大気汚染学会誌
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23 巻, 6 号
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  • 火力発電所の操業と標準化年輪指数の推移
    加藤 輝隆, 加須屋 実, 鏡森 定信, 河野 昭一, 狐塚 寛
    1988 年 23 巻 6 号 p. 311-319
    発行日: 1988/12/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    火力発電所による大気汚染が新たに生じた農村地域で, スギの年輪幅による大気汚染の影響評価を試み, 樹齢や気象条件の補正方法について検討した。
    火力発電所操業前の年輪幅の推移を指数曲線で近似した場合の期待値に対する実測値の比 (年輪指数) を求めることによって樹齢が補正された。さらに, 年輪指数と季節ごとの気象因子との関係について重回帰分析を行ない, 気象条件の変動を除外した年輪指数 (標準化年輪指数) を計算したところ, 火力発電所の操業開始後のスギの生育悪化や, 排煙脱硫などの公害対策による樹勢の部分的な回復などが明らかになった。
    また, 火力発電所操業開始後の生育阻害は半径約9kmの範囲にまでおよんでいたが, 標準化年輪指数の変動パターンと, 火力発電所からの距離との間には密接な関連が示された。
  • 火力発電所周辺地域における標準化年輪指数と大気中SO2, NO2濃度との関連
    加藤 輝隆, 加須屋 実, 鏡森 定信, 河野 昭一, 狐塚 寛
    1988 年 23 巻 6 号 p. 320-328
    発行日: 1988/12/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    福井県北部の農村地帯の火力発電所周辺地域でスギのコアサンプルによる年輪解析を行い, 樹齢や気象条件を補正した上で, スギの肥大生長に及ぼす大気環境要因の影響を検討した。
    スギの肥大生長の明らかな阻害は火力発電所から約8km以内の地域で認められたが, この範囲は拡散式によって推定された影響範囲とほぼ一致した。
    スギの肥大生長の指標としての標準化年輪指数は, 大気中のSO2やNO2の年平均値との間に明らかな逆相関を示し, ロジスティック型重回帰分析によれば, これらの大気汚染物質の濃度によって標準化年輪指数の約70%を説明し得た。また, 年輪年代学的手法によって過去の大気汚染物質濃度の欠測データを推定する方法についても検討した。
  • 高橋 照男, 加瀬野 悟
    1988 年 23 巻 6 号 p. 329-334
    発行日: 1988/12/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    大学等の有機廃液焼却処理における水銀の挙動を岡山大学の噴霧燃焼装置と実際に大学の研究室で発生した有機廃液に水銀を混入した模擬廃液を使用して実験的に調べた。水銀の物質収支から排ガス中の水銀は排ガス処理プロセスのアルカリ液による洗煙では殆どトラップできないことが明らかになった。このことから排ガス処理プロセスに気相水銀処理が不可欠であることが示唆された。
    また気相水銀処理としては溶解度の差を利用した鉛一水銀置換法が有効であることが予備実験によりわかったので, 硫化鉛を担持させた軽石を捕集材とする塔径90cmの水銀処理塔を実装置に設置し, 性能評価を行った。
    この有機廃液処理装置に組み込まれた水銀除去プロセスは従来の活性炭吸着プロセスに比べ圧力損失が小さく, 0.03~5mg/Nm3の排ガス中の水銀の捕集効率は90%以上となった。このプロセスにより通常の有機廃液焼却処理における排ガス中の水銀濃度を作業環境許容基準の0.05mg/Nm3以下にできることが可能であると予測できる。
  • 長期湿性沈着量の推定モデル
    藤田 慎一
    1988 年 23 巻 6 号 p. 335-341
    発行日: 1988/12/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    ガス状・粒子状物質の長期湿性沈着量の推定モデルを導出し, 発生源の周辺における煤塵の沈着量を調べた。気象条件や粒径分布の設定値が, 沈着量の推定値に及ぼす影響についても検討を加えた。
    点源から大気中へ放出された粒子状物質の積算沈着量は, 無限遠で発生量に漸近するが, そのパタンは粒子の粒径によって異なる。ミクロン領域でも粒径が小さな粒子の沈着量の分布パタンは, 風向の出現頻度と比較的類似した分布パタンを示す。これに対して粒径が大きな粒子の沈着量の分布パタンは, 風速や発生源からの距離にも依存する。サブミクロン~ミクロン領域に分布を持つ煤塵の沈着量は, 発生源の周辺では粒径が大きな粒子に, 遠方では粒径が小さな粒子の挙動に支配される。このため重量を基準にした降水中の煤塵の粒径モードは, 発生源からの距離とともに粒径が小さな方へ遷移する。
    風系や降雨の統計データを用いると, 直接, 沈着量が推定できるため, このモデルは年~経年の長時間スケールにわたる湿性沈着量を推定するのに適している。沈着量を推定するうえでは, 気象条件とともに洗浄係数-つまり煤塵の粒径分布-を吟味することが, より重要な問題となる。
  • 安藤 満, 田村 憲治
    1988 年 23 巻 6 号 p. 342-348
    発行日: 1988/12/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    浮遊粒子状物質 (SPM) の測定のため設計した携帯用サンプラー (SPMPサンプラー) を用い, 家屋内外の気中SPM濃度の測定を行った。調査は東京都内の幹線道路周辺の家屋について, 1986年から1987年にかけて季節毎に5回行った。
    調査の結果, 屋内の気中SPM濃度は屋外大気中SPMの濃度の増加につれて増加した。SPMの多環芳香族化合物の屋内濃度も同様に, 屋外大気中濃度の増加に比例して増加した。
    家屋内外の気中粒子中の多環芳香族化合物の含量は粒子の粒径によって著しく異なり, SPMのなかでも2~10μmの粗大粒子中に比べ, 2μm以下の微小粒子中の濃度が高かった。家屋内気中の各多環芳香族化合物, ベンゾ (k) フルオランセンとベンゾ (a) ピレンおよびベンゾ (ghi) ペリレンの間には, 密接な相関関係が認められた。
  • 計算モデルによる一考察
    高橋 幹二
    1988 年 23 巻 6 号 p. 349-354
    発行日: 1988/12/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    吸入粒子の呼吸器沈着量計算モデルをヒト, ラヅト, ハムスターに適用し, さらに, 呼吸特性や呼吸器内粒子挙動の体重依存性に基づいて, 粒子沈着特性の種間差について検討した。上部気道における大きな粒子の沈着特性には種間差があるが, 呼吸器全体の全沈着率や中枢気道の沈着密度の種間差は小さいことが示唆された。
  • 野内 勇, 高崎 強, 戸塚 績
    1988 年 23 巻 6 号 p. 355-370
    発行日: 1988/12/20
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    大気汚染環境の改善と作物生産の維持向上の施策に資するために, これまでに多数報告されている作物の光化学オキシダント (オゾンおよびPAN) 感受性を葉面可視被害および生長・収量被害の面から整理し, 光化学オキシダントに対する作物種間および品種間での相対的な感受性のランクづけを行った。
    1) 可視被害から見た作物種間の相対的なオゾン感受性リスト
    オゾンの暴露実験で, 可視被害を生じるオゾンのべき乗化ドース ((濃度)2×暴露時間) により, 作物のオゾン感受性を比較すると, オゾンに感受性の最も高い作物はホウレンソウ, ハツカダィコン, タバコ, アサガオやネギなどであり, ラッカセイ, トマト, エダマメ, 水稲やサントウサイなどがこれに次ぎ, カリフラワー, グラジオラスやキャベツは最も抵抗性であった。
    2) 可視被害から見た作物種間の相対的なPAN感受性リスト
    PANに最も感受性の高い作物はペチュニアであり-野外では4~5ppb程度の汚染が4~5時間程度継続すると被害が発生する。レタス-サラダナ-イソゲンマメ-トマト, ホウレンソウやフダンソウなども感受性が高く, ハツカダィコンとトウモロコシは抵抗性である。
    3) 可視被害から見た作物品種間の相対的なオゾンおよびPANの感受性リスト
    オゾンやPANに対する植物の反応は作物種間ばかりでなく, 品種間でも大きく異なっている。オゾンに対する品種間差異はタバコ, インゲンマメ, ダイズや水稲など多くの作物で報告されているが, PANでの品種間差を調べたものは少ない。PANに対するペチュニアの感受性は品種や系統で大きく異なり, 白花系が最も感受性が高い。
    4) 生長・収量被害から見た作物種間の相対的なオキシダント (主としてオゾン) 感受性リスト
    わが国にはオゾンの長期暴露実験とオープントップチャンバあるいはフィルタードエアチャンバを用いた空気浄化法試験によってオゾンやオキシダントによる作物の生長・収量被害の報告はあるものの, 作物種間の生長・収量被害の感受性を比較できるデータはほとんどない。
    アメリカでは大気汚染による主要な作物の収量減少を評価するための国家プロジェクト (NCLAN) において1980年からオープントップチャンバを用いての8年間の調査が行われた。バックグラウソドレベルの0.025ppmと0.06ppm (生育期間中の日中7時間の平均濃度) のオゾン暴露での作種物間の生長・収量低下を比較してみると, 生長・収量低下は, カブ>ダイズ>ホウレンソウ>コムギ>ワタ>トウモロコシの順であった。
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