調査対象とした小砂地区では、古くからの里山資源利用(製陶・炭焼き等)そして新たな里山空間利用の活動が二〇一三年の「日本で最も美しい村」連合への加盟を機に集約され、小砂地区全体の環境資源として認識されるに至っていた。特に加盟後の活動は、素朴な農村景観の中で「食べる」「寝起きする」「簡単な農作業をする」「遊ぶ」「歩く」「走る」と都市住民のニーズを踏まえた、新たな農村の空間利用であった。ただし、二〇一五年及び二〇一八年実施のアンケート調査では、活気や参加状況の表層面での変化は生じていたが、地域への誇り等の深層部分の評価は短い活動期間では十分な変化は生じていなかった。当事例活動を一般の棚田保全活動に対比させると、「棚田求
心力型」に対する「環境資源布置型」と類型が得られた。「環境資源布置型」では棚田は地域内に数ある環境資源の一つと認識されており、環境資源同士が緩やかに連携して存在する構造を有していた。そこでは棚田のみならず、景観・自然環境の豊かさを活かした多元的な空間利用が随所で実践され、一つまた一つと環境資源が生成されるのが特徴であった。また、農村での生産・生活といった伝統的な土地利用文脈だけでない、地域に対して新たな「遊びの場」としてのまなざしも加味されていた。潜在的な環境資源を多様に内包する中山間地域は、多元的な空間利用に向けた実験の場として強い優位性を持つことが示唆された。
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