大気環境学会誌
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41 巻, 3 号
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  • 野内 勇
    2006 年 41 巻 3 号 p. 103-122
    発行日: 2006/05/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    地球温暖化防止のために, 京都議定書締約国は温室効果ガス排出削減行動を実施している。2005年の日本の温室効果ガス排出量インベントリーでは, 農業部門からの温室効果ガス排出量はCO2換算で, CO2: 0g, CH4: 13, 417GgCO2eq., N20: 19, 812GgCO2eq. の計33, 229GgCO2eq. であり, 日本全排出量1,259, 426GgCO2eq. に占める割合は2.6%と寄与は低いものの, CH4およびN2Oの排出量に限って言えば, 総CH4および総N2Oに占める割合は, それぞれ69.6%および57.2%と高い寄与がある。そのため, 農業においてもメタンとN20の排出削減の努力が求められている。その排出削減技術としては, CO2では保全的耕転による耕起の減少などの農地管理, CH4では水田灌漑管理, 肥料の利用改善, 反錫動物の腸内CH4低減, N2Oでは緩効性肥料や硝化抑制剤などがある。しかし, このような排出削減技術の開発に取り組みつつあるものの, それら技術を適用した実測データ自体が不足し, その有効性が確認できていない場合が多い。今後ともそれら技術の確立や新規削減技術の開発が必要である。
  • 谷本 浩志, 向井 人史
    2006 年 41 巻 3 号 p. 123-134
    発行日: 2006/05/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    近年, 北半球における観測データから, 人為起源前駆物質の排出量増加によると考えられる, 過去数十年間にわたる地表オゾンのバックグラウンド濃度増加が報告されている。この傾向は, 発展途上国の人口増加に伴う社会経済活動の発展によって今後も続くと考えられるため, 将来における濃度変化の推移が半球規模で注視されている。大気中のオゾン濃度に観測される増加率はせいぜい年率数パーセントであり, 高精度な検出と早期の対策には高精度標準に基づく国内・国際的な観測網のネットワーキングが不可欠であるが, 日本においては大気中濃度の測定自体は研究観測ならびに現業観測で行われているものの, オゾンの国家標準とそれを用いたトップダウン的なトレーサビリティシステムが存在しない。本研究では, 国内のいくつかの研究機関が有する基準と米国標準技術研究所の標準参照光度計との相互比較実験を行った結果, 用いる基準や手法によって数パーセントの差が生じる可能性が示された。また, 国立環境研究所において新たに導入した標準参照光度計の値が米国標準技術研究所および国際度量衡局の維持する光度計の値と非常に良く一致することが確認された。最後に, 日本国内においては各地でさまざまな基準が用いられているため, その差によって測定値に有意な差が生じる可能性があり, 高確度・高精度な標準に基づくトレーサビリティシステムの構築が急務であることが示唆された。
  • 松本 利恵, 米持 真一, 丸山 由喜雄, 小久保 明子, 坂本 和彦
    2006 年 41 巻 3 号 p. 135-143
    発行日: 2006/05/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    埼玉県南西部の産業廃棄物焼却施設が集中して存在していた地域において, 1999年7月から2000年7月まで大気沈着物の観測を実施した。その結果, 焼却施設群の中心部や風下の地点でnss-Cl-沈着量が大きくなる傾向を示していた。調査地域に存在する大気汚染防止法の規制対象の廃棄物焼却施設について, 経済産業省低煙源工場拡散モデルを用いて採取地点付近のばい煙の相対的な影響度を推計したところ, 観測したnss-Cl-沈着量と比例関係が得られた。この関係を用いて, 大気汚染防止法の対象となる民間の産業廃棄物焼却施設, 市町の一般廃棄物焼却施設, およびその他の要因に由来するnss-Cl-沈着量の割合を推計した結果, 地点により異なるが, 調査した10地点の要因別寄与割合の平均はそれぞれ55%, 38%, 7%であった。
  • 土岐 真一, 國見 均
    2006 年 41 巻 3 号 p. 144-163
    発行日: 2006/05/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    自動車タイヤの走行磨耗による粉塵の発生量を沿道で計測した。計測は見通しのよい直線道路で行い, 距離減衰および後背地濃度を含めておこなった。その結果はCMB法による解析を行うとともに, 自動車起源の排出量を推計し, 環境省の「浮遊粒子状物質汚染予測マニュアル」に記載された排出係数と比較した。その結果, 今回の観測をもとにして得られた自動車タイヤ磨耗量は, マニュアルの排出係数を約1/10にすると自動車排気排出量と整合することがわかった。本結果は米国EPAが公表しているタイヤ磨耗の排出係数と近い結果であった。一方, 自動車走行による巻き上げ粉じんについても計測を行い, 同1/10という結果を得たが, 巻き上げ粉塵については道路環境の影響が大きく, 精度は不十分であると考えられた。タイヤ磨耗の排出係数は大気シミュレーションモデルにおけるSPM濃度予測に与える影響が大きいことから, さらなる追試, および異なる環境での計測, 等により精度向上を図る必要がある。
  • 吉門 洋, 東野 晴行, 高井 淳, 米澤 義尭, 井上 和也, 石川 百合子, 三田 和哲, 篠崎 裕哉, 篠原 直秀, 東海 明宏, 吉 ...
    2006 年 41 巻 3 号 p. 164-174
    発行日: 2006/05/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    主要な有害大気汚染物質について, 2002 (平成14) 年度のPRTR届出大気排出量の大きかった地域, または同年度の全国モニタリングデータが高濃度であった地域を選択し, PRTRデータの大気排出量に基づいて周辺濃度解析を行った。発生源近傍解析モデルとしてMETI-LISを用い, また個別扱いの事業所を除く周辺地域からの排出によるバックグラウンド濃度は, 広域拡散モデルADMERによって見積もった。
    工業地域などの特定の事業所からの排出が際立つテトラクロロエチレン, ベンゼン, 1, 3一ブタジエン, アクリロニトリル等に関しては, モニタリングによる年平均濃度とモデル計算濃度の間に良好な対応が見られた。ただし, ベンゼンではADMERから見積もられるバックグラウンド濃度に加えて更に全国一律的なベース濃度1μg/m3を仮定する必要があった。いずれにせよ, これらの物質ではPRTRの排出量推算, 拡散モデル, モニタリング年平均濃度の三者の合理的な関係が示された。
    有害大気汚染物質のうちでも大気中での反応生成が無視できないホルムアルデヒド, アセトアルデヒド, 未把握発生量が大きいと推定されるクロロホルムでは, 直接排出の大きい事業所周辺でも拡散モデルにより良好なシミュレーション結果は得られなかった。
    しかし, モデル解析の有効性が確認されたことを踏まえ, 大排出量事業所の直接影響を評価すると, ベンゼンの地域自主管理推進地区の例をはじめとして, ほぼどの物質についても, 有害性評価のための参照値を超える区域は現状では事業所敷地内, あるいは周辺のごく限られた範囲の居住地域と推定され, 今後は一律的な削減対策よりも, 個別の地域ごとに検討することが効果的であると考えられた。
  • 下向き暴露と上向き暴露による沈着フラックスの比較
    藤田 慎一
    2006 年 41 巻 3 号 p. 175-182
    発行日: 2006/05/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    空力学的に設計した翼状の代理表面を用いて, 二酸化硫黄 (SO2) と硝酸 (HNO3) の乾性沈着量の測定を行った。気象条件などによる観測の制約を緩和する試みとして, 懸垂型 (下向き暴露) の代理表面を考案し, 従来型 (上向き暴露) の代理表面との比較を行うとともに, 方法の妥当性について考察を加えた。推定されたSO2の沈着速度は約0.58cms-1, HNO3の沈着速度は約0.99cm s-1であり, これらの値はさまざまな方法を用いて算定された既往の報告値と, 大きく矛盾するものではなかった。下向き暴露の代理表面には,(1) 降雨による欠測が減少すること,(2) 形状の単純化が図れること,(3) 粗大粒子の影響が緩和されることなどの利点があることがわかった。空力学的に設計した代理表面は, 再現性や利便性や明快性などの点で, ガス状物質の乾性沈着量のルーチン観測に最も適した方法の一つと考えられる。
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