大気環境学会誌
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54 巻, 2 号
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あおぞら
総説
  • 大河内 博
    2019 年 54 巻 2 号 p. 35-42
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/05/10
    ジャーナル フリー

    大気環境学会学術賞に関するこの総説では、筆者がこれまで行ってきた大気観測研究概要を紹介する。大気環境研究を歩み始めたきっかけは酸性雨問題であったが、酸性雨問題は大気圏、生物圏、水圏、土壌圏にかかわる総合科学である。酸性雨研究はすでに終わったと言われているが、筆者は酸性雨に関する研究活動を通じて、気相、固相、水相の大気汚染物質を包括的にとらえること、長期的視野に立って継続すること、水・物質循環の視点から大気圏–生物圏、大気圏–水圏の相互作用をとらえることの重要性を学んだ。ここでは、研究内容を次の5つに分けて述べる。すなわち、(1)自由対流圏大気および山岳大気化学観測、(2)有害大気汚染物質の大気水相への濃縮機構と水相反応、(3)大気中界面活性物質の起源・動態・機能、(4)大気-森林相互作用、(5)大気環境と災害。地球健康管理学を確立する道のりは遠いが、今後も大気観測研究に地道に取り組んでいきたい。

研究論文(技術調査報告)
  • 久保田 智大, 堅田 元喜, 福島 慶太郎, 黒田 久雄
    2019 年 54 巻 2 号 p. 43-54
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/05/10
    ジャーナル フリー

    牛舎などの畜舎から揮散した大気アンモニア (NH3) の乾性沈着は、流域への窒素負荷経路の一つとして重要である。農業や畜産業が盛んな茨城県では、畜舎近傍に林立する樹木へのアンモニウム態窒素 (NH4-N) の沈着量が、畜舎から揮散したNH3の乾性沈着の影響を受けて増大すると考えられるが、その推計はなされていない。本研究では、畜産由来のNH3の近傍樹木への乾性沈着量を評価するために、茨城大学の保有する牛舎内部とその周辺でパッシブ法を用いたNH3濃度の多地点観測と、バルクサンプラーを用いた湿性沈着量およびヒノキへの樹冠通過雨沈着量の通年観測を行った。牛舎内のNH3濃度の年平均値はウシの飼養頭数密度から推定される値よりも小さく、その原因を明らかにするためには畜舎内の環境と管理状況のモニタリングが必要であると考えられた。牛舎から揮散したNH3濃度の空間分布は、風による輸送に加えて樹木や建物群による減衰の影響や、気温、大気湿度などに影響を受ける可能性が示唆された。年間のNH4-Nの樹冠通過雨沈着量の観測値(27.5 kgN/ha/yr)は、国内の遠隔地の森林での観測値を大きく上回り、牛舎から揮散したNH3の乾性沈着の影響が示唆された。NH3濃度とNH4-Nの湿性・樹冠通過雨沈着量の観測結果から推計したNH3の沈着速度は3.4±2.5 cm/sとなり、茨城県の草地での推計値よりも大きく、既往の針葉樹林での文献値の最大値に近かった。

研究論文(ノート)
  • 長田 和雄, 山神 真紀子, 久恒 邦裕, 池盛 文数, 茶谷 聡
    2019 年 54 巻 2 号 p. 55-61
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/05/10
    ジャーナル フリー

    伊勢湾の北部沿岸に近い愛知県名古屋市南区の名古屋市環境科学調査センター(以下NCIES)と、北に30 km離れた愛知県江南市の滝学園(以下Konan)で、PM2.5中の光学的黒色炭素 (OBC) 濃度を1時間ごとに測定した。規則的な風向変化を示し典型的な海陸風の影響を受けたと考えられる2016年8月4~6日に着目して、2地点間のOBC濃度の差と日変化を考察した。NCIESでのOBC濃度は日中に高くなっていたのに対し、Konanでは顕著な日変化が見られなかった。NCIESでのNO濃度は、朝のラッシュアワーを中心に高濃度であった。ポリテトラフルオロエチレン製テープろ紙の時別スポットを金属元素について化学分析したところ、重油燃焼由来粒子の指標元素であるVとNi濃度は日中に濃度が高くなっていた。CMAQを用いたモデルシミュレーションによる発生源解析の結果は、朝に自動車由来、日中に船舶等による重油燃焼由来の濃度の和が日変化を構成し、2地点間のOBC濃度の差も妥当な傾向を示した。名古屋市南部で夏季にOBC濃度が日中に上昇した原因は、主に湾岸部における重油燃焼の影響と考えられる。

研究論文(技術調査報告)
  • 茶谷 聡, Penwadee Cheewaphongphan, 小林 伸治, 田邊 潔, 山地 一代, 高見 昭憲
    2019 年 54 巻 2 号 p. 62-74
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/05/10
    ジャーナル フリー

    従来の業種別、燃料種別に加え、施設種別の情報を有する日本国内大規模固定発生源の新たな大気汚染物質排出インベントリを構築した。そのために、大気汚染物質排出量総合調査(マップ調査)の調査票データを解析し、施設種別、燃料種別の排出係数と、業種別、燃料種別の燃料消費量の施設種割合を導出した。これらを総合エネルギー統計から得られる業種別、燃料種別燃料消費量に乗じることにより、排出量を推計した。導出された排出係数は既往研究と、また、推計された業種別、施設種別の排出量はマップ調査の集計値とほぼ整合していた。都道府県別の排出量の大小関係も集計値と同様であった。ただし、導出された排出係数と施設種割合を経年的に不変的に適用するのは妥当ではなく、排出抑制対策の発展に伴う両者の変化を反映させる必要性が示された。マップ調査の調査票データに含まれていた煙突の情報から、施設種別に3次元大気質シミュレーションで必要となる排出量の鉛直分布も導出した。本研究で推計された排出量を用いて3次元大気質シミュレーションで計算されるPM2.5と日最大O3濃度の年平均値は、従来の排出量を用いた場合に比べて、それぞれ最大1 μg/m3低下、2 ppb上昇する結果となった。

  • 横山 新紀, 山口 高志, 藍川 昌秀, 向井 人史
    2019 年 54 巻 2 号 p. 75-83
    発行日: 2019/03/10
    公開日: 2019/05/10
    ジャーナル フリー

    全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会では、アンモニアガス (NH3 (g)) および粒子状アンモニウム (NH4(p))による窒素沈着を把握するため、NH3 (g) およびNH4(p) 濃度をフィルターパック法で観測している。今回2004~2013年度の10年間のデータを解析し、わが国における大気中NH3 (g) およびNH4(p) 濃度の長期変化について検証した。その結果、NH3 (g) 濃度は各地点で期間を通じておおむねゆるやかな減少が見られたが、NH4(p) 濃度については2005~2007年に西日本で増加する傾向が明らかとなった。NH3発生源の検討も併せて行った結果、全国的なNH3 (g) 濃度の減少は国内のNH3発生量の減少とおおむね一致した。西日本でのNH4(p) 濃度の増加は、国内のNH3発生量の漸減傾向と一致しないことに加え、NH4(p) の主なカウンターイオンであるnss-SO42- (p) の濃度推移と整合的であり、nss-SO42- (p) の前駆体であるSO2の排出量が国内では2000年代は減少してきたこと、一方中国では2005~2007年頃に増加したことを合わせると、大陸からの越境輸送による影響を受けていることが強く示唆された。

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