胆道
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34 巻, 4 号
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第55回日本胆道学会学術集会記録
日本胆道学会認定指導医養成講座
  • 力山 敏樹, 片寄 友, 海野 倫明
    2020 年 34 巻 4 号 p. 617-627
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    肝門部領域胆管癌治療の第一選択は外科切除であるが,胆管癌は長軸進展・垂直進展により周辺臓器や脈管に容易に浸潤を来たす.侵襲度の大きな手術となるため,長軸・垂直進展度を正確に診断し手術の可否や術式選択を決定することが非常に重要となる.

    空間分解能・時間分解能が飛躍的に向上したMDCTの登場により,胆管癌診断のFirst stepはMDCTとなった.MDCTによる胆管癌の描出は,胆管狭窄および壁の肥厚として描出される主腫瘍と,長軸方向に連続する造影増強効果を有する胆管壁としてとらえられる.MDCTによる肝門部領域胆管癌の描出と長軸・垂直診断を,症例を呈示し病理所見と対比しながら論じた.

原著
  • 古賀 毅彦, 坂口 将文, 門野 義弘, 上川 健太郎, 浦田 淳資
    2020 年 34 巻 4 号 p. 628-639
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    経乳頭的な内視鏡的胆嚢ステントの長期的留置が手術非適応例の胆嚢炎再発予防に有効であったとする報告が散見されるが,その安全性は不確かである.手術非適応の胆嚢ステント留置例を,ステントを長期留置した30例(留置群)と,抜去し経過観察した10例(抜去群)とに分け,後方視的に比較検討した.観察期間中央値491日で,無イベント生存期間中央値は留置群が抜去群に比し有意に長かった(870日 vs. 166日,P=0.043).留置群は1年未満の再発を認めず,抜去群に比し,有意に再発割合が低かった(7% vs. 50%,P=0.006).後期偶発症は留置群6例(20%)であり,5例は留置後1年以降の発症で,うち3例の関連死を認めた.胆嚢炎再発予防に胆嚢ステントの長期的留置は有効だが,死亡に至る後期偶発症を認め,その発症時期から,1年毎のステント交換が望ましい.

  • 奥薗 徹, 宮本 浩一郎
    2020 年 34 巻 4 号 p. 640-647
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    【背景】緊急胆嚢摘出術の適応にならない急性胆嚢炎にはドレナージ治療が必要となるが,経皮的ドレナージには臨床課題が多く,超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ(EUS-GBD)が注目されている.一方,EUS-GBDではステント逸脱や胆汁漏による偶発症が認められるため前処置として内視鏡的に臓器壁同士を接着する固定器具を開発した.【目的】生体における固定器具の有効性,安全性を評価すること.【方法】生体ブタ4匹に対して,EUS下において新規固定器具を用いた胆嚢と胃の固定を行った.【結果】3例に対して胃と胆嚢壁の固定を行い,3例ともに技術的に成功した.処置後に17日と34日の飼育を行った2例において,1例で胆嚢と胃壁の固定が確認され,1例では固定は外れていた.【結語】新しい固定器具による内視鏡的な臓器壁同士の接着に成功した.技術的な課題が残るが,改良を重ね臨床応用を目指していく予定である.

総説
  • 伊佐山 浩通, 中井 陽介, 藤田 直孝, 乾 和郎
    2020 年 34 巻 4 号 p. 648-656
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    ガイドラインが出版されたばかりの超音波内視鏡ガイド下胆道ドレナージは,保険適応ではあるが,まだ手技としては確立していない.専用のデバイスが少なく,熟練を要し,重篤な偶発症が起きる可能性があるため,広く普及しているとは言い難い.エビデンスが少ないために,ガイドラインは主にエキスパートオピニオンで作成されており,多くの重要課題が残されている.基本的な用語を整理し,手技を分類することがまず必要である.また,適応,デバイス選択,偶発症対策などは臨床試験によるエビデンス作成が急務である.教育や施設への導入に関しても更なるコンセンサスを得る必要がある.今後,残された課題を解決すべく臨床試験を計画・遂行し,得られたエビデンスを速やかに発信していくことが重要であり,本邦が世界をリードして,安全な手技を普及させることが目標と考えている.

  • 窪田 敬一, 青木 琢, 櫻岡 佑樹, 松本 尊嗣
    2020 年 34 巻 4 号 p. 657-662
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)は,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)のカウンターパートと考えられているが,膵IPMNへの病理学的類似性,発生部位,粘液産生能,などに基づく再検討は十分行われてこなかった.そのため,施設により症例に偏りがあり,診断・治療・成績に差が生じた.日韓共同研究において,病理学的にIPMNに似た症例をType 1,IPMNにわずかに似ている症例をType 2に分類すると,Type 1は肝内胆管,肝門部領域胆管に高率に発生し,最小の浸潤性を呈し,予後良好,一方,Type 2は肝門部領域胆管,遠位胆管に高率に発生し,粘液産生が見られないこともあり,浸潤性であり,予後不良,と2型に分類することを提案した.肝酵素値,ビリルビン値,粘液産生,腫瘍局在,累積無病生存率に2タイプ間に有意差が認められた.今後,IPNBをこの2タイプに分けることが妥当なのかどうか,検証していく必要がある.

  • 佐々木 隆, 尾阪 将人, 笹平 直樹
    2020 年 34 巻 4 号 p. 663-671
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    胆道癌診療において薬物療法の果たす役割は大きいが,その治療効果ならびに選択肢は限られている.そのため胆道癌全体の治療成績向上には,薬物療法のさらなる発展は欠かせない.現在も胆道癌をまとめて殺細胞性抗癌剤や免疫チェックポイント阻害剤で治療する開発も進められている.一方で,がんの遺伝子異常を調べて分子標的薬で治療する個別化治療は,いろいろな胆道部位の癌が混在する胆道癌では特に期待されている.近年では,肝内胆管癌に対するFGFR阻害剤やIDH阻害剤で良好な成績も報告されるようになってきている.またわが国でも遺伝子パネル検査が実用化され,今後さらに胆道癌領域において遺伝子診断に基づく治療が発展することが期待される.しかしながら検査結果が出るまでの時間や非切除例における検体量の問題,遺伝子異常に合致した実際に使用可能な治療薬の不足,さらには医療費の問題など今後解決していかなければいけない課題も多い.

症例報告
  • 鹿股 宏之, 高橋 正人, 津田 栄彦, 佐々木 俊樹, 宮内 隼弥
    2020 年 34 巻 4 号 p. 672-679
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は78歳女性.近医で,腹部超音波検査で肝内胆管の拡張を認め,当院を紹介された.造影CTで,左肝管近傍に内部が低吸収で辺縁がやや造影される2cm大の腫瘤があり,右肝管,前区域枝にも接しており,肝内胆管は拡張していた.ERCPでも左肝管,前区域枝に狭窄があり,胆汁細胞診,胆管擦過細胞診は陰性であった.胆管鏡(spyglass)を用いて観察すると,左肝管に狭窄と発赤があり,生検を行ったが癌の診断は得られなかった.しかし,腫瘤形成型の肝内胆管癌の可能性など,癌の否定も困難であり,手術の方針とした.肝左3区域切除,尾状葉切除,肝外胆管切除再建を行った.術後は胆汁漏がみられたがドレナージで軽快し,第42病日に退院した.病理組織診で,腫瘤は線維化と炎症細胞のみで,腫瘍性病変はなく,肝炎症性偽腫瘍と診断した.

  • 吉住 有人, 加藤 厚, 板野 理, 羽鳥 隆, 今井 俊一, 冨澤 聡史, 相田 真介, 宮崎 勝
    2020 年 34 巻 4 号 p. 680-686
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性.2年前に下咽頭癌に対して咽喉頭食道摘出,両側リンパ節郭清,甲状腺全摘を施行し,病理診断は扁平上皮癌,pT3N2bM0 StageIVAであった.経過観察のPET検査で胆嚢にFDGの異常集積を認め,CTでは胆嚢底部から頸部にかけて腫瘤を認め,胆嚢癌と診断した.肝中央下区域切除術,肝外胆管切除術を施行した.胆嚢は全体的に白色調で,底部から頸部にかけて硬く腫瘤状になっていた.病理組織所見では粘膜下に腫瘍細胞を認め,一部では角化が見られた.粘膜内に病変はなく既往の下咽頭癌と同様の組織像を呈しており,免疫染色ではp40が陽性,p53が陰性であったため下咽頭癌の転移と診断した.転移性胆嚢腫瘍は非常に稀であり,原発腫瘍としては腎細胞癌,悪性黒色腫,胃癌,乳癌などの報告が散見されるが下咽頭癌の胆嚢転移の本邦報告例は認めず,非常に稀な1切除例を経験した.

  • 伊藤 将一朗, 末永 雅也, 加藤 公一, 鈴木 雄之典, 竹田 伸
    2020 年 34 巻 4 号 p. 687-693
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性.11年前に肝外胆管癌に対して肝外胆管切除術を施行し,病理組織学的検査では乳頭腺癌でStage IAであり,切除断端は陰性で根治切除であった.今回,発熱を主訴に受診し,胆管炎と肝膿瘍の診断で入院となった.症状は保存的に軽快したが,短期間で腫瘍マーカーが上昇したために精査を施行した.腹部造影CT検査では肝S4に35mm大の腫瘍を認め,門脈左枝と中肝静脈の狭窄を伴っていた.肝S4の肝内胆管癌と診断し,中肝静脈合併肝左葉切除術,左尾状葉切除術を施行した.病理組織学的検査では高分化型の肝内胆管癌で脈管浸潤は認めず,Stage IIであった.術後3年の現在,無再発生存中である.肝外胆管癌と肝内胆管癌の異時性重複癌の報告は稀であるが,手術により長期生存を得られる可能性がある.胆道癌術後,特に胆管炎を発症した症例では再発や異時性重複癌の合併を念頭に置いた慎重な経過観察が肝要である.

  • 田内 潤, 清水 貞利, 村田 哲洋, 高台 真太郎, 金沢 景繁
    2020 年 34 巻 4 号 p. 694-701
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,女性.5年前に横行結腸癌,下行結腸癌に対し腹腔鏡下左半結腸切除術を施行した.病理組織診断は横行結腸癌がtub2,pMP,ly0,v0,PM0,DM0,pN0,pStageI,下行結腸癌がpap,pMP,ly0,v0,PM0,DM0,pN1,pStageIIIAであった.術後5年目のCT検査にて肝S8ドーム直下に1cm大の腫瘤を認め,B8背側枝の拡張と内腔に腫瘍性病変を認めた.胆管内腫瘍栓を伴う大腸癌肝転移と診断し,肝S8部分切除術を施行した.病理組織所見上異型細胞に置換された胆管上皮から胆管内への腫瘍の発育を認めたが,胆管外への腫瘤形成は認めなかった.免疫組織染色ではCK7(-),CK20(-),CDX-2(+)であり,大腸癌胆管転移と診断した.肝実質内に腫瘤を形成せず胆管上皮へ転移し胆管内発育した大腸癌胆管転移の一例を経験したので報告する.

  • 廣田 衛久, 小岩井 明信, 高見 一弘, 桜井 博仁, 山本 久仁治, 片寄 友, 佐藤 賢一
    2020 年 34 巻 4 号 p. 702-709
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は65歳女性,膵神経内分泌腫瘍に対する亜全胃温存膵頭十二指腸切除術後に発症した胆管空腸吻合部狭窄と,合併する胆管炎の治療目的に入院した.ダブルバルーン内視鏡にて胆管空腸吻合部を詳細に観察したが,胆管開口部を発見できなかった.次にPTBDを行いガイドワイヤーで胆管空腸吻合部狭窄の突破を試みたが不可能であった.そのため,再度ダブルバルーン内視鏡を胆管空腸吻合部まで挿入,イレウスチューブ用ガイドワイヤーをスコープ内に通し,これを軸に直視型コンベックス走査式EUSにスコープ交換を行なった.これにより胆管空腸吻合部からEUS-BDを実施可能となり,穿刺部のバルーン拡張後7Frプラスチックステントを2本留置し手技を終了した.偶発症は認めなかった.本例に対して実施した手技は,長期予後が期待される膵頭十二指腸切除後胆管空腸吻合部狭窄例に対する挙上空腸を使用したEUS-BDの適応を広げる可能性がある.

  • 髙野 祐一, 浅見 哲史, 新谷 文崇, 小林 孝弘, 丸岡 直隆, 野呂瀬 朋子, 大池 信之, 長濵 正亞
    2020 年 34 巻 4 号 p. 710-717
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は56歳女性.2週間前より食思不振がありその後,尿黄染・灰白色便を自覚した.腹部造影CTで膵頭部に15mmの腫瘤がみられ胆管閉塞を来していた.子宮には83mmの不整な腫瘤がみられ多発肺転移・骨転移が疑われた.ERCPを施行すると遠位胆管に強い狭窄を認めたが,胆管壁に不整はなく偏位もみられなかった.IDUSでは狭窄部周囲の膵実質に境界不明瞭な低エコー腫瘤をみとめ,膵病変からの圧排・浸潤による胆管閉塞と考えられた.膵頭部腫瘤に対してEUS-FNAを施行し異型な核を有する紡錘形細胞の密な増殖を認めた.免疫染色ではSMA(+)desmin(+),CD34(-),c-kit(-),S-100(-),Ki-67指数50%で平滑筋肉腫と診断された.子宮平滑筋肉腫の膵転移と診断し,胆管ステント留置後に化学療法を導入した.閉塞性黄疸を契機に発見された子宮平滑筋肉腫は稀であり文献的考察を加えて報告する.

  • 上村 将夫, 長峯 理子, 浦田 孝広, 横溝 博
    2020 年 34 巻 4 号 p. 718-724
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    姉は71歳時に腹痛を主訴に受診した.急性胆嚢炎と診断し開腹胆嚢摘出術を行った.摘出した胆嚢において,胆嚢管の硬結は結石ではなく,腫瘤であった.腫瘤の術中迅速凍結病理診断にて低分化腺癌と診断し,肝外胆管切除,リンパ節郭清を追加した.14歳年下の弟は73歳時に腹痛を主訴に受診した.CTで胆嚢管から総胆管にかけて造影効果を伴う腫瘤を認めた.亜全胃温存膵頭十二指腸切除を行い,最終病理診断は胆嚢管原発の乳頭腺癌であった.姉弟には悪性腫瘍の家族歴や印刷業勤務歴はなかった.稀な胆道癌の同胞内発症例であるが,家族内集積とする因子の同定には至らなかった.

  • 鈴木 裕, 松木 亮太, 小暮 正晴, 権藤 興一, 渡邉 俊介, 中里 徹矢, 土岐 真朗, 久松 理一, 森 俊幸, 柴原 純二, 阪本 ...
    2020 年 34 巻 4 号 p. 725-732
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性.黄疸,心窩部痛,発熱を主訴に近医を受診.画像所見では胆管拡張を認め,膵内胆管は2本に分岐しそのまま十二指腸乳頭部に開口していた.乳頭の肛門側に分岐した膵内胆管には乳頭状腫瘍が充満していた.開大した十二指腸乳頭開口部より採取した粘液から腺癌の診断を得た.遠位胆管内乳頭状腫瘍(Intraductal papillary neoplasm of the bile duct,IPNB)と重複胆管の合併,もしくは膵管内乳頭粘液性腫瘍の総胆管への穿破を考え,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行.重複胆管に合併した腸型のIPNBと診断した.腫瘍は主膵管へも進展し,膵・胆管合流異常の状態であった.重複胆管に合併したIPNBは自験例以外には認めず,極めてまれな1例であった.重複胆管は治療方針決定のために,正確な型分類と胆石や膵・胆管合流異常,悪性腫瘍などの併存疾患の診断が必要である.

  • 原田 正晴, 深見 保之, 大澤 高陽, 松村 卓樹, 齊藤 卓也, 小松 俊一郎, 都築 豊徳, 佐野 力
    2020 年 34 巻 4 号 p. 733-740
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,男性.38℃の発熱があり,CT検査で胆嚢癌が疑われ当院紹介となった.造影CT検査では,胆嚢体部から頚部にかけて造影効果を伴う腫瘤を認め,肝浸潤も疑われた.明らかな胆管浸潤は認めないが胆嚢管までの進展を伴っていた.明らかな遠隔転移は認めなかった.胆嚢癌の診断で肝S4a+5切除・肝外胆管切除・リンパ節郭清を施行した.切除側の肝臓内に5mm大の同時性単発肝転移を認めたため,最終病理組織学的診断は,胆嚢癌,肝S5孤立性肝転移のpStage IVBであった.術後補助化学療法なしで外来経過観察を開始した.術後3年3カ月無再発生存であったが,悪性リンパ腫で永眠された.本症例では,肝S4a+S5切除による,R0切除を施行することで長期生存を得ることができた.また,本症例は胆嚢腫瘍近傍の門脈内に腫瘍栓を形成しており,胆嚢静脈を介して肝転移を形成した可能性が示唆されたので報告する.

  • 北見 智恵, 河内 保之
    2020 年 34 巻 4 号 p. 741-747
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    肝腸間膜動脈幹由来総肝動脈(CHA)が膵実質内を走行していた遠位胆管癌に対し亜全胃温存膵頭十二指腸切除を施行した1例を報告する.症例は76歳男性で,精査で遠位胆管癌T3N0M0:c Stage IIAと診断された.CTでCHAがSMAから分岐し,膵内を走行している動脈破格を認めた.膵内を走行するCHAと腫瘍には十分な距離があり,CHAを温存して根治切除が可能と判断した.膵実質を切開してCHAを温存したが,CHAから膵へ細い栄養血管が多数分岐し,その周囲には脆弱な細い静脈が併走しており,出血量が多くなった.手術時間は8時間3分,出血量は1386gであった.組織学的剥離面陰性であった.本例のようなCHAが膵実質内を走行する解剖破格はまれである.術前の詳細な検討,シミュレーションが必須である.また,膵実質内のCHAを温存する際,出血量が多くなることも念頭におき手術に臨むべきである.

  • 宮﨑 葉月, 浅岡 忠史, 花木 武彦, 岩上 佳史, 秋田 裕史, 野田 剛広, 後藤 邦仁, 小林 省吾, 川崎 桂輔, 森井 英一, ...
    2020 年 34 巻 4 号 p. 748-757
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は78歳男性.前医の腹部超音波検査にて肝尾状葉を中心とした嚢胞性病変を指摘され,精査目的に当科紹介となった.来院時,腹部症状や肝機能異常は認めず,腹部造影CTでも内部に充実成分を認めなかったため肝嚢胞として18カ月間の経過観察を行っていたが,徐々に嚢胞性病変の増大とともに,内部にFDG-PETで異常集積を示す充実成分の出現を認めた.ERCP下では胆管との交通は認めず,肝粘液嚢胞腺癌の診断で肝左三区域切除,肝外胆管切除術を施行した.病理組織検査では,明らかな卵巣様間質は見られず,MUC1強陽性を示すpancreatobilliary typeを主体とした胆管内乳頭状腫瘍(Intraductal papillary neoplasm of bile duct:IPNB)の診断で,一部に浸潤癌を伴っていた.今回,我々は経過観察中に形態学的変化を捉えたIPNBの一例を経験したので報告する.

  • 山下 万平, 黒木 保, 佐伯 哲, 北里 周, 三原 裕美, 三浦 史郎
    2020 年 34 巻 4 号 p. 758-763
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は64歳男性,検診の上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚に隆起性病変を指摘された.精査にて粘膜下に限局する10mm大の副乳頭部腫瘍を疑うもEUS下穿刺吸引細胞診で確定診断には至らなかったため,内視鏡的副乳頭部切除術による切除生検を行った.病理組織診にてInsulinoma-associated 1(INSM1)陽性,核分裂像0/10HPF,Ki-67<1%で副乳頭部神経内分泌腫瘍(NET)G1の診断,筋層への浸潤と腫瘍細胞の断端露出を認めたため,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本は断端陰性,No.6,14,17bリンパ節への転移を認めた.副乳頭部NETは腫瘍径が小さくてもリンパ節転移を高率に認めるため,腫瘍径にかかわらず膵頭十二指腸切除術と標準的リンパ節郭清を基本とした術式が妥当である.

  • 松井 聡, 伊藤 貴明, 杉浦 禎一, 岡村 行泰, 山本 有祐, 蘆田 良, 大木 克久, 松林 宏行, 石渡 裕俊, 佐々木 恵子, 上 ...
    2020 年 34 巻 4 号 p. 764-771
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は69歳女性.右季肋部痛を主訴に近医を受診し,胆嚢癌の疑いで当科へ紹介された.精査の結果,右肝動脈と門脈本幹,十二指腸・結腸へ浸潤を伴う胆嚢癌と診断した.拡大右肝・尾状葉切除・肝外胆管切除・門脈合併切除,十二指腸・結腸部分切除を企図すると残肝体積が不足するため切除不能と判断し,Gemcitabine+Cisplatin併用化学療法(GC療法)を開始した.GC療法を9コース施行後,腫瘍の著明な縮小を認めたためConversion surgery(CS)の適応と判断し,治療開始から9カ月後に胆嚢床切除,肝外胆管切除再建を施行した.病理組織学的診断は胆嚢底部を主座とする低~中分化型管状腺癌,pT2N0M0StageII,R0切除を達成した.術後補助化学療法は施行せず,術後1年5カ月無再発生存中である.切除不能胆嚢癌に対するCSのエビデンスは乏しく,今後さらなる症例の蓄積と検討を要する.

  • 大塚 英郎, 青木 泰孝, 畠 達夫, 益田 邦洋, 水間 正道, 中川 圭, 森川 孝則, 菅野 敦, 正宗 淳, 大森 優子, 古川 徹 ...
    2020 年 34 巻 4 号 p. 772-780
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は29歳男性.心窩部痛を主訴に近医受診し,血液生化学検査で肝胆道系酵素値の上昇と黄疸を認めた.造影CTで肝内胆管の拡張と肝門部胆管に腫瘍性病変を認めるとともに,MRCPで膵・胆管合流異常を認めた.腫瘍より乳頭側の胆管に拡張を認めず,非拡張型膵・胆管合流異常に合併した肝門部胆管癌(BismuthII)と診断し,肝拡大左葉切除・尾状葉切除・肝外胆管切除術を施行した.切除標本で肝門部に結節浸潤型の病変を認め,病理組織学的検討より浸潤癌部に連続する乳頭側の胆管上皮にbiliary intraepithelial neoplasia(BilIN)病変を認めた.非拡張型の膵・胆管合流異常では,胆嚢癌が高率に発症するとされるが,胆管癌の発症は多くない.本症例は30歳未満と若年発症した胆管癌症例であるが,職業性胆管癌の可能性は示唆されず,その発癌に膵・胆管合流異常が深く関与していたと考えられる.

胆道専門医講座 胆道癌の減黄と管理
  • 江畑 智希, 水野 隆史, 尾上 俊介, 渡辺 伸元, 伊神 剛, 横山 幸浩
    2020 年 34 巻 4 号 p. 781-789
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    術前胆道ドレナージに関して,ルーチンに採用する本邦と不要であると考える海外の間で対立があった.しかし,右葉切除以上の肝切除では胆道ドレナージは肝不全率や死亡率を低下させることが判明した.このため,肝切除量に応じて胆道ドレナージの適応を考えるようになった.過去には胆道ドレナージの主な方法であった経皮的胆道ドレナージは,術後に瘻孔再発や腹膜播種を増加させ,予後を悪化させることが判明した.この結果と内視鏡的な技術の進歩とも関係し,本邦では内視鏡的な胆道ドレナージが第一選択となった.また,術後死亡率の危険因子の一つが術前胆管炎であるため,術前胆道ドレナージは術前胆管炎が少ない方法が望ましい.本邦では内視鏡的経鼻胆道ドレナージを第一選択とし,海外では内視鏡的胆管ステントを第一選択とすることが多い.後方視的研究に基づくため,施設や地域間格差は現在でも認められる.

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