近年関東周辺山岳域で見られる森林衰退の原因として大気汚染物質の影響が重要ではないかといわれている。しかし, この地域でのこれまでの観測は電源の都合により, 長期的な観測が出来ず, そのため観測時の天候に大きく影響されて, 大気汚染の影響が十分把握されていない。本研究では電源に太陽電池を用いることにより, 実際に森林被害の激しい前白根山山頂付近で, 大気汚染物質であるオゾン (0
3) を, 約3ヵ月にわたって長期的に観測することで, この地域での0
3濃度変化を明らかにした。更に高濃度0
3が現れる頻度やその起源, それらが出現する気象条件を考察した。その結果, 今回の観測では, 期間中の最高濃度は1時間平均値で70ppb弱であり, 過去に観測された100ppbを超えるような高濃度は観測されなかった。また, 長期間の統計的な03濃度変化を調べることにより, この地点で0
3が高濃度になるのは夏季の卓越した南風に加えて, 日射強度が大きい時であることが分かった。これは強い日射により, 都市域で発生した一次汚染物質が光化学反応を起こしながら, 広域な海陸風循環によって輸送されてきた為であると考えられた。また, 9月以降の秋季には0
3の平均濃度が上がると共に日変化が小さくなった。これは山頂付近では自由対流圏大気の影響が大きくなり, アジアのバックグラウンドオゾンが輸送されていて, 関東平野部からの汚染空気の寄与が小さくなるためと考えられた。
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