気拡散の研究に大気境界層の方程式を利用する道を拓いた。(2) 海上の境界層の特性により修正したPGT拡散幅を用いる海上低所源用正規型プルームモデルを開発し, 米国および我が国における海上拡散実験データによって検証した。(3) 夜間, 風速が2m/s未満の場合の大気拡散を, 地上放出条件の大気拡散実験の実施によって研究した。その結果, 上記のような弱風時において, 我が国の原子力安全委員会の気象指針に採用されている大気拡散推定法の妥当性が実証された。(4) TOKAI82, 83大気拡散実験のデータによって, 熱的内部境界層 (TIBL) によるフユーミゲーション時の拡散モデルを研究した。その結果0米国原子力規制委員会の規制指針1.145に記載されたフユーミゲーションモデルが我が国においても短時間高濃度評価に使えるモデルの候補の一つであることが判明した。(5) 海外において, 長距離, 長時間, マルチの大気拡散実験に使用されているパーフルオロカーボン・エアートレーサー (PFT) を研究した。その際, SF6とPFTを同一地点から同時放出する小規模の野外実験を実施し, PFTが我が国の野外実験においても十分使用できることを確認した。
  • 高 世東, 坂本 和彦, 徐 渝, 趙 大為, 張 冬保, 周 諧
    1999 年 34 巻 2 号 p. 53-64
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    1992年1月~1995年12月の4年間にわたって中国重慶の後背地にある四面山において森林地域の針葉樹林 (スギ) および広葉樹林 (シラキ) の樹冠の下で林内雨 (throughfall) と林外雨を, 1994年3月~1995年2月の1年間に都市地域にある沙橋溝において森林地域の針葉樹林 (馬尾松) の林内雨と林外雨を採取した。それらの化学成分を分析し, 大気酸性沈着物による樹葉の栄養成分の溶脱 (leaching) および林内雨の化学成分の変化を調べた。また, 林内雨について物質収支モデルを適用し, 四面山の林内雨中の化学成分の起源を検討した。
    降水が森林の樹冠部 (canopy) に接触する際に樹葉表面沈着物の洗浄 (wash off) 並びに樹葉表面から栄養塩類の溶脱を引き起こし, 林内雨を酸性化させ, そのイオン成分濃度を増加させていた。そのイオン成分濃度は地域別では沙橋溝の方が四面山より, 樹種別では針葉樹林の方が広葉樹林より高かった。また, 四面山において段階的に採取した降水および林内雨の化学成分分析の結果より, SO42-は非溶脱成分であり, 針葉樹林における林内雨中のCa2+の26%とMg2+の34%, 広葉樹林ではCa2+の34%とMg2+の39%が植物体からの溶脱に由来していると推計された。
    林内雨に物質収支モデルを適用して解析したところ, 四面山の林内雨中のK+, Mg2+, Ca2+の起源は平均として, 針葉樹林からそれぞれ61, 59, 11%を, 広葉樹林から70, 64, 28%を溶脱しており, 逆に, F-, Cl-, NO3-およびNH4+は植物体に吸収されていたと推計された。そのため, 大気中の酸性物質の沈着による多量な塩素化合物および窒素化合物の供給は森林生態系の栄養バランスに影響し, K+, Mg2+, Ca2+などの栄養塩類の溶脱は栄養不足を招き, 全体として森林衰退を引き起こすと懸念される。
  • 加賀 昭和, 李 虎, 山口 克人, 鷹野 誠, 小川 起代
    1999 年 34 巻 2 号 p. 65-73
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    酸性降下物による森林土壌酸性化の将来予測を行う際に, 大気から森林への酸性物質の正味の負荷を推定することが必要となるが, その推定手法の一つとして林内雨観測結果を解析する手法が考えられる。本論文では, 樹冠において, 葉面への沈着粒子中の水溶成分と葉面溶脱物質が降水に付け加わることで林内雨が形成されるとする簡単な重回帰モデル式を用いることで, まず樹冠において林内雨に負荷される化学成分への大気粒子の寄与を推定した。そして, フィールドとして選んだ竹林内で, 1994年4月から1995年3月の間に, 合計で21回の降雨について, 降水, 林内雨, 各降雨間隔の問の大気粒子中の各イオン成分量を測定した結果に対してモデル式を適用することで, 重回帰係数0.8を得た。そして, 求められた回帰母数の一つから, 粒子状物質の地表面基準の平均沈着速度として3.3mm/sの値を得た。次に, 本モデルで葉面溶脱物質として分類された硫酸イオンのすべてが, 植生の根からの吸収ではなく, 気孔を通じた大気からのSO2ガスの吸収に由来するものと仮定することにより, SO2の年平均沈着速度として3.7mm/sの値を得た。これらの値は既往の文献と比較して妥当と考えられ, 本手法は, 森林において林内雨観測から大気負荷を推定する方法として有用であると考えられた。
  • 河野 吉久, 松村 秀幸
    1999 年 34 巻 2 号 p. 74-85
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    都市周辺域におけるスギ衰退の実態調査から, その原因として光化学オキシダントの関与が指摘されている。このため, スギ (Cryptomreia japonica), ヒノキ (Chamaecyparis obtusa), サワラ (Chamaecyparis pisifear) の3年生実生苗に2段階 (pH5.6とpH3.0) の人工酸性雨 (SAR) と4段階 (0, 60, 120, 180ppb) のオゾンを暴露して, 生長に及ぼす両者の複合影響について検討した。
    実験は自然光型の暴露チャンバーを用いて実施した。pH5.6の純水 (脱イオン水) を対照にして, 硫酸: 硝酸: 塩酸 (当量濃度比で5: 2: 3) を含むpH3.0のSARを, 23ヶ月間で4300mm暴露した。オゾンの暴露は, 浄化空気にオゾンを添加し, 毎日09: 00~15: 00の間に所定の濃度 (一定) で暴露を行い, 16: 00~08: 00は無暴露とした。
    ヒノキとサワラはオゾン暴露区において旧葉の黄化と早期落葉が観察されたが, スギでは23ヶ月間のオゾン暴露でも可視害は観察されなかった。一方, いずれの樹種においても, SAR暴露による可視害の発現は観察されなかった。
    pH3.0のSARとオゾンを暴露した区画において, 樹高と根元直径がpH5.6の区画よりも大きくなる傾向にあった。pH5.6のSARを暴露した区画よりもpH3.0を暴露した区画の方が個体の乾物重量は多かったが, オゾンの暴露は個体の乾物重量に影響を与えなかった。しかし, 高濃度オゾンを暴露した区画の葉の重量は浄化空気を暴露した場合よりも有意に多く, 一方, 高濃度オゾン暴露区の根の乾物重量は減少した。したがって, オゾン濃度の増加とともに地上部/根の乾物重量比が上昇し, pH3.0のSARを暴露した場合に, この比の上昇が加速される傾向にあった。
    これらの結果は, 高濃度オゾンの暴露によって同化産物の分配が阻害されるとともに, 降雨の酸性度の増加, おそらく硝酸負荷量の増加が同化産物の分配の阻害を加速する可能性を示唆している。このような地上部/根の乾物重量のバランス変化は, 乾燥ストレス感受性の増加につながると考えられる。スギはヒノキに比較して水ストレス感受性であることから, 都市周辺域のスギの衰退原因は, 高濃度オゾンと窒素化合物の負荷量の増大が複合的に原因している可能性が考えられた。なお, オゾンの長期慢性影響を評価する場合には, 個体の乾物重量の変化よりも分配率の変化を指標とした方が良いと考えられた。
  • 向井 人史, 田中 敦, 藤井 敏博
    1999 年 34 巻 2 号 p. 86-102
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    日本各地の降雪中の鉛の安定同位体比を調査した。雪は北海道から島根県までの広い範囲で1990年と1992年に採取した。雪中の鉛は硝酸で抽出し, 濃縮電着による処理によって分離されICPMSで分析した。雪が降ったときの流跡線によって同位体比をまとめ, それぞれの発生源地域の特徴を解析した。中国の北部や, 中国中部から朝鮮半島を経由して来た気塊によって降った降雪中の鉛同位体比は, 日本の都市の鉛同位体比とは明らかに異なる同位体比を持っており, アジア大陸起源の鉛の特徴と合致していた。ロシア起源と思われる気団からの降雪では, いくつかのサンプルは日本の鉛同位体比と良く似た値のものが存在した。これは, 特異的な値を持つロシアの鉛鉱山の影響か石炭起源の鉛の影響が考えられた。鉛と亜鉛の比は, 日本の影響があったサンプルでより低く, 大陸起源の気団では高い傾向があった。これらの傾向は, これまで測定されていた大気粉塵の傾向とかなり一致するものであったことから, 鉛同位体比は降雪中でも鉛の地域性を示す良い指標になると考えられた。降雪中には多くの場合石炭フライアッシュが存在し, 大陸での石炭の使用との関連が推測された。酸性成分濃度と鉛の濃度とは弱い正の相関があったが, 必ずしも一致しているというわけではなかった。
  • その2 k-εモデルによる数値シミュレーション
    西村 浩一, 安田 龍介, 伊藤 誠一
    1999 年 34 巻 2 号 p. 103-122
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    本論文その2では, 建物近傍拡散予測に数値流体シミュレーションを適用し, その1の風洞実験のうち, 屋根面風下隅に排出口をもつケースを対象に検証を行った。計算負荷を小さくとどめるため, 乱流モデルは時間平均モデルであるk-ε モデルを採用した。
    まず, メッシュサイズや環境条件等の検討を行った結果, 壁面近傍のメッシュ幅は, H/24 (Hは建物高さ) 以下が望ましく, 流入境界の乱流エネルギー散逸率は, 生成率とのバランスで与えると良く, 壁面境界は, 指数則よりも対数則の方が良いことがわかった。また排出口の乱流強度は, 結果に与える影響はほとど無かった。乱流シュミット数が0.6ないしは0.7のとき, ピーク濃度の再現性が良かった。
    検証により予測特性について調べた結果, 流れ場については, 標準k-ε モデルによるシミュレーションでは, 屋根面と側面の循環流を正しく再現できず, また実測では建物中心より1.6H後方にあった再付着点を, 2.1Hと遠めに再現していた。乱流エネルギーについては, 屋根面および側面の後方で値が小さかった。濃度場については, 水平方向の拡散幅が狭かった。これは上記の流れや乱れの分布の違いなどによると考えられる。また, 建物後方のピーク出現位置が高かった。これは後方の逆流が正しく再現されていないためと考えられる。
    しかし, 標準k-ε モデルによるシミュレーションは, 正規型拡散モデルでは予測困難な建物近傍で, 水平方向のピーク出現位置や, 濃度の距離減衰をよくとらえることがわかった。
  • その1 風洞実験
    老川 進, 石原 孟, 安田 龍介, 西村 浩一, 長谷 実
    1999 年 34 巻 2 号 p. 123-136
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    建物近傍の大気汚染物質の拡散予測に関する研究を行った。本論文その1では, 一辺が12cmの立方体を風洞に設置し建物近傍の流れ場と拡散場の計測を行った。流れ場の計測は, 乱れのレベルが高くかつ逆流を伴う流れ場の計測が可能なスプリットファイバープローブを用いた。拡散場の測定は, 屋根面の2つの異なった位置に設置した排出口からトレーサガスを排出し近傍の濃度を測定した。
    流れ場の性状において, 建物背後に大きな逆流域が形成され建物の中心から建物高さの1.6倍の距離に再付着点が生じており, この領域に横方向から建物に回り込む流れおよび鉛直方向での下降流が形成されていることが明らかとなった。建物屋根面の流れの剥離に伴う大きな乱れが, 建物の直後の屋根面と側面の位置するところに生成されている。速度成分u成分では, 下流においてもこの乱れの大きな領域は保たれる。一方, 速度成分υおよびwの乱れの大きな値の領域は, 下流ほど建物高さ以下の範囲に拡がり, ピーク値の位置も低くなる。
    拡散性状では, 屋根面の風下コーナーに位置する排出口の場合, 建物直後の断面で顕著なピークが建物高さに形成される。そのピーク位置は, 排出口位置を反映し流れの中心から偏った位置に生じているが, 風下ほどこの偏りは小さくなる。屋根面の中央に位置する排出口の場合は, 建物背後の近傍で風下コーナーに位置する排出口よりも小さな濃度値を示す。これは屋根面の初期拡散の状況の差違による。
  • 伊豆田 猛, 高橋 紀巳子, 松村 秀幸, 戸塚 績
    1999 年 34 巻 2 号 p. 137-146
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    コマツナ (Brassica campestris L.) の個体乾物成長に基づいたオゾン感受性の品種間差異を明らかにするために, 10品種に対してオゾン暴露を行った。播種後8日目, 10日目および12日目において, 10品種のコマツナに, 気温29.0±1.0℃, 相対湿度65±10%, 光合成有効放射量400μmol・m-2・s-1に制御した人工光型暴露チャンバー内で, 130±10nl・(ppb) のオゾンを一日当たり4時間 (10: 00~14: 00) 暴露した。なお, 対照区においては, 活性炭フィルターで浄化した空気をチャンバー内に導入した。播種後15日目に, 浄化空気または, オゾンを暴露した個体の葉面積と乾重量を測定した。
    播種後15日目における個体乾重量の低下率に基づいたオゾン感受性は, みすぎ>プララ>新晩生>丸葉>晩生=楽天>ごぜき晩生>はるみ>夏楽天>さおりの順に高かった。このオゾン感受性における品種間差異を, オゾン暴露による葉面可視被害の程度, 個体当たりの乾物成長速度または, 気孔密度では説明できなかった。これに対して, 単位オゾン吸収量当たりの純光合成阻害率は, みすぎ>はるみ>さおりの順に高く, この順位は個体乾物成長や純光合成速度に基づいたオゾン感受性の順位と一致した。これらの結果より, コマツナの個体乾物成長に基づいたオゾン感受性の品種間差異には, 葉内に吸収されたオゾンの解毒能力における品種間差異が関与していると考えられた。
  • 岡本 眞一
    1999 年 34 巻 2 号 p. A15-A20
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    1998年9月13日から18日までの6日間, 南アフリカDurbanにおいて, 第11回清空会議 (11th World Clean Air and Environment Congress) が開催された。今回の第11回会議は, 南アフリカにおけるIUAPPAメンバーである南アフリカ国立清空協会 (NACA, South African National Association for Clean Air) が主催した。
    発表論文をテーマ別に見ると, モニタリングおよびモニタリング技術に関する報告が多いことが特徴として挙げられる。また, 自動車排出ガスによる大気汚染およびその規制, 環境政策および環境マネジメントに関する論文の数も多くなっている。モデリング (Modeling) のセッションの傾向としては, アメリカからの参加が少なかったこと, ヨーロッパにおいてはEU統合に向けた大気環境保全プログラムの共通化, 拡散モデルと行政 (規制) との調和等についての報告が多いこと, などが挙げられる。
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