大気環境学会誌
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44 巻, 4 号
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あおぞら
原著
  • 板橋 秀一, 弓本 桂也, 鵜野 伊津志, 大原 利眞, 黒川 純一, 清水 厚, 山本 重一, 大石 興弘, 岩本 眞二
    2009 年 44 巻 4 号 p. 175-185
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2011/09/14
    ジャーナル フリー
    日本各地で光化学オキシダント注意報が発令された2007年4月下旬から5月末の期間を対象に,化学輸送モデルCMAQを用いてモデルシミュレーションを行い,光化学オゾン (O3) を中心に,硫酸塩粒子 (nss-SO42-) などにも着目して,その濃度変化や気象学的な特徴について解析した.
    シミュレーションの結果は観測されたオゾン濃度などを概ね再現しており,対象とした期間内には九州北部においてO3とnss-SO42- が同時に高濃度となる5つのエピソードが見られた.これらの中から九州地域で典型的な越境汚染が起こっていると考えられた3つのエピソードに着目してより詳細な解析を行った.これら3つのエピソード時には,いずれも東シナ海南部に高気圧が位置し,高気圧の北部をまわる西から北西の気流に乗って大陸起源の汚染気塊が輸送されていることが明瞭に示され,それはnss-SO42- の高濃度域の広がりと合致していた.また,後方流跡線解析から,中国大陸上の汚染気塊がおよそ2日かけて九州北部へと輸送されたことが示された.
    中国起源の一次汚染質排出による越境汚染の寄与を見積もるため,中国国内の一次汚染質の排出量をゼロとした感度解析も行った.中国起源のnss-SO42- とO3には高い相関があり,直線回帰の傾きは気象条件により異なるが0.8~1.3 (ppbv_O3) / (μg/m3_ nss-SO42-) を取り,nss-SO42- = 20 μg/m3に対する中国起源の汚染質に起因するO3は16~26 ppbvであることが示された.全球モデルで与えているO3の西側境界濃度レベルの50 ppbvを勘案すると, 今回着目した3つのエピソード時のオゾン濃度に対する中国起源のO3前駆物質の寄与率は東アジア起源の約30~50 % に達し,高濃度オゾンエピソードにはアジア大陸を起源とする越境汚染が強く影響していることが示された.
  • 松本 利恵, 野尻 喜好, 坂本 和彦
    2009 年 44 巻 4 号 p. 186-195
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2011/09/14
    ジャーナル フリー
    近年のダイオキシン類対策のための規制および2000年の三宅島噴火による埼玉県のnss-Cl-沈着量に対する影響について,1987 - 2007年度の観測結果(気象要因が例年と異なる1999年度を除く)から検討を行った。
    nss-Cl-沈着量は,1980年代後半は増加傾向にあったが,1991 - 1994年度をピークとしてその後急激な減少の傾向を示した。埼玉県内の焼却施設数は1996年度以降著しく減少した。三宅島が噴火する前の1998年度のnss-Cl-沈着量は,1993年度の約40 %まで減少していた。nss-Cl-沈着量と大気中のダイオキシン濃度は有意な関係にあり,ダイオキシン濃度の低下とともにnss-Cl-沈着量も減少していた。
    埼玉県内の2000 - 2002年度を合計した三宅島火山由来のnss-Cl-平均沈着量は4.2 meq m-2と推定された。三宅島からの距離が小さいほど沈着量が大きくなる傾向がみられ,西部山地部や北部に存在する地点で沈着量が小さくなっていた。
ノート
  • 田子 博
    2009 年 44 巻 4 号 p. 196-201
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2011/09/14
    ジャーナル フリー
    揮発性有機化合物(VOCs)について,それぞれ1週間採取×4回/年(1w法)および24時間採取×12回/年(24h法)から求めた年平均値(いずれも算術平均)を比較した。年平均値が定量下限値以上であった30のVOCsについて,24h法から求めた年平均値は1w法から求めた年平均値の1~1.5倍となった。周辺に発生源が存在する物質については,特に24h法による年平均値が高くなる傾向が見られた。これは,24h法で年1~2回観測された一過性と考えられる高濃度事象に,年平均値が大きく影響されることによるものであった。これに対し,1w法では一過性の高濃度事象による高濃度サンプルはほとんど存在しなかった。一部例外となる物質はあるが,多くの物質おいては,24h法の測定値を幾何平均して年平均値を求めると,1w法による年平均値とほぼ一致した。 
  • 藍川 昌秀, 平木 隆年, 駒井 幸雄, 梅本 諭, 徳地 直子
    2009 年 44 巻 4 号 p. 202-210
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2011/09/14
    ジャーナル フリー
    降水,霧水及び大気中ガス・エアロゾルによる集水域への窒素の負荷と河川水による窒素の流出について,その収支バランスを解析・考察した。調査は兵庫県粟鹿山で行った。粟鹿山の集水域(流域面積4.28 km2)への降水,霧水及び大気中ガス(HNO3,NH3)・エアロゾル(NO3-,NH4+)による窒素の負荷量はそれぞれ1400, 6700, 230, 160, 27, 290 kgN/7ヶ月間(1999年5月~11月)であった。これは,4.5 kgN/ha/年, 30.2 kgN/ha/年, 1.3 kgN/ha/年, 0.90 kgN/ha/年, 0.15 kgN/ha/年, 1.6 kgN/ha/年に相当するものである。一方,河川水による窒素の流出量は2600 kgN/1年間(1999年4月21日~2000年4月22日)であり 6.1 kgN/ha/年に相当する量であった。粟鹿山集水域における窒素の収支としては,負荷量が38.7 kgN/ha/年であるのに対し,流出量が約 6.1 kgN/ha/年であり,負荷量が流出量の約6.3倍であった。窒素負荷量を成分ごとにみると,硝酸成分によるものが3400 kgN/7ヶ月間(15.0 kgN/ha/年)であるのに対し,アンモニア性窒素(= NH3 + NH4+)によるものが5300 kgN/7ヶ月間(23.7 kgN/ha/年)であり,アンモニア性窒素によるものが硝酸成分によるものよりも1.6倍大きかった。また,硝酸ガスによる沈着量は硝酸塩粒子によるものの8.7倍であり,アンモニアガスによる沈着量はアンモニウム塩粒子によるものの約2/3であった。
技術調査報告
  • 米持 真一, 梅沢 夏実, 磯部 充久, 松本 利恵, 深井 順子, 城 裕樹, 関根 健司, 相沢 和哉
    2009 年 44 巻 4 号 p. 211-221
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2011/09/14
    ジャーナル フリー
    マルチノズルカスケードインパクタ(MCI)サンプラーを用いて, 埼玉県内の国道17号線沿道3地点と, 対照となる一般環境の3つの組合せからなる計6地点で, 微小粒子(PM2.5)と粗大粒子(PM2.5-10)を捕集した。MCIサンプラーを用いて得られたPM2.5質量濃度は, FRMサンプラーを用いて得られたPM2.5質量濃度より5%程度高くなった。 道路沿道と一般環境のPM2.5質量濃度間の相関は, PM2.5-10濃度間の相関より高くなった。しかしながら, 特に田園に位置する騎西では, 冬期に道路沿道よりも高濃度となる現象が見られた。この原因は収穫期以降に見られるバイオマスの燃焼によるものと考えられた。また, 東京湾から55 kmの距離に位置する騎西でも, 夏期の粗大粒子中に海塩粒子が輸送されていた。県内の6地点における硫酸イオンの濃度変動の類似性を変動係数で評価したところ, 夏期, 冬期ともに変動が極めて類似していた。このことから, 少なくとも県内の硫酸イオンは自動車などの局所的な発生源の影響は少なく, 長距離輸送などの影響が示唆された。
  • 谷本 浩志, 橋本 茂, 向井 人史
    2009 年 44 巻 4 号 p. 222-226
    発行日: 2009/07/10
    公開日: 2011/09/14
    ジャーナル フリー
    昨今、日本においてはオゾン汚染の問題が再び顕在化している。その要因の定量的理解のためにはモデルの高度化とともに高精度な測定が必要であり、そのためには長期にわたって適切に維持・管理された標準に基づく国内・国際的な観測のネットワーキングが不可欠である。しかしながら、日本においてはオゾンの国家標準とそれを用いたトップダウン的なトレーサビリティシステムが存在しない。そこで本研究では、国立環境研究所 (NIES) が維持している米国標準技術研究所 (NIST) の標準参照光度計 (SRP) 35について、導入後4年間の安定性と、最近行ったアップグレードの結果を示すとともに、SRPに関する各国の動向について報告する。最後に、オゾン標準の確立とネットワーク化が日本のオゾン汚染に関する環境政策に持つ意義を述べる。
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