日本各地で光化学オキシダント注意報が発令された2007年4月下旬から5月末の期間を対象に,化学輸送モデルCMAQを用いてモデルシミュレーションを行い,光化学オゾン (O
3) を中心に,硫酸塩粒子 (nss-SO
42-) などにも着目して,その濃度変化や気象学的な特徴について解析した.
シミュレーションの結果は観測されたオゾン濃度などを概ね再現しており,対象とした期間内には九州北部においてO
3とnss-SO
42- が同時に高濃度となる5つのエピソードが見られた.これらの中から九州地域で典型的な越境汚染が起こっていると考えられた3つのエピソードに着目してより詳細な解析を行った.これら3つのエピソード時には,いずれも東シナ海南部に高気圧が位置し,高気圧の北部をまわる西から北西の気流に乗って大陸起源の汚染気塊が輸送されていることが明瞭に示され,それはnss-SO
42- の高濃度域の広がりと合致していた.また,後方流跡線解析から,中国大陸上の汚染気塊がおよそ2日かけて九州北部へと輸送されたことが示された.
中国起源の一次汚染質排出による越境汚染の寄与を見積もるため,中国国内の一次汚染質の排出量をゼロとした感度解析も行った.中国起源のnss-SO
42- とO
3には高い相関があり,直線回帰の傾きは気象条件により異なるが0.8~1.3 (ppbv_O
3) / (μg/m
3_ nss-SO
42-) を取り,nss-SO
42- = 20 μg/m
3に対する中国起源の汚染質に起因するO
3は16~26 ppbvであることが示された.全球モデルで与えているO
3の西側境界濃度レベルの50 ppbvを勘案すると, 今回着目した3つのエピソード時のオゾン濃度に対する中国起源のO
3前駆物質の寄与率は東アジア起源の約30~50 % に達し,高濃度オゾンエピソードにはアジア大陸を起源とする越境汚染が強く影響していることが示された.
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