本稿では移動発生源および固定発生源の燃焼起源エアロゾルの測定結果を紹介し、そこから得られた含蓄と今後の課題を述べる。移動発生源に関してはディーゼル車排気の影響が大きいと考えられる交差点の大気中個数濃度等を長期的に測定しデータを解析した。PM2.5等の質量濃度の減少傾向はディーゼル貨物車のPM2.5排出量推計の結果から自動車排気規制の効果と結論づける事ができたが、粒径50 nm以下のナノ粒子を含む個数濃度としては、ほぼ横ばいで減少していなかった。環境側との複合的な要因も示唆された。また個数粒径分布の空間分布を測定し、個数濃度は幹線道路から離れると急激に減少していた。これは希釈効果と相まって蒸発効果もあり、粒径、季節によって空間的な分布が異なった。ディーゼル車起源のナノ粒子としては寿命が短く道路近傍に限定された問題と推察された。今後はディーゼル一次粒子が低減するため、課題としては直噴ガソリン車からのスス粒子の排出、排気由来の二次有機エアロゾル(SOA)生成、非燃焼起源等の遷移金属の粒子発生が考えられる。
一方、固定発生源については半揮発性物質等を主体とした凝縮性ダストについて述べた。凝縮性ダストはPM2.5の未把握の発生源、SOAの前駆物質として重要である。凝縮性ダストは温度や共存する粒子状物質濃度などの捕集条件によって粒子態等としての排出係数が変化する問題がある。そこで測定条件に依存しない揮発性分布を凝縮性ダストの排出係数として表現した。凝縮性ダストの課題としては凝縮性ダストの測定法を確立した上で、様々な排出セクタでの測定や大気への排出量推計を行い、より精緻なPM2.5の大気中濃度の予測等に貢献していく必要がある。
PM2.5は、二次生成粒子である硫酸アンモニウムなどの水溶性成分含量の多いことが知られている。そこで、硫酸アンモニウムがマスト細胞株C57細胞の脱顆粒に及ぼす影響を検討した。その結果、硫酸アンモニウムは、初期反応濃度が1 mMのとき、有意にC57細胞の脱顆粒を引き起こすことが明らかとなった。さらに塩化アンモニウムおよび硫酸ナトリウムの実験から硫酸アンモニウム中、C57細胞の脱顆粒を引き起こすのに寄与したイオンは、アンモニウムイオンであることが明らかとなった。また、硫酸アンモニウムの初期反応濃度が1 mMのとき、C57細胞の刺激剤 (thapsigargin) による脱顆粒を有意に増強することが認められた。塩化アンモニウムと硫酸ナトリウムの混合液、およびそれらの単独実験等から硫酸アンモニウム中、C57細胞の刺激剤による脱顆粒を有意に増強したのはアンモニウムイオンであることが明らかとなった。
本研究により、アンモニウムイオンが多量に存在するPM2.5を吸引したとき、マスト細胞に影響を及ぼす可能性が示唆され、大気汚染物質としてのアンモニウムイオンに着目する必要性が示唆された。
地熱発電所の環境アセスメントにて実施される硫化水素の大気拡散予測評価の期間短縮および費用削減を目的として、従来行われている風洞実験の代替として用いることのできる3次元数値モデルを開発した。
地熱発電所の冷却塔から放出される硫化水素の大気拡散評価を行うためには、冷却塔からの排気上昇過程、周辺建屋による拡散への影響、周囲の地形による拡散への影響を的確に再現できる必要がある。そのため、これらの現象を高精度に再現可能と期待されるラージ・エディ・シミュレーション (LES) をベースとした数値モデル構築を行い、さらに、LESに適した格子生成プログラムを開発した。
また、開発した数値モデルの予測精度検証のため、実際の地熱発電所を想定した風洞実験を行った。風洞実験との比較の結果、開発した数値モデルは風洞実験で得られた地表濃度の傾向を精度よくとらえられており、環境アセスメントで重要となる最大着地濃度に関しては、すべてのケースで風洞実験結果の0.5~2.0倍以内に収まる結果となった。これらの結果から、開発した数値モデルは地熱発電所環境アセスメントの硫化水素拡散予測に十分適用可能であると結論づけられた。
大気中微小粒子の挙動調査を目的として、一般大気環境下において2014年から2015年の各四季においてPM0.1とPM2.5の粒径別大気捕集を昼夜別に行い、炭素成分と金属成分の分析を行った。気象データを考慮した日挙動の濃度変化の結果から、PM0.1とPM2.5に含まれる各成分はともに風向や日照の影響を受け、粒子濃度や成分濃度は捕集地点周辺の局地発生源や気象の影響により変化することが確認された。PM0.1とPM2.5の粒子径比率により、一年を通して大きな発生源寄与を一定の割合で受ける成分と、様々な発生源寄与を受けるために季節によって異なる比率を示す成分とが存在した。また、粒子生成における光化学反応の寄与はPM0.1に大きく、粒子生成および成長における凝縮作用の寄与はPM2.5に大きいことが示唆された。スピアマンの順位相関係数をとったころ、夏季のように光化学反応が顕著な条件での粒子生成では、有機炭素成分自身が自己凝縮を起こして粒子化している可能性が示唆された。これに対し、気温や混合層高度の低下に伴う凝縮や凝集といった作用が起こりやすい冬季においては、大気中に存在する金属成分を核として有機炭素成分が粒子生成や粒子成長を起こしている可能性が示唆され、全ての季節の夜間においても同様の傾向が見られた。
野外焼却の実態とPM2.5濃度への影響を明らかにするため、本研究ではいくつかの解析を行った。埼玉県内の自治体における野外焼却に関する苦情やパトロール結果の記録件数を集計したところ、秋季に高くなる傾向がみられた。2011年10月から2014年9月に加須で短期基準 (日平均値35 μg/m3) を超えた日数を月ごとに集計すると、秋季から冬季にかけて多かった。このなかでPM2.5が顕著に高濃度となった4事例について成分分析結果を比較した結果、主要成分ではいずれもOCとNO3-が高く、また、バイオマス燃焼や廃棄物焼却の影響が示唆された。一方、PM2.5高濃度と気象要素の関連性を調べた結果、弱風や高湿度、大気安定といった気象条件が影響していることが示唆された。また、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) への投稿において“野焼き”というキーワードの検索でヒットした件数が、休日や降水前日・当日に上昇するケースが多くみられ、その前後にPM2.5も上昇しているケースがみられた。これは、農作業の状況、河川敷や山などでの草焼きの実施と関連していると考えられた。こうした秋季・冬季にPM2.5が高濃度になりうる条件についてスコア化し、短期基準超過日に適用してPM2.5日平均値と比較したところ、おおむね正比例する傾向がみられた。