大気環境学会誌
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46 巻, 1 号
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あおぞら
原著
  • 島田 幸治郎, 高見 昭憲, 加藤 俊吾, 梶井 克純, 畠山 史郎
    2011 年 46 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/07/01
    ジャーナル フリー
    東アジアから東シナ海に長距離輸送される炭素質エアロゾルについて季節変化を調べ発生源及び起源推定を行った。EC、OC、PM2.5重量濃度、O3 、COは沖縄県辺戸岬に設置されている国立環境研究所大気エアロゾル観測ステーションにて2004年から2008年まで観測を行った。EC(0.14 - 0.19 μg C/m3)、OC(0.62 - 0.82 μg C/m3)、PM2.5(14.8 - 19.9 μg/m3)、O3(43 - 55 ppbv)、CO(183 - 221 ppbv) 濃度は春季、冬季に高く、一方でEC(0.03 - 0.08 μg C/m3)、OC(0.28 - 0.44 μg C/m3)、PM2.5(9.85 - 14.8 μg/m3)、O3(14 - 23 ppbv)、CO(68 - 93 ppbv) 濃度は夏季に低い挙動を示していた。冬季には主に北西季節風、春季には移動性高気圧と寒冷前線によってアジア大陸から大気汚染物質が輸送される一方で、夏季は太平洋からの清浄な空気が辺戸岬に輸送された。後方流跡線で発生源判別したEC、OC濃度とエミッションデータの結果から、中国から輸送される炭素質エアロゾル濃度の寄与が高いことが考えられる。
    次に炭素質エアロゾルのOC/EC比から起源推定を行った。OC/EC比は(5.7 - 8.0)春季、冬季に低く、一方でOC/EC比は(10.2 - 18.9)夏季に高い値を示した。このOC/EC比の季節変動は各成分濃度の季節変動と次のように説明できる。アジア大陸から輸送された炭素質エアロゾルは化石燃料燃焼起源の影響が強く、また、光化学酸化反応の影響が示唆される。さらに、後方流跡線で発生源判別したOCとEC関係とエミッションデータから算出したOC/EC比の結果から、中国国内でも炭素質エアロゾルを構成する物質の燃焼起源は異なっていることが考えられる。また、日本、韓国起源の汚染気塊においてはVOCからOCへの光化学酸化反応の影響が大きく、OCの割合が増加していた事が考えられる。
  • 緒方 裕子, 張 代洲, 山田 丸, 當房 豊
    2011 年 46 巻 1 号 p. 10-19
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/07/01
    ジャーナル フリー
    2005年3月18日に西日本を中心に広範囲で黄砂が観測された。この同一ダストイベント時に、鹿児島県奄美大島と熊本県天草の2地点で採取した大気エアロゾル粒子を走査電子顕微鏡とEDXを用いて個別粒子分析を行い、各地点における黄砂粒子の元素組成を比較した。
    奄美と天草の粒子採取時刻に多少の差はあったが、同一ダストイベント時に採取した粒子において、鉱物元素の割合、粒径、海塩粒子との内部混合状態、酸性物質との反応によるCl損失の程度、などについて異なっていた。Fe, Kの相対重量比の割合が高い粒子が、奄美で67%、15%、天草で32%、8%であり、奄美で採取した粒子は天草の粒子よりもFe, Kの割合が高かった。分析した粒子は、天草よりも奄美において1~2μm程度の粒子が多く、これはFeの割合が高い粒子の違いと関連していた。奄美と天草の両地点において、黄砂粒子と海塩粒子の内部混合とClの損失が確認され、Clの損失は天草よりも奄美において著しかった。このような相違は、同一ダストイベント時においても粒子の発生源が異なっていたことが原因だと思われる。本研究において、黄砂粒子の発生源や輸送経路、大気中での反応過程などの違いにより、同一ダストイベント時においても粒子採取場所により粒子の性質が異なっていたことが明らかになった。
  • -濃度レベルの把握と発生要因の検討-
    片山 裕規, 後藤 知子, 亀田 貴之, 唐 寧, 松木 篤, 鳥羽 陽, 早川 和一
    2011 年 46 巻 1 号 p. 20-29
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/07/01
    ジャーナル フリー
    本研究では,日本および近年大気汚染の著しい中国における大気中多環芳香族炭化水素(PAH)キノン濃度レベルを把握すること,さらに大気内動態を解明するための基礎的なデータを得ることを目的とし,PAHキノンの一種である1,2-benzanthraquinone(benz[a]anthracene-7,12-dione; BAQ)の実大気中観測,ならびに光やオゾンによるPAHの酸化反応によるBAQの生成を実験的に検討した。北京,大阪,輪島における実大気粒子中BAQ濃度を測定したところ,最も高かった北京・冬の濃度は,輪島・冬の濃度の約200倍高い値を示した。またBAQ/benzo[k]fluoranthene(BkF)濃度比を比較したところ,いずれの地点においても夏季のほうが冬季よりも低いという結果を得た。夏季には強い太陽光強度の影響により,BAQの光分解がBkFの光分解以上に促進され,BAQ/BkF比が小さくなったものと考えられた。北京で大規模な黄砂が観測された時期においては,黄砂のほとんど観測されなかった春季よりもBAQ/BkF比は高い値となった。室内反応実験により,中国砂漠土壌粒子表面に担持させたBaAからのBAQ生成を,光照射およびオゾンとの反応によって調べたところ,参照とするグラファイト粒子,およびテフロン粒子よりも土壌粒子表面において反応が促進される傾向があることがわかった。このことから,黄砂期にBAQ/BkF比が高くなる理由の一つとして,黄砂表面上におけるBAQの二次生成が示唆された。
  • 菅田 誠治, 大原 利眞, 黒川 純一, 早崎 将光
    2011 年 46 巻 1 号 p. 49-59
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/07/01
    ジャーナル フリー
    大気汚染予測システムVENUSを開発した。VENUSは、二酸化窒素と光化学オキシダントの濃度を自動的に計算し、毎朝、翌日までの濃度分布をウェブ上で公開するシステムであり、気象モデルRAMSと大気質モデルCMAQの統合により計算が行われている。
    VENUSの光化学オキシダントの予報精度を検証した。2009年5月の日本における広域高濃度事例において、全国的濃度分布や各都府県での濃度時間変化の予報性を調べたところ、定量的には限定的ではあるが、高濃度分布の広がりやその移動を概ね予報出来ていた。また、同年5月と8月に、各都府県において、光化学オキシダントの平均時間値および日上位5%値のそれぞれについて観測との相関係数等を調べた。その結果、特に日上位5%値については、かなり高い相関係数を示し、また、バイアスやエラーも大きくなかった。
     以上の検証により、VENUSが、光化学オキシダントの高濃度状態を、的確に予報できることが示された。
ノート
  • Kim YongSuk, 渡辺 誠, 伊森 允一, 笹 賀一郎, 高木 健太郎, 波多野 隆介, 小池 孝良
    2011 年 46 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/07/01
    ジャーナル フリー
    高濃度CO2環境が森林土壌への温室効果ガスであるメタン(CH4)の吸収に与える影響を調べるために、開放系大気CO2増加(FACE; Free Air CO2 Enrichment)システムを利用して調査を行った。北海道大学札幌研究林実験苗畑のFACE試験地にFACE区(Elevated CO2: 大気+130 ppmv)と対照区(Ambient CO2: 370 ppmv)を3つずつ設置し、各プロットに2種類の土壌(褐色森林土/火山灰土壌)を設定した。CH4フラックスは2008年と2009年の植物生育期間に各プロットの1個所で1年に4回ずつ閉鎖系チェンバー法を用いて測定した。CH4濃度はガスクロマトグラフ(GC-8A及びGC-14B、島津、京都)で分析した。測定期間中、土壌へのCH4吸収量は対照区に比べてFACE区で約半分に減少したが、土壌タイプの間には有意的な差は見られなかった。対照区ではCH4は全測定地点で土壌に吸収されていたが、FACE区ではCH4が発生している地点が観察された。
技術調査報告
  • 増井 嘉彦, 弓場 彬江, 定永 靖宗, 高見 昭憲, 竹中 規訓, 坂東 博
    2011 年 46 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/07/01
    ジャーナル フリー
    我々は、2008年3月~2009年4月の期間に、独立行政法人・国立環境研究所 辺戸岬 大気・エアロゾル観測ステーション(CHAAMS)にてデニューダー法による大気中ガス状硝酸 (HNO3(g))の観測を行なった。その際、デニューダーの捕集効率が実験的に得た値(~100%)に比べて実大気測定では20%程度低くなることが明らかになった。本研究では、海洋大気での長時間サンプリングにおいて捕集効率が減少する原因について調べた。まず、サンプリング中に一旦デニューダーに捕集された硝酸の一部が脱離・揮発し、後段のデニューダーへ移動する可能性を実験的に検討した。その結果、捕集された硝酸が脱離・揮発していることが見出された。しかしながら、捕集効率を平均3%程度下げるのに留まるため、得られた硝酸移動量では、実大気測定での捕集効率の低下を十分に説明できないことが明らかになった。一方、CHAAMSでの観測データを基に捕集効率が減少する要因について解析を行った。その結果、海塩粒子が捕集効率の減少にかかわる可能性が考えられた。その具体的なメカニズムについて検証するために、東アジア酸性雨モニタリングネットワークによるフィルターパック法を用いて測定されたHNO3(g)濃度との相互比較を行った。その結果、デニューダー・フィルターパック法では HNO3(g)濃度を過大評価している可能性が考えられた。このことは捕集効率減少のメカニズムが、粒子状硝酸 (NO3-(p))のデニューダー内壁への付着である可能性を支持していると考えられる。
速報
  • 栗田 惠子, 青木 一幸
    2011 年 46 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/07/01
    ジャーナル フリー
    新しい除湿器を開発した。この除湿器の特徴はコアとシースから成る層流の同軸流を用いる事にある。試料空気は、中心のコアの部分を形成しており、その周りを乾燥したシース空気が取り囲んでいる。試料空気が拡散区間を通過するときに、中心のコアの部分から水の分子がシース空気の方に拡散する。拡散区間が終わった所で、除湿された中心部の空気が取り出され、SPM測定器に導かれる。
    この除湿器の性能は次の通りであった。
    湿度の出口/入口比は、0.16(試料空気流量:1L/min)、0.29(試料空気流量:2L/min)であった。この条件での粒子の損失は、3%以下であった。
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