谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
2017 巻, 19 号
谷本学校 毒性質問箱
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
はじめに
レクチャー1 労働安全衛生・環境影響評価
  • 恒成 一郎
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 1-2
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
  • 竹田 守彦
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 3-11
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     高薬理活性医薬品や、感作性が著しい化合物を取り扱う場合、こうした物質を取り扱う作業者への健康障害リスク(産業衛生リスク)が懸念される。また、そうした物質を共通の製造設備や医療現場で取り扱う場合、より厳格な交叉汚染防止対策が求められる。
     化学物質を取り扱う現場では、労働安全衛生の観点から様々な規制が制定されてきたが、医薬品原薬については、その薬効薬理に通じた製薬会社やその事業所の自主規制が尊重されて、行政による規制の範疇から除外されてきた経緯がある。従来の製造現場では、ペニシリンやセファロスポリンといったβラクタム系抗生薬やある種の高薬理活性医薬品を製造する施設では、GMPにおける交叉汚染防止要件の観点から製造施設の専用化が要求されてきたが、そうした施設においても、原薬を多量に取り扱う作業者に対する健康障害リスクの軽減についての取り組みは各事業所に委ねられてきた。しかしながら、抗腫瘍薬を代表とする多種多様な高薬理活性医薬品が開発される中、交叉汚染防止の観点から製造設備を専用化するだけでは産業衛生リスクは軽減されないことは自明である。
     一方、医薬品の品質管理におけるリスクマネジメントの有用性に対する認識が高まり、日米欧医薬品規制調和国際会議(ICH)で医薬品の品質リスクマネジメントに関するガイドライン(ICH Q9)が合意され、2006年9月に厚生労働省より、「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」が制定された。分析技術の向上、高度な品質管理システムの実践、工程操作のClosed化や封じ込め技術の進歩を背景に、このリスクマネジメント手法を適用し、適正な封じ込めシステムを導入することで、高薬理活性医薬品を共通設備で製造することが許容されるようになった。ICH Q9は品質管理におけるリスクベースアプローチを規定したものであるが、この手法は、医薬品製造設備における産業衛生に対しても有効である。
     本稿では、ICH Q9のリスクマネジメントの概要を踏まえながら、医薬品製造設備における産業衛生に関するリスクベースアプローチの適用と、その手法に基づく封じ込め装置の選定事例を紹介するものである。
    【注記】広義の産業衛生とは、「作業環境での従業員の健康を損なう危険因子を推察、認知、評価、制御することより、職業に起因する従業員の健康障害を回避する技術/科学」と言われている。従業員の健康を守るために、企業とその産業衛生担当者のみならず、全従業員が取り組まねばならないものである。
     本稿では、このうち、薬剤が従業員の健康を損なうリスクを分析・評価し、そのリスクが受容されるために必要な軽減策(封じ込め)を構築する一連の考え方について記載する。
  • 加藤 伸明
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 12-16
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     これまでの化学物質は、法規制に基づく管理を行っていればそれで「安心」という時代から、事故が起きないように、あるいは起こったとしても被害を最小限に食い止めることが求められる時代に変わってきている。そこには、次々と生み出される化学物質すべてを法規制で対処することがもはや不可能になったという現実だけでなく、社会・企業・作業者の「安全」、「安心」に対する意識の変化が影響している。一方、安全対策を実施するにも、その対策の必要性を説明するための客観的な根拠の重要性が増しており、化学物質の安全管理にとって基礎となる物質の評価も定量的な指標が使用されるようになってきた。
     本稿では、基礎的な化学物質の安全管理の概念と、作業者の安全確保を目的とした各種管理手法を紹介し、化学物質の評価指標としてよく用いられているOEL(Occupational Exposure Limits:職業曝露限界値)、それに密接な関係のあるADE・PDE(Acceptable Daily Exposure・Permitted Daily Exposure:一日曝露許容量)について、どのような情報やデータから算出できるのか、また、算出に当たりどのような留意点があるのかを概説する。
  • 新野 竜大, 鑪迫 典久
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 17-30
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     身の回りの環境や健康への意識が高まる中、人間活動に伴って環境中に放出される極微量の化学物質によるヒトや環境、野生生物への影響に関心が向けられている。中でも環境中で検出される医薬品およびパーソナルケア製品(Pharmaceuticals and Personal Care Product: PPCP)に対して、1980年代から欧米を中心に、その影響評価に関する研究が推進された1)。米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency: U.S. EPA)の定義では、PPCPsには処方薬や一般用医薬品、動物用医薬品、化粧品、フレグランス類、診断用医薬品などが含まれる。それらのうち特異的な生理活性を有するヒト用医薬品は、広範囲の地域で年間を通じて使用され、環境中へ排出される場合が多い。そのため、生態系への長期的な影響が懸念されている。
     医薬品は、合成・製造・輸出・流通・使用・廃棄の各ライフサイクルの各段階において環境中に排出される可能性がある。また、病院や家庭における使用時や、期限切れで不要となった廃棄時(特に欧米)も環境への排出源の一つとして挙げられる。ヒトが服用した医薬品は、その一部がそのまま、あるいは薬物代謝により代謝物・分解物が生成され、それが排出物として下水処理場を通じて環境中に排出される2)。また、医薬品製造工場や関連施設の工程排水として、場内排水処理工程を通じて環境中に排出される懸念もある3)。下水処理場や事業場内処理施設での物理的沈降・吸着や生物処理(活性汚泥処理)による生分解の有無が環境挙動として重要になる4)。また、抗菌薬や殺菌剤などは微生物活性を阻害することで、主要な処理工程の一つである生物処理の活性に大きなダメージを与える可能性も懸念される。図1に医薬品の環境への侵入経路と環境影響評価手法について示した。
     医薬品はもともと特定の生理活性を有する化合物であるが、農薬や一般化学品と比較すると、環境への影響を評価する試験(環境動態試験や生態毒性試験)があまり行われていないため、その知見自体が多くないのが現状である。現在報告されている日本の水環境中の医薬品類の濃度は、生態毒性試験における急性毒性が出る濃度よりも低いと考えられている。一方、試験生物種や影響の指標の違いによって、急性毒性試験結果と慢性毒性試験結果の比(Acute-Chronic Toxicity Ratio: ACR)が大きい医薬品も報告されているが5)、長期的な影響や異なるライフイベント等への影響についての知見は未だ少ない現状があり、その集積が待たれている。また、環境中に存在する可能性のある複数の医薬品の同時曝露による影響(複合影響)に対する理解も重要な課題となる。
     既に、米国および欧州では法規制によってヒト用医薬品の申請時に環境リスク評価を添付することを義務付けており、その手順と方法がガイドライン化されている6-8)。また、現状のガイドラインに対する課題は常に学会等を通じて議論・提言されており9,10)、規制当局も都度の見直しを推進している11,12)。一方、国内では医薬品を規制する「薬事法」の中では環境影響評価は現時点では対象外であるが、2016年3月に厚生労働省より「新医薬品開発における環境影響評価に関するガイダンス」が公表され13)、製薬企業に対して医薬品環境影響評価の実施を促している。そこで本稿では、医薬品の環境影響評価に関する国際動向や環境リスク評価の内容を今一度整理し、医薬品の環境リスク評価に用いられる生態毒性試験について、多世代影響や特殊なライフイベント評価等の新しい知見を加え、解説する。さらに、課題の一つである医薬品の環境中での複合影響についても併せて説明する。
  • 佐藤 恵一朗
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 31-39
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     分析技術の進歩に伴い、極微量の医薬品が環境中で検出されるようになった。ただし、ほとんどの場合、検出濃度は人間に対して何らかの薬理作用を発揮する濃度よりもかなり低い。例えば、ヒト用医薬品の環境影響評価(Environmental Risk Assessment: ERA)に関するEMAのガイドライン1)において実験室での試験(Phase 2)のアクションリミットとなる環境中予測濃度(Predicted Environmental Concentration: PEC)は0.01 µg/Lであるが、この濃度はLC-MS/MS法を用いた医薬品の血漿中薬物濃度測定法の検出限界値として一般的に用いられている1 ng/mLの100分の1であり、東京ドームの容積(124万m32)の水に小さじ(5 g)2杯強を加えた程度に過ぎない。つまり、1匹のイヌ(10 kg)に1000 mg/kgの用量で薬物を投与した後、全く代謝されずに糞尿中に排泄されると仮定した場合に、そのイヌ1匹が東京ドーム一杯の水の中に排泄した時の薬物濃度とほぼ等しい。分子量500の化合物では0.01 µg/Lは20 pMとなり、もし医薬品のスクリーニングにおいてこのような低濃度で強力な薬理活性を有する化合物が見つかれば合成担当者が狂喜乱舞するレベルである。ちなみにICH-M7ガイドラインでは変異原性不純物の毒性学的懸念の閾値(threshold of toxicological concern: TTC, 生涯曝露における理論上の過剰発がんリスクが10万分の1となる閾値)に基づく許容摂取量は1.5 µg/person/day(体重50 kgだと30 ng/kg/day)となっているが、仮に水中薬物の魚への曝露ルートが経口だけであり生物蓄積性がないと仮定すると、水中に0.01 µg/Lの濃度で含まれる薬物の摂取量がTTCの30 ng/kg/dayに達するためには、経口吸収率が100%だとしても1 kgの魚では1日あたり3 Lの水を飲まないといけない計算となる(50 kgのヒトでは150 L/day)。ちなみに飲水量は淡水魚ではコイで0.72 mL/kg/day、ナマズで5.04 mL/kg/day、海水魚ではウナギで24.00 mL/kg/day、カサゴで186.24 mL/kg/dayとされていることから3)、魚にとっての0.01 µg/Lという濃度は、ヒトの遺伝毒性のTTCよりも約16~4000倍も低い曝露レベルに相当する。つまり、EMAのERAガイドラインにおける0.01 µg/LというPECのアクションリミットはヒトにおける遺伝毒性物質の発がんリスクの閾値と比較しても保守的な曝露レベルと言えるかもしれない。
     現時点では上記のような極微量のヒト用医薬品による環境への影響が明確に実証された例はないが、長期に渡って環境中に存在する場合、環境に対してどのような影響を及ぼすのかは不明である。仮に環境中の極微量医薬品が何らかの影響を与える可能性を想定した場合、既存のリスク・ベネフィットバランスとは異なるコンセプトを導入する必要がある。これまでのヒト用医薬品における個人レベルの古典的なリスク・ベネフィットバランスというのは投薬患者という同じ土俵の上で安全性と有効性を天秤にかけるという考え方であったが、医薬品環境影響評価におけるリスク・ベネフィットバランス評価では環境に対するネガティブインパクト(リスク)に対して、患者における治療効果やそれによる医療費削減等の経済効果(ベネフィット)という全く異なる次元の事象間におけるバランス評価(いわゆるcomparing apples to oranges)が求められる。例えば、ある医薬品は局所的に極めて高い濃度で環境中に放出されると魚に著しい悪影響を与えるが、患者に対しては高い治療効果を有し、既存の治療法と比較して経済性にも優れるというケースを想定すると、治療の恩恵を減ずることなく、環境への曝露を最小限に抑制することによって、患者や環境にとって最も良好なバランスを達成するための知恵が求められる。
     製薬会社からの視線で見ると、環境への影響を科学的かつ透明性の高い方法で評価し、環境影響リスクが少ないことを客観的データで示す行為を通じて、自社医薬品のベネフィットの相対的ポジションを上げ、apples to oranges比較において自社医薬品の社会的存在意義を明示する企業努力が求められる。
     本稿では、最初に医薬品を含む化学物質全般の環境影響評価に関する歴史的な流れを解説し、次にヒト用医薬品の環境影響評価に関する最近のトピックスとして、規制当局や医薬品業界の最新動向を紹介する。いずれの内容もインターネットで一般公開されている情報を参照したものであり、アドレスを最後にまとめて記載した。情報公開はリスクコミュニケーションにおいて必要不可欠な要素の一つであるが、規制当局等の情報発信源がそれを遵守し、忠実に実践していることを執筆にあたって情報収集した際に改めて実感した次第である。
  • -エコファーマコビジランスという考え方-
    東 泰好
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 40-44
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     私たちが病気や怪我の治療・予防の目的で使用した、あるいは使用する目的で入手しながら使用されずに廃棄された医薬品が、河川等の水環境中で多数検出されている(図1)。起源としては、人用医薬品の他に、動物用医薬品、家畜飼料添加物、農薬等の用途で用いられているもの等(人用医薬品と同じ有効成分でありながら用途分類により医薬品としてみなされていないものも含む)についても考える必要があるが、環境中への排出/漏出という観点でこれらを包括的・定量的に調査した研究報告は見当たらない。この新たな環境汚染が毒性学的・社会的課題として関心を集め、SETAC(Society of Environmental Toxicology and Chemistry: 環境毒性学及び環境化学に関する国際学会)等の国際学会において活発な科学的議論が展開されているのみならず、UNEP(United Nations Environment Programme: 国際連合環境計画)のSAICM(Strategic Approach to International Chemicals Management: 国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)推進のための議論も高まり、2015年秋のICCM4(The 4th session of the International Conference on Chemicals Management: 第 4 回国際化学物質管理会議)において、本課題を重要優先政策課題として扱うべきとの合意がなされ、もはや医薬品であることを理由に特別扱いすることが許されない状況になりつつある。
     河川等の水環境に医薬品が存在することによってどのようなことが懸念されるのであろうか(図2)。第一に、飲用水や食物の摂取を介しての人健康への影響が考えられるが、非意図的な曝露レベル(摂取量)と薬効または有害作用(毒性)の発現がみられる曝露量(血漿中濃度)の比較から、直ちに人健康に対する悪影響を心配する必要はないであろうというのが、多くの専門家たちの見解とされている。しかしながら、国連WHOの報告書1)でも言及されているように、これまでの調査・研究では複数の医薬品による複合的な影響の評価はされておらず、また、感受性の高い人々(妊婦・胎児や化学物質に過敏な反応を示すような人々)における安全性の確認もなされていないことから、今後、より詳細な研究が必要であるとされている。第二に考えなければならないのが、生態系に対する影響である。最近の研究では、実際に環境中で検出されているのと同程度の濃度で水生生物に対して何らかの悪影響が認められる医薬品があることが示されており2,3)、また、人の健康に対する影響の場合と同様に、複合影響についても考慮する必要がある。従って、生態系に対する環境中医薬品の影響については、人の健康に対する影響の場合よりも懸念は大きく、より慎重に検討される必要があると考えられている。加えて近年、環境中に排出された抗菌薬や抗ウイルス薬による薬剤耐性形成助長の問題を指摘する声もあり4)、研究手法の確立が急がれている。
     報告されている水環境中各種医薬品の検出濃度は、他の環境汚染化学物質と比較すると概して低く、医薬品の種類や調査の時期・場所等の違いによる変動はみられながらも、一部の例外を除き、多くは ng/Lのオーダーである。しかし、医薬品は高い生理活性を示すように設計された化学物質であることを考えると、環境濃度そのものだけではなく、環境中での物質動態や、物理的・化学的なファクターの関与なども含めた慎重な曝露評価が必要となる。また、生態系を構成する個々の生物種に対する影響は、毒性に対する感受性が生物種の違いにより異なることによって少なからず左右される。さらに、個体に対する毒性の評価と個体群に対する毒性影響の評価は異なることも考慮しなければならない。以上のことから、これらを包括的に検討し、医薬品が環境(生態系)に対する影響を正しく評価することが簡単な作業ではないことは容易に想像できよう。1970年代後半に医薬品による環境影響の問題が論じられるようになって以来、相当数の調査・研究成果が報告されているが、上述したような問題の難しさもあり、環境中に存在する医薬品が人間の健康や生態系に対してどのような影響を及ぼすか、また、薬剤耐性を示す病原菌やウイルスの出現助長に関与しているのかどうかに関する研究は必ずしも十分ではなく、リスク管理のために必要となる科学的根拠の確立にはまだまだ膨大な時間がかかると思われる。
     このような現状において、時に散見されるやや誇張的とも思われるようなメディア報道や扇動的なインターネット情報等に惑わされ、必要以上に不安を大きくしてしまい、無用な社会混乱に陥ってしまったり、医療上必要な医薬品の使用に不条理な制限がかかってしまったりすることがないよう、社会としての冷静な対応が求められていることを認識する必要がある。
  • 林 彬勒
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 45-53
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     私たちの日常生活や社会の経済活動は無数の化学物質によって支えられている。しかしながら、その化学物質は適切に使用・管理しないと厄介な環境汚染物質になってしまう。化学物質の不適切な使用・管理が原因で生じた影響事例を羅列することはいとも苦労しないが、記憶に新しいのは2012年5月、利根川水系の浄水場で水道法の基準値(0.08 mg/L)を超えるホルムアルデヒドが検出され、一部の自治体で断水する大騒ぎが発生したことである1)。このように、我々の生活と社会に欠かせない化学物質はどのように使用・管理をすれば、社会の安心安全につながるのか、これは人類共通の重要な課題の一つである2)
     2002年に開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(World Summit on Sustainable Development: WSSD)」で取り決められた「WSSD 2020年目標(アジェンダ21第19章)」が適切に化学物質を使用・管理する世界的な動きを触発した3)。WSSD では「2020年までに化学物質の製造とその使用による人の健康と環境への重大な悪影響の最小化を目指す」という世界共通の目標を掲げた。その目標を達成するため、2006年に開催された国際化学物質管理会議(International Conference on Chemical management: ICCM)では、世界規模の政策的枠組みである「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(The Strategic Approach to International Chemicals Management: SAICM)」が採択された4)。SAICMが各国政府、国際機関、産業界、市民団体等の進めるべき取り組みをまとめ、世界の化学物質管理をハザードベースからリスクベースへと強く促した。2007年施行の欧州REACH規則(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals、化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則)5)や2011年の日本の第3次改正化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)6)、そして2016年の米国の改正TSCA法(The Toxic Substances Control Act、有害物質規制法)7)は、いずれもWSSD 2020目標達成に触発された動きである。
     国内外のこれらの法規制では、いずれもリスクベースを理念に、「すべての化学物質を対象に、リスクを許容レベルで管理しながら使う」としている。しかし、毎日数百から数千のペースでCAS(Chemical Abstracts Service)登録される新規物質8)のみならず、何十万もの既存化学物質のリスクを1つずつ適切に評価して管理するには、多大な社会コストを要するほか、システム作りなどいくつもの技術課題の解決に全力をあげなければならない。それらの課題解決には大きく2つの要素技術の開発が不可欠である。1つは化学物質による影響を「リスク」として適切に評価できる手法の確立、もう1つは適切なリスク評価手法による評価の加速である9)。筆者はこれまで化学物質による環境への影響を「生態リスク」として捉え、そのリスクを適切に評価する手法開発(個体群レベル生態リスク評価)10-14)、そして開発した評価手法の実用化やリスク評価の効率化・定型化・標準化を支援するツール(AIST-MeRAM: 汎用生態リスク評価管理)15)の開発など、一連の研究活動を行ってきた。
     本稿は、医薬品毒性評価に携わる皆様が環境中に排出された医薬品の生態リスク評価を考える際の参考となるように、水環境中の化学物質の生態リスク評価に関する基礎情報、すなわち、リスクの定義、評価の考え方及び評価手順について、AIST-MeRAMの評価例を交えながら紹介する。
レクチャー2 感覚器毒性
  • 細井 一弘
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 54
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
  • 佐々木 正治
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 55-60
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     眼毒性が発現すると生命を脅かしはしないが、Quality of Lifeが大きく低下する。眼組織は、透明であり、無血管であること等、他の器官と異なる特徴を備えており、眼毒性評価に際して、他の器官とは異なることを念頭に置かなければならない。したがって、眼毒性評価を行う際は、通常の毒性評価のチェックポイントに加えて、眼組織特有のチェックポイントも考慮する必要がある。ビジネスの世界では、チェックポイントに換わる言葉として「フレームワーク(枠組)」という用語が使用されており、意思決定や戦略策定時に重要なチェックポイントを見落とさないための工夫が共有されている。本稿では、眼毒性評価を行う際に見落としたくないチェックポイントを「フレームワーク」として表現した。
     本稿では、まず、ビジネス用語としての「フレームワーク」を説明し、眼の「機能的特徴」及び「組織学的特徴」をフレームワーク化した後、「リスクアセスメント」「判断」「エビデンスレベル」及び「因果関係」をそれぞれフレームワーク化した。最後にこれらのフレームワークを眼毒性評価へ利用したケースを紹介する。
  • 荒木 智陽
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 61-67
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     医薬品の安全性試験では、視覚器に対する影響を評価するために眼科学的検査が実施されている。眼球の基本的な構造はヒトも実験動物も同じであるが、動物によってはヒトには存在しない特有な構造を有する種もあり、解剖学的にも生理学的にも大きな種差がみられる。一般的な眼科学的検査では、散瞳処置前に対光反射及び肉眼検査を実施し、散瞳後に細隙灯顕微鏡(スリットランプ)を用いて角膜、虹彩、中間透光体(前房、水晶体、前部硝子体)を、また、倒像検眼鏡及び非球面レンズを用いて後部硝子体及び眼底を精査する。眼は免疫特権(immune privilege)を有し、これが破綻すると、自己免疫や感染に関連した内眼炎が発症しやすく、かつ重症で治癒しにくい特性を持った感覚器官である1)。また、眼にみられる自然発生の病変・所見は多々あり、被験物質投与時に発現する毒性所見と類似し、鑑別を要する場合も多い。さらに詳細な眼毒性の評価には、網膜電図検査(electroretinography: ERG)、光干渉断層検査(optical coherence tomography検査: OCT)、蛍光眼底造影検査、あるいは眼圧測定などの特殊検査の実施が必要となる。本稿は、我々が具体的に実践している各種実験動物(マウス・ラット・ウサギ・サル・イヌ)における主な眼科学的検査の実例を紹介するとともに、各検査で注意すべき点や動物種ごとで発生しやすい所見などを詳述する。また、今後の眼科学的検査担当者が担っていくべき役割についても提案したい。
  • −弱刺激性評価基準の確立に向けて−
    古川 正敏
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 68-72
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     牛摘出角膜を用いる混濁度及び透過性試験法(Bovine Corneal Opacity and Permeability test, BCOP法)はウサギを用いる眼刺激性試験(Draize法)の代替法としてMuirの試験法1)を元にして開発され、エンドポイントとして角膜の混濁度と透過性を設定することでin vivo試験との相関性を高めることが出来ることが確認された2)。その後、多施設間のバリデーション試験を経て2009年に経済協力開発機構(OECD)の化学物質に関するテストガイドライン(TG437)に採択された3)。当初はUnited Nations Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals(UN GHS区分)の区分1(腐食性・強度刺激性)を判定するTop Down Approachの試験法としての採択であったが、2013年には、UN GHS区分の区分対象外(無刺激性)を判定するBottom Up Approachの試験法としても認められた4)。また、日本国内では、2014年に厚生労働省より「眼刺激性試験代替法としての牛摘出角膜の混濁および透過性試験法(BCOP)を化粧品・医薬部外品の安全性評価に資するためのガイダンス」が発出され5)、申請資料として使用することが出来るようになった。BCOP法は新鮮な角膜を用いているためDraize法での評点関与が大きい角膜への作用を直接的に評価することが可能であること、完成された眼球組織が物理的な強度を有しているために水に難溶な被験物質に対する許容範囲が広いなどの多くの利点がある。BCOP法の弱刺激性の評価については、in vitro刺激性スコア(in vitro irritancy score, IVIS)のcut-off値として3、25、55(他案として75)が提唱され、3以下が区分外、3.1~25が軽度の刺激性、25.1~55が中等度の刺激性、55.1以上が強刺激性と区分する予測モデルが示された6)。しかしながら、TG437では、cut-off値として3と55が採用されており、ニワトリ摘出眼球を用いた眼刺激性試験(Isolated Chicken Eye test: ICE)、短時間曝露試験法(Short Time Exposure test: STE)、EpiOcularTMを用いた眼刺激性試験(EpiOcular-Eye Irritation Test: EIT)等の他の眼刺激性試験代替法と同様にUN GHS分類の2A(Draize試験において21日間で完全に回復する眼の損傷)あるいは2B(Draize試験において7日以内に回復する眼の損傷)に相当する弱刺激性物質の判定が出来ないことが課題となっている。弊社ではOECDのTG437が発出されたことを受け、2011年よりBCOP法のバリデーション試験を開始し、2012年4月より受託試験を実施しているが、同時に多くの被験物質について検討を重ね、病理組織学的検査を組み合わせることで弱刺激性物質の判定基準を定めるための検討を続けてきた。ここでは、これまで弊社で取り組んだ希釈液、混合物及び製品(化粧品・医薬部外品)を含む117物質の検討結果より得られた弱刺激性物質評価についての考え方を紹介する。
  • 小野寺 博志, 甲田 章, 重見 亮太, 西山 義広, 朝比奈 政利, 原田 聡子
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 73-76
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     眼は、狭い箇所に多種の組織が均衡を保ちながら機能している。どこの部位が傷害されても有害事象は視力への影響であり、新薬開発の過程で眼の構造・機能に薬剤の影響が疑われた場合、開発遅延や中止につながる。眼病変が原因で市販後に撤退した医薬品はないという報告(1990~2007年)1)はあるものの、過去にはキノホルムなどの薬害事例もあり、臨床試験や市販後の副作用等で眼への影響が多く報告されている。現在も臨床で眼に対する副作用報告のある薬剤は存在している2)
     ヒトは外部情報の約80%を視覚から得ていると言われており、視覚を喪失した場合、Quality of Life(QOL)は大きく低下する。そのため、薬剤の眼への影響についてリスク評価を行う重要性は極めて高い。しかし、非臨床安全性試験における眼毒性評価は、ICH S4「反復投与毒性試験のガイドライン」の一般状態観察、眼科学的検査及び病理組織学的検査によってなされるが、具体的な内容については触れられていない。また、実験動物においては動物種により構造や自然発生病変の種類や頻度が異なることが知られており、薬剤投与に起因する毒性所見との鑑別には検査技術の習得と背景データ集積が極めて重要である。
     安全性評価研究会の2016年の春セミナーでは、非臨床安全性試験における眼毒性評価の現状を把握するため、眼毒性領域の専門家に講演頂き、その後、現場レベルでの眼毒性評価について、Q&A形式で情報交換を行った。本稿では、その際に議論した内容の一部をQ&A形式で紹介する。
  • 黒岩 有一
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 77-82
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     ヒトが社会生活を営む上で感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)は重要な機能である。感覚器に対する毒性が致死的となることは稀だが、患者のQuality of Life(QOL)を大きく低下させてしまう重篤な毒性となる。そのため、薬剤により引き起こされる薬剤性難聴も重篤副作用の一つと認識され、臨床現場においても注意が払われている1)。難聴を引き起こす薬剤には、フロセミド、エリスロマイシン、アスピリン、キニン、インターフェロンなどの可逆的な障害をきたすものと、アミノ配糖体系抗菌薬、白金製剤のように不可逆的な障害をきたすものがある2)。これまでに130種類以上の薬剤や化合物について聴覚毒性との関連が報告されているが、その毒性発現機序は明らかになっていないものも多い3)
     実験動物での聴覚機能の評価方法として行動学的検査や電気生理学的検査があるが、現在はAuditory Brainstem Response(聴性脳幹反応: ABR)による聴覚機能評価が中心となっている。FDAのガイダンス「剤型変更および投与経路変更薬剤に関する非臨床安全性評価」においても、外耳道または内耳に投与する薬剤についてABRによる聴覚評価と組織学的評価を組み合わせることが推奨されており4)、非臨床においてもその有用性が認識されている。本稿では、このABRを中心とした聴覚毒性評価法について紹介する。
  • 小野寺 博志, 有江 裕子, 若松 正樹, 松下 聡紀, 宮田 英典, 黒岩 有一
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 83-87
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     薬剤性聴覚障害はアミノグリコシド系抗菌薬、白金製剤、ループ利尿薬等で知られ、ヒトでは蝸牛/前庭障害に伴う難聴、耳鳴り、耳閉感及び聴力消失が報告されている。通常の医薬品開発において聴覚毒性試験を実施することは稀だが、内耳有毛細胞の消失や血管条の重度傷害は不可逆的な聴覚障害につながり、それ自体開発継続の可否の検討が必要となるCriticalな毒作用となり得る。このため、開発候補品でその懸念が生じた場合は適切な聴覚毒性評価を実施してその影響を見極める必要がある。
     2016年度の安全性評価研究会の夏のフォーラムでは、「聴性脳幹反応(ABR)を用いた聴覚毒性評価」について株式会社ボゾリサーチセンターの黒岩有一氏に講演いただいた。続くグループディスカッションでは、黒岩氏を交えて実務担当者の視点から現場レベルで聴覚毒性評価に関する情報交換を行った。本稿では、その際に議論した内容の一部をQ&A形式で紹介する。
レクチャー3 トランスレーショナルリサーチ
  • 新見 伸吾
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 88-98
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     非臨床における安全性評価の主な目的は、1)ヒトに適用する初回投与量とその後の増量計画を設定すること、2)毒性の標的となる恐れのある臓器を特定し、その毒性が可逆的なものであるかの検討を行うこと、3)臨床でのモニタリングを実施する際の安全性評価項目を見出すことである。また、曝露量および投与量に基づく安全域を予測するために、臨床試験に先立って、適切な動物モデルを用いたファーマコキネティクス(pharmacokinetics: PK)試験を実施し、吸収、血中濃度およびクリアランスに関する情報がある程度得られていなければならない。このように、非臨床安全性試験は臨床試験の開始と継続を含めたバイオ医薬品の開発の可否を判断するうえで必要な要件である。しかしながら、ヒトに適用されるバイオ医薬品の多くは動物で免疫原性を示し、産生が誘導された抗薬物抗体(anti-drug antibody: ADA)により安全性試験結果の適切な評価を妨げる場合がある。このように、通常の動物モデルではADAが陽性の場合が多いため、ヒトにおける免疫原性を予測することはできない。
     本稿ではヒトと動物モデルにおける免疫原性の比較、ICH S6(R1)ガイドライン、免疫原性が非臨床におけるPKおよび安全性評価に及ぼす影響とその対処等について概説する。なお、本稿は、2012年に筆者が執筆した総説1)に安全性評価研究会2014年冬のセミナーの講演内容および最近の知見を加筆し、修正したものである。
  • 井上 正宏
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 99-104
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     培養技術に技術革命が起こっている。まずES細胞やiPS細胞を出発点とした様々な分化誘導培養が可能になり、さらには臓器由来の細胞を出発点として正常組織の培養が可能になってきた1)。がん細胞の培養法も従来のがん細胞株から初代培養、三次元培養へと大きくトレンドが変わりつつある。In vitro毒性試験の観点からすると、正常組織の特性を反映する培養には大きな可能性があるが、本稿ではそれには触れず、薬効試験の対象となるがん細胞の調製・培養法について解説する。我々が開発したcancer tissue-originated spheroid(CTOS)法とは細胞-細胞間接着を維持してがん細胞を調製培養する方法である。これまで初代培養では組織を単細胞に分離すること、あるいは組織そのものから始めることが常識であった。がんを単細胞として扱うことは、長い間がん細胞培養のスタンダードであり続けた。がん細胞株の樹立はがん組織を単細胞に分離することから始まり、継代培養する際にはきれいに単細胞にすることが求められる。しかし、実際には多くの固形腫瘍の大部分でがん細胞は集団として存在する。これから紹介するCTOS法は、集団としてのがん細胞の特性を明らかにするための、さらには新しい抗腫瘍薬を開発するためのプラットフォームになりえる。CTOS法に限らず初代培養法はヒト組織検体が出発点である。日常診療で廃棄の対象となる残余組織は貴重なリソースであるが、我が国では残余組織の利用は欧米と比較して大きく遅れている。このことはin vitro毒性試験にとっても大きな問題となっていて、抜本的な改革が必要である。
  • 鈴木 慶幸
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 105-111
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     腎障害は、医薬品開発において肝障害と並び懸念される副作用の1つである。従来、非臨床安全性試験では腎障害バイオマーカー(BM)として血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(sCre)、尿中総タンパク(uTP)及び尿中N-アセチル-グルコサミナダーゼ(NAG)等が使用されてきた。しかしながら、BUN及びsCreは腎臓に器質的変化が生じるまで変化しないことや、NAGは酵素活性があるためばらつきが大きいなどの問題を抱えている。従って、これら古典的BMは感度と特異性において十分とは言い難く、より早期かつ特異的に腎障害を検出できるBMが求められている。現在、これら問題を解決すべく、非臨床分野において新規腎障害BMが多く報告されており、特に試料採取時に侵襲性の低い尿中BMが注目されている。
     非臨床分野ではPSTC(米国Critical Path Instituteの安全性予測試験コンソーシアム)から7種(uTP、β2-マイクログロブリン、Cystatin C、Kidney injury molecule-1(Kim-1)、アルブミン、クラスタリン、Trefoil Factor 3(TFF3))1)、臨床分野では腎臓病学の国際的組織であるKDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)から5種(L-FABP、Cystatin C、Neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL)、Interleukins、Kim-1)2)の尿中BMが提唱されており、日本腎臓学会のCKD診療ガイドライン20133)にも新規尿中BM(uTP、アルブミン、α1-マイクログロブリン、β2-マイクログロブリン、L-FABP)の有用性が記載されている。また、薬剤性腎障害診療ガイドライン20164)にもL-FABPとNAGが記載され、最近では日本腎臓学会を含む5学会合同でAKI(急性腎障害)診療ガイドライン20165)が発行され、AKIの早期診断におけるL-FABPとNGALの有用性が記載されている。
     我々は、これらの内、本邦発のBMで日本及び欧州において腎尿細管障害の体外診断薬(尿細管機能障害を伴う腎疾患の診断の補助)として認可されているL-FABPに着目し、非臨床安全性試験への応用を検討し、非臨床から臨床への橋渡しを目指している(図1).
  • 南谷 賢一郎
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 112-118
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     腎臓は、その機能や構造の特徴から薬剤の影響を受けやすい臓器の一つであり、薬剤誘発性腎障害を早期に検出や診断することは、重篤な副作用の回避や適切な薬剤治療に重要である。現在、非臨床試験や臨床での腎障害の検出には血中尿素窒素(blood urea nitrogen: BUN)や血清クレアチニン(serum creatinine: SCr)がバイオマーカーとして汎用されているが、どちらも腎障害に対する検出感度が低く、腎機能が50%程度低下して初めて変動が認められる1-3)。また、腎臓以外の障害や、食事、脱水、栄養状態等の生理的な変動によっても影響を受けるため特異性も十分とはいえない2,4-6)。こうしたことから腎障害を早期かつ特異的に検出可能なバイオマーカーが望まれている。腎障害の検出には尿検査も汎用されており、非侵襲的に尿を回収できることが利点として挙げられる。
     2006年にCritical Path Instituteにより設立された安全性予測試験コンソーシアム(Predictive Safety Testing Consortium: PSTC)の腎毒性作業部会では23種のラットの尿中腎障害バイオマーカーについて検討され、7種(kidney injury molecule-1(Kim-1)、アルブミン、クラステリン、trefoil factor 3(TFF3)、総蛋白、シスタチンC、β2-マイクログロブリン)の尿中腎障害バイオマーカーの有用性が示された7-10)。PSTCから推奨された7種のバイオマーカーに関しては、2007年に米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品庁(EMA)、2010年に医薬品医療機器総合機構(PMDA)においてその適格性が確認され、既存の血中腎障害バイオマーカー(BUN、SCr)との併用使用を前提として、非臨床試験におけるラットの急性腎障害(acute kidney injury: AKI)を検出する際の付加的な情報を与えるバイオマーカーとしての有用性が認められた。PSTCの報告以降、尿中腎障害バイオーカーに関する研究が精力的に行われているが、腎障害物質の反復投与による亜急性から慢性の腎障害の発症や病変進展過程において、腎臓の病理組織学的変化と尿中バイオマーカー変動との関連性を詳細に解析した報告は少ない。PSTCからPMDAに提出された薬剤誘発性急性腎障害に係るバイオマーカー相談においても、PMDAからは慢性的な腎障害の評価にあたってAKIのバイオマーカーが有用であるか否かの検証や、腎臓における病変が出現するまで並びに病変が消失または回復するまでの尿中バイオマーカー変動を評価する必要性が求められている11)
     本稿では、薬剤の反復投与により惹起される亜急性から慢性の腎障害の早期検出や病変進展のモニターに使用可能なバイオマーカーを探索した結果を紹介する12)
  • 米澤 豊
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 119-125
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     光毒性を有する医薬品は、患者の日中外出を制限してQOLを大きく低下させる。また、乾癬患者におけるソラレン長波長紫外線療法(psoralen and ultraviolet A therapy: PUVA)等の皮膚疾患に対する紫外線照射療法において、光毒性を有する医薬品の使用は治療の妨げとなる。このような光毒性のリスクを回避するため、医薬品開発では候補化合物の光毒性試験を実施して光毒性の有無を確かめている。
     光毒性評価には背景データが豊富であるという理由からモルモットが多用されてきた1)。しかし、2013年に発行されたICH S10ガイドライン2)において、光毒性評価に用いる動物はモルモットに限定されず、マウス及びラット等の様々な動物種を用いて可能と定義された。さらに、同ガイドラインには、「In vivoの光毒性試験を実施する場合には、試験をデザインする前に、化合物の薬物動態学的プロファイルに関する情報を得ておくことが望ましい。これは、動物への照射をTmax付近にて確実に行い、意図する臨床曝露に対応して適切な試験期間を選択できるようにするためである。」と記載されている。すなわち、光毒性評価を実施するためには、事前に紫外線照射時期を決定するための血漿中濃度測定が必要であることが、本ガイドラインにより規定された。
     光毒性評価をモルモットで実施する場合、毒性評価に先立ち、血漿中濃度測定及び測定方法のバリデーション試験が必要となる。この点において、一般毒性試験に多用されるSprague-Dawley(SD)系ラットであれば、光毒性評価実施前にファーマコキネティクス(PK)評価及びトキシコキネティクス(TK)評価試験が実施されており、それらの試験データを用いて照射時期を設定することが可能となる。そこで今回、試験の簡略化を目的としてSD系ラットを用いた光毒性評価が可能か否かを検討した。
     また、最近の毒性試験の傾向として、試験期間の短縮及び動物数の削減を目的とした一般毒性試験への各種毒性評価の組込みが検討されており、毒性質問箱17号(サイエンティスト社、2015年)においても一般毒性試験における遺伝毒性評価及び安全性薬理評価の組込みに関するレクチャーが取り上げられた。遺伝毒性及び安全性薬理評価の組込みに関しては、それぞれICH S2(R1)3)及びICH M3(R2)4)ガイドラインにおいて、「反復投与する場合、科学的に正しければ一般毒性試験に遺伝毒性の指標を組み込むことを考慮すべきである。」、「(安全性薬理試験及び薬力学的試験は)使用動物を削減するため、in vivoで評価する場合には、いずれも、可能な範囲内で、一般毒性試験に組み込んで実施することを考慮すべきである。」との記載があり、レギュラトリーの面からも推奨されている。
     光毒性評価に関しても、FDAの光毒性評価のガイダンス5)において、「Assessments of photoirritation may be incorporated into ongoing general toxicity studies in some circumstances.」と記載されていることから、一般毒性試験への組込みの可能性を検証するために、一般毒性試験に多用されるSD系ラットを用いて、光毒性評価の組込み検討を実施した。
後進へ伝えたいこと
  • 黒岩 幸雄
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 126-132
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     安全性評価研究会編集企画委員会より、毒性質問箱の執筆依頼を受けましたが、今年86歳になる老人が現役から離れて20年も経過し、少し脳細胞の反応が鈍くなり、きちんと書けるかどうかはわかりませんが、一生懸命努めてみます。松本サリン事件のときのお話ですが、私は当時、自治医科大学の藤村教授より薬剤師研修会の講義を頼まれており、朝7時過ぎに家を出るため、6時のニュースを見るためにテレビをつけた途端、信州大学の全田教授(薬剤部長)がテレビに出られて、コリンエステラーゼ活性の低下と瞳孔の縮瞳について盛んにおっしゃっており、何事が起こったのかと思い、その原因物質はなんであるかとずっと自治医科大学に着くまで考え続けておりました。ここでは、私のメインテーマであるサリンのことに関してお話したいと思います。その前に、私に与えられた後進へ伝えたいことを研究も振り返りながら書いてみたいと思います。
  • 仮家 公夫
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 133-139
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     若い人たちへの一言との編集者からの依頼がありました。今まで執筆しておられる尊敬する先生達とは、違った経験を語るのも読まれる方次第と引き受けました。これは小生自身がそうであった事によります。本誌の読者が広義に「安全性評価」に関わっておられるので、その分野での経験を中心に折々に感じた事などを回顧させて頂きます。
  • 海野 隆
    原稿種別: その他
    2017 年 2017 巻 19 号 p. 140-146
    発行日: 2017/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     安全性評価研究会編集企画委員会より「後進へ伝えたいこと」という「お題」を頂戴した。まだまだ若いつもりだったが、昨年は仲間や、子供・孫たちから古希の祝いをしてもらい、否応なく爺さんの仲間入りし「後進に伝える」年齢になってしまった。
     経歴のところにも書いたけれど、所長としてお世話になった株式会社JCLバイオアッセイ(現シミックファーマサイエンス株式会社)の西脇ラボを3年前に退職し、数社の製薬関係企業にコンサルタントとしてお世話になっている。
      製薬企業からちょっと距離をおいてみるとそれまで見えなかったことも見えてくる。そのことを含め、後進に伝えたいことを書いてみたい。
編集後記
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