大気環境学会誌
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56 巻, 1 号
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総説
  • 梶井 克純
    2021 年 56 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2021/01/10
    公開日: 2021/01/09
    ジャーナル フリー

    オゾンの大気中での光化学的生成量を推定するためには、揮発性有機化合物(VOC)や窒素酸化物(NOx)の濃度を精密に測定する必要がある。大気中に存在するVOCは多岐にわたることから網羅的観測は現実的ではなく、OH反応性の計測が有効である。レーザー分光法を駆使したポンプ・プローブ法により大気中のOHの減衰を測定してOH反応性を測定できるシステムを構築した。種々の大気環境でOH反応性および反応性微量成分の同時測定を行い、化学成分分析から導かれるOH反応性とポンプ・プローブ法による直接測定と比較した。人間活動の活発な地域(東京都心、横浜市)郊外地域(八王子、つくば市、京都市)森林(Manitou Colorado、和歌山県有田、多摩丘陵)など多くの地点で観測した結果120種類もの化学成分を測定しても25−50%もの未知反応性が観測された。未知反応性の起源を探索するために外気観測に加えて、単一植物から放出される気体の分析、シャシダイナモによるガソリン自動車の排気ガス分析、スモッグチャンバーによる光化学反応が進行した空気の分析などを進めた。その結果、植物や人為起源の未計測VOCと、大気中で生成する2次的なVOCである可能性が高いことが明らかとなった。

  • 山口 真弘
    2021 年 56 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2021/01/10
    公開日: 2021/01/09
    ジャーナル フリー

    植物は生態系の生産者として人間等の動物の生命を支えている。しかしながら、人間の産業活動によって植物を取り巻く大気環境は著しく変化しており、大気汚染等による植物への悪影響が懸念されている。これまで多くの先生方が、二酸化硫黄や窒素酸化物、酸性雨等の酸性降下物、粉じんや煤じん、光化学オキシダント(Ox)といった大気汚染物質が植物に及ぼす影響に関する研究に取り組み、それらの悪影響を指摘してきた。このような大気汚染から植物を保護するための議論を深めるために、著者は、微小粒子状物質(PM2.5)やOxの主成分であるオゾン(O3)が植物に及ぼす影響に関する実験的研究に取り組んできた。この受賞記念総説では、著者が、多くの先生方のご指導のもとで共同研究者や学生とともに取り組んできた樹木に対するブラックカーボン(BC)粒子や硫酸アンモニウム(AMS)粒子の長期影響に関する実験的研究と、気孔を介した葉の積算O3吸収量に基づいた樹木や農作物に対するO3の影響評価に関する研究を概説する。そして、長崎において取り組んできた越境大気汚染の植物影響評価に関する研究を紹介する。

研究論文(原著論文)
  • 瀧本 浩史, 小野 浩己, 佐藤 歩
    2020 年 56 巻 1 号 p. 9-17
    発行日: 2020/12/24
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    火力発電所建設に係る環境アセスメントにおいて、屋外に設置される貯炭場からの炭じん飛散予測を行う際には、貯炭場内の風速分布を予測することが必要となる。本研究では、貯炭場内風速分布の予測に適用可能な数値流体力学(CFD)モデルを整備し、その妥当性確認を実施した。本モデルはLarge-eddy simulationに基づくもので、幅広い開口率をもつ遮風フェンスの影響を正確に考慮することができる。モデルの妥当性は、2タイプの風洞実験との比較により確認を行った。1つは、準2次元的な遮風フェンスの後流、もう1つは、建屋や貯炭パイルを含む貯炭場内気流場を対象とし、CFDモデルは風速をわずかに過大評価する傾向があるものの、風洞実験結果を精度よく再現できることを確認した。また、風洞実験、および、CFDモデルにより得られた風速を使用して、炭じん飛散量の予測を行い、沈着量の比較を行った。発生源強度は風速に強く依存するため、CFDモデルに基づく手法は、沈着量を過大評価する傾向が見られたが、ほとんどの条件において、月間沈着量が風洞実験に基づく従来手法の0.5–2倍の範囲に収まることを示した。

研究論文(ノート)
  • 吉門 洋
    2020 年 56 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2020/12/24
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    実環境で起きているオゾン高濃度が日々の最高気温等とどのような相関関係にあるかを、モニタリングデータの解析から把握することを考えた。東京・埼玉にわたるオゾン高濃度発生域を対象とし、2001年以降の夏季で前駆物質NOxおよびNMHC環境濃度の変化が小さかった期間を選んで検討した。気温の代表値としては領域中央部の浦和アメダスデータを用いた。まず、年ごとの夏季の気温傾向とオゾン高濃度出現傾向の関係、すなわち夏ごとの日最高オゾン濃度平均値と日最高気温平均値等の相関性を調べると、オゾン生成に対しての気温の寄与よりも晴天日の多寡の寄与に影響されていた。そこで気温自体の寄与に焦点を絞るために、曇天・雨天の日を統計から除外したり、また海風発達日を抽出することにより、日周期の風系発達経過のパターンも絞り込む等の条件整理を行ったうえで、オゾン高濃度の出現挙動を調べた。その結果、天候の影響等を排除した夏季の気温自体とオゾン高濃度の関係は、最高気温33°C以上の相当に高い区間で明瞭となり、近年増加した37°C前後の区間は高濃度に特に強く影響していた。この猛暑領域ではNMHC減少によるオゾン低減も確認できなかった。

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