本研究では、送り手がメッセージを送った瞬間に「既読」が表示される状態を「オンライン状態」と定義し、オンライン状態のLINEコミュニケーションにおける話し合いについて分析及び考察を行った。日本語母語話者と日本語学習者合わせて3名で構成されたグループ2組を調査対象として、LINEで「話し合い」を行ってもらった。本調査では、発話プロトコル法を採用しただけではなく、スマートフォンの操作も合わせて録画し、さらに、フォローアップ・インタビュー(以下F.Iと称す)も実施した。この調査方法により、以下の事柄が観察可能となった。
(ⅰ)発話プロトコル法によって、やりとりとしては文字にならなかったが、どのようなことを考えながらやりとりを行っているのかが分かる。
(ⅱ)スマートフォンの画面を録画することで、文字にして送ろうとしたが送らなかった
過程が観察できる。
この調査方法を採用したことにより、各参加者の一方的な評価だけではなく、常に互いを評価する様相を捉えられ、さらに、その先に起こる言語行動についても、考察が可能となった。つまり、本研究は会話参加者の「双方向評価」と「産出」まで射程に入れ、分析及び考察を行った。
結果として、会話参加者は進行中の話題の流れを止めたり変えたりすることを回避していることが明らかになった。F.Iより、会話を円滑に進めることと、最後に画面で見た時に会話が流れとして繋がっていることという2点を重視しているという結果が得られた。また、意図的なボケ発話ではないがツッコミをしたくなるような発話に対して、発話プロトコルではツッコミをしているが、実際はツッコミのメッセージを送ることはせず、雑談的な要素を抑制している可能性があることも分かった。総合的に分析を行った結果から、オンライン状態のLINEコミュニケーションにおける話し合いでは、「会話参加者は話題の本筋から逸脱しようとせず、且つ逸脱させようとせず、目の前にある課題を達成することを優先させ、課題を達成するために雑談を抑制する」という規範が存在する可能性が示唆された。
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