大気環境学会誌
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47 巻, 4 号
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あおぞら
総説
原著
  • 渡邉 善之, 渡邊 明
    2012 年 47 巻 4 号 p. 145-154
    発行日: 2012/07/10
    公開日: 2012/10/23
    ジャーナル フリー
    福島県はオゾンの前駆物質であるNOXやNMHCの環境中の濃度が全国平均よりも低いが,2006年8月4日,福島県海岸域のいわき市で120ppbを超過する高濃度オゾンが出現した。この原因を明らかにするため,福島県と周辺都県の大気常時監視測定結果及び気象観測所の測定結果を解析した。その結果,以下の気象学的要因により福島県いわき市等海岸域においてオゾンが高濃度になったものと考えられる。1)本州が広く高気圧に覆われることにより,安定層が形成され,オゾンの鉛直拡散を抑制する。2)中部山岳地帯等に熱的低気圧を形成することにより,関東圏から福島県海岸域沖にかけて南から西系の風系が卓越する。この風系により関東圏から福島県海岸域沖にオゾンが長距離輸送される。3) 高気圧圏における緩い傾圧場において,福島県海岸域に海風循環が形成される。そして,福島県海岸域沖に輸送されたオゾンは,この海風により福島県海岸域内陸部に輸送される。4)日射による鉛直混合や海風循環により,地上から上空に輸送されたオゾンは,夜間,混合層上部に地上より高濃度で存在する。5)次の日の日中,関東圏から輸送されたオゾンに混合層上部から供給されたオゾンが加わることにより,福島県海岸域において,オゾンが前日よりさらに高濃度となる。
  • 近藤 美則, 加藤 秀樹
    2012 年 47 巻 4 号 p. 155-161
    発行日: 2012/07/10
    公開日: 2012/10/23
    ジャーナル フリー
    車両利用中のアイドリングストップ(IDST)により、新長期規制対応車と昭和53年規制車とで燃料消費、汚染物質排出がどの程度異なるかを平均速度の異なる走行モードを使ったシャシーダイナモ試験により調査した。その結果、いずれの車両も燃費改善効果がある、COは規制値を超える可能性がある、NOxは変化が小さいもしくは減少する、HCの排出は増えるが規制値より少ない、ことを確認した。つぎに、アイドリング比率の異なる走行への影響を検討し、規制年に関わらず、約9km/hでの20数%から約29km/hの2%余までの燃費改善効果、汚染物質のCOとHCでは、低速域で排出が増加する一方、NOxは低速域で排出が減少することを明らかにした。さらに、非IDST車の運転者に対して、渋滞がひどく平均速度が10km/hに満たない場合にはIDSTを実施すべきではなく、10数km/h超で安全面を配慮する場合には実施してもよいと提案した。一方、自動IDST車両は、公定試験モード以外でも燃費向上と排出ガス削減をほぼ達成することを確認し、この種の車両が増える現状は望ましいと評価した。手動でIDSTを実施した車の方が排気が清浄な同車格の車両が存在するほど同一規制対応でも車両差は存在し、実際の環境改善には、このような情報を消費者の車両選択に提供することが必要と指摘した。なお、本結果は、各排出ガス規制対応としては1台もしくは2台程度の車両による試験であり、多くの車両での確認が今後の課題である。
  • 弓本 桂也, 鵜野 伊津志
    2012 年 47 巻 4 号 p. 162-172
    発行日: 2012/07/10
    公開日: 2012/10/23
    ジャーナル フリー
    中国における一酸化炭素(CO)排出量に対して、グリーン関数法を応用した排出量逆推定を2005 - 2010年の6年間にわたって行った。拘束条件にはMOPITT衛星センサーで観測されたCOの鉛直プロファイルを、感度計算には全球化学輸送モデルGEOS-Chemのタグ付きシミュレーションを利用した。得られた排出量に対して、逆推定に用いていない独立な地上観測データを用いた検証を行った。逆推定結果は冬・春季に見られた過小評価や相関係数などの各種統計値を改善し、得られた排出量が妥当であることを確認した。逆推定結果を用いたモデル結果は、MOPITTによって観測されたCOの季節変動をよく再現した。特に、逆推定前は過小であった冬・春季における中国から東シナ海・日本列島への移流、春~秋季における中国中東部の高濃度COの再現性を大幅に改善した。逆推定によって得られた中国におけるCO排出量は冬~春季で最大、夏季に最小となるダイナミックな季節変動を見せた。春季は夏季に比べ50 %以上も排出量が増加した。この季節変動の傾向は、他研究による推定量とも一致した。中国CO排出量は2005年よりそれぞれ、164.5、171.5、180.8、160.3、152.5、156.1 Tg/yearと逆推定された。2005 - 2007年と増加し、2007年をピークに2年連続で減少し、2010年は増加に転じた。これは北京オリンピックによる排ガス規制や世界的景気後退の影響を受けたためだと考えられる。本研究で得られた排出量は、先行研究で得られた推定量とも4 %以内の差で一致した。
ノート
  • 松隈 大亮, 板橋 秀一, 鵜野 伊津志, 若松 伸司
    2012 年 47 巻 4 号 p. 173-178
    発行日: 2012/07/10
    公開日: 2012/10/23
    ジャーナル フリー
     神奈川県北西部に位置する丹沢山地ではブナの衰退が深刻な問題となっている。この一因としてO3が考えられているが、丹沢山地ではO3生成に関わる一次汚染物質であるNOXの排出源、排出量が少ない。このことから、東京湾岸などの都市部で排出された一次汚染物質が光化学反応を起こしながら局地風などの影響により丹沢山地に移流して来ると考えられる。そのため、2007年7、8月を対象期間とし、測定では把握しにくい大気汚染物質の三次元的な濃度分布や動態を見るために領域化学輸送モデルWRF/Chemを用いて再現を行った。また、モデルの気象場の再現結果を使用してFLEXPART-WRFで後方流跡線解析を行い、日中に丹沢山地でO3濃度を高くした気塊の移流経路を示した。その結果、日中に丹沢山地でO3濃度が高くなる場合は、陸風により東京湾岸などの都市部から排出された一次汚染物質が相模湾に流入した後、日中に光化学反応を起こしてO3濃度の高くなった気塊が海風の影響を受けて丹沢山地の南~東南東側から移流して来ていた。また、海風には関東地域を覆うような大規模な海風と小規模な相模湾からの海風が見られ、前者の場合には丹沢山地の南方から、後者の場合には丹沢山地の南東方向から移流する傾向が見られた。
技術調査報告
  •  -個人曝露量と定点観測データとの関係-
    中井 里史, 田村 憲治
    2012 年 47 巻 4 号 p. 179-185
    発行日: 2012/07/10
    公開日: 2012/10/23
    ジャーナル フリー
    微小粒子状物質による健康影響調査を実施、また妥当ならしめるためには、PM2.5の曝露評価が重要であることは言うまでもない。常時監視測定局に代表される定点でのPM2.5濃度と個人曝露量の関係を調べることを目的とするとともに、一般住民を対象とした個人曝露測定が実施可能であるかを調べるための予備調査を実施した。定点測定とあわせて、個人曝露測定用のサンプラーを学生ボランティアに装着してもらった。個人曝露量と定点濃度の変動傾向等が比較的よく一致しており、定点濃度が個人曝露量を代表している可能性が示唆された。また上記個人曝露測定用サンプラーを利用して、さまざまな対象者での個人曝露量調査が実施可能であることが示唆された。なお、個人曝露量測定に加えて、個人曝露量代替指標としての家屋内外濃度測定も実施したが、本研究では個人曝露量と家屋内外濃度の間にさほど強い関係は認められなかった。
  • 河野 吉久, 米倉 哲志
    2012 年 47 巻 4 号 p. 186-193
    発行日: 2012/07/10
    公開日: 2012/10/23
    ジャーナル フリー
    オゾンの植物影響評価および温暖化影響への適用も考慮した可搬型の小型オープントップチャンバー(小型OTC)を市販の既成品を組合せ、できるだけ安価に作製できるようにした。当初、粒状活性炭を充填した浄化空気(CF)区と、活性炭を充填しない非浄化(NF)空気区を設け、両区の風量が一定となるように調節して試験栽培を行った。その結果、NF区よりもCF区の送風ファンに負荷がかかることによりCF区の送気温が上昇し、長期間の試験を行うと温度差の影響が出ることが明らかとなった。このため、ベース素材・構造が同一のハニカムフィルターを採用することにより送風ファンに対する負荷を均等にでき、温度差の影響を解消できた。さらに、フィルターのオゾン除去効率を検討した結果、フィルターのオゾン除去能は維持されていることが確認できた。また、シリコンベルトヒーターを使用することで風量の影響を受けずに温度勾配を設けることができ、温暖化影響を評価する試験に活用もできることも確認できた。本システムの基本構成はCF、NF区用に各3基を用いることとしている。このため、電源の供給が可能であれば、本システムを利用することによって比較的狭い空間でもチャンバー反復を考慮した複数の組み合わせ試験が実施できると考える。
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