大気環境学会誌
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53 巻, 4 号
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あおぞら
研究論文(ノート)
  • 吉岡 実里, 櫻井 達也
    2018 年 53 巻 4 号 p. 111-119
    発行日: 2018/07/10
    公開日: 2018/09/12
    ジャーナル フリー

    2010年夏季に着目し、夏季におけるO3高濃度化メカニズムを考察した。200 ppb以上のO3が測定された7月21日から7月24日までの測定値分布を確認したところ、21日は、東京都から神奈川県の東部に多く高濃度地点が出現しており、その中心に位置する7地点において160 ppb以上のO3濃度が測定された。23~24日の濃度分布は21日とは異なり、東京湾を囲む沿岸域において160 ppb以上のO3濃度が多く測定された。21日については、風況解析より、東京以南において前駆物質が滞留したことで、O3は比較的狭い範囲において多く生成され、結果として神奈川県及び東京都の東部に集中して160 ppbを超える濃度が生じたものと考えた。23~24日については、大気質モデルにおいて、西日本で生成されたO3が海域を通じて関東南部に輸送される現象が計算されたため、それによって東京湾沿岸域で高濃度が生じたものと考えた。大気質モデルの再現性に着目した場合、モデル計算値は観測値の日内変動を計算したものの、日中の高濃度は過小評価する傾向を示した。同過小評価の理由として、O3濃度分布に対する鉛直拡散の過大評価、ならびに海域から沿岸域に流入したO3輸送量の過小評価が示唆された。

研究論文(原著論文)
  • 吉門 洋
    2018 年 53 巻 4 号 p. 120-129
    発行日: 2018/07/10
    公開日: 2018/09/12
    ジャーナル フリー

    微小粒子状物質PM2.5が日環境基準値を超過する事例は季節によらず発生してきたが、春や晩秋・初冬の事例の典型的な発生機構は解明が進んでいるのに対して、夏の高濃度発生機構は事例解析にとどまり総括的な解明が十分にはなされていない。本稿では2010年度以降に急速に拡充されてきた常時監視局のPM2.5時間値データを利用し、関東首都圏を中心に中部および西日本の主要都市圏も併せ都府県規模で濃度挙動を解析した。光化学オキシダントOxの挙動にも注目した。東京では2010~2015年の7~8月中に、大多数の局でPM2.5環境基準超過が2~6日連続する高濃度事象が6回発生した。それらは海風系が発達する好天日で、しかも気圧傾度が地衡風にしておおむね西風5 m/s以下の静穏な期間が集中することを契機としていた。同様の静穏条件であっても、地衡風が南風傾向のときは高濃度事象は不発であり、後方流跡線の観点では前者が西日本を経由して関東に達するのに対して後者は関東の東方から南に回り込んで到達していた。このような事象の発生条件は総観規模の気圧配置によるもので、関東のみに閉じたものではなく、中部日本やさらに西日本にもかなりの程度共通している可能性がある。

研究論文(ノート)
  • 長田 和雄, 山神 真紀子, 池盛 文数, 久恒 邦裕, 中島 寛則, 三輪 篤, 藪谷 翔輝
    2018 年 53 巻 4 号 p. 130-135
    発行日: 2018/07/10
    公開日: 2018/09/12
    ジャーナル フリー

    大気中のガス状NH3と粒子状NH4濃度について、名古屋大学構内で20日間程度の連続観測を2011年11月から2016年1月にかけて7回行った。この中で、降雨後に湿度が低下すると同時にNH3濃度が高くなる現象がごくまれに観測された。本研究では、ピーク濃度が680 nmol/m3に達した2015年12月11日の短時間急増イベントについて、気象要素や雨水のイオン成分との関係も含めて、急増をもたらした要因を考察した。12月11日の雨水のイオン成分としては、海塩成分濃度やCa2+濃度が高く、pHは5.6程度であった。このため、水分の蒸発により雨水中のNH4が揮発可能な条件であった。同時に、12月10日夜から11日朝にかけての暖気の流入により、建物の外側の壁面などに露が形成される気象条件であった。しかも、露が形成される際に大気中NH3濃度が高かったので、高NH4濃度の露が形成されていたと考えられる。降雨後の湿度低下に伴う水分の蒸発時に、これらの雨水や露からNH3が揮発したために、大気中NH3濃度が急上昇したと考えられる。

  • 坂本 泰一, 中原 聡仁, 高橋 章, 反町 篤行, 堅田 元喜, 松田 和秀
    2018 年 53 巻 4 号 p. 136-143
    発行日: 2018/07/10
    公開日: 2018/09/12
    ジャーナル フリー

    アジア地域における反応性窒素の乾性沈着量推計の精度向上のため、当該地域で特に知見の少ない森林沈着面への粒子状およびガス状硝酸成分の沈着速度の直接測定を実施した。緩和渦集積 (REA) 法の捕集部にデニューダ法を導入し、PM2.5窒素成分をアーティファクトの影響なく測定でき、かつ、PM2.5中のSO42-およびNO3、並びにHNO3ガスの同時フラックス測定が可能なシステムを構築し、沈着速度の測定精度を向上させた。2016年10月14日から12月14日にかけて、東京郊外の森林において観測を実施した。観測期間中の沈着速度の代表値は、SO42-は0.80 cm/s、NO3は1.4 cm/s、HNO3は1.9 cm/sと推計された。沈着速度および林上から林内への濃度減衰率から、NO3およびHNO3の両成分は、SO42-よりも効率よく森林へ沈着し除去されていることが明らかとなった。樹冠上部では、日射を直接受け温度が上昇した葉面近傍で、NH4NO3がHNO3にガス化して効率よく沈着することにより、SO42-に比べてNO3の沈着速度が大きくなったと考えられた。このような温度上昇がない林内では、NO3に比べHNO3の濃度減衰率が大きく、NH4NO3の揮発が抑制されることによるHNO3の供給低下とHNO3の沈着による除去の両者の影響を受けた結果である可能性が示唆された。

  • 米持 真一, 大河内 博, 廣川 諒祐, 小西 智也, Ki-Ho Lee, Yung-Joo Kim, Senlin Lu
    2018 年 53 巻 4 号 p. 144-152
    発行日: 2018/07/10
    公開日: 2018/09/12
    ジャーナル フリー

    2015年夏季は、関東地域においてPM2.5、光化学オキシダント(Ox)濃度が繰り返し上昇した。我々は、夏季の大気汚染について、地上の測定局だけでなく、上空も含めて評価するため、7月21日~8月20日の31日間にわたり、自由大気に位置する富士山頂にPM2.5シーケンシャルサンプラーを設置し、24時間単位の試料採取を行った。試料中に含まれる金属元素成分を調べ、埼玉県加須における24時間単位のPM2.5試料との比較を行った。

    富士山頂で採取したPM2.5には土壌由来の元素が多く含まれていたが、人為起源元素の濃縮が確認された。ヒ素(As)を石炭燃焼の指標、バナジウム(V)を石油燃焼の指標として、比率As/V比を調べたところ、富士山頂でのみ上昇した期間と、富士山頂と加須で同時に明瞭な上昇が見られた期間があり、夏季の関東地域においても、長距離輸送の影響を受けていたことがわかった。

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