待遇コミュニケーション研究
Online ISSN : 2434-4680
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16 巻
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研究論文
  • コミュニケーションの観点から
    杉崎 美生
    2019 年 16 巻 p. 1-17
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル オープンアクセス

    「なんか」は日常的に会話に用いられる語で、従来多くの機能が取り上げられ、分析されてきた(鈴木2000、内田2001、飯尾2006)。しかし「なぜ「なんか」という語を発話するのか」という話し手の動機づけに関しては、未だ明確な答えは示されておらず、十分に議論が尽くされていないと考える。本研究では、「びっくりしたこと」を語る会話データを用い、特に会話参与者が自らの経験を語る自己開示場面において、「なんか」と共に現れる語や表現などの言語現象に着目し、「話し手がどのように「なんか」を用いているのか」を考えることから、そのコミュニケーション上の働きを分析した。

    その結果、話し手は心的に漠然とではあるが、これから話そうとする内容をイメージとして持っているときに、「なんか」を発話していることが確認された。自己開示場面において、話し手は過去の出来事を想起しながら話すことが多いため、発話内容が順序立てられていない場合や、正確ではない表現を用いる場合もある。そのような場面で、「なんか」は言いよどみや修復と共起し、「漠然としたイメージで話を進めているため、正確とは言えないかもしれないが」という話し手の内的な感情を聞き手に伝えつつ、談話を進めていく働きを担っていた。また「なんか」は、発話内容に対して、その時感じた心の内を表現するとき、心内発話、オノマトペ、発話の引用などの直接経験と共に発話され、聞き手に対し、「正確とは言えないかもしれないが、このように感じた」と、自らの認識を示すことに貢献していた。これらのことから、「なんか」は、話し手の語りがまだ漠然としていることを聞き手に示しながら、語りを駆動させる働きを持ち、心内発話、オノマトペ、発話の引用などの直接経験を導きながら、発話内容に対する自らの認識を伝えるという、コミュニケーション上の重要な役割を果たしていると考えられる。

  • ビジネスメールの事例から日本語教育における扱いを探る
    平松 友紀
    2019 年 16 巻 p. 19-35
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は、日本語教育を視野に、ビジネスの経験者である日本語話者(日本語の母語話者および上級日本語レベルの非母語話者)によるメールの事例調査から、主体の場面認識と、その認識に基づくコミュニケーション行為の共通性と個別性を検討したものである。本研究では、送り手によるビジネスメールの作成とフォローアップインタビュー、受け手による受け止めについてのインタビュー調査を行った。本稿では、ビジネスシーンにおけるメーリングリスト(以下ML)を用いた報告会案内メールを取り上げた。調査の結果、受け手は、主に上司やMLの受信者という人間関係における認識から、上司の情報記載の誤りという事情を報告会の案内メールにおいてどのように伝えるかに着目していた。重視していた受け止め観点は、「上司に対する配慮」や「正しい情報が共有者に伝わるか」などの共通性があった。一方、調査協力者が最良と判断したメール文には、ばらつきがあり個別性が高いことが明らかになった。「配慮が必要だ」、「正確な情報が伝わることが大事だ」といった共通した規範のようなものを重視しながらも、個々のコミュニケーション主体が、何に配慮を感じ、何を情報のわかりやすさと捉えたかといった判断には、個々人の認識による個別性が生じたと解釈できる。そうした個々人の認識における、他者との共通した規範や、個々に捉えたその場面における最適さといった、複雑で動的な視点を、日本語教育においても考えていくことが求められるだろう。日本語教育においてどう扱うかについては、本事例からは、まず共通性のある規範を共有した上で、個別性の高いコミュニケーション行為については、なぜそのような表現行為・理解行為となったのかを主体が考えていくといった教室活動などが考えられる。主体の意識に主眼を置き、主体の内で共通性と個別性を往還させていくことができるような学習の場が重要になる。

  • 李 婷
    2019 年 16 巻 p. 37-53
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル オープンアクセス

    メタ言語表現の使用と選択は、「待遇意識の表れるところ」(杉戸1983,p.38)である。本稿では、日本語教育の観点から、学習者の待遇意識の向上を目指して、「人間関係」「場」「意識」「内容」「形式」及びその組み合わせに言及するメタ言語表現を取り上げ、読み取れる表現主体の待遇意識を探った。

    「人間関係」への言及として、「私、友達として言う。」、「先輩だけに言っちゃいますけどね、」など、「場」への言及として、「これ終わったら、話あるんで、外、付き合ってもらっていいんですか。」など、「意識」への言及として、「恩着せがましく言うつもりじゃないけどもね、」など、「内容」への言及として、「私ごとでございますが、」など、「形式」への言及として、「餌?餌ということばはよくないですね。」など、組み合わせへの言及として、「今日はさ、せっかくこうやってみんな集まったから、特別に俺がボクシングをやってる理由を教えてやるよ。」などを取り上げ、メタ言語表現の使用される文脈を明らかにした上で、読み取れる待遇意識について記述分析を試みた。

    本稿の結論として、以下の5点が得られた。①メタ言語表現は抽象度の高い待遇意識を具体的に示すことができ、待遇意識の向上に繋がる有効且つ重要な学習項目である。②「人間関係」「場」「意識」「内容」「形式」のどれか一つだけに言及するメタ言語表現であっても、コミュニケーションの全体を意識し、その連動関係の中から待遇意識を捉える必要がある。③本稿で提示した用例を基本として、より多様なメタ言語表現を学習することによって、待遇意識のさらなる向上が期待できる。④学習する際に、メタ言語表現の使用された文脈をおさえる必要がある。⑤なぜ「人間関係」「場」「意識」「内容」「形式」に言及するのかを考えることで、これらの枠組みに対する気づきが促され、待遇意識に対する認識と理解の向上に結び付くだろう。

特別寄稿
  • 井上 優
    2019 年 16 巻 p. 55-71
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル オープンアクセス

    コミュニケーションにおいて二つの言語の対応表現の使われ方が異なる場合、①対応表現の意味は同じだが、両言語のコミュニケーション様式が異なるために使われ方に差が生ずるという場合と、②対応表現の意味が異なるので使われ方も異なるという場合がある。日本語と中国語の平叙文・確認文・疑問文・勧誘文は文脈の中での使われ方が異なるが、これは②のケースにあたる。すなわち、文タイプの選択に関わる基準が「日本語:話し手の外部世界(現実世界、聞き手の認識)」、「中国語:話し手の認識」のように異なるために、それぞれの文タイプが担う意味が異なり、文脈の中での使われ方にも差が生ずるということである。コミュニケーションの対照研究では、「日本語と中国語の〇〇文は同じ意味を表す」ということを暗黙の前提として観察結果の解釈がなされることがあるが、この前提は必ずしも成立しない。対照研究においては、文タイプと文の意味の関係は言語によって異なる可能性があることを十分念頭に置く必要がある。

  • 中国語社会と日本語社会の比較から
    薛 鳴
    2019 年 16 巻 p. 73-90
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は対人関係が言語行動に与える影響について考察したものである。問題の提起のきっかけは日本人と中国人の言語行動に見られる違いによるお互いに抱く違和感や誤解からである。その原因を対人関係の捉え方の違いに求め、言語行動と「人間関係」との関わりを軸に幾つかの枠組を提示し、先行研究を踏まえつつ独自の見解を展開しながら考察を行なった。まず“面子”がいかに人間関係の調整に作用し、中国人の言語行動を特徴づけているかについて分析を行なった。中国人と日本人の人間関係のあり方を示す図式を比較し、対人関係の捉え方の違いや中国人の“面子”と日本人の「世間」が、それぞれの関係図において関わり方や言語行動に大きな違いをもたらすことを明らかにした。次いでは人間関係の構築と維持にみる中国人と日本人の言語行動の違いを「フェイス」と“面子”の視点も入れて分析を加えた。そして最後の節では人間関係の表示としての呼称、なかでも親族名称を主眼に、北京で行なった調査をもとにその使用状況の実態を示し、新語・新用法の呼称の出現などで主に若年層においては多様化している一方、親族名称のソトないしヨソへの拡張的用法はとりわけ「対目上の人」においてはそれほど変化していないことが分かった。

  • 待遇コミュニケーションのキーワード
    坂本 惠
    2019 年 16 巻 p. 91-96
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では「待遇コミュニケーション」「敬語コミュニケーション」でのいくつかのキーワードについて考察した。

    「丁寧」と「配慮」は同じ文脈で使われることもあるが、意味、用法の違いがある。「丁寧」は「乱暴でなく、心を込めて十分に考えて行う」というような意味で、相手を想定していない場合も多く、行動の仕方、方法、行動するときの様式を表している。一方「配慮」は「ある状況に対して、多くは特別な状況や、不十分な状況であることを理解して、それに合った、特別な扱いをする」というような意味で、必ず相手を必要とする。

    「尊敬」は人に対して使われ、「その行動、言動がすばらしいものだと感じられ、その人を真似したいと思い、仰ぎ見る存在であると思う」ことを表し、「尊重」は対象は人とは限らず、「何かを特別なものとして軽視せず、そのものとして大事に扱う、認める」という意味で、行動を伴うものである。

    「敬意」は「尊敬」に近いが、主に人に使いその人を「尊重」する気持ちである。「誠意」は自分自身の相手に対する気持ちであるが、それをどのように示すかという意味で関連表現である。「誠意」をどのように示すかは文化、言語によって異なることが知られている。

    これらの語はよく使われているが、実際には定義が難しく、他の言語に翻訳することも難しい。注意して使う必要がある。

大会委員会企画
2018年待遇コミュニケーション学会春季大会・秋季大会研究発表要旨
  • 李 婷
    2019 年 16 巻 p. 113
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル オープンアクセス

    メタ言語表現とは、表現主体が自分や他者(相手/第三者)がそれまでに行った・いま行っている・これから行おうとするコミュニケーションに言及する言語表現である。メタ言語表現の使用と選択には、「待遇意識の表れるところ」(杉戸1983)である。本発表では、「人間関係」「場」「意識」「内容」「形式」及びその組み合わせに直接言及するメタ言語表現の例を取り上げ、これらのメタ言語表現から読み取れる表現主体の待遇意識を探った。

    「人間関係」への言及として、「高校中退の俺が言うわけじゃないんだけど、」、「先輩だけに言っちゃいますけどね。」など、「場」への言及として、「一日早いけど、今言っておくわ。」、「これ終わったら、話あるんで、外、付き合ってもらっていいんですか。」など、「意識」への言及として、「こんなこと言いたくないけどさ、」、「恩着せがましく言うつもりじゃないけどもね、」など、「内容」への言及として、「私ごとでございますが、」、「僕も本当のことを言います。」など、「形式」への言及として、「餌?餌ということばはよくないですね。」、「残念ながら、残念ながらという評価はしない方がいいんですけれども、」などを取り上げて、読み取れる待遇意識について分析を試みた。さらに、上記枠組みの組み合わせに言及するメタ言語表現として、「今日はさ、せっかくこうやってみんな集まったから、特別に俺がボクシングをやってる理由を教えてやるよ。」などを取り上げ、より複合的で連動的な待遇意識を探った。

    メタ言語表現の具体例から読み取れた待遇意識は、「人間関係」「場」「意識」「内容」「形式」が連動する中で捉えるべきであり、コミュニケーション行為の全体を意識する必要がある。たとえ「人間関係」だけに言及しているメタ言語表現であっても、待遇意識は「人間関係」だけに限定されるわけではない。具体的なコミュニケーション場面によっては、「人間関係」と「場」、または、「人間関係」と「内容」がより緊密な連動関係を見せている場合もある。コミュニケーションでは、表現主体は自分自身の待遇意識を自覚し、必要に応じながら、メタ言語表現などで待遇意識を相手に示すことができる。一方、理解主体は、メタ言語表現を初めとする言語使用を手がかりに、相手の待遇意識を読み取りながら、コミュニケーションを進めていくのである。

  • テレビの中の美化語の分析から
    滝島 雅子
    2019 年 16 巻 p. 114
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル オープンアクセス

    敬語接頭辞の「お」「ご」が付いた名詞に関して、日本語教育ではこれまで、尊敬語や謙譲語を中心に学習が行われ、美化語については積極的な学びが行われてこなかった。このため、日本語学習者の発話において、違和感につながる誤用がしばしば指摘される現状がある。本研究は、実際のコミュニケーションの1つのケーススタディーとして、テレビの情報番組で使われる美化語に注目し、それぞれの場面で美化語がどのような意識で使われ受け止められるのか、コミュニケーション主体(表現主体および理解主体)のインタビューを通して分析することで、日本語のコミュニケーションにおける美化語の様相を明らかにし、学習者の学びにつなげていくことを目的とする。

    調査は3段階で行った。まず、番組を一定量視聴し、放送の中で使われている美化語を抽出した。次に、その中のいくつかのシーンの美化語を対象に、表現主体の意識に関して番組担当アナウンサー7名に半構造化インタビューを実施した。そして、同様のシーンの美化語を対象に、美化語を受け止める側の理解主体の意識に関して、番組の視聴者(首都圏在住の20代~60代の男女36名)にグループインタビューを行った。調査の結果、美化語の主な意識には、表現主体がその場面(人間関係や場)をどのように捉えるかという意識(本稿では「待遇意識」と呼ぶ)と、物事をきれいに表現したり自分の品格を保持したりする意識(本稿では「美化意識」と呼ぶ)があることが明らかになった。一方、理解主体側も、美化語を通して「待遇意識」や「美化意識」を受け取っており、特に「美化意識」は、表現主体の性別と強く結びつき美化語の印象を左右していることが明らかになった。また表現主体は「美化意識」より「待遇意識」から美化語を使用し、理解主体は美化語を通して「待遇意識」よりも「美化意識」を受け止める傾向があることも明らかになった。

    これまで、「ものごとを、美化して述べるもの」(「敬語の指針」文化庁2007)と説明されてきた美化語を、「誰が誰に対して、何を、どんな場面で伝えるのか、あるいは、受け止めるのか」という待遇コミュニケーションの観点から観察することによって、表現主体・理解主体双方の多様な使い方・受け止め方が明らかになった。今後は、こうした多様な美化語のありようを踏まえた上で、日本語学習者が自己表現として主体的に美化語を使えるようにするための具体的な学習プランを考えていくことが課題である。

  • 見えないものから見えるもの
    望月 雄介, 立見 洸貴
    2019 年 16 巻 p. 115
    発行日: 2019/02/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、送り手がメッセージを送った瞬間に「既読」が表示される状態を「オンライン状態」と定義し、オンライン状態のLINEコミュニケーションにおける話し合いについて分析及び考察を行った。日本語母語話者と日本語学習者合わせて3名で構成されたグループ2組を調査対象として、LINEで「話し合い」を行ってもらった。本調査では、発話プロトコル法を採用しただけではなく、スマートフォンの操作も合わせて録画し、さらに、フォローアップ・インタビュー(以下F.Iと称す)も実施した。この調査方法により、以下の事柄が観察可能となった。

    (ⅰ)発話プロトコル法によって、やりとりとしては文字にならなかったが、どのようなことを考えながらやりとりを行っているのかが分かる。

    (ⅱ)スマートフォンの画面を録画することで、文字にして送ろうとしたが送らなかった

    過程が観察できる。

    この調査方法を採用したことにより、各参加者の一方的な評価だけではなく、常に互いを評価する様相を捉えられ、さらに、その先に起こる言語行動についても、考察が可能となった。つまり、本研究は会話参加者の「双方向評価」と「産出」まで射程に入れ、分析及び考察を行った。

    結果として、会話参加者は進行中の話題の流れを止めたり変えたりすることを回避していることが明らかになった。F.Iより、会話を円滑に進めることと、最後に画面で見た時に会話が流れとして繋がっていることという2点を重視しているという結果が得られた。また、意図的なボケ発話ではないがツッコミをしたくなるような発話に対して、発話プロトコルではツッコミをしているが、実際はツッコミのメッセージを送ることはせず、雑談的な要素を抑制している可能性があることも分かった。総合的に分析を行った結果から、オンライン状態のLINEコミュニケーションにおける話し合いでは、「会話参加者は話題の本筋から逸脱しようとせず、且つ逸脱させようとせず、目の前にある課題を達成することを優先させ、課題を達成するために雑談を抑制する」という規範が存在する可能性が示唆された。

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