我が国では, 局地循環風である海陸風に支配される沿岸部に工業が発達し, 人口が密集し, 巨大な大気汚染発生源となっている。そこで, 海陸風前線を伴う海陸風の全体的な流れ場を把握するために, 水槽模型実験を行い, 水槽内流れを発砲スチロールをトレーサとして可視化し, ビデオ撮影を行った。 そして, この可視化画像間での輝度分布パターンから, 速度ベクトルの抽出を行い, 海陸風の各時刻の全体的な流れ場を求めた。また, 2次元層流, プシネクス近似とした非静水圧モデルから, 水槽内流れ場の数値計算を行った。 水槽実験では, 陸面温度の上昇とともに, まず, ベナール型の対流による上下方向の混合流が発生し, その後, 海岸線から内陸に向かって海風域が進入し, そして, 陸面温度が下降すると, 弱い陸風が吹く様子が認められた。 数値モデルでも, 水槽実験で得られたこれらの特徴を再現できた。 また, Uedaらが提案している海陸風に関する普遍関数を用いると, 水槽実験で得られた海風の最大速度約1mm/s, 混合層高さ約10mmは, 野外観測の約4.8m/s, 約560mに相当し, 実際に観測されている値とほぼ等しく, 水槽実験で実際の海陸風を定性的に模擬できた。
次に, 非静水圧モデルと静水圧近似モデルによって計算される海陸風場の違いが大気汚染物質の拡散に及ぼす影響を調べた。非静水圧モデルでは, 水槽実験で見られた海風進入前のベナール型の対流や海風前線が再現でき, 海風前線の通過による下降流, 上昇流の大きな変動, 温度の低下など, 野外観測で得られている海陸風の特徴を再現できるが, 静水圧モデルでは, このような特徴は再現できなかった。 しかし, 両者の流れ場を用いた物質拡散シミュレーションで得られた濃度最大値には, 大きな違いは生じなかった。 ただし, 非静水圧モデルの流れ場に比べて静水圧モデルの流れ場を用いた場合, 排出源から遠ざかるにつれ最大濃度に達する時間が, かなり遅くなることがわかった。
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