大気汚染学会誌
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26 巻, 4 号
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  • 溝口 次夫, 松本 光弘, 池浦 太荘
    1991 年 26 巻 4 号 p. 191-203
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    大気汚染物質の簡易測定法は高性能の自動測定機が普及している今日でも, 1) 地域の汚染の稠密調査, 2) 局所的な汚染動態の解明, 3) 山岳など電源のない地域でのモニタリング, 4) 自動測定機によるモニタリングネットワークの補完 5) パーソナルサンプラー, 室内モニターなど多岐にわたる目的に利用されている。
    現在用いられている簡易測定法の種類, 原理, 特徴, 用途などの概要について述べ, そのうち筆者らが開発した三種類の簡易測定法について大気拡散風洞およびガス暴露チャンバー (温湿度制御可能) を用いて風, 気温, 湿度の影響についての基礎実験およびフィールド測定を行い, それらの有用性を確かめた。簡易サンプラーは一般に気象要素の影響を受け易いが, 風の影響を避けるために, 分子拡散方式サンプラーが数多く用いられているが, これらについて実際にどの程度風の影響が避けられているか, 風洞実験などによって確かめる必要がある。また, 気温の影響が予想以上に大きいことに注意しなければならない。イオンクロマトグラフィーの発展が簡易測定法の有用性, 精度の向上に大きく寄与していることは特筆すべきである。人体影響の観点からパーソナルサンプラー, 室内環境測定用簡易サンプラーの発展がまたれている。
  • 大内 日出夫
    1991 年 26 巻 4 号 p. 204-215
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    酸性降下物による影響は, 都市, 工場周辺の局域的大気汚染から, 現在では数千kmに亘る広域的, 地球的規模の被害をもたらしている。環境の酸性化は主としてSOx, NOxが原因になっている。自然現象によってもこれらの物質が大気中に放出されるが, 化石燃料の消費量の多い地域, あるいは人為的発生源に対する対策が比較的進んでいない地域を中心として環境への影響が強い。
    将来における人口の増加並びに社会の高度化に伴う化石燃料需要の増大の傾向の中では酸性雨対策技術の一層の進展とその普及が必要になってきた。
    ここでは, 石炭及び石油中の硫黄及び窒素含有量, その存在形態, 選炭, 石油の脱硫脱窒素など燃料のクリーン化, 移動発生源並びに固定発生源におけるNOx生成抑制技術, 後処理技術等について概説し, また, 燃料の節約の面では希薄燃焼が有効であるがサーマルNOxの発生が増大するため, NOx対策はパワフルな燃焼機器では特に重要になってきている。これ以外は, 一般に, 酸性雨対策における燃料組成の水素富化, 省エネルギー及びクリーンェネルギーの利用が地球温暖化対策に通ずるものであることを強調した。
  • 関根 嘉香, 橋本 芳一
    1991 年 26 巻 4 号 p. 216-226
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    日本は, 冬季から春季の北西季節風が卓越する時期に, 中国大陸の風下にあたる。近年, 中国および韓国の諸都市は急速に工業化, 都市化が進み, 大気汚染問題が生じている。これら大陸都市において発生した大気汚染物質が季節風によって輸送され, 日本の大気質に影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで東アジア地域における粒子汚染物質の長距離輸送現象を調べるために, 島根県松江市において大気エアロゾル試料を採取し, その成分分析結果から大陸都市の影響について検討を行った。大気エアロゾル中の成分組成比を韓国ソウル市のものと比較すると, 冬季の松江市における成分組成比はソウル市のものと類似し, 特にPb/Zn比は松江の夏季が0,22であるのに対して冬季は0.83となりソウル市での値と良い一致を示した。Pbは大陸都市において特徴的な有鉛ガソリン自動車から排出されるものであり, 松江市において冬季に観測された大気中Pbの一部は長距離輸送を起源とするものと考えらるれ.そこで拡散ボックスモデルにより長距離輸送の寄与を大まかに推定したところ, 松江市で観測された冬季のPb濃度の一部はソウル市からの長距離輸送による影響であると推定された。またTe/Se比により大陸都市の主要エネルギー源である石炭の燃焼排出物の影響を検討したところ, 同様に大陸都市の影響を受けている可能性が示唆された。
  • 高月 紘, 酒井 伸一, 寺園 淳
    1991 年 26 巻 4 号 p. 227-234
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    大気環境のアスベストモニタリングシステムの確立を目標として, 繊維状エアロゾルモニター (FAM) の有効性を検討した。位相差顕微鏡 (PCM) や透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いた同時併行測定, およびFAMによるアスベスト濃度の経時変化などから, FAMの特性を把握した。その結果, FAMによるアスベスト濃度は, 低濃度環境においてはPCMとの相関関係が認められなかったが, 高濃度環境においては比較的良好な結果が得られた。また, FAMは緊急の濃度上昇にも瞬時に反応し, リアルタイムでの測定が可能というFAMの特徴が評価された。アスベストモニタリングシステムとしては, 吹付けアスベスト撤去作業中の周辺などで, アスベストの漏れのチェックを目的としたFAMの適用が期待される。
  • 林 復基, 岡本 眞一, 山田 浩明, 小林 恵三, 北林 興二, 塩沢 清茂
    1991 年 26 巻 4 号 p. 235-245
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    高層建築に囲まれた道路内 (このような場所をストリートキャニオンと呼ぶ) での自動車排出ガスの挙動を把握するために, 青山通りにおいてエアートレーサー拡散実験を実施した.この拡散実験結果および同時に実施された気象観測のデータより, 青山通りのストリートキャニオン内では循環流の発生が明らかになった.
    これらの実験データに基づいて, SRIストリートキャニオンモデルの検証を行った.SRIモデルはやや過小推定の傾向にあるが, モデル式中の係数を修正することにより整合性が向上することが明らかになった.
  • 大原 利眞, 酒巻 史郎, 秋元 肇, 植田 洋匡, 若松 伸司
    1991 年 26 巻 4 号 p. 246-259
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    光化学反応モデルについて, 既存の4種類のモデル (Atkimonら (ALW), KillusとWhitten (KW), McRaeとSeinfeld (MS), PennerとWalton (PW)) を対象にスモッグチャンバーデータをもとにその性能の比較検討を行った。データはStatewide Air Pollution Research Center (SAPRC) と国立環境研究所 (NIES) の炭化水素 (HC) 単成分と7成分混合系 (SAPRCのみ) の実験結果を使用した. 反応モデルによりスモッグチャンバーデータを再現する場合に問題となるチャンバー壁による表面接触反応の影響, 並びに光解離定数は, 対象としたすべてのモデルについて最近の科学的知見に基づく統一した方法で評価した。検討の結果, 次の結論を得た。HC単成分実験に対するモデル計算結果の特徴は反応モデルとHC成分により異なる。一方, HC7成分混合系実験のO3最高濃度に対するモデル再現性の差異は, モデル間で比較的小さい。また, O3最高濃度到達時間は, ALWとKWがMSとPWに較べて良い再現結果を与える. 対象モデルの中では, 今回のHC組成の計算条件においてはALWが総合的に最も良いO3濃度の再現性能を有していた。なお, NO2濃度は, いずれのモデルを用いてもほぼ同様に良好な計算結果が得られた。
  • 市川 陽一, 朝倉 一雄
    1991 年 26 巻 4 号 p. 260-272
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    最近多くの石炭火力発電所やコールセンターの計画, 建設がなされた。それらの発電所やコールセンターは, 年間100~数100万tの石炭を取り扱う。そのため, 大容量の石炭を取り扱う場合の炭じん飛散量を予測する手法が, 環境アセスメントのために必要になった。本報告では炭じん飛散に関する風洞実験, 現地実験, 発電所への書面調査を実施することにより, 炭じん飛散量予測手法を構築した。さらに, 実揚貯炭施設を対象とした炭じん沈着量の予測計算結果と測定値を比較した。その結果, 炭じん沈着量と予測値は, 降下ばいじん量の測定値から推定される炭じん沈着量と比較的よく一致し, 予測手法の環境アセスメント手法としての妥当性が確認された。
  • 大木 章, 前田 滋
    1991 年 26 巻 4 号 p. 273-278
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    鹿児島市内の8ヶ所の測定地点において, 1987年4月から1990年3月まで毎月末に降灰・雨水共存試料を採取し, これをろ過し, ろ液についてSO42-・C1-濃度を定量し, ろ液の蒸発残さ分から水溶性成分を求めた. ろ過残さと水溶性成分の和を降下ばいじん量とした.
    鹿児島市役所における3ケ年平均降下ばいじん量は, 434ton・km-2・month-1であり, 前報で報告した1984年4月から1987年3月までの値676ton・km-2・month-1よりもかなり減少した. 桜島南岳火口より北西に位置する鹿児島市役所付近が鹿児島市において最も降下ばいじんの多い地域であった.
  • 大木 章, 前田 滋
    1991 年 26 巻 4 号 p. 279-281
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    鹿児島市内の8ケ所の測定地点において, 1987年4月から1990年3月までの主として奇数月の月末に, アルカリろ紙法 (フィルターバッジ法) による大気中のNO2濃度の測定を行った。
    鹿児島市内のNO2濃度は, 3ケ年間に徐々に上昇し, 特に交通量の多い鹿児島市役所において上昇は著しかった。フィルタ-バッジ法によるデータは, NO2自動計測器によるデータとは一致はしなかったが, 両者の間には線形の対応関係があった。
  • 戸塚 績, 三宅 博
    1991 年 26 巻 4 号 p. A71-A80
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    植物は葉面にある気孔を通して, 空気中のCO2を取込むと同時に体内の水分を放出して, 体温を調節したり, 根から養分を吸収する原動力を生み出している。気孔の開度が植物をとり巻く環境条件, 特に明るさに応じて調節され, 植物の水分欠乏を防ぎながら, 最適な生長を示すように植物体のガス交換を制御している。そのようなガス交換の際に空気中に含まれる大気汚染ガスが植物体に取込まれる。
    植物の体内に吸収された汚染ガスは, その種類や量によっても異なるが, 多かれ少なかれ植物体に障害を与える。したがって, 街路樹や緑地帯の植物をエアーフィルターとして利用する場合には, 汚染ガス吸収能が高く, しかも障害を受けにくい植物を選定することがのぞましい。表1と表2に大気浄化に適していると思われる植物名がまとめられている。以下に植物の汚染ガス吸収能力や緑地の大気浄化能について概説する。
  • 山本 晋
    1991 年 26 巻 4 号 p. A81-A89
    発行日: 1991/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    二酸化炭素をはじめとするメタン, フロン, 亜酸化窒素などの温室効果ガスの増大による地球温暖化とそれに伴う様々な環境悪影響が懸念されています。最近の観測によれば二酸化炭素濃度は約350ppmで年々1.5ppmの割合で増加しており, メタン, フロン等も増加しています。IPCC (気候変動に関する政府間パネル: 1990年8月) の報告によれば, このままの状態を放置すると, 来世紀には全球平均気温が3℃上昇し, 平均海面は最大1m上昇することになります。気象庁の報告によれば過去100年間の全球平均地上気温は上昇傾向にあり, これは温室効果ガスの増加による気温上昇予測結果と一致しています。しかし, 現段階ではこの気温上昇が温室効果によると断定するにはデータが十分ではありません. また, 現在人類が化石燃料の使用によって放出している二酸化炭素は一年間に炭素換算50億トンです。このうち大気中に残留するのは結果として約半量で, 残りは海洋, 植物などにより吸収されていると推定されていますが, 大気圏, 水圏, 地圏, 植物圏相互間での二酸化炭素の交換過程は定量的に解明されておらず, 二酸化炭素の循環モデルは今後の研究課題として残されています。
    温暖化は数十年から百年という長い期間に顕在化する現象であり, 顕在化してからでは対策を立てても遅いということになりかねません。ここでは, 地球温暖化問題を考える上での基礎的知識, 現状での科学的知見について,「温暖化の原因・機構と現状」と「温暖化の将来予測と予想される環境影響」の二回に分けて紹介します。本入門講座が「地球温暖化」問題を理解し, 対策を考える上で多少なりとも参考になれば幸いです。
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