谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
2018 巻, 20 号
谷本学校 毒性質問箱
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
はじめに
肝毒性評価
  • 倉橋 良一
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 1-8
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     肝臓は薬剤の代謝・排泄に関わる最も重要な臓器であり、その機能ゆえに薬剤の影響を受けやすく、重篤な副作用を起こしやすい臓器とも言える。そのため、非臨床開発の早期段階から薬剤による肝毒性を検出し、回避することは医薬品開発の成功確率を高めるうえで重要な課題と考えられる。図1は市場から撤退した薬剤の有害事象例の割合を示す1)。有害事象の中で最も多いのは心血管系に関する有害事象であるが、肝毒性もほぼ同様な割合を示していた。
     心血管障害に対しては、ICH-S7Bのガイドライン2)にも示されている様にQT延長などはin vitroで精度よく予測できる手法が確立されており、この有害事象による医薬品開発の失敗事例は少なくなることが期待される。一方、肝毒性に関しては、FDAからdrug induced liver injuryに関する臨床試験でのガイダンス3)がリリースされているが、非臨床では一般毒性などのin vivo以外に確定に至る手法は未だない。毒性試験では動物に一定の期間、薬剤を投与する必要があり、そのために必要な原薬量は相当量に及び、限られた薬剤での実施が余儀なくされる。肝毒性を効率良く検出するには、必要な原薬量が少なく、high throughput screeningが可能となるin vitro評価系の確立が待たれる。本稿では肝毒性評価について最近の所見を交えながら、in vitro評価系の確立に向けて薬物動態がどの様に関与していくべきかを論じたい。
  • 加国 雅和
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 9-14
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     「ヒト肝細胞キメラマウス」と称されるマウスが生命科学研究に利用され始めてから既に10年以上が経過した。当社が生産する「PXBマウス」は、「ヒト肝細胞キメラマウス」の草分けの1つとして、多くの生命科学研究に利用されている。PXBマウスの主要な用途は創薬研究であり、現在までの実績においてはC型肝炎やB型肝炎などのウイルス性肝炎の感染予防や治療薬開発への利用頻度が最も多い。一方ここ数年、薬物動態研究や安全性研究に利用される頻度が飛躍的に増えており、その傾向は今後も持続・増加することが期待されている。
     PXBマウスが薬物動態研究や安全性研究に利用される頻度が増えている背景は、このモデル動物がヒト肝細胞を持ち、ヒト肝細胞が関わる薬物動態や安全性の研究課題に対して有意な結果を生み出していることにある。特に薬物動態分野においては、Miyamoto1)らにより29種類の化合物を対象に、これらの化合物のヒトでのPKパラメーターの実測値に対してPXBマウス、サル及びラットで得られたPKパラメーターからsingle-species allometric scalingを用いて予測した値を比較した結果、PXBマウスのものが最も一致率が高かったこと、安全性分野においてはFoster2)らによって、Troglitazoneによるヒト特異的肝毒性発生メカニズムを示唆する研究成果がPXBマウスの利用によって示されたことは代表的な研究成果である。
     しかしながら、PXBマウスだけでなくヒト肝細胞キメラマウス全体を対象としても、薬物動態や安全性の研究において、これらのモデル動物を利用することの有用性を示す実例は未だ限られている。
     今回は、PXBマウスを利用した安全性研究について、いくつかの実例を紹介すると共に同研究をサポートするためのいくつかのツールについて紹介する。
  • 原田 聡子, 重見 亮太, 南谷 賢一郎
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 15
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
  • 太田 優
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 16-18
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     薬物性肝障害(drug-induced liver injury: DILI)は新薬開発における臨床試験の中止、もしくは市販後の市場撤退の主要な原因であり、予測性の高い評価系が求められている。薬物性肝障害の評価としては、動物試験が一般的に用いられているものの、必ずしもヒトでの作用を示していないことが知られている。そのため、ヒトの細胞を用いた評価モデルの構築が求められているが、生体内の複雑な構造・機能を再現することは困難であった。
     Organovo Holdings, Inc.(以下、Organovo社)が開発したExViveTMヒト3D肝臓組織は、複数種類の細胞で構成された三次元組織モデルである。独自のバイオプリンティング技術を用いることで生体内に類似した構造、及び機能的特徴を再現することを可能にした。
     本項では、Organovo社のExViveTMヒト3D肝臓組織の構造・機能的な特徴、及び薬物性肝障害を誘発することが知られている代表的な薬剤での評価例について紹介する。
  • 森 光二
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 19-23
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     一般に反応性代謝物はグルタチオン(GSH)に抱合されて解毒されることから、反応性代謝物による肝障害の検出には、GSH枯渇剤であるL-ブチオニン-(S,R)-スルホキシイミン(BSO)を投与したGSH枯渇モデル(BSOモデル)が用いられている。しかしBSOモデルは、ほとんどが短期曝露による評価であり1-3)、臨床でみられる特異体質性の薬物性肝障害idiosyncratic drug induced liver injury(IDILI)が長期服用によって発症することが多いことを踏まえるとIDILIの発症要因を十分に反映できているとは言い難い。BSOモデルにおいて、長期曝露評価を困難にしている要因としては、BSOが肝臓のみならず全身のGSHを強力に枯渇させ4)、忍容性が低下するためと推察される。そこで、IDILI発症をより模倣した長期曝露が可能な肝障害評価モデルを模索するため、GSHの日内変動に着目した。
     GSH合成に必要なアミノ酸の一つであるシステインは、肝臓内の含量が低いためGSH合成の律速因子となっている5)。肝臓のシステイン量は摂餌に大きく依存し6)、摂餌により肝GSH量が上昇する。そのため、夜間に摂餌をするマウスでは、肝GSH量は正午までが比較的高く、その後減少する7-9)。一方、腎GSH量は一日を通してほとんど一定であり10)、GSHの日内変動には臓器間差が存在する(図1)。したがって、肝GSH量のみが低い時間帯(明期後8時間)に評価化合物を投与することにより、肝臓以外への影響を最小限に留め、BSOモデルでは困難であった長期曝露評価が可能になると考え、本検討を行った。
新規評価技術
  • 山根 順子, 藤渕 航
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 24-29
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     化合物の毒性評価は製薬業界に限らず、食品や化学業界など様々な分野で必須であるが、実際に人体を用いて毒性影響を検証することは許されない。従来は代替法としてマウスなどの動物モデルを用いた検証が行われてきたが、人体内の作用機序と異なることも少なくないため、動物モデルを用いて検証された結果を直接ヒトに外挿できない事例も多い。この様な理由から、ヒトの細胞や組織を用いた効率の良い化合物の毒性予測・評価系の構築が長らく望まれていた。近年ではiPS細胞のような倫理的問題の少ないヒトの多能性幹細胞から特定の細胞へと分化させた細胞を用いて化合物曝露を行い、細胞の挙動を検証することで毒性評価を行うことができるようになったが、毒性評価に用いるための安定した標準細胞を作製することは非常に困難である。そこで我々は、まず、株が最も安定しているヒトES細胞を未分化のまま化合物曝露を行い、そこから生じる遺伝子発現量の変化を基に遺伝子ネットワークを構築し、さらに機械学習の技術を組み合わせることで高精度の化合物毒性予測システムの構築に成功した1)
     この成果は安定なヒト幹細胞または分化細胞を用いると毒性判定が可能となることを示唆しており、産業界で大きな反響を受け、コンソーシアム(幹細胞を用いた化学物質リスク情報共有化コンソーシアム)を2017年に設立するに至った。本コンソーシアムでは、ヒトES細胞及び安定な分化細胞を用いて迅速・安価・正確な化合物曝露による遺伝子発現情報を蓄積し、有効利用できるデータベース構築を目指す。
  • 諸星 茜, 宮田 治彦, 伊川 正人
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 30-36
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     ヒト疾患の原因を解明するためには、培養細胞等を用いたin vitroの解析に加え、個体レベルでの遺伝子機能の解析が重要となる。特にヒトと同じ哺乳類に属するマウスは、遺伝子改変による疾患モデル作製によく用いられている。これまで遺伝子改変マウスの作製には、ES細胞における相同組換えを利用した方法が広く用いられていたが、工程が多く時間や費用がかかるため、研究を進める上で大きなハードルとなっていた。しかし近年、新たなゲノム編集技術が開発され、従来法に比べて容易に遺伝子改変マウスを作製できるようになり、状況は大きく変化した。本稿ではゲノム編集技術の1つ、CRISPR/Cas9システムに焦点を当て、遺伝子改変マウスの作製方法を概説するとともに、精子機能解析への応用例を示す。
  • 森 大輔
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 37-41
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     皮膚に適用する医薬品や化粧品、または農薬などの開発において、有効性や安全性の観点から経皮吸収性は重要な評価項目の一つである。特に医薬品の皮膚適用製剤は、OTC(over the counter)医薬品として広く使用される消炎鎮痛用の貼付剤や塗布剤ばかりでなく、全身作用性の経皮吸収型製剤(transdermal therapeutic system: TTS)も近年増えており、経皮吸収性評価の重要度は増しているように思われる。
     経皮吸収型製剤は、薬効の持続(投与頻度の軽減)や初回通過効果の回避(バイオアベイラビリティの向上)などの長所を有する薬物送達システム(drug delivery system: DDS)であり、1979年米国でスコポラミンパッチ(乗物酔い防止薬)が誕生して以来約40年の間に日本でも十数成分で製剤化されている(表1)
     経皮吸収を伴う医薬品の研究開発においては、全身の薬物動態はもちろんのこと皮膚透過性の評価が重要であり、皮膚組織を用いたin vitro試験や実験動物を用いたin vivo試験のほか、近年はコンピュータ(in silico)による数理モデル解析や統計的予測も行われている。
     In silico手法に着目すると、物性パラメータ(分子量やLog Pなど)から皮膚透過係数(skin permeability coefficient)を予測するQSPR(quantitative structure-“permeability” relationship)が多くの研究者によって報告されているが、パッチや軟膏などの製剤に対する経皮吸収性予測は、有効成分の物性以外に基剤や添加物(吸収促進剤など)も影響するために困難である。一方で数理モデル解析は現象論に基づくため、有効成分の物性以外の影響因子が存在する場合でも、それらをモデルやパラメータとして考慮することで臨床条件に即した予測が可能であるが、モデルが複雑化した場合にパラメータの数が多くなり決定作業が負担になることもある。
     本稿では、経皮吸収の一般的なin vitro試験で求めたパラメータを数理モデルに適用してヒト血中濃度を予測するin vitro-in silicoアプローチについて、筆者らが実用化した経皮吸収シミュレーションソフトウェアの内容と研究事例を交えて概説する。
  • 山辺 英史
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 42-47
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     医薬品の研究開発現場では、開発のコストを下げることやスピードアップを目的として(定量的)構造活性相関((quantitative) structure activity relationship: (Q)SAR)を含めたin silico解析を行い生体内に投与したときの活性や毒性を予め予測することが行われている。また、医薬品や一般化学物質の規制に関わる国際機関においても簡便かつ動物試験をせずに安全性を評価できる手段としてin silico解析の重要性を説いており、その手法開発と利用拡大を進めている。2016年1月に適用されたICH M7ガイドライン(潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理ガイドラインについて)中には、「コンピュータによる毒性評価は、細菌を用いる変異原性試験の結果を予測する(Q)SAR法を用いて実施すべきである」、といった指針も示されるようになった1)。本稿では、こうした中でその重要性が注目されているMultiCASE Inc.(以下、MultiCASE社)開発の毒性予測ソフトウェアCASE Ultraを題材にその予測システムについて解説する。
  • 飯田 誠
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 48-51
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     In vitro及びin vivo両アッセイは、医薬品開発において欠かすことができない手法であるが、両アッセイの相関性は決して高いとは言えず、間を埋める試験方法としてex vivoをはじめ様々なアッセイ方法が開発されているが、実用的かつスループットの高いアッセイ系は多くない。特に、安全性の観点においては、動物実験でのヒトの予測は困難、十分な毒性のメカニズムが知られていない等、まだまだ問題点は多い。
     従来のアッセイ法で近年見直されてきているのは、ヒト細胞を使ったフェノタイプ(表現型)スクリーニングである。In vitroでの培養方法の発展、フェノタイプスクリーニング創薬の進歩、フェノタイプスクリーニングによるメカニズム解明等から、新たな手法としてターゲット探索、作用機序解明、毒性解明への有効なツールとして用いられている。フェノタイプアッセイは、特定の分子のみを標的としたアッセイと比較して、複雑な結果になる可能性は高いが、細胞機能として最終結果が得られる。
遺伝毒性
  • 森田 健, 濱田 修一, 宮内 慎, 川村 祐司, 甲田 章, 宅見 あすか, 有江 裕子, 近藤 千真, 西山 義広, 米澤 豊, 土居 ...
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 52-60
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     遺伝毒性は医薬品開発において重要な評価項目であり、安全性評価研究会でも継続的に議論をしてきた1)。2017年11月に開催された日本環境変異原学会第46回大会(濱田修一大会会長、東京)において、日本環境変異原学会と安全性評価研究会の共催シンポジウムが企画され、遺伝毒性試験に関する課題について活発な議論を行った。本稿では、共催シンポジウムで議論された内容を中心にQ&A形式で紹介する。
     2012年に発出された「医薬品の遺伝毒性試験及び解釈に関するガイダンス」(ICH S2(R1))2)では、標準的な遺伝毒性試験の組み合わせの選択肢として、哺乳類細胞を用いた遺伝毒性試験を実施する代わりに、2種類の異なる臓器におけるin vivo試験を選択できることならびに条件が合えば反復投与毒性試験に遺伝毒性評価を組み込めることになり、in vivo試験系による評価の重要性がより高まってきている。また、哺乳類培養細胞を用いた遺伝毒性試験では、in vitro小核試験が選択肢の一つとして新たに加えられ、これまで評価困難であった染色体数的異常、特に異数性が検出されるケースが増えてきた。近年、反復投与毒性試験において遺伝毒性を評価した事例が増えており、さらに小核試験とコメット試験を同時評価する事例も散見されている。これまで遺伝毒性試験はハザード評価が主目的であったが、反復投与毒性試験と同一または類似した投与量及び投与期間で実施することで、リスク評価としての役割が期待されている。しかし、リスク評価を適切に行うには課題も多いことから、今回はin vivo試験法の選択や用量設定に関する質問を取り上げた。また、in vitro小核試験の実施数が増えたことにより、in vitro染色体異常試験では検出困難であった染色体の数的異常(異数性)を起こす化合物が検出されやすくなったことから3)、その評価方法やヒトでのリスク予測についても取り上げた。Q&Aは以下の4つのトピックスから選択した。本Q&Aが遺伝毒性試験に関する皆さんの理解の一助となれば幸いである。
    1. 第2のin vivo試験の選択方法
    2. In vivo試験の用量設定及び評価方法
    3. 染色体数的異常の評価方法
    4. 遺伝毒性と生殖発生毒性の関連性について
3R
  • 渡邉 翔, 角﨑 英志
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 61-67
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     第三者認証機関であるAAALAC International(AAALAC)による認証の有無が、研究施設における実験動物の管理体制に対する評価基準の一つとして、世界的に浸透している。AAALACは2011年秋に認証前施設査察時の3つの基準を公示し、社会的動物に複数飼育(social housing;相性が良い同種同性の動物を2匹以上で飼育すること)を標準管理方法として求めている。医薬品開発の非臨床試験に用いられる動物種の一つである霊長類は社会的動物であり、欧米では複数飼育が標準とされている。しかし、本邦ではその導入が遅れており、動物福祉の観点からは後進国と言わざるを得ない。
     当社は、動物福祉の先進国である米国に子会社(SNBL USA;ワシントン州)を有する。また、中国及びカンボジアに繁殖施設を有し、集団飼育の環境下でカニクイザルの繁殖・飼育を行い、育成した動物を日本・米国の試験施設へ供給してきた。その強みとノウハウを生かし、当社の安全性研究所においても、2012年から霊長類の複数飼育に積極的に取り組んでいる。今回は、カニクイザルにおける複数飼育に関する、①施設の対応、②動物間の相性の確認方法及び③個別飼育と複数飼育での毒性評価パラメータの差異について得られた知見や検討結果を紹介する。
毒性質問箱20号発刊に寄せて
  • 鈴木 睦
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 68
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
  • 松本 一彦
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 69-74
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     谷学の皆様、毒性質問箱20号記念おめでとうございます。この記念すべき号に寄稿させていただくことに本会の設立者の一人としてとても感慨深いものがあります。
     本寄稿文は前半を本会発足したいきさつと変遷、後半を「毒性学から臨床副作用学への変身の奨め」として個人的な体験を綴ることで、若い毒性研究者のこれからの生き方に少しでもご参考になればと思います。
  • 野村 護
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 75-79
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     四谷のJT研修所で始めた勉強会が、毒性質問箱の始まりだったと記憶しているが、記憶違いだったかもしれない。テーマを決めてやったのか、ただ、その場で毒性試験のこんなところが判らないから教えてくれとの質問に答える形であったのは間違いないと思う。終了後の飲み会目的で集まっていたのかもしれないけれど、定例で開催するには参集者が少なく、テーマを聞いてから参加したのか、今では記憶の中から薄れてしまっているように思う。谷学定例会では少なくとも何回か苦言を呈して、質問者は不特定多数の方が居られるのに回答者は数人が、領域によっては一人が回答者となることがしばしばあり、不公平とまでは言わないが、私の知っていることを教えてあげているのだから、あなたも知っていることを皆に教えてよ……つまりgive and takeの始まりであったことを覚えているが、けしてgive and takeをモットーに集会があったのではないと記憶している。流石にリーダーを務めていた松本一彦さんが「この会はgive and takeをモットーとする」と受け入れてくれたことを嬉しく思った。毎回の参加が出来なかったのは、会社での開発研究が優先されていたからで、外すことのできない仕事として、例えば防音暗室でERGを測定中とか、無麻酔無拘束のラット心電図計測中とか、サルの尿中代謝物のペーパークロマト展開中とか、造影効果比較でX線撮影をやっているとか、脳脊髄液マイクロダイアリシス採取や、肝薬物代謝酵素測定中といった枚挙に暇のない毎日によるものであったことだけは確かだった。特に薬事対応で厚生省からの照会事項対応に追われている時など、結構乱暴な言葉で断っていたことが昨日のように思い出される。
     この谷学で開催されていた「毒性質問箱」が日の目を見たのは1998年の事、本を出版するというので「出版を引き受けてくれる奇特な出版社なんてあるの?」と松本さんに聞くと「ノムも知っているサイエンティスト社の大野君…」商売度外視でバイタリティーのある、ズカズカとヒトの胸の内に踏み込んでくる蛮人。いや、大野満夫さんは、マニアックな数学者であるが、教養を内に秘めた万人受けする一見文筆家の御仁で、結構高名な先生にも敬語は一切省略した語り口で執筆や講演を依頼してしまう不思議な魅力を持った男であった。松本さんからの依頼原稿なら適当に丸め込んでいたけれども、彼は妥協してくれないし、「貴方が最後だから頑張ってよ…」叱咤して締め切りに間に合わせてしまうという出版業界の裏を知り尽くした感じのビール大好きの小父さんだった。残念ながら彼は、道半ばして2006年8月突然死してしまうのだが、出版物の新たな継承者、中山昌子さんが出版社を承継して現在に至っている。こうして谷本学校改め安全性評価研究会編集委員会(委員長 菅井象一郎さん)の手で「谷本学校 毒性質問箱」創刊号が発刊された。その記事中の1995年8月の第4回奈川フォーラムのセミナーで、「安全性試験における統計解析-国内外の比較」と題して話したのだが、この内容は故大野満夫さんが主催した「医薬安全性研究会」の1994年7月の定例会で発表した、「一般毒性試験の統計手法における国際比較・現状と問題点」が原点であり、海外のCROを含む研究施設の統計解析手法と国内のそれを比較したものである。
  • 大野 𣳾雄
    原稿種別: その他
    2018 年 2018 巻 20 号 p. 80-86
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2022/06/28
    解説誌・一般情報誌 フリー
     裁判は、当事者の人生に大きな影響を与えるものであり、その判断は真実に基づかなければならない。一方、最近の裁判では科学的証拠や判断が重要となる事が多い。そのような判断には専門的な知識・経験が必要であり、問題となっている分野を専門とする科学者の裁判への関与が求められる。しかし、多くの科学者は多忙であり、裁判には多くの時間をとられる。さらに、いわゆる御用学者としてのレッテル貼りへの恐れ、また、科学的に不確実なことに証言を求められることへの危惧もある。このようなことから証言台に立つことを避ける方が多いと思われる。しかし、現在は、一般人でも裁判員制度の下で協力を求められる時代である。科学者の証言が欠かせず、自己に証言能力があると考えられる場合には、協力を惜しむべきではないと考えている。私は、現役時代に3つの裁判に関係し、証人として法廷で証言してきた。もしかしたら、そのような経験のない方の参考になるかも知れないと考え、紙面を借り、その概要を残しておく。
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