大気汚染学会誌
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19 巻, 4 号
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  • 窒素酸化物の生体摂取過程に関する研究第4報
    堀 善夫, 鈴木 伸
    1984 年19 巻4 号 p. 263-270
    発行日: 1984/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    気体大気汚染質が気道部において吸収される過程のモデルを物質輸送理論に基き提示した。総括物質輸送定数は, 気相, 液相の各物質輸送定数kg, klと大気汚染質の液相への溶解度定数q, 大気汚染質が吸収された部位に局所的に固定される割合pによって決定される。前報で動物実験データの文献値から推定した物質輸送定数を用い, Weibelの正測2分岐モデルに基づいて, 大気汚染質が気道部で吸収される速度を気体の溶解度の関数として表現した。これにより気体大気汚染質が吸気中に含まれるときに, 気道部 (conducting space) で吸収される割合を計算した。これによれば, SO2, H2S, NH3, Cl2, アセトン, ジエチルエーテルはconducting spaceで100%近く吸収されるが, ベンゼン, トルエソ, クロロホルムでは20-70%が吸収されることが推定された。
  • 窒素酸化物の生体摂取過程に関する研究第5報
    堀 善夫, 鈴木 伸
    1984 年19 巻4 号 p. 271-275
    発行日: 1984/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    大気汚染質の気道吸収過程への二重境膜モデルの適用にあたり, 気液平衡の成立しない場合にも拡張することを試みた。NO2の水への吸収過程は, 気液界面で平衡とならず, 溶解過程が律速となる。このような場合に, 総括輸送定数が, 気相, 液相の輸送定数のほかに, 溶解速度定数の関数として表現されることを示した。既報のNO2の水への溶解速度の測定値を用い, また文献データを解析することによって得た気相, 液相の物質輸送定数の計算値により, NO2の総括物質輸送定数を決定した。次に前報で提示した気道吸収速度の推算法に従ってNO, NO2およびNO+NO2の等モル吸収過程について検討した。それによりNO2と共存しないとき, NOは吸気中に含まれていたうちの1.2%が物理溶解的にConducting spaceで吸収される。一方NO2は約13%が吸収されることがわかった。NOとNO2とが混合しているときは, NOは物理溶解的に吸収されるほか, NO2との等モル溶解により吸収される。NO/NO2比が10であるとき, NO2は吸気中の13%が吸収され, NOは2.5%が吸収されると推定された。
  • 降水酸性化の及ぼす影響について
    小林 禧樹, 渡辺 弘
    1984 年19 巻4 号 p. 276-282
    発行日: 1984/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    還元気化, 金アマルガム捕集, 冷原子吸光法を用いて, 神戸地域における雨水中水銀濃度を1力年にわたり測定した。
    雨水中の水銀濃度は降水ごとの平均値で9-62ng/l, 総平均値は26.6ng/lであった。またその濃度は対数正規分布を示し, 冬季, 春季・秋季, 夏季の順に小さくなった。
    降水量増加に伴う水銀濃度の減少形態を検討し, SO42-, NO3-などとの対比から雨水中の水銀の挙動を明らかにした。
    水銀と各種イオン濃度との相関をとったところ, 水銀濃度とH+濃度との間に有意な正の相関関係が認められた。
    雨水中の水銀測定結果に基づき, 大気中の水銀の降水への取り込み過程として,(1) 2価の無機水銀の溶解,(2) 金属水銀の溶解と降水中での酸化,(3) 水銀を吸着, 溶解した粒子状物質のwashoutの3つの経路を推定し, それらについて実験室的検討を加えた。
  • 特に膜タンパクの傷害と関連して
    前田 信治, 今泉 和彦, 昆 和典, 志賀 健
    1984 年19 巻4 号 p. 283-291
    発行日: 1984/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    ヒトおよびラット (Sprague-Dawley系, 雄, 320±10g) 赤血球をNO化した後空気曝露により起こる赤血球のレオロジー変化について調べた。更に, 個体曝露チェンバーを用いて急性NO (25-250ppm) 曝露したラット血液のレオロジー変化について検討した。
    (1) ヒトNO化赤血球浮遊液粘度は低ずり速度領域で空気曝露4h後に10-20%増加した。レオスコープ法でみた赤血球の変形能に有意な変化はないが, 集合体形成能は著しく障害されていた。これらの現象はNO化赤血球の空気曝露後に起こる外方突出型形態変化によるものと解釈された。赤血球膜を分析すると, リン脂質の主要脂肪酸の組成には変化はみられないが, 膜タンパクの酸化的重合化物が電気泳動により検出され, 形態変化の原因と思われた。
    (2) ラットNO化赤血球を空気曝露すると膜タンパクーグロビン間にS-S結合による重合物を作り, その程度はヒト赤血球に比べて顕著であった。重合化物は還元剤 (mercaptoethanol) で処理すると完全に消失した。
    (3) 25-250ppmNOに1h曝露したラット血液中のNO化ヘモグロビンおよびメトヘモグロビンはNO濃度に依存し, それぞれ0.08-3%, 0.6-20%であった。血液粘度にはNO曝露による影響は殆んど検出できないが, 変形能の悪い有棘化赤血球が少し出現していた。膜タンパクの重合物は検出されないが, 低検出感度, 何らかの生体内修復機転, 傷害赤血球の網内系での処理, などによると思われた。
  • 柳沢 幸雄, 西村 肇, 松木 秀明, 逢坂 文夫, 春日 斉
    1984 年19 巻4 号 p. 292-299
    発行日: 1984/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    東京都杉並区の住宅地に居住する主婦10人を対象に, NO2個人被曝濃度の季節変化に関する調査を行った。1982年1月から12月までの通年調査である。被曝濃度の日平均値を, 各月連続する7日間にわたってフィルターバッジで測定した。
    被曝濃度の季節変動のパターンから, 対象者を2つのグループに分けることができた。1番目のグループの対象者は, 冬に高い濃度のNO2に暴露されていた。彼女らは非排気型の暖房器具を用いていたり, 台所の換気扇を時々しか使用していなかったのが原因と思われる。2番目のグループでは, 有意な季節変動はなく, 彼女らの被曝濃度は, 1番目のグループの夏の被曝濃度にほぼ等しかった。彼女らは排気型の暖房器具を用いていたか, 非排気型の暖房器具を用いている場合でも, 燃料消費量が極めて少なかった。通年の被曝濃度データは, 正規分布よりは対数正規分布に近い分布をしていた。1番目のグループの被曝濃度と外気中のNO2濃度の比は, 測定日の最低気温に依存し, 最低気温が10℃ のところで1.5から1.0に変化した。被曝濃度の年幾可平均値は, 2月と7月の被曝濃度と最低気温が10℃ 以下の日の割合から推定できた。このようにして推定した被曝濃度と実測値はよく一致していた。
  • 塩崎 卓哉, 田辺 潔, 松下 秀鶴
    1984 年19 巻4 号 p. 300-307
    発行日: 1984/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    大気浮遊粉じんに含まれる主要な多環芳香族炭化水素 (PAH) を高速液体クロマトグラフィー (HPLC) で比較的容易に分離分析する方法を見出した。本法は, ハイボリュームサンプラーで採取された浮遊粉じん中のPAHを超音波抽出法で抽出し, これを5%水酸化ナトリウム水溶液で処理し, その濃縮液をHPLCで分析する手法から成り立っている。本法で分析しうるPAHは, フルオランテン, ピレン, クリセン, ペリレン, ベンゾ (k) フルオランテン, ベンゾ (e) ピレン, ベンゾ (a) ピレン, ベンゾ (ghi) ペリレン, インデノ (1, 2, 3-cd) ピレン, およびコロネソの10種である。本法の特徴は, a) 超音波抽出液を水酸化ナトリウムで処理することにより, カラムの劣化を防いだこと, b) 検出器に分光蛍光光度計を用い, 分析目的PAHの検出に最適の波長を設定することにより, 共存成分の影響を排除したこと, c) 定量下限がS/N=10で0.04-1ngと高感度であること, d) 大気浮遊粉じんからのPAHの回収率が99.2-107%, その変動係数が2.0-5.9%と良好な上に, 分操作が簡単なことである。また, 大気浮遊粉じん試料を本法と, 従来用いられてきた二層一次元薄層クロマトグラフィー・分光蛍光光度法とで分析した結果, 両分析値間には良好な一致が認められた。
  • ATS調査結果およびその自記式調査法と直接面接式調査法との比較について
    冨田 黍子, 今井 正之, 北畠 正義, 吉田 克巳
    1984 年19 巻4 号 p. 308-317
    発行日: 1984/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    汚染濃度が環境基準を越えたことのない地域に住む15歳以上の一般地域住民3, 302名を対象として, 呼吸器系症状とその影響因子との関係について, ATS-Dm質問票による自記式調査を行った。またこのうち何らかの呼吸器系症状を有するものについて面接調査を実施し, 両調査結果の比較検討を行った。
    1)「持続性のせき/たん (and/or)」,「息ぎれ」の有症率は加齢とともに増加した。「持続性のせき/たん」の有症率は, 各年齢層で喫煙経験者が非経験者を上回り, 標本数の多い40歳代では喫煙量の増加につれて各有症率は有意に増加した。40歳以上での有症率は,「慢性気管支炎症状 (年に3ヵ月以上, 2年以上継続)」で2.2%, 喘息様発作で3.6%となり, これらは汚染のない地域での自然有症率の一例を示すものと考えられた。家庭内環境との関係では, 居間の暖房で暖房がないかまたは屋外排気型の暖房に対して室内開放型の場合には有症率が高かった。
    2) 自記式と面接式の両調査結果の比較では, せき, たん, ぜい鳴のいずれも症状が固定化するにつれて回答の一致率は高くなり, せき, たん, 息ぎれの各症状で両方式に有意差は認められなかった。肺結核, 慢性気管支炎, 肺気腫の各既往症と, 慢性気管支炎, 肺気腫, ぜん息の現症では92%以上の一致率を得た。喫煙, 家庭内環境等の各項目でも良好な一致率を得た。
  • 後藤 純雄, 河合 昭宏, 高木 敬彦, 遠藤 治, 村田 元秀, 松下 秀鶴
    1984 年19 巻4 号 p. 318-320
    発行日: 1984/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    Effects of polynuclear aromatic hydrocarbons on the mutagenic activity of nitro aromatic compounds were investigated by the pre-incubation method using Salmonella typhimurium strain TA98 without S-9 mix.
    Pyrene gave an enhancing effect for the mutagenicity of trinitrochlorobenzene. On the other hand, pyrene or BaP gave inhibitory effects for the mutagenicity of tetramitrocarbazole. Formation of charge-transfer complex was suggested for one of reason of these effects.
  • 黒田 孝一, 兪 栄植, 芳倉 太郎, 岡 三知夫
    1984 年19 巻4 号 p. 321-324
    発行日: 1984/08/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    ハイボリウムエアサンプラーを用いて道路傍で毎日粉じんを捕集していたところ, 約20m離れた民家に火災が発生し, 約30分間サンプラーは火災の煙にまかれた。
    火災前後の日の総粒子状物質 (TSP) 濃度は, 0.10mg/m3 (24時間平均値), そのうちタール量7.0-7.9%であるのに対し, 火災当日の総粒子状物質濃度は, 0.16mg/m3, そのうちタール量10.6%であった。火災当日の濃度増加分が持続30分間の火災によるものとして, 火災時間中の総粒子状物質濃度を推定すると, 2.4mg/m3となって平常時 (0.10mg/m3) の24倍, またそのうちタール量は17.7%と平常時 (7.5%) の2.4倍となり, 火災由来の粒子状物質組成は平常時とかなり異なることが示唆された。
    火災当日のタールはその半分が火災由来と推定されたが, TA100, TA98による変異原性の量反応曲線はタール200μg/プレートまでは前後の日とほぼ同じで, 投与量の増加に伴って直線的に変異コロニー数は増加し, また代謝活性化によって変異原性は強められた。400μg/プレートの投与量では, 火災日のタールは変異コロニー数の増加をS9 mixの有無にかかわらず抑制する傾向がみられた。この効果はタールの静菌作用によるものではないと思われた。これらのタールのSCE誘起性をCHO細胞を用い40μg/ml, 80μg/mlの投与量で調べた結果, どのタールもほぼ同程度のSCEを誘起し, 量依存性が明かであったが, タール間に統計的に有意な差はみられなかった。単位量当たりのタールの変異原性, SCE誘起性は火災日と前後の日では変化はないが, 空気量当たりでは前者は30-90倍, 後者は60倍高い値であった。
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