大気環境学会誌
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56 巻, 5 号
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研究論文(原著論文)
  • 伏見 暁洋, 田邊 潔, 高橋 克行, 高見 昭憲
    2021 年 56 巻 5 号 p. 85-95
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー

    日本では、大気中の微小粒子状物質(PM2.5)の1時間ごとの常時監視は、乾燥状態でフィルターの質量を秤量する標準法(日平均値)との等価性が認められた自動測定機(認証機)を用いて行われている。しかし、1時間値は不自然に大きく変動したり、大きな負値になる等の問題をかかえており、その原因究明や改善が求められている。我々は、仮に標準法で1時間値を測定できた場合に、その値と等価になると思われる非加熱除湿方式の1時間値測定法を開発した。開発機は、市販の非加熱β線吸収方式のPM2.5測定機をベースに、拡散ドライヤー等の非加熱除湿機構を組み込んだものである。除湿方式はドライヤー方式(60分採取、1時間値)、3倍希釈方式(120分採取、2時間値)、事後乾燥方式(40分採取、1時間値)の3種であり、標準法や等価性確認済の自動測定機(対照機)との大気の四季並行測定により、開発機の性能を検証した。開発機は、3種の除湿方式のいずれの場合も、試料空気を乾燥状態にでき、市販の加熱型装置で懸念される、粒子成分の揮発損失は少なく、除湿不足はおきなかった。3種の除湿方式による開発機の測定値は、互いにおおむね一致したが、標準法や対照機による測定値より平均16%程度高かった。これは、標準法では1日採取の間に揮発性成分が損失し、対照機は標準法に合うよう調整されているためと考えられた。ドライヤー方式が1時間値を測定でき、最良と思われるが、3倍希釈方式と事後乾燥方式はサイズやコストの面で有利である。我々の開発機は、PM2.5の1時間値測定の精度検証や向上に貢献し得ると思われる。

  • 杉本 和貴, 奥田 知明, 長谷川 就一, 西田 千春, 原 圭一郎, 林 政彦
    2021 年 56 巻 5 号 p. 96-107
    発行日: 2021/07/28
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー

    大気粒子は呼吸器系の奥まで入り、生体に深刻な影響を与える可能性があると指摘されている。本研究ではサイクロン法を用いて捕集した大気中の微小粒子と粗大粒子を用い、大気粒子の生体影響を評価する化学的手法であるアスコルビン酸アッセイによる酸化能(OPAA: Oxidative Potential)測定を行った。2017年の4季節において、神奈川、埼玉および福岡の3地点で大気粒子を採取し、OPAAの測定、EDXRF(Energy Dispersive X-ray Fluorescence)による元素成分分析、イオンクロマトグラフィーによる水溶性イオン成分分析を行った。その結果、粒子のOPAAと粒子中の複数の遷移金属濃度との間に強い相関が見られ、特にFeとCuとの相関が強かった。そこで溶解度や価数の異なる標準試薬を用いてFeとCuの化学形態とAAの酸化活性の関係を調べた。その結果、不溶性のFe試薬ではAAの酸化を抑制する反応が見られたが、水溶性のFe試薬および不溶性・水溶性のCu試薬ではAAを有意に酸化する反応が見られた。これは酸化還元電位による差だと考えられ、酸化還元電位がFeではAAより低く、Feイオン、Cu、CuイオンはAAより高いのでこのような結果を示したと考えられる。また、Fe・Cu試薬にH2O2を添加したところ、すべての試薬においてOPAAが上昇した。しかし、金属試薬を入れずH2O2単独の場合では、AA消費速度はブランクと差が見られなかった。金属成分とH2O2を同時に入れたことによってOPAAが上昇したことから、Fenton反応によって生じたヒドロキシルラジカルがAAの酸化に寄与していると考えられる。

総説
  • 小池 英子, 青木 康展, 松本 理, 大野 浩一
    2021 年 56 巻 5 号 p. 108-122
    発行日: 2021/08/21
    公開日: 2021/08/21
    ジャーナル フリー

    有害大気汚染物質の健康リスク評価では、有害性評価値の算出が困難であった毒性の科学的知見の蓄積に伴い、それらを勘案した評価の必要性が高まっている。そこで本研究では、有害大気汚染物質の一つであるトリクロロエチレン(TCE)を対象とし、「免疫毒性」に着目した有害性評価のケーススタディを実施した。既往文献をレビューした結果、ヒトおよび実験動物の知見から、TCEは自己免疫や感作性・アレルギー、およびこれらに関わる免疫促進を誘導する可能性が示唆された。一方で、経口や経皮曝露に対し、吸入曝露の実験的研究は限られていたことから、知見の多い経口曝露のデータから曝露量を換算し、吸入曝露による毒性値の算出を試みた。その結果、マウスの自己免疫反応誘導の知見から求めた吸入の最小毒性量は0.16 mg/m3、自己免疫疾患モデルマウスの病態の進展およびラットのアレルギー反応の増悪を含む免疫促進の誘導では0.0057 mg/m3となった。TCEの感作性・アレルギー(過敏症症候群)との関連性は、2018年の大気環境基準の再評価時に不確実係数として考慮され、環境基準は0.13 mg/m3以下に改定されており、その後の科学的知見からも、更なる検討が必要と考えられる。免疫毒性の適切な評価は、健康リスク評価手法の更なる改善において、重要な課題の一つである。

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