1980年1月より1995年12月までの16年間に経験した,胆管拡張を伴わない膵・胆管合流異常症15例(小児例1例と成人例14例)を対象として臨床的検討を加えた.
小児例の1例は3歳女児であった.成人例の年齢は20歳から76歳平均56.9±16.2歳で,男女比は4:10と女性に多かった.治療の対象となった疾患は,胆嚢結石9例,胆管結石3例,胆管内蛋白栓を伴う急性膵炎1例,胆嚢癌2例であった.胆汁中アミラーゼ値は12例中10例(83.3%)で,血清中アミラーゼの正常値上限値400IU/mlより高値を示した.定流量灌流法による胆道内圧を11例で測定したが,10例が正常パターンである直線型を示し,胆汁うっ滞はないものと考えられた.治療は,胆嚢摘出,胆管ドレナージがほとんどで,分流手術は1例も施行しなかったが,術後,2例が他病死した他は,最長15年3カ月の現在,症状の再発はなく健在である.
以上のことから,胆管結石,蛋白栓などによる胆汁うっ滞を生ずる病態がなければ,胆道内圧は正常で胆汁うっ滞はなく,胆汁中に膵液が逆流したとしても,必ずしも病的状態を呈するものではなく,胆管拡張のない膵・胆管合流異常症に対する治療は,併存する疾患が対象であり,胆汁の貯溜を繰り返す胆嚢の摘出は必要であるとしても,分流手術の必要性はなく,現時点では,経過観察こそが選ばれるべき治療法であると考えられた.
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