日本造血・免疫細胞療法学会雑誌
Online ISSN : 2436-455X
11 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 藤原 弘
    2022 年 11 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/17
    ジャーナル フリー

     がん治療における近年の重要な進展は,従来の治療法に抵抗性を示すがんに対する免疫療法の成功である。治療抵抗性B細胞性血液がんに劇的に奏功したCD19特異的キメラ型抗原受容体遺伝子導入T細胞(CD19 CAR-T)がチェックポイント阻害剤と並んでそれを牽引している。一方で,CD19 CAR-Tはサイトカイン放出症候群や中枢神経障害,治療後再発を喫緊の解決課題として抱えている。こうした中,世界のCAR-T開発は,CD19 CAR-Tの有効性向上と,固形がんへの適応拡大を目指している。これまで,その努力はCAR遺伝子の改良が中心であったが,現在は,CAR遺伝子を導入する細胞側にも目が向けられ,off-the-shelf化を目指す技術開発に繋がっている。本稿では,こうした,世界のCAR-T開発の現状を概観する。

  • 白鳥 聡一
    2022 年 11 巻 1 号 p. 10-21
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/17
    ジャーナル フリー

     抗胸腺細胞グロブリン(ATG)は同種造血幹細胞移植において慢性GVHDの抑制効果が示されてきたが,ATGの予後への影響は種々の移植条件により異なる。骨髄破壊的前処置では再発や生存に負の影響を及ぼさず慢性GVHDを抑制する効果が示されているのに対し,骨髄非破壊的前処置では再発や生存への影響について一定の結論は出ていない。移植ソースに関し,現時点でATGはPBSCT全般とHLA1座不適合移植で推奨されるが,臍帯血移植では推奨されない。最適なATGの投与量は未確立だが,近年ATGの投与量は減量されつつあり,本邦の非血縁者間PBSCTにおいても低用量で慢性GVHDの抑制効果が得られていた。またATGを用いた同種移植における予後予測マーカーとしてATG投与前リンパ球数が注目されており,“個別化治療” への発展が期待される。

  • 小林 寿美子
    2022 年 11 巻 1 号 p. 22-35
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/17
    ジャーナル フリー

     過去15年を振り返ると60歳代の骨髄系腫瘍に対する同種造血細胞移植が拡大の一途を辿っている。特に65-69歳の移植数が急激に増加している。さらに高齢者社会を反映して国内外ともに70歳代の移植例も徐々に増加しつつある。海外の報告同様にJSTCTのJDCHCTから得られたTRUMPデータ解析においても60歳代のAMLに対する同種移植成績は年齢ではなく寛解の有無が重要因子であるとされる。MDSにおいても60-64歳群,65-69歳群,それ以上において全生存率(OS)に差がなかったという報告が多い。TRUMPデータから得られた2003-2018年の70歳代の骨髄系腫瘍に対する同種移植数はAML 298例,MDS 94例であり,年齢中央値はいずれも72歳であった。高齢になるほど完治だけでなくQOLも重要であり,移植により生命予後の改善が期待できるかどうかの因子を抽出することで70歳代の移植はさらに拡大すると思われる。

  • 賀古 真一
    2022 年 11 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/17
    ジャーナル フリー

     再生不良性貧血に対する同種移植の前処置では,拒絶を防ぎ,さらに十分な移植片対宿主病(GVHD)予防を行うことが重要である。そこで高用量シクロホスファミド(CY)と抗胸腺細胞抗体(ATG)を組み合わせた移植前処置が開発された。しかし高用量CYによる心毒性が問題で,免疫抑制効果が強いが臓器毒性の少ないリン酸フルダラビン(Flu)を加えてCYを減量する前処置が考案された。関東造血幹細胞移植共同研究グループ(KSGCT)では日本人における再生不良性貧血の至適移植前処置を検討するため,Fluと減量CY,低用量サイモグロブリンを前処置に用いた前向き試験を行い,1年生存率96.3%という成績を報告している。ただしFlu使用は2次性生着不全のリスクとなる可能性がある。近年は臍帯血やハプロアイデンティカルドナーからの移植も前処置の工夫で良好な成績が得られるようになってきている。さらに今後アレムツズマブが再生不良性貧血移植前処置の有望な薬剤となってくるかもしれない。

  • 志関 雅幸
    2022 年 11 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/17
    ジャーナル フリー

     難治性疾患である骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes,MDS)において,同種造血幹細胞移植は治癒を望める唯一の治療法である。MDSは高齢者に多い不均一な疾患群であり,同種造血幹細胞移植を考慮する際には,多角的視点からの十分な検討が必要である。移植前治療は,移植成績改善をもたらすが,対象症例,治療法選択,治療期間などに課題がある。患者年齢,併存疾患はドナーや移植前処置法の選択に影響を及ぼす。移植後再発への対応も,大きな課題として残っている。血液学的再発後の治療成績は不良であり,標準化された手法で測定されるminimal residual disease(MRD)の陽性化を指標とした早期先制治療,あるいは再発リスクの高い症例における再発予防治療の確立が重要である。さらなる治療成績向上のためには,新規治療法開発を含めた移植技術の進歩が必要である。

  • 森 康雄
    2022 年 11 巻 1 号 p. 53-63
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/17
    ジャーナル フリー

     近年,分子標的薬や新規の抗体製剤・抗体薬剤複合体,免疫細胞療法などが次々と臨床現場に登場し,同種造血細胞移植前後に使用可能な状況が整いつつある。これらの新規治療法を用いて移植前の原疾患コントロールを一層強化し,可能な症例においては移植後に維持療法を継続することで,再発率の低減ひいては移植成績の向上が期待されている。さらに一部の分子標的薬は,依然として同種移植後の致死的合併症であるステロイド抵抗性の急性・慢性GVHDに対する2次治療薬としての役割も期待されている。一方で,新規薬剤のoff-target効果として重症GVHDが惹起されるリスクがあり,骨髄抑制や免疫抑制の結果としての感染症,支持療法に使用される薬剤との相互作用などと合わせて注意すべき点も多い。本稿では,移植前の新規薬剤使用がGVHDに与える影響とそのマネージメント,および新規薬剤を用いたGVHD予防・治療の動向を中心に解説する。

研究報告
  • Takeshi Sugio, Koji Kato, Shuro Yoshida, Noriyuki Saito, Ichiro Kawano ...
    2022 年 11 巻 1 号 p. 64-71
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/17
    ジャーナル フリー

     Background: Cord blood is an alternative donor source for patients without HLA-matched donors. Calcineurin inhibitors (CNIs) alone, as prophylaxis for graft-versus-host disease (GVHD) in cord blood transplantation (CBT) patients, reportedly increase the incidence of severe pre-engraftment immune reaction (PIR), leading to transplant-related mortality (TRM) with primary engraft failure and multiple organ dysfunctions. Therefore, additional immunosuppressive agents are needed. Reportedly, short-term methotrexate (sMTX) plus CNIs improved outcomes in patients receiving CBT with full-intensity conditioning (FIC) regimens; however, safety and efficacy of sMTX plus cyclosporine have not been assessed in patients receiving CBT with reduced-intensity conditioning (RIC) regimens. Methods: We retrospectively analyzed 43 patients who received single-unit CBT and were treated with sMTX plus cyclosporine (RIC group, 15; FIC group, 28). Results: Neutrophil engraftment rate was significantly lower in RIC group (53.3%) than in FIC group (78.6%, P=0.04). Cumulative incidence of TRM tended to be higher in the RIC group than in the FIC group (P=0.12); the leading cause of death in the RIC group was bacterial infections. Conclusions: sMTX plus cyclosporine does not seem feasible for treating patients receiving single-unit CBT following RIC. MTX dose optimization or alternative immunosuppressive agent application should be considered in such patients.

  • 澤田 泰佳, 小林 千子, 千葉 智実, 脇口 優希
    2022 年 11 巻 1 号 p. 72-80
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/17
    ジャーナル フリー

     【緒言】国内では同種造血細胞移植(以下,移植)患者のせん妄に関する実態調査が十分ではない為,当院の実態を明らかにする事を目的に調査した。【方法】2015年1月~2018年12月に当院で移植を受けた患者66人の診療録を対象に後方視的にせん妄の発生状況を調査し,せん妄群と非せん妄群でリスク因子の 「低酸素状態,オピオイド使用,腎・肝機能障害等」 を比較した。【結果】移植後30日以内のせん妄発症率は30.3%(うち14日以内発症:70%)であった。酸素投与,オピオイド使用,BUN異常,CRE異常,Bil異常は其々せん妄群:非せん妄群で70%:19.6%,70%:60.9%,85%:39.1%,65%:26.1%,80%:39.1%と,せん妄群で高頻度であった。【考察】生着の目安となる移植後14日以内のせん妄発症率が高い傾向にあった。この時期は身体侵襲が高く活動性が低下しやすい為,低活動性せん妄と鑑別が難しい。特有のせん妄リスク因子や要注意時期を踏まえたケアの重要性が示唆された。

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