丹沢山地ではブナの衰退が進み、その原因の一つとしてO
3が影響していると考えられている。しかし、モデルを用いた立体的な解析は行なわれてこなかったため、本研究では、オゾンゾンデ観測結果と数値モデル(気象モデルと大気質モデル)を用いて、丹沢山地とその周辺のO
3の挙動を解析した。丹沢山地内の谷間で発生する気流は気象モデルでは再現されないが、O
3濃度の水平方向の変化スケールが十数kmであるため、大気質モデルによるO
3濃度の推定は妥当であると考えられた。モデルの格子間隔を15 km(本州域)と5 km(関東域)にした場合の地上O
3濃度は、丹沢山地(犬越路局)とその周辺の測定局においては大きな差は認められなかった。犬越路局でのO
3濃度の日変化が小さい、つまり日中にO
3濃度が上がらず、夜間に濃度が下がらない特徴があった。日中にO
3濃度が上がらない理由として、1化学反応によるO
3生成が座間に比べ犬越路局で小さく、2乾性沈着によるO
3濃度の減少が座間に比べ犬越路局で大きいためであったと解釈される。夜間にO
3濃度が下がらない理由として、夕方、海上の低いO
3濃度の進入(移流)が座間に比べ犬越路局では十分でないため、O
3濃度は低下しなかったと解釈される。オゾンゾンデ観測や大気質モデル結果より、ABL(大気境界層)内ではO
3濃度は高さと共に増加するか、または一定の分布を示し、ABLより上層の自由大気ではO
3濃度は急速に低下しバックグランド濃度(50 ppb)近くなった。数値モデルは、丹沢山地でのO
3濃度のモニタリングを補完することが可能であることが示唆され、数値モデルの有効性が示された。
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