大気中の微小粒子 (PM
2.5) は様々な起源をもつ複雑な混合物であり、炭素成分(元素状炭素:EC、有機炭素:OC)はその主要成分である。一般に、PM
2.5中の炭素成分の分析は、試料をフィルター上に捕集した後、熱分離・光学補正式炭素分析法により行われる。炭素分析計のキャリヤーガスには通常ヘリウム (He) が用いられるが、Heは供給がしばしば不安定になる事態が生じている。本研究では炭素分析におけるキャリヤーガスをHeから窒素 (N
2) に変更可能かを検討した。大気粒子と燃焼発生粒子のフィルター試料18種とフィルター上に載せた粉体標準試料2種(都市大気粒子SRM1649bとディーゼル排気粒子SRM1650b)を対象に、キャリヤーガスがHeの場合とN
2の場合とで炭素分析を行い、ピーク強度や形状、定量結果等を比較した。その結果、フィルター試料の場合、キャリヤーガスをN
2に変更すると、通常の直線検量線を用いた場合には低濃度域(10 μgC以下)で全炭素 (TC) 濃度とEC/TC比がHeの場合に比べ20%以上低くなる試料があった。しかし、Heキャリヤーでの測定値とおおむね一致する4次曲線の検量線を用いて低濃度試料を定量すると、TC濃度は全試料でHeキャリヤーの場合と±20%以内で一致し、EC/TC比は18試料中16試料でHeキャリヤーの場合と±20%以内で一致した。粉体標準試料の場合、TC濃度とEC/TC比はHeキャリヤーの場合と±6%以内で一致した。このように、低濃度試料については注意が必要であるものの、キャリヤーガスをN
2に変更しても、Heキャリヤーの場合とTC濃度とEC/TC比についてはおおむね同等の測定結果が得られることが確認された。
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