大気環境学会誌
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41 巻, 6 号
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  • 林 隆
    2006 年 41 巻 6 号 p. 289-299
    発行日: 2006/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    原子力施設の安全審査に使用されている基本拡散式には, 代表風速を入力しなければならない。この代表風速に放出高風速を用いた計算結果は, 拡散実験で得た地上測定濃度と一致しなかった。そこで計算結果と測定濃度とを合致させる実効風速を求める方法を考案した。実効風速を設定することで地上軸上計算濃度と地上軸上測定濃度はほぼ合致した。実験期間中の実効風速と放出高風速との比は0.4~0.8であった。実効風速と同時に得られた鉛直拡散幅及び水平拡散幅は, 放出点近傍においてはPasquillの示した値より大きめであった。また2km以遠の鉛直拡散幅には多くの場合に頭打ち傾向が見られた。他の水平拡散幅及び鉛直拡散幅の傾向はPasquillの水平拡散幅及び鉛直拡散幅に良く似ていた。
  • 現状とその要因について
    濱名 実, 定永 靖宗, 竹中 規訓, 坂東 博
    2006 年 41 巻 6 号 p. 300-308
    発行日: 2006/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    1970年代よりアメリカなどの都市部において, 平日から週末にかけてO3の前駆体であるNOx (=NO+NO2) やNMHCs (非メタン炭化水素類) の濃度が減少するのに対し, 逆にO3濃度が高くなる現象 (weekend effect) が報告されている。人阪府において2001~2004年の4~9月に測定された大気汚染常時監視データを用いてweekend effectの有無を調査した。解析の結果, 大阪府のO3, NOx, NMHCs濃度の平均値はそれぞれ50 ppb (昼のピーク時の平均値), 50 ppb (6~9時のNO濃度ピーク時の平均値), 250 ppb (NOxと同じ時間の平均値) 程度であった。また, 多くの測定局でweekend effectが認められ, 平日に比べて週末のO3, NOx, NMHCs濃度の全測定局平均値は2001年は1.47 ppbv,-15.86 ppbv,-34.96 ppbvC, 2002年は1.45 ppbv,-18.34 ppbv,-52.76 ppbvC, 2003年は5.52 ppbv,-15.31 ppbv,-35.86 ppbvC, 2004年は1.15 ppbv,-13.44 ppbv,-22.84 ppbvC変化した。その原因を調査するため平日・週末間の,(1) 浮遊粒子状物質 (SPM) 濃度,(2) NOx排出時間,(3) NMHCs/NO2比,(4) NOのO3消失反応の影響の違いについて考察した。
  • 堂本 真吾, 江口 正司, 高岡 昌輝, 松本 忠生, 大下 和徹, 武田 信生
    2006 年 41 巻 6 号 p. 309-319
    発行日: 2006/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    地球規模での水銀汚染に関して人為的発生源は重要である。未知発生源の1つとして火葬炉から排出される水銀の挙動を調査した。火葬炉のバグフィルタ出口においてOntario Hydro Methodを基にした水銀形態別連続分析計を用い, 34検体の排ガス中水銀濃度を連続測定した。排ガス中の総水銀濃度は4.3μg/m3NでHg0が2.2μg/m3N, Hg2+が2.1μg/m3Nであった。1御遺体あたりの水銀排出量は51.8mg/人と見積もられ, 年間死亡人口との関係から年間水銀排出量は57.0kg/年と推定された。イギリスでの規制値案としては水銀排出量150mg/4人 (37.5mg/人) である。この規制値と今回の結果を比較すると34検体中12検体がこの規制を満たしていないことがわかった。また年齢階級別に平均水銀排出量を算出すると65-69歳の階級で最大の142mg/人の排出量となった。これは過去に歯科治療にアマルガムが多く利用されてきたことと喪失歯が少ないことが原因と考えられた。また過去の歯科治療におけるアマルガム使用推移から水銀排出量の将来予測を行った。その結果歯科治療履歴からの推測では, 2005年現在で1670~2380kg/年と見積もられた。実測値からの推測と治療歴からの推測には大きな隔たりがあった。将来動向としてはこれから約20年後に水銀排出のピークを迎えることが示唆された。
  • 渡辺 誠, 山口 真弘, 岩崎 真弓, 松尾 直樹, 那波 純一, 田辺 千佳子, 松村 秀幸, 河野 吉久, 伊豆田 猛
    2006 年 41 巻 6 号 p. 320-334
    発行日: 2006/11/10
    公開日: 2011/12/05
    ジャーナル フリー
    カラマツ, アカマツおよびスギ苗の成長に対するオゾン (O3) と土壌への窒素負荷の単独および複合影響を調べた。4段階のガス処理 (浄化空気, 外気O3濃度の1.0, 1.5および2.0倍) と3段階の土壌窒素処理 [O (NO), 20 (N20) および50 (N50) kg ha-1 year-1] を組み合わせた12処理区において, 2成長期にわたって苗木を育成した。土壌への窒素負荷によって, カラマツの成長におけるO3感受性が低下した。一方, アカマツとスギの成長におけるO3感受性は土壌への窒素負荷の影響を受けなかった。個体乾重量の増加量を10%低下させる一成長期あたりのAOT40をクリティカルレベルとすると, その値はカラマツで28 (NO), 29 (N20) および53 (N50) μmolmol-1h, アカマツで38μmol mol-1h, スギで111μmol mol-1hであった。3樹種の成長におけるO3感受性と針葉の純光合成速度と葉乾重量の積である個体あたりの純光合成速度 (Atotal) におけるO3感受性との間に正の相関が認められた。以上の結果より, カラマツのような樹種におけるO3のクリティカルレベルを評価する際には, 土壌への窒素負荷量を考慮する必要があることが明らかになった。また, Atotalは土壌への窒素負荷を考慮に入れて, 我が国の針葉樹の成長におけるO3感受性を推定する際の有用な指標である。
  • 川村 知裕, 原 宏
    2006 年 41 巻 6 号 p. 335-346
    発行日: 2006/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    2000年以降, 日本での黄砂観測数が増加し, 黄砂に対する関心が高まっている。日本の降水に対する黄砂の広域的・長期的影響を明らかにするため, 10地点, 1998年~2002年の降水データを解析した。気象官署による黄砂観測記録に従って, 降水を観測地点周辺で黄砂が観測されたときの降水 (KR), 観測地点周辺以外の地点で黄砂が観測されたときの降水 (SR), 日本で黄砂が観測されなかったときの降水 (NR) の3つのタイプに分類した。KRはpHが高く, nss-Ca2+濃度の増加が見られた。これは黄砂の主成分であるCaCO3が降水中に溶解したためと考えられる。黄砂時の降水はnss-SO42, NO3-, NH4+の濃度も高かった。これは, 黄砂と共にNH3, NH4+など大陸から輸送されたものが溶解したためと考えられる。黄砂時と非黄砂時の降水の沈着量の差から黄砂に起因する湿性沈着量を見積もったところ, nss-Ca2+の年間沈着量の18%, 春期沈着量の39%を占めた。また, 年別では2000~2002年, 地点別では北日本および日本海側で, nss-Ca2+湿性沈着量が増加し, 黄砂の寄与が大きいことが示された。反対に, H+では黄砂により降水中の酸の中和が進むため, 沈着量は減少する。しかし, 土壌での硝化を考慮すると, 黄砂によるNH4+の沈着量も多いため, H+の沈着減少効果は打ち消され, 土壌酸性化の効果がある。降水化学の測定値から, pHや濃度だけでなく, 沈着量を評価する必要が強調される。
  • 室崎 将史, 藤田 慎一, 高橋 章, 速水 洋, 三浦 和彦
    2006 年 41 巻 6 号 p. 347-354
    発行日: 2006/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    静岡県と山梨県の県境に位置する富士山 (標高3776m) を観測塔に見立て, 高度の異なる20地点で2005年7月12日から7月20日までの9日間, パッシブサンプラーを用いてオゾン濃度の鉛直分布を測定した。山麓の都市部3地点 (標高30m~460m) と丹沢山頂 (標高1540m) での自動計測器による測定データをもとに, オゾン濃度の時間変化についても解析を加えた。パッシブサンプラーによって観測期間に測定されたオゾンの平均濃度は, 混合層内で約20ppbv, 混合層より上層で約40ppbvであり, 高度1500m付近を境にして大きな変化がみられた。濃度分布のパターンは, 過去に報告された観測結果などと矛盾するものではなかった。
    自動計測器の観測結果から, 富士山頂から水平距離が20km以内の山麓の都市部ではオゾン濃度の日変化は大きく, 地域規模の大気汚染の影響を受けていることがわかった。一方, 富士山頂から東に約30km離れた丹沢山頂では, 夜間に富士山麓の都市部と同レベルまでオゾン濃度が低下することがあり, 高度1500m付近でも気象条件によっては, 地域規模の大気汚染の影響を受ける場合があることがわかった。このためほぼ同じ高度である富士山の中腹で観測されたオゾン濃度の大きな変化は, 地域規模の大気汚染の影響によるものと推定された。
  • 春末 哲史, 上原 伸二, 楠根 裕司, 丸山 正暁
    2006 年 41 巻 6 号 p. 355-363
    発行日: 2006/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    標準物質は機器分析に必要不可欠であり, 近年では国家標準にトレーサブルで不確かさの記述されたものが望まれている。ガス分析における標準ガスについても同様の要求があり, これまでに揮発性有機化合物 (VOC) 混合標準ガスとしては, 大気汚染防止法で優先取組物質である9成分について1ppm~0.1ppmの範囲でJCSS特定標準ガス (国家標準) が整備されている。国内ではガスメーカーから既に大気環境モニタリングレベルである5ppbの低濃度VOC混合標準ガスが市販されているが, 表示された濃度に対する不確かさのデータは十分公表されていない。低濃度領域における標準ガスのもつ不確かさは, 調製に由来する不確かさ以上に経時的な濃度安定性の寄与が大きくなるため, その評価は重要である。筆者らは既存の調製技術および測定技術に加えて, 住友精化株式会社が開発した容器内面処理技術「エンファス処理」(特許取得) を採用して濃度の経時安定性を確保し, 不確かさの小さい標準ガスを開発した。その評価を各段階において不確かさの見積りで行った。その結果, 拡張不確かさ (包含係数: k=2) は0.05ppb (1.0%) から0.39ppb (7.8%) であった。
  • 若松 伸司
    2006 年 41 巻 6 号 p. A69-A71
    発行日: 2006/11/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    EPAは大気粒子状物質 (PM) の環境基準に関して最終報告を2006年9月21日に発表した。1997年基準と較べてfine particle (PM2.5) の基準値である65μg/m3を35μg/m3に厳しくした。また年平均値は15μg/m3に据えおいた。またinhalable coarse particle (PM10) の24時間平均値も150μg/m3に据え置いた。一方, PM10の年間平均の基準は長期間曝露と健康影響の関連性に関する十分な知見が無いとの理由で廃止した。この最終報告書は, 9月21日から60日後にFederal Registerとして公布される予定である。米国における新基準の内容とモニタリングの考え方を速報的に紹介すると共に, 日本における今後の取り組みについて展望する。
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