大気環境学会誌
Online ISSN : 2185-4335
Print ISSN : 1341-4178
ISSN-L : 1341-4178
37 巻, 6 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 高架道路の存在影響, 幹線道路からの距離による濃度の減衰, フィールド観測値と風洞実験値の比較
    上原 清, 林 誠司, 吉川 康雄, 山尾 幸夫, 若松 伸司, 森川 多津子, 松本 幸雄
    2002 年 37 巻 6 号 p. 343-356
    発行日: 2002/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    世田谷区上馬交差点周辺の縮尺模型を使って風洞実験を行った結果, 次のことがわかった。
    幹線道路沿道の局所高濃度汚染は沿道建物の影響を受けるが, その影響が強く現れるのはその建物規模と同程度の距離までであり, それより遠くなると濃度は幹線道路からの距離によって単調に減少する。
    本事例の場合, 幹線道路周辺市街地の濃度は, 交差点距離Rを幹線道路幅Wで基準化した距離R/Wが1以下の範囲で急激に減少する。ただし, 交差点距離Rは, 1/R=1/Lx+1/Ly (Lx, Ly: 直交する2本の幹線道路からの最短距離) で定義する。高架道路から排出された大気汚染物質は広い範囲に拡散し, 局所的な地上高濃度を生じない。また, 高架道路下の沿道では濃度が増加する場所と, 低下する場所それぞれがあり, 特に高濃度が生じやすい傾向は認められない。上馬自動車排ガス測定局における低風速時の常時観測結果から得られた無次元濃度は, 風速が低いほど低い。その原因は自動車排ガスの浮力による鉛直上方への拡散が, 場の風速が低いときに増大するためと推測される。
    水平方向の風向変動の大きさや, トレーサーガスの排出方法が風洞実験の再現精度に強く影響する。
  • 松本 利恵, 唐牛 聖文, 米持 真一, 村野 健太郎
    2002 年 37 巻 6 号 p. 357-373
    発行日: 2002/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    2000年7月の三宅島大噴火以降, 関東地方では著しい大気中のSO2濃度の上昇や大気降下物の酸性化が観測されている。そこで, 埼玉県における大気降下物や大気中のSO2濃度に対する三宅島火山の影響について検討を行った。1999年4月から2001年3月にかけて埼玉県内5地点で酸性雨ろ過式採取装置を用いた大気降下物の観測を行った。その結果, 関東地方各地で大気中のSO2濃度が上昇した2000年8月から10月は, 1999年の同時期と比べて, 大気降下物のpHは低下, nss-SO42-の降下量は増加し, 硫黄酸化物の大気降下物への汚染寄与が大きくなった。
    騎西に設置した酸性雨自動イオンクロマトグラフ分析装置により降雨量1mmごとに測定した2000年9月から10月初めの降雨のイオン種濃度変動と上空に存在する気流の関係を検討した。その結果, 上空に三宅島から騎西へ向かう気流が存在するときに降雨のpHの低下およびnss-SO42-濃度の上昇が生じ, 高いときにはnss-SO42-が陰イオンの約90%を占めていた。更に気流の方向により降雨の酸性化やnss-SO42-濃度上昇の程度が短時間で変化したことから, 火山から約220km離れた騎西の降雨に対する三宅島火山起源の硫黄酸化物の影響が明らかになった。降雨を伴う期間の騎西における大気中SO2濃度変動について検討したところ, 火山放出物が安定した上空を移流する場合には大気安定度が, 強風に吹き下ろされて低空を移流する場合には三宅島からの輸送経路途中の降雨による洗浄効果が大きな要因となっていた。
  • 丸尾 容子, 阪田 晴三, 古保 静夫, 間山 秀信
    2002 年 37 巻 6 号 p. 374-386
    発行日: 2002/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    狭域での二酸化窒素 (NO2) の高密度測定を可能にするために蓄積型センサを用いたNO2モニタリングシステムを開発した。蓄積型センサは多孔質ガラスを基板として用い, そこにザルツマン試薬を含浸させて作製する。NO2濃度は多孔質ガラスの光透過率から算出される。感度はNO2センサとしてはじめて2ppb・hourを実現した。このセンサ装置を用いて得られた1時間毎のNO2濃度と市販の化学発光法を用いたNO2アナライザから出力されるNO2濃度の時間平均の相関を調べたところ相関係数は0.84であった。
    開発したNO2センサを4台岩手県盛岡市の近郊に設置し, 1999年5月から2001年12月まで各点におけるNO2濃度をモニタリングした。モニタリングシステムはセンサ装置に内蔵されているモデムから測定結果を, 電話回線を通じてセンタPCに収集し, そこでNO2濃度を算出し, Webサーバに計算値を送信し, ホームページ上に測定結果を公表するという構成をとった。センサ装置は自然条件が厳しい盛岡の屋外環境下でも重大なトラブルなしに稼働し, 測定期間の2年半ほぼ全期間にわたり測定結果が得られた。得られた測定結果から, 各測定点はNO2濃度のレベルは異なるが同じ傾向の季節変動をし, 冬に濃度が極大に, 夏に濃度が極小になり, また春に濃度が高い時期が生じること, 更には冬と夏の日変動は大きく異なることが明らかになった。
  • 松田 和秀, 青木 正敏, 張 尚勲, 小南 朋美, 福山 力, 福崎 紀夫, 戸塚 績
    2002 年 37 巻 6 号 p. 387-392
    発行日: 2002/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    長野県大芝高原にある平坦なアカマツ林において, 2000年の9月18日から11月17日の間, SO2乾性沈着の観測を実施した。SO2フラックス測定には, 熱収支ボーエン比法を用いた。フラックス測定により求められた沈着速度の信頼性を考察し, 更に, インファレンシャル法による沈着速度計算値との比較も試みた。
    熱収支ボーエン比法によるSO2の沈着速度を決定する気象要素の測定結果から, 日中, 特に12: 00から14: 00の間に最も信頼性のある沈着速度が算出され得ることが分かった。この時間帯に測定された沈着速度の分布に関し, それらのバラツキは大きかったが, 0.0から1.0cm/sの区間に最も多く出現していた。観測期間中の12: 00から14: 00の間に得られた沈着速度のメジアン値は0.9cm/sであり, Erisman and Baidocchi (1994) らがまとめた日中の植物に対する沈着速度のレベルに近い値を示していた。インファレンシャル法により計算した沈着速度との比較を試みた結果, 濡れた森林表面に対する沈着速度計算値が, 乾いた森林表面あるいは相対湿度85%でしきい値を設けて両森林表面を取り扱った沈着速度計算値に比べ, 測定値に近かった。キャノピー上層におけるクチクラ抵抗のパラメタリゼーションを調整する必要性が示唆された。
  • 炭酸水素イオン分析によるイオンバランスの向上
    福崎 紀夫, Tamara V. KHODZHER, 原 宏
    2002 年 37 巻 6 号 p. 393-401
    発行日: 2002/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    降水試料の分析においてイオンバランスに基づく分析精度管理は重要な手法である。ロシア・イルクーツク市において捕集した降水181試料について, 他の陰イオンと共に炭酸水素イオン (HCO3-) を高速液体クロマトグラフ法で測定しイオンバランスを求めた。実測されたHCO3-を用いてイオンバランスの計算を行うことにより, 東アジア酸性雨モニタリングネットワーク (EANET) のマニュアルに示されている, 降水試料のpHからHCO3-を推定してイオンバランスを求める方法に比べ大きな改善が見られた。pHが5を超え, 全陽イオン成分中に占めるカルシウムおよびマグネシウムイオンの当量濃度和が40%を超えるような降水試料の分析精度管理をイオンバランスから行う場合, 降水のpHからHCO3-濃度を推定することでは不十分であり, 何らかの方法でHCO3-を実測し, それを含めてイオンバランスを求め分析精度を検討することが望ましいといえる。
  • 環境省委員会の活動
    一ノ瀬 俊明
    2002 年 37 巻 6 号 p. A71-A84
    発行日: 2002/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    環境省はヒートアイランド現象を熱による都市の大気汚染現象と位置付け, 日本の地方自治体におけるヒートアイランド対策の体系化を目指し, いくつかの事業を行っている。1999年度には環境庁ヒートアイランド現象抑制対策手法検討委員会を発足させ, 豊富なレビューにもとついて, 平均風速には恵まれているが夏季の暑熱対策が長期間必要 (自然面の特徴), 再開発をめぐる合意形成過程の複雑さ (社会・制度面の特徴) 等, 日本における対策の難しさを指摘した。一方上記委員会活動を踏まえ, 2000年度には新たに環境省ヒートアイランド実態解析調査検討委員会を発足させた。同委員会では具体的に性格の異なるわが国の3都市 (仙台・東京・名古屋) を選び, 実際にフィールドに密着した対策手法の検討・提示, そして都市計画への提言をミッションとしている。AMeDAS等既存のデータから3都市におけるヒートアイランド現象の実態と影響を把握し, 都市スケールおよび街区スケールの数値シミュレーションモデルを利用してその形成要因を分析し, 対策を実施した場合の効果を予測した。同委員会は多岐にわたる分野からヒートアイランド関連での日本のトップクラスの研究者を集めている。これら2つの委貝会における議論と成果を整理し, 個別のヒートアイランド対策手法の評価や, わが国の地方自治体におけるヒートアイランド対策のあり方を論じた。
feedback
Top