大気環境学会誌
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55 巻, 5 号
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研究論文(原著論文)
  • 山脇 拓実, 大河内 博, 山本 修司, 山之越 恵理, 島田 幸治郎, 緒方 裕子, 勝見 尚也, 皆巳 幸也, 加藤 俊吾, 三浦 和彦 ...
    2020 年 55 巻 5 号 p. 191-203
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー

    2010年から2018年までの7月と8月に富士山頂(標高3,776 m)で大気および雲水を採取して、27種類の人為起源揮発性有機化合物 (AVOCs) (塩素化炭化水素16種、単環芳香族炭化水素8種、二環芳香族炭化水素3種)と6種類の生物起源揮発性有機化合物を分析した。雲水中VOCs (体積加重平均VOCs濃度:2.07 nM、n=159)の約9割はAVOCsであり、主成分はトルエンであった。これは富士山頂における大気中トルエン濃度が高いことを反映していた。雲水中AVOCs濃度は空気塊が大陸南部から輸送されたときに高く、最低濃度を示した海洋由来時の約1.5倍であった。雲水中トルエン濃度は総無機イオンの低下とともに指数関数的に減少した。雲水中クロロホルム、o-キシレン、リモネン濃度は大気中濃度とヘンリー定数から求めた計算値に比べて実測値は数倍高く、ヘンリー則からの予測値以上に濃縮されていた。疎水性が高いVOCsほど雲水に高濃縮されており、自由対流圏における雲水でもHULIS (フミン様物質)のような界面活性物質がVOCsの高濃縮に関与していることが示唆された。

  • 星 純也, 齊藤 伸治
    2020 年 55 巻 5 号 p. 204-220
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー

    大気中微小粒子状物質 (PM2.5) の日ごとのフィルタ採取を2014年度に通年で実施し、イオン成分、炭素成分及び有機指標成分(レボグルコサン)を測定することで、東京都心部の詳細な日変動データを得た。また、2013–2016年のPM2.5高濃度日に採取したPM2.5試料 (n=26) について全炭素 (TC)、元素状炭素 (EC) の放射性炭素同位体 (14C) の測定を行い、現代炭素比率 (pMC) を得た。得られたTC、ECのpMCと試料中のTC、EC濃度から有機炭素 (OC) のpMCを算出した。測定の結果、レボグルコサンの年間の日平均濃度は夏季に低く秋季から冬季にかけて濃度が上昇する傾向を示した。風向別に解析すると、農業地帯方面からの風向が卓越した日にレボグルコサンの濃度が上昇し、おおむね半径10 km以内には田畑の存在しない都心部においても、OCの起源として秋季から冬季にバイオマス燃焼の影響を強く受けていることが示された。また、得られたレボグルコサン濃度とOC濃度を用いて算出したOC中のバイオマス燃焼の寄与割合と、TC、ECのpMCから算出したOCのpMCを比較しPM2.5を構成するOCの起源の推定を行った。レボグルコサン濃度から推計したOC中のバイオマス燃焼の寄与は、秋季–冬季には平均で13–31%となり、夏季には2.6–6.2%となった。一方、OCのpMCは56 (春季)、61 (夏季)、64 (秋季–冬季)と季節による大きな変化は見られなかった。これらの結果から都市部のOCの起源として通年で生物起源の影響が大きいと考えられる。また、レボグルコサンの発生源データから推計したバイオマス燃焼起源のOCと比較することで、OC中の生物起源炭素の発生源として秋季–冬季ではバイオマス燃焼、春季–夏季ではバイオマス燃焼以外の生物起源が相対的に大きく関与していると考えられた。

研究論文(技術調査報告)
  • 弓場 彬江, 箕浦 宏明
    2020 年 55 巻 5 号 p. 221-229
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー

    オゾン(O3)は大気中の酸化剤の一つであるため大気化学反応過程に重要な役割を果たしている。高濃度となった場合、植物や人へ影響が懸念されている。日本およびアジアのO3濃度は増加傾向にあり、都市域だけでなく遠隔地域においてもO3の悪影響が考えられるため、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)および国設酸性雨測定所のうち日本海側に面した利尻、佐渡関岬、隠岐、対馬、五島で測定されたO3濃度(2005–2017年)について、カーブフィッティング法を用いてトレンド成分、季節周期成分、外れ値を抽出した。高濃度の外れ値をO3 outlier、それ以外をO3 normalと定義し、O3 outlierについて排出源と関連した輸送パターン特徴と近傍での生成消失と関連した日内変動の特徴について解析を行った。北方の利尻のO3 outlierでは朝鮮半島を経由する輸送パターンの割合が増加した。日本の西部に位置する隠岐では、O3 normalにおいて中国東北部を経由する輸送パターンが多いが、O3 outlierでは中国中南部および朝鮮半島を経由する輸送パターンの割合が増加した。特に暖候期(4–6月、7–9月)における輸送パターンの変化がO3濃度に対して影響を与える可能性が示された

  • 櫻井 達也, 山谷 柚香, 吉岡 実里, 大森 大悟
    2020 年 55 巻 5 号 p. 230-239
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー

    2018年7月23–24日の期間に実施したオゾンゾンデ観測データ、ならびに常時監視測定局データを交えて、首都圏におけるO3の高濃度化メカニズムを考察した。オゾンゾンデの放球は、神奈川県平塚市に位置する畑地の一端にて計5回実施した。7月23日には、埼玉県熊谷市で日本最高気温である41.1℃が観測された。放球時および上空2,000 mまでのO3濃度が最も高濃度を示したのは、24日14時の放球時における測定値であった。O3濃度の水平分布より、当該期間において首都圏で見られたO3高濃度事象は、日中の濃度上昇が継続したことで上空に高濃度のO3が滞留し、それが24日日中に混合層内に取り込まれたこと、さらには、23日の夜間にO3濃度が下がらなかったため、24日日中は陸域や海域におけるO3のバックグラウンド濃度が通常よりも高かったことに起因するものと考えた。24日14時のオゾンゾンデ観測データでは、O3濃度は放球時から高度が上がるにつれて徐々に上昇した。同時刻、上空300 m程度までは海風が卓越していたため、その範囲では海域から同一の空気塊が流入していたものと考えれば、その高度までのO3濃度の鉛直勾配にはNOタイトレーション効果の関与があったものと考えた。本報で紹介したオゾンゾンデ観測データは、首都圏におけるO3高濃度化メカニズムの理解、ならびに今後の大気質モデルの再現性検証に対して大いに資するものと考えた。

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