天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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  • 廣兼 司, 平田 恭章, 石本 享之, 西井 健太郎, 山田 英俊
    p. Oral1-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【緒言】エラジタンニンは,加水分解によってエラグ酸と多価アルコールを生じるタンニンの総称である。千種類以上の天然物が知られる程の構造多様性を持つが,基本形はグルコースのガロイル,及びヘキサヒドロキシジフェノイル(HHDP)エステルである(Figure 1)。これらエステル結合の位置,数の違いが構造多様性を生み出すが,それだけで千種類は難しい。エラジタンニンの多様性を担う別の重要な構成要素として炭素―酸素間で結合したジガラート構造(C–Oジガラート)があり,約4割ものエラジタンニンにその構造を観ることができる。C–Oジガラートは,ガロイル基同士,またはガロイル基とHHDP基がAryl–O–Aryl結合した構造であり,デヒドロジガロイル(DHDG)基,バロネオイル基,テルガロイル基等が知られ,多量化エラジタンニンの構成要因になっている。

    Figure 1. C–Oジガラート構造を有するエラジタンニン

     C–Oジガラートの化学合成は,Feldmanら1)と阿部ら2)が報告している。しかし,これらの合成法は適用範囲が狭く,エラジタンニンの構造多様性を化学合成で実現できない。今回,その多様性実現に耐えるC–Oジガラートの統一的な合成法の確立と,バロネオイル基を有するコルヌシインG(2)の合成研究を報告する。

    【合成戦略】C–Oジガラートを含むエラジタンニンの構成ユニットのカルボン酸部分は,糖の有無(Figure 1, 1)や,構造が異なる糖とエステル化している(2と3)等,非対称であることが多い。本研究では,このような化合物の合成にも対応できる合成経路の確立を目的とした。そのため,C–Oジガラートのカルボン酸部分をアルデヒドとして区別した4(Scheme 1)を鍵合成中間体として設計した。DHDG基とバロネオイル基のAryl–O–Aryl結合はo-三置換構造であり,大きな立体障害のため遷移金属を利用したクロスカップリング法で合成しにくい3)。ましてテルガロイル基はo-四置換である。そのため,この結合は,オルトキノン(oQ)モノケタール6へのヒドロキシ基のoxa-Michael付加によって構築しようと計画した。ここで,6をモノケタ

    Scheme 1. C–Oジガラート構造の合成戦略

    ール構造としXにハロゲンを導入した設計が,本合成計画が成功した鍵となった。オルトキノンのままだと,自己ヘテロDeals−Alder反応が起き,XがHだと9とC–C結合する4)。モノケタールとすることで化合物の安定性を得,XをハロゲンとすることでC–C結合形成を抑え,同時に,ケトンではなくアルデヒドのβ位で1,4-付加できることを期待した。この方法で生じる5を目的の4とするには,oQモノケタール部位の還元が必要である。5はアルデヒドや「Aryl」と記した部分にエステルを有し,8を用いた場合はベンジリデンアセタールも存在する。これらの中で,oQモノケタールだけを還元することに挑戦した。oQモノケタール 6は,没食子酸から誘導した7を酸化すれば得られるだろう。この合成戦略に従い,まず最も単純なデヒドロジガロイル基合成を目指して各合成段階を確立し,その後より大きなバロネオイル基,テルガロイル基への展開と

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  • 廣瀬 あかね, 村上 貴宣, 橋本 勝
    p. Oral10-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    キンカク菌Lambertella corni-maris (L. corni-maris)は、Monilinia fructigena(M. f.)罹病リンゴ果実上でマイコパラサイトする(図1)。本現象は寒天培地上でも菌の置き換わりとして観察され、顕微鏡下ではL. corni-maris(パラサイト)がM. f.(ホスト)菌糸へ侵入している様子が観察される。この時、競争阻害は観察されず、通常の抗生物質生産では説明できない。

    我々は本現象に興味を持ちその機構解明研究を展開してきた。その結果、パラサイトL. corni-marisは、ホストM. f.存在条件下で活性前駆体のlambertellol類 (1, 2)を生産し、1, 2は逆マイケル型環開裂などを含む非酵素的変換によって活性型のlambertellin (3)へ誘導されてホストを駆逐すること、ホスト周辺の異常な酸性が1の生産を誘導することなどを明らかにしてきた1-3。しかし、「なぜこのような複雑なシステムが必要か」など、これまでの知見では本現象を完全に説明するには不十分であった。

    我々はさらなる検討を行い、Lambertellinシステムと名付けた機構を明らかにした。Lambertellinシステムは、以下を包括したメカニズムでマイコパラサイト現象の全容を合理的に説明することができる。

    ① 1, 2はパラサイトL. spp.により恒常的に生産されている。

    ② 1, 2は通常直ちに分解し3に変化するが、ホストM. fructigena周辺の異常な酸性が1, 2を安定化し、ホスト周辺まで到達可能とする。

    ③ 3はホストのみでなく、生産者であるパラサイトにも毒性を示す。

    ④ ホスト菌糸近傍に到達した1, 2は徐々に3に変化し、ホストを駆逐する。

    ⑤ パラサイトL. spp.は、3を生分解することで、自身の中毒を防いでいる。

    まず、1, 2は、弱酸性では比較的安定であるが、pH5を超えると分解速度が急激に増大、3への変換が加速することが判明した。恐らく2位水素のpKaが5付近で、中間体Aへの逆マイケル型反応が加速されるのであろう。これは先に報告した酸性条件でL.corni-marisを培養による1, 2の蓄積量が増大した結果とも矛盾しない2。3は寒天培地で、菌糸から数ミリ離れた地点で結晶として観察されることから1, 2の拡散性が説明できる。なお、図3で中性領域では途中から3の濃度が低下しているが、これは飽和によるものである。研究開始当初、ペーパーディスクアッセイにおいて3は小さな阻止円しか示さなかったことからホスト成長阻害物質候補から除外していたが、これは結晶することによって培地中濃度が低下したためであったと考えることができる。(機構②④の証明)

    L. sp. 1346培養液に3を添加するとその成長は著しく低下したが、通常の培地に交換すると成長が再開された(図4)。尚、糸状菌の成長を分光学的手法により定量することは困難なため、コロニーの相対堆積で見積もった。また、本実験では機構②を考慮してL. sp. 1346を用いた。本菌の場合、培養液を酸性にするため、3への誘導、すなわちdenovo 3が最小化されると考えためである。また後述する機構⑤であるように、L. sp. 1346は3を生分解するため、12時間ごとに減少分を追加して実験を行った。(機構③の証明。)

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  • 中川 優, 土井 崇嗣, 竹谷 隆良, 竹腰 清乃理, 五十嵐 康弘, 伊藤 幸成
    p. Oral11-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     近年,糖鎖は多彩な生物学的機能を持つことが明らかになり,核酸やタンパク質と並ぶ第三の生命鎖として脚光を浴びている.それに伴い,創薬のリードあるいは糖鎖の役割を解析するツール分子として,特定の糖を認識する低分子化合物の需要が急速に高まっているが,水溶液中で糖を認識する低分子化合物の開発に成功した例はごく少数である.このような中,水溶液中でD-マンノース (Man) を認識する唯一の低分子化合物が天然に存在し,大きな注目を集めている.Pradimicin A (PRM-A, Fig. 1) とその類縁体は放線菌由来の抗生物質群であり,Ca2+ 存在下でManを特異的に結合する1,2).さらにPRM-Aは,単糖のManだけではなく,Manを含む糖鎖にも結合してユニークな抗菌および抗HIV作用を示すことが明らかにされ3),PRM-Aによる糖分子認識機構に大きな関心が寄せられている.しかしながら,PRM-Aは高い凝集性を有するうえ,Ca2+ およびManと複数の複合体あるいは会合体を形成するために,溶液NMRやX線結晶構造解析などの一般的な相互作用解析法を適用することができず,PRM-AとManとの結合様式は未だに解明されていない.

     我々は近年,固体NMRを用いた新しい解析戦略により,PRM-AにおけるManの一次結合部位の特定に成功した4,5).そこで本研究では,Manの一次結合に焦点を当てた精密解析を行ない,PRM-AのMan認識機構を明らかにすることを目的とした.

    【固体NMRによる [PRM-A2/Ca2+/Man2] 複合体の構造解析】

     PRM-Aは,Ca2+ を介して二量体ユニットを形成し,この [PRM-A2/Ca2+] 複合体が2分子のManを結合してComplex I ([PRM-A2/Ca2+/Man2]) となった後,さらに2分子のManを結合して最終的にComplex II ([PRM-A2/Ca2+/Man4]) となると考えられている (Scheme 1)2).溶液中においては,これらの複合体はオリゴマーあるいは凝集体を形成するため,相互作用解析は極めて困難となる.我々は近年,機器分析には不利とされている「凝集」という性質を積極的に利用して,「固相中で分子相互作用を解析する」という全く新しい解析戦略を実戦した4,5).具体的には,PRM-AとManで形成した凝集体を水洗して二次結合に由来するManを選択的に解離させることにより,Complex Iを凝集体として単離し,その構造 Fig. 1. Pradimicin A (PRM-A).

    Scheme 1. Complex-forming process of PRM-A with Ca2+and Man.

    をDARR (6 A以内の距離にある13C間をクロスピークとして検出する二次元固体NMRの方法論) で解析するというものである.本解析法では,固体サンプルを用いているため,溶液中の複雑な平衡を考慮することなく,Manの一次結合を原子レベルで解析することが可能となる.これまで,部位特異的に13C標識したPRM-Aと1 – 6位をすべて13C標識したmethyl a-D-mannopyranoside (Man-OMe) を用いたDARR解析により,Manの一次結合部位がAla部分からABC環に渡る領域

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  • 松岡 茂, 杉山 成, 松岳 大輔, 廣瀬 未果, 新山 真由美, 大塚 康平, 村田 道雄, 溝端 英一, 井上 豪
    p. Oral12-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    序 論

    細胞膜の疎水部における分子間相互作用は、細胞内外物質移動の障壁だけでなく、膜タンパク質の構造形成・機能発現、細胞膜構成分子の集合・分配によるドメイン形成など、ダイナミックな生理機能発現に関与する。主にフレキシブルな脂質アルキル鎖で形成される細胞膜疎水部では、水素結合などの指向性を有する相互作用の寄与が少なく、構造形成に対する分子論的アプローチが困難であり、分子間相互作用に未解明な部分が多い。

    細胞膜疎水部における分子間相互作用の支配的要因の一つに、疎水性領域のマッチングが挙げられる1。この長さに基づいた分子認識は、細胞膜や膜タンパク質に作用する天然有機化合物の生理機能発現にも重要であると考えられる2。しかし、分子間相互作用に対する長さや面積の影響は分子論的記述が難しく、構造からの理解・予測が困難である。これらの相互作用に基づく分子認識の理論と概念は、細胞膜疎水領域を標的とした天然物の作用機序の解明と、それを基盤とした創薬に資する重要な研究課題である。

    われわれは、細胞膜疎水部における分子間相互作用の新概念を、分子構造に基づいて確立することを目指し、脂質‐タンパク質間相互作用の研究を展開している。 本研究では、最も単純な脂質である脂肪酸を例として、ヒト心筋脂肪酸結合タンパク質(fatty acid binding protein 3: FABP3)による脂肪酸アルキル鎖長の認識機構を取りあげた。FABP3は、脂肪酸の細胞内輸送に関与する分子量15 kDaの可溶性タンパク質であり、一分子の脂肪酸を結合する3。今回、熱力学的手法と構造生物学的手法を用い、FABP3の脂肪酸構造認識が、基質の配座固定と親水表面への水分子の結合が関与した、興味深い分子機構に基づくことを明らかにしたので、その詳細を報告する。

    1. リポソームを利用したFABP3-脂肪酸親和性の網羅解析

    FABP3は脂肪酸に対して独特の選択的親和性を示すことが様々な実験から示唆されていたが4、同一条件における網羅的な比較は過去に報告例がなかった。この原因として、脂肪酸の水溶性が鎖長により大きく変化するため、同じ条件での結合親和性評価が難しいことが挙げられる。C14以上の長鎖脂肪酸は水に難溶であり、特にC18以上の脂肪酸はほとんど不溶となる。

    細胞質における遊離脂肪酸濃度は10 nM以下であり、多くが細胞膜や油滴に結合して存在する5。そこでわれわれは、人工リン脂質二重膜リポソームに脂肪酸を結合することで沈殿を防ぎ、これをFABP3に滴下した時の結合熱を等温滴定熱量測定(ITC)により測定する、精密相互作用解析法を考案した。本方法により、水に不溶である超長鎖脂肪酸(>C22)を含めた全ての脂肪酸に対して、同一条件でFABP3への親和性を評価することが初めて可能となった。

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  • 荒井 雅吉, 河内 崇志, 中田 千晶, 古徳 直之, 小林 資正
    p. Oral13-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     腫瘍内部は無秩序に血管網が存在するため、部分的な低酸素領域が存在する。このような低酸素環境に適応したがん細胞は、血管新生やがん転移に関わる因子を活発に産生し、化学療法や放射線療法に抵抗性を示すため、病態の悪化に大きく寄与している。その一方、生理条件下において低酸素環境は存在しないことから、低酸素環境のがん細胞選択的に細胞増殖阻害活性を示す化合物は、副作用の少ない新しい抗がん剤のリード化合物になることが期待される。また、がん細胞の低酸素適応に関わる転写因子として Hypoxia Inducible Factor-1a(HIF-1a) が知られており、HIF-1a を標的とする Target-based Screening は活発に行われているが、臨床応用されている化合物は未だ存在しておらず、HIF-1a に代わる新しい薬剤標的分子も見出されていない。

    このような背景のもと我々は、がん細胞の低酸素適応に関わる新規責任分子を標的とする分子標的治療薬の創製を目的に、ヒト前立腺がん DU145 細胞を用いて低酸素培養条件選択的に細胞増殖阻害活性を示す活性天然物の探索を行い、インドネシア産海綿 Dactylospongia elegans の抽出エキスから、フラノセスタテルペン furospinosulin-1 (1)1) を見出した (Fig. 1)。1 は濃度依存的かつ低酸素環境選択的な細胞増殖阻害活性を示し、マウスでの in vivo 試験において、経口投与で良好な抗腫瘍活性を示した。また、1 はHIF-1a の阻害剤ではなく、低酸素環境特異的に発現誘導される増殖因子 insulin-like growth factor-2 (IGF-2) の発現を転写レベルで阻害するという、全く新しい作用メカニズムを持つ化合物であることを明らかにしている。2-4) 以上のことから、1 は抗がん剤シーズとして有望であるとともに、HIF-1a 以外の分子を標的としている可能性が高く、その標的分子にも興味がもたれる化合物である。

     今回我々は、furospinosulin-1 (1) の in vivo での詳細な作用について検討するとともに、分子生物学的手法と furospinosulin-1 プローブを利用するケミカルバイオロジーの手法を組み合わせ、これまで不明なままであった 1 の結合タンパク質を同定した。

    In vivo における furospinosulin-1 (1) の作用

    1. 腫瘍内低酸素領域への影響

    マウス肉腫S180 細胞を移植したモデルマウスにおいて、 furospinosulin-1 (1) は経口投与で顕著に腫瘍重量を減少させる。しかし、この 1 の抗腫瘍活性が、腫瘍内部の低酸素領域に作用した結果であるのか否かは不明であった。そこで、低酸素領域に蓄積する pimonidazoleを用いた組織学的手法により、1 が腫瘍内の低酸素領域に与える影響について検討した (Fig. 2)。腫瘍摘出前に pimonidazole をマウスへ腹腔内投与し、腫瘍切片を FITC 標識抗 pimonidazole 抗体により免疫染色後、pimonidazole 陽性領域に存在する生細胞数を測定することで低酸素領域を定量した。その結果、1 投与群の腫瘍は、コントロール群と比較して顕著な低酸素領域の減少が観察された。一方、抗がん剤 cisplatin 投与群についても同様に検討した結果、腫瘍重量は 1 投与群と同程度であるにも関わらず、低酸素領域の顕著な減少は観察されなかった。

    2. 腫瘍内 IGF-2 産生量への影響

    また、in vitro での fur

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  • 小山 信裕, 土倉 友梨子, 福本 敦, 金 容必, 松本 厚子, 高橋 洋子, 池田 治生, Schneider Tanja, Sahl ...
    p. Oral14-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1. 諸言

     近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus, MRSA)は、院内感染の原因菌として社会問題となっている。感染症の中でも、先進諸国では死亡率が非常に高い疾患であり有効な薬剤がほとんどないことから新たな抗 MRSA 剤の開発が強く求められている。このような背景のもと、我々の研究グループでは、臨床上重要な b-lactam 薬imipenem の抗MRSA 活性を回復させる物質を微生物資源より探索するという独自のアイデアに基づき研究を展開してきた。その過程において、放線菌 “Streptomyces cyslabdanicus” K04-0144 株の培養液中より、細胞壁をターゲットとする新しい作用機序を有する抗 MRSA 剤 cyslabdan を発見した。本討論会では、その発見に至る経緯から作用機序の解析について報告する。

    2.Imipenem活性増強物質のスクリーニング1)

     2 種類の培地(Mueller-Hinton 寒天平板培地と MRSA の生育に影響しない濃度 10 μg/mL のimipenem を含有するMueller-Hinton 寒天平板培地)の表面に、MRSA 菌液(1.0 x 108 CFU/mL)を滅菌綿棒で塗抹し、37℃、20 時間培養後、ペーパーディスク法により、imipenem 含有培地でのみ阻止円を示す物質を検索した。放線菌や真菌を中心とする微生物培養抽出液(約 20,000 サンプル)について調べた結果、沖縄県石垣島の土壌より分離した放線菌 “S.cyslabdanicus” K04-0144 株の培養液中に強い活性を確認した。

    3.放線菌 “S. cyslabdanicus” K04-0144 株の培養及び cyslabdan の単離精製及び構造解析1)

     放線菌 “S. cyslabdanicus”K04-0144 株(Fig. 1)を種培養後、50 L の生産培地(主成分:各 1.0 % の oatmeal と Pharmamedia)に 1.0 % 植菌し、90 L Jar タンク培養装置を用いて、27℃、6 日間通気攪拌培養を行った。その培養液を遠心分離し、上清を合成吸着剤 Diaion HP-20 カラムに吸着後、水洗に続いてメタノールで活性物質を回収し、褐色油状物質(32 g)を得た。次に、これを蒸留水に溶解後、酢酸エチルで分配することで夾雑物を除去した後、減圧乾固することで褐色物質(27 g)を得た。続いて、このサンプルを ODS カラムにアプライした後、40 %~100% MeOH 水溶液を用いて精製し、活性を示す 80 % MeOH 画分を減圧乾固することで褐色物質(268 mg)を得た。続いて、これを分取 HPLC(カラム:PEGASIL ODS 4.6 x 250 mm、溶媒:0.05 % H3PO4を含有する 60 % CH3CN 水溶液、流速:8 mL/min、検出:UV 210 nm)により最終精製した。保持時間 32 min の peak を繰り返し分取し、減圧濃縮後、Diaion HP-20 カラムで脱塩、さらに減圧乾固することで白色粉末の cyslabdan を収量 34 mgで得た。

     Cyslabdan は、UV 波長 232 nm に極大吸収を示し、IR スペクトル解析から、3427 cm-1の吸収から水酸基の存在が示唆された。また高分解能 FAB-MS 測定から、その分子式を C25H41NO5S と決定した。さらに、各種 NMR スペクトル解析の結果(Table 1)から、labdan 型 diterpene を基本骨格とし、thioether を介して N-acetylcysteine 残基が連結した構造を有する新規物質であると決定した(Fig. 2)。さらに、labdan 型 diterpene 部分の立体化学については、NOE スペクトル解析の結果(Fig. 3)、 その相

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  • 大神田 淳子, 高橋 道子, 河村 明恵, 王 辰宇, 楠本 純士, 浜地 格, 上杉 志成, 加藤 修雄
    p. Oral15-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1. 序論

     たんぱく質間相互作用 (protein-protein interactions; PPIs)の異常は、がんなどの様々な疾患の原因になる。セリン/トレオニンキナーゼ信号伝達系は、細胞内PPIネットワークの主幹を成しており、14-3-3たんぱく質はその制御因子として知られている。14-3-3は全ての真核細胞に発現する2量体たんぱく質で、200種類余りのリガンドたんぱく質中のリン酸化ペプチド配列を認識して結合する。最近、14-3-3の過剰発現とがんや神経変性疾患との関連が明らかになり、創薬標的としても注目されている。生細胞中の14-3-3とリガンドたんぱく質間のPPIを検出する合成分子プローブが得られれば、14-3-3が介在する信号伝達系と疾病との関わりを明らかにできるかもしれない。

    図1 (左)フシコクシン-A (FC-A)、ISIR-042の化学構造。(右)植物14-3-3, FC-A, H+-ATPaseのC末端ペプチド配列(Q-S-Y-pT-V)の3者複合体結晶構造.1)

     真菌Phomopsis amygdaliの代謝産物として単離されたジテルペン配糖体フシコクシン類(FC)のうちFC-A (FC-A, 図1左)は、強力な植物ホルモン様活性を示すことで知られていた。その作用機序として、植物由来14-3-3とH+-ATPaseの会合体を安定化するモデルが提唱され、最近、FC-A、14-3-3、およびATPase C末端リン酸化ペプチド配列の3者会合体結晶構造が提出された(図1右)。1) それによれば、FC-Aは14-3-3の疎水性間隙に結合し、隣接するリン酸化リガンドとの疎水性相互作用をdriving forceとして、3者会合体を形成する。このとき、FCとリン酸化ペプチドリガンド両者の14-3-3に対する親和性が2桁程度向上するので、FC-Aは14-3-3とH+-ATPaseとのPPIに対し安定化剤として働くと考えるのが妥当である。

     一方、我々はこれまでに、FC-Aの半合成的構造展開から見出された誘導体ISIR-042が(図1左)、急性骨髄性白血病細胞に対する分化誘導活性および低酸素下選択的抗腫瘍活性を示すことなどを明らかにしてきた。2) FCを基盤とする抗がん剤開発を推進する上で、作用たんぱく質の同定ならびに作用機序の解明は欠くことのできない重要な課題である。 

     以上の経緯と植物細胞に対するFC-Aの作用機序を踏まえ、我々は、ISIR-042が哺乳類細胞においても14-3-3と相互作用し、何等かのリン酸化リガンドとのPPIを変調する、と予想した。本研究ではこの仮説に基づき、3者会合体結晶構造を基にISIR-042含有蛍光標識剤を設計し、リン酸化リガンド依存的な14-3-3の蛍光標識化と細胞内標的たんぱく質の検出の検討を目的とした。

    2. 14-3-3三者会合体結晶構造に基づくプローブの設計

     

    図2 ISIR-042から誘導した蛍光基含有標識剤(1a, b)と対照化合物2の化学構造

     FC-Aから合成したISIR-042のアミノ基に、electrophileとしてスルホニルエステルを組み込んだスペーサーを用い、蛍光基を連結したFC含有標識剤1a,bを設計した(図2)。標識化反応の戦略としては図3(左)に示すように、FC含有標識剤がリン酸化リガンドと協同的に14-3-3に結合して3者会合体を形成し、たんぱく質表面の求核性アミノ酸側鎖に蛍光タグを付与する

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  • 堤 広之, 佐藤 隆, 木下 吉史, 向田 浩典, 石津 隆
    p. Oral16-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1.序論

    ツバキ科(Theaceae)のチャ(Camellia sinensis)の葉を基原としているお茶は、古くから飲料や嗜好品として愛飲されてきた。近年では、抗酸化作用や血中コレステロール低下作用など多くの効能が明らかになり、様々な健康飲料が市販されるようになってきている。またこのようなお茶には主要成分としてカテキン類とカフェインが含まれているが、これらは様々な生理活性を示すほか、水溶液中で錯体を形成するという興味深い現象が知られている。一方、温かいお茶が冷えると生じる沈殿やにごりはクリーミングダウン現象として、お茶本来の外観や風味を損なうことで問題になっているが、これについてもカテキン類・カフェイン錯体の関与がいわれている。以前、伊奈らはこの沈殿の大部分がガレート型カテキン類の(-)-Epigallocatechin-3-O-gallate(EGCg)や(-)-Epicatechin-3-O-gallate(ECg)とカフェインであることを13C NMRを用いた研究により明らかにし、またEGCgの水溶液にカフェインの水溶液を加えると実際にクリーミングダウン現象が起きることを報告している。1 そこで、我々はEGCgとカフェインから生じるクリーミングダウン現象による沈殿の結晶化を試み、X線結晶構造解析によりその立体化学構造を解析した。また、EGCgとカフェインとの間に作用している分子間相互作用を詳細に調べることによりクリーミングダウン現象のメカニズムの解明を試みた。さらに、クリーミングダウン現象を模倣して、様々なヘテロ環化合物の捕捉についても検討した。

    2.EGCg・カフェイン錯体およびEC・カフェイン錯体の結晶調製2

    等モルのEGCgとカフェインを水に90℃で溶かし、室温で12時間放置するとクリーミングダウン現象による粘着状の沈殿と上澄み液に分離した。さらに、これらを10℃で約3ヶ月放置すると、その粘着状の沈殿はゆっくりと結晶化し、無色のブロック状結晶を与えた(Figure 2a)。

    同様に、等モルのECとカフェインを水に90℃で溶かし、室温で12時間放置したがクリーミングダウン現象による沈殿は得られなかった。そこで、この水溶液を凍結乾燥し、得られた粉末をメタノールで再結晶することにより無色の針状結晶を与えた(Figure 2b)。

       

        

    3.EGCg・カフェイン錯体の立体化学構造2

     EGCgとカフェインの水溶液からFigure 2aに示す操作により得られたブロック状結晶をX線結晶構造解析し、2:2 EGCg・カフェイン錯体であると決定した。そのORTEP図とone unit cellの図をFigure 3に示す。

    ここで二面角から判断して、EGCg AとBのB環とB’環はそれぞれC環に対してequatorial配座とaxial配座をとっていることが分かった。また、カフェインは平面構造をとっていることが分かった。

    2:2 EGCg

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  • 荒井 緑, 石川 直樹, 小谷野 喬, タワン コウィタヤコン, 石橋 正己
    p. Oral17-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     マウスやヒト成体脳に神経幹細胞が発見されてから,アルツハイマー病や脳梗塞などの脳疾患に対し,神経幹細胞を用いた神経再生医療が期待されている.しかし,神経幹細胞を活性化し,種々の神経細胞に分化させる低分子化合物の報告例は未だ少なく,その探索は急務であると考えられる.神経幹細胞の分化・増殖は各種basic helix-loop-helix (bHLH) 型転写因子が重要な役割を担っており,幹細胞の分化を活性

    1. Hes1担持ビーズを用いる迅速的な天然物探索

     我々はタンパク質をビーズに結合させた“タンパク質担持ビーズ”を用いた天然物探索を行っており,これまでにビタミンD受容体担持磁気ビーズを用いて2種の新規天然物を迅速に単離している2).今回,GST-Hes1タンパク質をセファロースビーズに担持させたHes1ビーズを用いて,Hes1と相互作用する天然物を探索することとした.植物および放線菌エキスとHes1ビーズを混和させ,Hes1と相互作用する天然物を釣り上げ,HPLC分析にて釣り上げた天然物を検出した3) (図2) .その結果,タイ産植物からAquilaria agallochaとGarcinia mangostanaの2種,放線菌からは千葉市で採取したCKK0038株にHes1と相互作用する天然物が見出された.

     ジンチョウゲ科植物A. agallochaの葉部メタノール抽出物をHPLC分析を指標として溶媒分配,各種カラムクロマトグラフィーにより分画を行い,3種のフラボノイド配糖体 (1-3) を単離した4).オトギリソウ科植物G. mangostana萼のメタノール抽出物をODS HPLCのみの分画により,1種のキサントン誘導体 (4) を迅速に単離した5).放線菌CKK0038株の培養液および菌体のメタノール抽出物をHPLCおよびTLC分析を指標として溶媒分配,各種カラムクロマトグラフィーにより分画を行い,1種のポリエンマクロラクタム化合物 (5) を単離した6) (図3) .

    2. フラボノイド配糖体 (1-3) の活性評価

    (2-1) Hes1二量体形成阻害作用とタンパク質選択性の検討

     A. agallochaより単離した化合物について我々が構築した蛍光プレートアッセイ7)によりHes1二量体形成阻害作用を評価したところ,化合物1と3にHes1二量体形成阻害作用を有することが示唆された.一方,化合物1の4’位の置換基がメトキシ基からヒドロキシ基になった化合物2の活性が弱かったことから,4’位の置換基が活性に重要であると考えられる.さらに,化合物1と3のフラボノイド部 (6, 7) は同方法にて活

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  • 阿部 孝宏, 白川 奈津子, 秋山 清隆, 宮本 憲冶, 榊原 康文, 内藤 隆之, 上村 大輔
    p. Oral18-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    カイメン等の無脊椎動物には多数の微生物が共在しており、それらが産生する生理活性物質の存在が報告されている1)。多量に存在する微生物種の代謝産物であればカイメンより直接の単離が可能であるが、稀少にしか存在しない微生物種の代謝産物を得ることは環境保全などの面から困難である。また自然界に存在している微生物のうち、培養が可能なものはわずかであり、カイメン内の微生物の代謝産物を従来の培養法により網羅的に探索することは難しい2)。一方、環境中の微生物叢を、分離・培養過程を経ずに、微生物の集団から直接ゲノムDNAを調製するメタゲノム手法は、新たな生理活性物質の単離に有効であると考えられる(Fig. 1)。

    これまでhalichondrin Bやhalichonineなど様々な生理活性物質3)(Fig. 2)が単離・報告されているクロイソカイメンHalichondria okadaiから、演者らはすでにFosmidをベクターとした150,000クローンからなるライブラリーを構築し4)、色素生産株の単離に成功している(第53回天然物討論会)。さらに本色素生産株より新規化合物halichrome Aの単離、構造決定を達成し5)、本メタゲノム的アプローチが新規物質の探索に有効であることを示した。

    一般に、ポリケチドや非リボソームペプチドなどの生合成遺伝子はクラスターを形成することが多く、100kb以上の長鎖を形成する場合もある。一方Fosmidベクターは25kbほどが最大であり、Fosmidライブラリーを用いて複雑な構造を持つ化合物の探索を行うことは困難である。そこで高分子量のゲノムDNAのクローニングが可能なバクテリア人工染色体(BAC)をベクターとして100kb以上のメタゲノムライブラリーを構築し、また、本BACベクターにT7 polymerase遺伝子を組み込むことで、より効率的なライブラリー構築を行った。

    1.クロイソカイメンの採集とゲノムの抽出

     クロイソカイメンは神奈川県葉山周辺の海岸で採集した。クロイソカイメンは干潮時の岩場に張り付いて群棲している。これをできるだけ損傷が少ないように注意しながら採集した。こうして採集したクロイソカイメンは氷冷下で速やかに輸送した。持ち帰ったクロイソカイメンを乳鉢等で破砕し、破砕液を遠心分離してペレットを得た。ペレットの一部を液体窒素で凍結し乳鉢で粉砕後、グアニジンチオシアネートおよびCTAB(Cetyl Trimethyl Ammonium Bromide)存在下60℃で1時間加温し溶菌させた。これをフェノール・クロロホルム処理した後、アルコール沈殿を行った。さらにRNaseAで消化した後、再度フェノール・クロロホルム処理を行い精製した。各ペレットのゲノムDNAを抽出し、次の分離条件の検討に供した。

    2.バクテリア画分の分離

    カイメンなどの真核生物の遺伝子には、イントロンと呼ばれる遺伝子を分断する領域が含まれており

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  • 草間 大志, 田中 直伸, 小林 淳一
    p. Oral19-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     Agelasida目やHalichondrida目の海綿に含まれるブロモピロールアルカロイドは、窒素含有率の高い特異な化学構造をもち、多様な生物活性を示す海洋天然物であり、これまでに150種以上の報告例がある1)。これらは代表的なブロモピロールアルカロイドであるoroidinを前駆体として、反応性の高いオレフィン部分やアミノイミダゾール部分が関与した分子内環化、あるいは二量化により生合成されると考えられている。

    当研究室では、海洋生物に含まれる特異な化学構造を有する天然物の探索研究を行っており、今回その研究の一環として、沖縄産Agelas属 (Agelasida目) 海綿の成分探索を行った。その結果、新規ブロモピロールアルカロイド二量体nagelamide X-Z (1-3)、ならびに新規ブロモピロールアルカロイドnagelamide U-W (4-6) を単離し、構造を明らかにしたので、それらの生物活性と合わせて報告する。

    1. 抽出・分離

     沖縄県慶良間諸島で採取されたAgelas属海綿 (SS-162, 3.9 kg, wet weight) を

    MeOHで抽出した。この抽出物をEtOAc、n-BuOH、および水で順次分配した後、EtOAc可溶画分をn-hexaneと10% MeOH aq.で分配した。得られた10% MeOH aq.可溶画分をSiO2カラム、ODSカラム、およびLH-20カラムで分離後、ODS HPLCを用いて精製し、新規ブロモピロールアルカロイド二量体nagelamide X (1, 0.000057%, wet weight)、Y (2, 0.000074%)、およびZ (3, 0.00035%) を単離した(Chart 1)。同様に、n-BuOH可溶画分を分離し、得られたアルカロイド画分をHILIC HPLCを用いて精製した結果、新規ブロモピロールアルカロイドnagelamide U (4, 0.000032%)、V (5, 0.0000074%)、およびW (6, 0.000037%) が得られた(Chart 1)。

    2. Nagelamide X (1) およびY (2) の構造2)

     Nagelamide X (1) は無色非結晶性固体として得られた。ESIMSにおいてm/z 914、916、918、920、および922に1:4:6:4:1の強度比でイオンピークが観測されたことから、分子内に4個の臭素原子の存在を推定した。HRESIMSより1の分子式はC24H28N11O6Br4Sと帰属した。1と既知ブロモピロールアルカロイドの1Hおよび13C NMRスペクトルを比較したところ、2個のジブロモピロールアミド部分、1個のアミノイミダゾール部分、1個のアミノイミダゾリジン部分、および1個のタウリン部分の存在が示唆された。これらの結果から、1をブロモピロールアルカロイド二量体と推定した。

     1の1H-1H COSYおよびHMBCスペクトルの解析から、シクロヘキセン環の存在が確認され、このシクロヘキセン環はアミノイミダゾリジン部分とスピロ縮合(C-11’) することが明らかになった。加えて、H2-10/12-NHおよび14-NH/H-10’間のROESY相関より、テトラヒドロベンズアミノイミダゾール部分の構造を確認し、1の三環性骨格部分の構造を帰属した (Fig. 1)。さらに、各種2D NMRスペクトルの解析から、三環性骨格部分と2個のジブロモピロールアミド部分および1個のタウリン部分のつながりを明らかにし、nagelamide X (1) の平面構造をFig. 1に示した構造と帰属した。

     Nagelamide X (1) の相対配置をROESYスペクトルの解析により帰属した。H-8a/12’-NH、H-9’/12’-NH、およびH-10’/1’’-NH間のROESY相関よ

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  • 菊池 正峰, 江崎 伸之介, 小山 智之, 野久保 春華, 児玉 猛, 西川 慶祐, 舘 祥光, 森本 善樹
    p. Oral2-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     複雑な多環性アルカロイドの合成は現代の有機合成レベルをもってしてもけっして容易なことではない。そのため窒素原子を含む骨格構造の効率的で立体選択的な構築法の開発は、今日の天然物合成化学においても重要な課題である。本研究では海洋産アザ三環性アルカロイド (–)-レパジホルミンA (1) の合成におけるキーステップとして、我々の研究室で見いだしたHg(OTf)2を触媒に用いる新奇環化異性化反応を応用した1の形式合成を達成し、さらに新規全合成法の開発に成功したのでそれらの結果について報告する。

     (–)-レパジホルミンA (1) は1994年Biardらによってチュニジアの海岸で採取された海洋性被嚢類のClavelina lepadiformis Mullerから単離されたアザ三環性アルカロイドである1。1は様々な腫瘍細胞系に対して細胞毒性活性を示し[IC50 = 9.20 mg/mL (KB), 0.75 mg/mL (HT29), 3.10 mg/mL (P388), 6.30 mg/mL (P388 doxorubicin-resistant), and 6.10 mg/mL (NSCLS-N6)]、さらに抗不整脈作用や血圧降下作用等の心臓血管系への作用も有することが報告されている。レパジホルミンAの構造は最初分光学的及び化学的な証拠に基づいて1とは異なる構造が提出されたが、その後ラセミ体及び光学活性体の全合成が報告され絶対配置も含め1のように構造改訂された2。その構造はtrans-1-アザデカリン系のAB環にAC環がスピロ環状に縮環した特異なアザ三環性骨格を特徴とし、窒素置換不斉4級炭素を含む4つの不斉炭素とボート型をしたB環をもつ複雑な骨格構造を有している。顕著な生理活性と特異な骨格構造から多くの合成化学者の注目を集め、これまでに10以上の全合成(形式合成含む)が報告されているが3、我々は独自の方法論による1の全合成を目指し合成研究に着手した。

     1の合成計画をScheme 1に示す。当研究室では直鎖状のイノン分子からへテロ置換不斉4級スピロ炭素原子を含む1-へテロスピロ[4.5]デカン骨格への環化異性化反応がHg(OTf)24によって触媒されることを見いだしている5。これまでにないタイプの反応であり不斉4級炭素とスピロ環がC–C結合形成を伴いながら構築される新奇連続環化異性化反応である。本反応をイノン基質4に適用しAC環に相当するアザスピロ環化体3を立体選択的に構築することを計画した。3のケトンをメチレンに還元することによりKimらの合成中間体2へと導く予定である。環化前駆体4はスルホン6とL-グルタミン酸から6段階で得られる既知物質ピロリジノン56のカップリングにより合成することにした。

     市販の4-ペンチン-1-オールのDPS保護体77のアセチリドを1,3-ジヨードプロパン (8) でアルキル化しヨウ素体9とした後、スルフィナートで置換しスルホン6を調製した(Scheme 2)。6のアニオンをピロリジノン5に付加し、ラジカル条件でスルホニル基を除去8し環化前駆体4を合成した。環化異性化反応の条件を種々検討した結果、4をMeCN中室温で45分間水銀トリフラート (0.05 equiv) で処理したところ望む環化異性化反応が進行し、アザスピロ環化体3を単一生成物としてジアステレオ選択的に74%の収率で構築することに成功した。本反応は、窒素官能

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  • 杉山 龍介, 西村 慎一, 松森 信明, 恒松 雄太, 服部 明, 村田 道雄, 掛谷 秀昭
    p. Oral20-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    生体膜は特定の環境の内外を仕切る構造体であると同時に、シグナル伝達や物質輸送などを制御する機能的なオルガネラとしても働いている。近年、その主要な構成成分である脂質分子が、生体膜において機能的な微小環境を構築・制御している可能性に注目が集まっている。例えば、スフィンゴ脂質とステロールが豊富な膜ドメインは脂質ラフトとよばれ、シグナル伝達を効果的に行うために必要であるとされている1。しかし、脂質分子による生体膜微小環境の形成・維持機構や生理機能の実態は、依然として掴めていないのが現状である。この原因の一つに、脂質が遺伝子に直接コードされる分子ではないことが挙げられる。すなわち、タンパク質の機能解析に有効な遺伝学の方法論を十分に活用できないのである。そこで、脂質に直接はたらきかける化合物を用いた化学遺伝学的なアプローチが期待される。特に、脂質との相互作用を起点に可逆的な機能変調を引き起こすような化合物は、その作用機序解析を通じて脂質分子の機能に直接迫れる可能性がある。ところが、脂質を認識することが知られている化合物は激しい膜傷害性を有する場合が多く、生体膜の解析ツールには適していない。このような背景のもと我々は、生体膜脂質の機能解明を目標に、脂質分子と相互作用する新しい天然化合物の取得と作用機序解析を行っている。本発表では、海洋由来放線菌より得られたポリエンマクロラクタムheronamide 類の単離・構造決定および生物活性について報告する。

    1. 脂質認識物質の探索とheronamide類の単離

     Ergosterol 生合成経路に変異を持つ酵母細胞は、脂質と相互作用する化合物に対する感受性が野生株と比べて低下する。例えばergosterolを標的とするamphotericin B (AmB)の分裂酵母に対する生育阻害活性は、erg2遺伝子破壊株では野生株の1/4程度である。この野生株と変異株の感受性の差を指標に、約2,000 の微生物培養液抽出物をスクリーニングしたところ、海洋由来放線菌Streptomyces sp. NSU893 の培養液が目的とする選択性を示すことを見出した。そこで、本培養液 (5 L)から菌体を濾取しCHCl3/MeOH (1:1)で抽出後、各種クロマトグラフィーにより活性成分の精製を行い、新規化合物1 (14.5 mg)を得た。化合物1 は、同じく海洋由来放線菌から報告されたポリエンマクロラクタムheronamides A-C の類縁化合物であった (図1)2。実際、我々の放線菌培養液からもheronamide C (2, 16.1 mg) およびA (3, 11.6 mg) が得られた。

    2. Heronamide類の構造解析

    化合物1の平面構造は、各種スペクトル解析からheronamide C (2)の8 位デオキシ体8-deoxyheronamide C (8-dHC)と決定した (図1)。Heronamide類とよく似た構造を持つBE-14106 (図6)の生合成経路を参考にすると、8-dHC (1)はheronamide C (2)の生合成前駆体であり、シトクロムP450により酸化を受けることで化合物2へと変換されると考えられる3。また、heronamide C (2)は酸化と環化反応によりheronamide A (3)へと変換されると推測されている2。以上より、化合物1-3の8, 9, 19位の立体化学は保存されていると予想し、8-dHC (1)の立体化学を化合物2, 3との比較解析から決定することにした。しかしスペクトル解析の過程

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  • 浅場 絢ヌネッツ, 原田 真也, 岩井 真澄, Lo Mee Wah, 小暮 紀行, 北島 満里子, 花尻(木倉) 瑠理, 合田 幸広, 高 ...
    p. Oral21-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     キョウチクトウ科植物Voacanga africanaは西アフリカに広く自生する樹木であり、下痢や感染症に対する民間伝承薬として用いられている。さらに、最近では、「呪術師の植物」と称し、違法ドラッグとして流通している。しかし、これらの生物活性本体は解明されていない1)。そこで、我々は、生物活性アルカロイドおよび新規アルカロイドの探索を目的としたV. africana根皮の成分探索、並びに本植物に含有されるIboga型アルカロイド類の不斉全合成研究を行なった。

    1. キョウチクトウ科植物Voacanga africanaの成分探索研究

     V. africana根皮のMeOHエキスをアルカロイド処理して得た粗塩基分画70.1 gを各種クロマトグラフィーを用いて分離・精製し、新規3種2)を含む9種の二量体アルカロイドと、新規7種3,4)を含む19種の単量体アルカロイド5)を単離した。新規アルカロイドの構造は、1D-NMR、2D-NMR、UV、ESI-MSなどの各種スペクトルデータを詳細に解析することで決定した(Fig.1)。

     Voacandimine A (1) 2)と命名した新規bisindoleアルカロイドは、分子式C41H44N4O5を有し、b-anilinoacrylateに特徴的なUV吸収を与えた。NMRにおいて15位オキシメチン由来のシグナルが観測されたことから、tetrahydrofuran環を有するDeoxoapodineユニットの存在が示唆された。しかし、3位14位のエタンbridgeの一組がそれぞれアミナールメチン炭素、メチン炭素として観測され、カルボン酸メチル基の代わりにメチレン基の存在が示唆された。また、フェノール性水酸基の存在が明らかとなった。さらに、HMBC相関から、12'位水酸基と22'位メチレン炭素の存在を確認し、unit Aとunit BがNa', C-2', C-16', C-22', C-14, C-3で構成されるピペリジン環により結合していることが明らかとなった。このような結合様式はAspidosperma-Aspidosperma型bisindoleアルカロイドでは初めてである。

     ピペリジン環部の相対立体配置については、NOE相関と、3位、14位プロトン間の結合定数により推定した。また、絶対配置については、CDスペクトルにおいて、320 nm付近で絶対配置既知で同様の骨格を有するTabersonineと同じく負のコットン効果を示したことから、7位をR配置と推定した。さらに剛直な環構造を有することから21, 20, 15位の絶対配置は一義的に決めることができる。以上より、Voacandimine A (1)を上記のピペリジン環を含む13環性のbisindoleと決定した。

     一方で、単量体アルカロイドとして、Iboga型インドールアルカロイドを主に単離した(Fig.1)。新規アルカロイドVoacangalactone (11) 4)は、1H-NMRにおいてカルボン酸メチルのシグナルが観測されず、また13C-NMRにおいてδ88.0に酸素に結合した四級炭素のシグナルが観測されたことから、Voacangine (4)の16位カルボン酸残基が20位炭素と結合し、ラクトン環を形成したユニークな構造を有すると推定した。さらに、Iboga型インドールアルカロイドの活性評価を行なった結果、カンナビノイドCB1受容体アンタゴニスト活性(8, 9)3)、あるいはカプサイシン受容体TRPV1アンタゴニスト活性(4, 5, 6, 7)5)やTRPM8アンタゴニスト活性(4)6)

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  • 平山 裕一郎, 米田 耕三, 山岸 航大, 知念 拓実, 臼井 健郎, 住谷 瑛理子, 上杉 志成, 北 将樹, 木越 英夫
    p. Oral22-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    アプリロニンA (ApA, 1)は海洋軟体動物アメフラシAplysia kurodaiより単離された24員環マクロリドで、HeLa S3腫瘍細胞に対する強力な細胞毒性(IC50 = 0.01 nM)やP388白血病モデルマウスに対する抗腫瘍活性(T/C 545%、0.08 mg/kg/day)などを有する1)。また既存の抗がん剤の標的には直接作用しないとされており、新規な抗腫瘍活性の作用機序が期待されている。ApAは細胞骨格タンパク質の一つであるアクチンと1対1で結合し、F-アクチンの脱重合を引き起こす。しかし実際に細胞内のアクチン骨格に作用する濃度は、細胞毒性を示す濃度よりも1000倍以上高く、ApAの強力な細胞毒性はアクチンとの相互作用のみでは説明できないと考えられる2)。構造活性相関研究やX線結晶構造解析からApAはC24-34位の側鎖部分でアクチンに結合するが、細胞毒性にはアクチンとの結合に関与しないマクロラクトン環上の官能基が重要と分かっている3)。例えば、7位トリメチルセリン基を持たない類縁体アプリロニンC(ApC, 2)は、ApAと同等のアクチン脱重合活性を有するが、細胞毒性はApAよりも1000倍以上弱い(IC50 = 17 nM)。従ってApAはマクロラクトン環上の官能基で、アクチン以外の第2の生体標的分子と相互作用することで、顕著な活性を発現していると推測される。

    このような背景から我々はApAの抗腫瘍活性の作用機序の解明を目指して、構造活性相関研究の知見を基にApAをリガンドとした分子プローブを合成し生体標的分子の同定とその相互作用について研究を行なってきた。

    アクチン関連タンパク質Arp2とArp3

    これまでにApAビオチンプローブ(ApA-Bio, 3)を合成し、HeLa S3腫瘍細胞の抽出液よりアクチン関連タンパク質Arp2とArp3をアフィニティ精製することに成功した4。しかしながらApAとArp2, 3との相互作用の詳細は不明であった。

    そこでArp2, 3とApA間の結合様式を解析するために、標的分子と共有結合を形成できるApAの光親和性プローブを合成することとした。またArp2, 3がApAの特異な細胞毒性に重要なのかを解明するため、ApCの光親和性プローブも合成し、ApA誘導体と活性や相互作用を比較することとした。

    プローブの合成と生物活性

    アメフラシから単離したApAについて、34位エナミド基を酸加水分解してアルデヒド4へと誘導し、ついでアルコキシルアミン5と縮合することで、ApAの光親和性ビオチンプローブ(ApA-PB, 6)を合成した(Scheme 1)。また同様の操作にてApCの光親和性ビオチンプローブ(ApC-PB, 7)も合成した。ApA-PBとApC-PBのHeLa S3細胞に対する増殖阻害活性(IC50)はそれぞれ1.2 nMと320 nMであり、元

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  • 轟木 秀憲, 岩津 理史, 枡田 健吾, 占部 大介, 井上 将行
    p. Oral23-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【序】

     4-ヒドロキシジノウォール(1) はニシキギ科の植物Zinowiewia costaricensisより単離されたセスキテルペンである。1は、多様な低分子化合物を細胞外に排出するP糖タンパク質に対して阻害活性を有する1)。1の構造上の特徴として、高度に酸素官能基化されたtrans-デカリン環(AB環)とテトラヒドロフラン環(C環)から成るジヒドロβ-アガロフラン骨格(2)上に、3つの連続する四置換炭素(C4,5,10位)を含めた9つの不斉中心を有することが挙げられる。現在までに、酸化度・立体化学の異なる400種以上のジヒドロβ-アガロフラン類の類縁体が単離されている。これらは共通の骨格を持つにもかかわらず、抗腫瘍・抗炎症・免疫抑制・抗HIVなど、非常に多様な生物活性を有している。我々は多様な酸化度・立体化学を有するジヒドロβ-アガロフラン類の網羅的合成法の確立を目指し、1を最初の標的分子として設定し、その合成研究を行った。

    【合成計画】

     1の合成計画をScheme 1に示した。1のAB環に対応するナフタレン誘導体3を出発物質とし、B環に立体選択的に官能基を導入し、4とする。1の合成において最も困難が予想されるC5,10位の連続する四置換炭素は、4のA環の酸化的脱芳香環化と、続くDiels-Alder反応によって構築する計画を立てた。5から、エポキシドの開環と分子内エーテル化を経てC環を構築して6とした後、二重結合の化学選択的な酸化開裂を経て7を得る。7からC6位ヒドロキシ基の立体反転と、C1-C2二重結合のジヒドロキシ化により8とし、アシル化を経て1が全合成できると予想した。

    Scheme 1. Synthetic plan of 1

    【B環の官能基化】2)

     まずC7,8位の立体化学導入を行った(Scheme 2)。3から文献に従って合成した93) に対し、エチレングリコール存在下、超原子価ヨウ素試薬を作用させ、エノン10を得た。10のアセチル基を除去して得られる11に対し、ロジウム触媒を用いる不斉1,4-付加反応4)によってイソプロペニル基を導入し、高い光学純度で付加体12を得た。12のC4位ヒドロキシ基をMOM基で保護し、次いで末端オレフィンをエポキシ化して13へと導いた。13をメタノール中PhI(OAc)2とt-BuOK5)で処理することで、C7位置換基とsynの立体配置のヒドロキシ基をC8位に有する16を合成した。本反応では、まず嵩高いC7位置換基と逆の面からC9位ケトンのα位がヨウ素化され14が生成する。14が分子内SN2反応によってエポキシド15となり、最後にメタノールによるエポキシドの加溶媒分解によって、16が得られる。

    Scheme 2. Functionalization of B-ring (1)

    16からB環を有する24を合成した(Scheme 3)。16のエポキシドを還元して17とした後、無水条件下で塩化水素を作用させ、三環性化合物18へと変換した。18を塩酸水溶液で処理し、アセタールおよびMOM基を除去して19へと導いた。C6位ケトンを19のconvex面から立体選択的に還元し20を得た。20の分子内アセタールを触媒量のSc(OTf)3と量論量のZn(OTf)2により加水分解して21とし、C4位ヒドロキシ基をTIPS基で保護して、22を得た。22のC9位ケトンの立体選択的な還元により23を得た後、C8,9位ヒドロキシ基をアセトニドと

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  • 梅澤 大樹, 山崎 翔平, 小栗 祐子, 松浦 裕志, 鈴木 将洋, 沖野 龍文, 松田 冬彦
    p. Oral24-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    Omaezallene (1)は、2007年に静岡県御前崎で採取されたソゾ属から単離された天然有機化合物であり、タテジマフジツボのキプリス幼生の付着を低濃度(EC50 = 0.22 mg / mL)で阻害することが明らかにされている。船底などにフジツボなどが付着すると航行速度の低下を引き起こし、燃費が劇的に悪くなる。付着阻害物質として、これまでは有機スズ化合物が世界中で広く使用されてきたが、貝類の成長阻害を引き起こしたり、メスの巻貝をオス化させるなど、その毒性のため2008年に国際海事機関 (IMO)によってその使用が禁止された。そのため、毒性の少ない天然有機化合物由来の付着阻害物質の創製が求められており、1はそのリード化合物として期待される。1の立体化学は以下のように推定した。ブロモアレンを除く部分の相対立体配置は天然の1をアセトニド化し2環性化合物2に導いた後にNOE測定し、その相関から図のように推定したが、C9位の相対立体化学については、NOEだけでは確定できなかった。ブロモアレンの絶対立体化学は、1の比旋光度が-127で負の値であったことから、Lowe則1)によりRであると推定した。しかしながら、アレンに対するTHF環部の相対立体化学およびアレン以外の絶対立体化学は類似化合物であるAplysiallene2)との比較による推定にとどまった。今回、Omaezalleneの全合成を達成するとともに、その絶対立体化学を確定することができた。本発表ではその詳細について発表する。

    合成計画

    構造決定を行うためには、1つの中間体から、予想される2種の立体異性体(Rのブロモアレンに対する、THF環部の両エナンチオマー)に柔軟にアプローチできるルートが理想である。このことを念頭に置いて、Scheme 1に示すOmaezalleneの合成計画を立案した。D-glucoseから誘導できる既知のアルデヒド3を出発化合物に用いて、Wittig反応でE-オレフィンを構築後、アセタールを脱保護して得られるヘミアセタールに対して、アセチリドを付加してトリオール4を合成する。4にNBSなどを作用させるブロモエーテル化によって2連続不斉中心を一挙に構築し、テトラヒドロフラン 5とする。次に、Aplysialleneをはじめとしたブロモアレン類の合成の際にも用いられた既知の方法を適用して、立体特異的に進行するブロモアレン化、続く保護基の変換を経てアルデヒド6へと導く。最後に、アルデヒドを足掛かりとしたC9位水酸基の導入を経て、ブロモジエンを構築後、脱保護によって1を合成することにした。また、THF環部のもう一方のエナンチオマーの合成には3の隠れた対称性を利用することにした。すなわち、3にアセチリドを付加して7とし、アセトニドの脱保護により得られるアセタールにWittig試薬を作用させると、ent-4が合成できると考えた。

    Scheme 1. Synthetic Plan toward Omaezallene

    アルデヒド6の合成

    D-glucoseから5段階で合成した3を用いて、E-選択的Wittig反応を試みた。トリフェニルホスフィン由来の試薬ではEZ選択性は最高で2:1にとどまったが、Martinらが報告したトリブチルホスフィンから合成したWittig試薬3では10:1にまで選択性が向上した。エステルを還元し、生じた水酸基を保護し

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  • 梅宮 茂伸, 林 雄二郎
    p. Oral25-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     プロスタグランジン類は僅かな量で様々な生理活性を示す天然物であり、医薬品としても知られている重要な化合物である。構造的特徴として、官能基化された光学活性シクロペンタン環、α側鎖およびω側鎖を有している(Figure 1)。プロスタグランジンの骨格をベースとした医薬品が世界中で開発されている。プロスタグランジン類はこれまで多くの研究者によって全合成が達成されており、中でもCoreyらにより様々なプロスタグランジン類を網羅的に合成できる優れた手法1)が報告されているが、多段階合成であることから、より効率的な合成法の開発が望まれている。今回我々は、当研究室が開発した有機触媒であるジフェニルプロリノールシリルエーテルを用いた不斉マイケル反応を鍵工程とするプロスタグランジンE1メチルエステル(1)の効率的な全合成を行った。

    【逆合成解析】

     以下にプロスタグランジンE1メチルエステル(1)の逆合成解析を示す(Scheme 1)。1はプロスタグランジンA1メチルエステル(2)より合成できるものとした。本合成の鍵中間体としてニトロアルケン3を設定した。2は3のa, b-不飽和ケトン部位をジアステレオ選択的に1,2-還元し、ニトロアルケンをa, b-不飽和ケトンへ変換することで達成できると考えた。鍵中間体3はアルデヒド4へのHorner-Wadsworth-Emmons反応、ニトロアルコール部位の脱水反応により構築できるとした。4はジフェニルプロリノールシリルエーテル5を用いた形式的[3+2]付加環化反応が進行すれば、ニトロアルケン6とスクシンアルデヒド(7)から合成できるものと考えた。

    【形式的[3+2]付加環化反応の開発】

    2007年、我々は独自に開発したジフェニルプロリノールシリルエーテル2)を用いたニトロアルケン8とグルタルアルデヒド水和体(9)との形式的[4+2]付加環化反応を報告している(式1)3)。C5ユニットであるグルタルアルデヒドの代わりにC4ユニットであるスクシンアルデヒドを用いれば、形式的[3+2]付加環化反応が進行し、一挙にシクロペンタン骨格が構築できるものと考えた。

    まず、スクシンアルデヒド(7)の合成を行った(式2)。市販の2,5-ジメトキシテトラヒドロフラン(11)を触媒量のAmberlyst15存在下、開放系で水中90℃で3時間加熱することによりメタノールを留去した後、ろ過及び分液操作を行い、7を収率75%で得た。

    モデル基質としてニトロアルケン12を用い、形式的[3+2]付加環化反応の検討を行った(Scheme 2)。ジフェニルプロリノールシリルエーテル及びp-ニトロフェノール存在下、12に対し7を作用させると、不斉マイケル反応が進行した。続く分子内ヘンリー反応をジイソプロピルエチルアミンの添加により完結させ、アルデヒド13を得た。13は不安定であったため還元して単離したところ、ジオール14が収率79%、dr=76:17:7のジアステレオマー混合物として得られた。14を対応するニトロアルケン15へと誘導したところ、cis:trans = 93:7、不斉収率94% eeであり、最初の不斉マイケル反応は高ジアステレオかつ高エナンチオ選択的に進行していることが分かっ

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  • 山下 裕, 平野 陽一, 高田 晃臣, 瀧川 紘, 鈴木 啓介
    p. Oral26-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     BE-43472B(1)は、1996年に萬有製薬の研究陣によってStreptomyces sp. A43472の培養液から単離された抗生物質であり、その後、Rowleyらによってカリブ海原産のホヤ(Ecteinascidia turbinata)に寄生する放線菌の二次代謝産物として再度単離された。この化合物はヒト腫瘍細胞に対する増殖阻害活性を示すほか、MRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)などの多剤耐性菌に対する強力な殺菌活性を示す。その複雑な構造は、二つのアントラキノン単位から構成されたビスアントラキノンに対し、テトラヒドロフラン環(D環)およびジヒドロフラン環(E環)が縮環した8環性骨格から成っている。

     今回、演者らは当研究室で開発された多環骨格構築法1)を活用し、1のラセミ体および光学活性体の全合成を達成したので報告する。

    1. 合成計画

     合成における主な課題は、(1)立体障害の大きい核間位における炭素−炭素結合の形成、ならびに(2)C3位水酸基の立体選択的導入、である。特に、このC3位水酸基は極めて脱離し易いとの報告があり、この点には困難が予想された。すなわち、1をジメチルスルホキシド中、室温下で放置しておくと、しだいに脱水体2へと変化していく。このことを考慮し、なるべく合成の終盤でC3位水酸基を導入することを念頭に逆合成解析を行った。

     まず、C3位水酸基はC2–C3位二重結合を足掛かりに導入することとし、前駆体として脱水体2を想定した。次に、アントラキノン2のH環はナフトキノン3とBrassardジエン4との位置選択的なDiels–Alder反応により構築し、ナフトキノン3はラクトン5から誘導することとした。さらに、ラクトン5の2つの5員環(D、E環)の構築はナフトール6の連続環化反応によることを想定した。この6の核間位のナフチル基は、当研究室で見出されたイソオキサゾールのカチオン安定化効果に基づく位置選択的なピナコール転位反応1)を用いて導入できるものと期待し、出発物質としてケトン72)とナフチルブロミド8とを想定した。

     以下、この計画に基づく合成について述べる。

    2. 脱水体の合成とC3位水酸基の導入に関する初期的検討

     上述の計画に基づき、ラクトン5の合成を行った。すなわち、ハロゲン–リチウム交換反応によって、ナフチルブロミド8から対応するリチウム種を発生させ、これをケトン7に付加させることにより、ジオール9を定量的に得た。このジオール9に酸を作用させると、ピナコール転位が速やかに進行し、核間位にナフチル基を有するケトン6が高収率で得られた。このケトン6を酸とともに加熱すると、ヘミアセタールを経て、分子内エステル交換反応が進行し、ラクトン5が得られた。

     このラクトン5をメチレン化してエノールエーテル10とした後、水素化により13-メチル基を導入するとともに、イソオキサゾール環の還元的開環によりエナミノン11を得た。ここから7段階の変換を経て、標的化合物1の脱水体に相当するアントラキノン2の合成に成功した。

     残るはC3位水酸基の立体選択的な導入である。しかし、モデル化合物12を

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  • 筒井 歩, プラディプタ アンバラ, 松本 梨沙, 深瀬 浩一, 田中 克典
    p. Oral27-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    共役アルデヒドに対して一級アルキルアミンを作用させると、速やかに対応する共役イミンが得られる。窒素上に電子求引基を持つ共役イミンとは対照的に、アルキル基を持つイミンは、加水分解や酸、あるいは熱に対して非常に不安定であり、重合を起こしたり分解するために、その反応性については詳細には調べられておらず、有機合成にほとんど利用されてこなかった。しかし、N-アルキル共役イミンは複数の求電子性、および求核性原子を持つ高活性なamphiphilic反応剤として捉えることができ、反応系を適切に選ぶことにより、ユニークな合成戦略を展開できる可能性を秘めている。また、N-アルキル共役イミンは、生体内でも脂質代謝産物などの不飽和アルデヒドと、リジン側鎖やエタノールアミン、あるいはポリアミンなど様々な生体アルキルアミンとの反応により速やかに得られるため、この「見過ごされてきた共役イミンの反応性」が生体機能の発現や制御に関わる可能性を有する。今回我々は、水酸基やアミノ基を持つN-アルキル共役イミンが、速やかに[4+4] 環化反応を起こし、2,6,9-トリアザビシクロ[3.3.1]ノナンや1,5-ジアザオクタン化合物を与えることを見出した。この見過ごされてきた共役イミンの新奇な反応性を合成化学的に展開するともに、本反応がポリアミンによる酸化ストレスや生体内での機能調節に関与する可能性を見出したので、これらの経緯について報告する。

    (1)共役イミンの[4+4]環化反応の発見

    我々は、N-アルキルイミンの反応性を開拓する研究過程において、ベンジルアミンの存在下、共役イミンが[4+4]環化反応により二量化する反応を見出した(図1)1。すなわち、フマル酸アルデヒド1とベンジルアミンから得られる共役イミン1iに対して、0.5当量のベンジルアミンを室温で作用させたところ、5時間以内でかご型化合物である2,6,9-トリアザビシクロ[3.3.1]ノナン1aが定量的に得られることを見出した。1iのような共役イミンの調製法は古くから知られているが、過剰のアミンの存在下でイミンがさらに2量化反応を起こしていることを明確に示したのは我々が初めてである。N-アルキル共役イミンの「見過ごされてきた反応性」であると言える。本反応は置換基を持たないアクロレイン2、またはメチル基を持つメタクロレイン3やクロトンアルデヒド4を原料とした場合にも良好に進行し、これらアルデヒドに対して過剰量のアミンを作用させ、室温下で放置するだけでかご型化合物2a-4aを1ポットで得ることができた。一方、あらかじめ2種類の共役イミンをそれぞれ調製した後、さらに0.5当量のベンジルアミンの存在下で2つを混合することにより、異なるイミン間で[4+4]反応を進行させ、へテロカップリング体5を得ることにも成功した(図1下)。

     以上の結果は、求核性の高いベンジルアミンが1分子のイミンと速やかに反応し、アミノアセタールを経由することにより、もう1分子のイミンへの共役付加を促進させる(図2)。さらに、ジアセタール構造を持つ強固なかご型化合物1aが熱学的に安定な最終生成物として得られた結果であると考察できた。そこで我々は、共役イミンの

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  • 山田 慧, 高橋 諒, 佐藤 格, 山下 修治, 平間 正博
    p. Oral28-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    シアノスポラサイド(1,2)およびフィジオライド(3,4)は、Fenicalらにより海産放線菌の代謝産物として単離、構造決定された1,2。シアノスポラサイド1および2は、主骨格であるシクロペンタ[a]インデン骨格上の塩素置換部位だけが異なる位置異性体である。フィジオライドも塩素化されたシクロペンタ[a]インデン骨格を含み、いずれも3級アルコールのグリコシドである(Figure 1)。これらの海洋天然物の前駆体は、(5)型の9員環エンジインと推定される。5は、Masamune-Bergman環化してp-ベンザインビラジカル(6)を生じ、これがモノクロロ化されてシアノスポラサイドおよびフィジオライドが生成すると考えられる(Figure 2)。前駆体(5)の関与は、1及び2を生合成する遺伝子が、他の9員環エンジイン天然物の生合成遺伝子と高い相同性を示すことからも支持される3。また、これまでに単離されたシクロペンタ[a]インデン型天然物(1~4)は、いずれもモノクロロ体である。p-ベンザインビラジカル(6)を経て生成すると推定されているのに、ジクロロ体が単離されていないのはなぜか。モノクロロ化反応機構も興味深い問題である。

    我々は、1及び2のアグリコン前駆体に相当する9員環エンジインを芳香環化させ、非対称p-ベンザインビラジカルの位置選択的なモノクロロ化反応を実現した。さらに、シアノスポラサイド及びフィジオライドアグリコン保護体の合成に成功したので報告する。

    Figure 1. Cyanosporaside and Fijiolide.

    Figure 2. Proposed Pathway to chlorocyclopenta[a]indene core.

    【シアノスポラサイドの合成】

    5員環部9とアセチレン部10を、LHMDSを用いて立体選択的に連結し、11を得た(Scheme1)。11からアルデヒド13へと変換後、LHMDS/CeCl3を用いて9員環化し、14とした。その後4工程の官能基変換を経て、ビスメシレート15を合成した。15をヨウ化サマリウムで処理したところ、ビニロガスな還元的脱離反応が進行し、シアノスポラサイドに特有のジエン構造16を構築できた。鍵工程である、16からのエンジイン化を試みた。THF-d8溶媒中、DBUを塩基として用いて800MHz 1H-NMRにより反応を追跡したところ、極めて不安定な9員環エンジイン17の生成が観測された。しかし、17は測定中に速やかに芳香環化して18を与える事が分かった。

    Scheme 1. Synthesis of 16 and Unstable Enediyne (17).

    エンジイン(17)の単離が困難であったので、16から直接モノクロロ化を試みた。16に対して、CCl4中でt-BuOKを作用させると、ジクロリド20のみを与えた(Scheme 2)。一方、Et2O/CCl4=1/1溶媒中では望むモノクロロ化反応が進行した。意外にも、得られたモノクロロ化体は、3位が塩素化されたシアノスポラサイドA型の21のみであった。さらに、LiCl共存化、DMSO溶媒中5、t-BuOKを作用させたところ、6位が位置選択的に塩素化された22が生成した。22はシアノスポラサイドBの置換様式を有する。以上のように、反応条件を変えることにより、モノクロロ化体21及び22を作り分けることに成功した。また、得られた21および22からシアノスポラサイドAおよびBアグリコン保護体の合成を達

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  • 工藤 雄大, 山下 瑶子, 此木 敬一, 長 由扶子, 安元 健, 山下 まり
    p. Oral29-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    テトロドトキシン (TTX, 1)は電位依存性ナトリウムチャネルを特異的に阻害する強力な神経毒である。TTXはフグから単離されたが、その後、カニや巻貝、ヒョウモンダコ、ヒラムシなどの多様な海洋生物、更には陸棲のイモリ、カエルからも同定された。高度に架橋した構造と強力な生理活性、広範な生物種に分布する特徴から、極めて興味深い化合物である。TTX生産細菌を報告し 1)、その後も数多くの報告があるが、TTXの生合成に関わる出発物質、遺伝子は未だに同定できていない。我々はTTX天然類縁体が生合成経路解明の手がかりになると考え、フグやイモリから種々のTTX類縁体を単離・構造決定してきた 2-4)。今回HILIC (Hydrophilic interaction liquid chromatography: 親水性相互作用) -LC-MSを用い 5)、新規TTX類縁体を探索したところ、オキナワシリケンイモリ (Cynops ensicauda popei) 及びヒガンフグ (Takifugu pardalis)から新規TTX類縁体と推測される化合物が数種検出され、これらの単離・構造決定を行った。さらに、各種TTX含有生物における分布を調査し、TTXの生合成経路の推定を試みた。

    1. イモリから得られた新規TTX類縁体の構造と分布

    TTXの生合成中間体は生理活性を持たない可能性が高く、生理活性を指標としたスクリーニングは適切ではなかった。そこで、TTX類縁体の一斉分析が可能なHILIC-LC-MSを用い、既知のTTX類縁体のフラグメントイオンを指標として新規TTX類縁体を探索した。C. e. popeiを希酢酸加熱抽出し、活性炭カラムで粗精製した後、HILIC-LC-MSに供し、新規TTX類縁体を探索した。2種の新規TTX類縁体 (2, 3) (Fig. 1)が検出されたため、これらを弱酸性陽イオン交換カラムBio-Rex70 (Bio-Rad)、HITACHI GEL #3011-C、HITACHI GEL #3013-Cを用いて精製した。3は更なる精製が必要であったため、TSK-gel Amide-80 (Tosoh)を用いて精製した。2はC. e. popeiの全組織170 gから約250 μg得られた。3は内臓組織を除いた身体組織65 gから約300 μg、4,9-anhydroTTXとの混合物 (約1:1)として得られ、そのまま解析に用いた。2, 3の分子式はそれぞれESI-Q-TOF-MSを用いてC11H15N3O4及びC11H15N3O6と決定した。2: [M+H]+ m/z254.1136 (calcd. for C11H16N3O4254.1135, error: 0.4 ppm), 3: [M+H]+ m/z 286.1036 (calcd. for C11H16N3O6286.1034, error: 0.7 ppm)。

    2の分子式は、4,9-anhydro-5,6,11-trideoxyTTX (4)と一致した。また、2を各種NMR (600 MHz, CD3COOD-D2O 4:96, v/v)に供したところ、そのシグナルは4 6に類似していたが、2ではH5のシグナルが一つしか示されず、かつH9の大きな高磁場シフト (-0.73 ppm)が観測された。C5、C10のケミカルシフト (50.7, 107.6 ppm)、及び、C5/H9, C10/H4a, C10/H6のHMBC相関が観測されたことから、2はこれまで報告例のない、C5とC10が直接結合した10-hemiketal構造を持つと考えられた。2のNOESY 1DではH4a/H6のNOEが観測されたが、H4a/H8, H6/H8のNOEは観測されなかった。このことからC6の立体化学はTTXと同じであり、C8位はイモリに特異的な8-epi体であると考えられた 4)。以上より、2の構造を4,9-anhydro-10-hemiketal-8-epi- 5,6,11-trideoxyTTXと推定した (Fig. 1)。

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  • 只野 元太, 谷野 圭持
    p. Oral3-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     アルテミシジン(1)は放線菌Streptomyces sioyaensisSA-1758から単離されたモノテルペンアルカロイドであり、抗腫瘍活性を示すことが知られている1)。1はヘキサヒドロ–6–アザインデン骨格上にβ–ヒドロキシ–α,α–二置換アミノ酸およびスルホンアミド側鎖を含む複雑かつユニークな構造を有し、多くの合成化学者の興味を集めてきたが2)、その全合成例は1995年のKendeらによる報告のみである3)。今回我々は、分子内溝呂木−Heck反応による含窒素四置換炭素構築と、置換ピリジン誘導体の立体選択的部分還元を鍵反応として用い、斬新かつ効率的なアルテミシジンの全合成を達成したので報告する。

    1. 合成計画

     アルテミシジン(1)の鍵中間体としてヘキサヒドロアザインデン骨格を有するエナミン2を設定し、このものをN−メチルピリジニウム塩3の立体選択的部分還元により合成することとした。3の前駆体となる置換ピリジン4は、ハロピリジン5の分子内溝呂木−Heck反応により誘導することとし、5は3−ブロモ−5−ヨード−4−メチルピリジン(7)から調製したアニオンを文献既知のα,β–不飽和アルデヒド64)に作用させれば合成可能と考えた。

    2. ジヒドロ−6−アザインデン骨格と含窒素四置換炭素の構築

     市販のジブロモピコリン8をブロモヨードピコリン7に変換後、LDAを作用させてアニオンを調製し、不飽和アルデヒド6との1,2−付加反応を行った。生じた二級アルコール9をシリルエーテル10とした後、分子内溝呂木−Heck反応による5員環形成を詳細に検討した結果、以下の最適条件を見出した。すなわち、パラジウムの配位子としてP(2-furyl)3を使用し、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)共存下、マイクロウェーブ反応装置を用いることで反応は円滑に進行し、83%の高収率で目的物の合成に成功した。環化体は、互いに分離困難な立体異性体11αと11βの混合物(3:1)として得られ、両者の立体化学はNOE測定により決定した。

    環化体のTES基を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、アルコール12および13を単離した。5員環上の窒素原子と水酸基に注目すると、主生成物12は天然物1と逆の相対立体配置を有するが、この問題については以下の解決法を見出した。すなわち、12をトリフラート化の条件に付すとBoc基の隣接基関与を経て立体反転が起こり、カルバマート14を与えた。一方、12のジアステレオマー13は、単に塩基処理を行うことで同一のカルバマート14に変換可能である。このように、分子内溝呂木−Heck反応における立体制御は困難なものの、環化体においてアルコールの立体配置を整える手法を確立することができた。そこで次に、臭化物14をニトリル15へ変換するべく、様々な触媒とシアノ化剤を組み合わせてカップリング反応を試みたが、目的物は全く得られなかった。この結果から、シアノ基の導入を合成の初期段階で行う新たな戦略を立案した。

    ジブロモピコリン8を2工程でニトリル17に誘導後、先と同様な変換を経て

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  • 星野 力, 千葉 彬文, 阿部 奈緒美, 花岡 正樹, 山口 雄生, 宮原 悠里, 高橋 一成
    p. Oral30-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1.序論

     鎖状分子のスクアレン(SQ)や2,3-オキシドスクアレン(OXSQ 1)を位置および立体特異的に炭素−炭素結合を一挙に形成して多様な多環性骨格を構築するトリテルペン環化酵素の研究は古く,半世紀以上経過しているが未だ解明されてない点が多々存在する。4環性骨格のラノステロールを合成する酵素の基質認識機構に関しては、1960年代後半から1990年代前半にかけてvan TamelenやCoreyらの精力的な研究が報告されてきた。1955年スイスのETH school (Arigoniら) は、基質がchair/boat/chair/boat型で折り畳まれ、17α-側鎖を持つprotosteryl cationが生成され、その後backbone転位が起きラノステロール骨格が構築されると提唱した(Scheme 1a)。1)1991年Coreyは20-oxa アナログの酵素反応を行った結果、中間体protosteryl cationの17位の側鎖は、β配向であると報告した。2)この実験結果は、chair/boat/chair/chair で進行することを示唆している。しかし、Coreyらはこのconformationを指摘しなかったためか、専門書等でD環形成は未だboat型であると間違って記載されている。3) 2005年Arigoniらは、Coreyらの結果を基にしてchair/boat/chair/chairである可能性を指摘(事実上修正)したが,4)

    依然として間違いが見られる。5)この現状を鑑み、我々は、この歴史的な背景とともにScheme 1bのfolding conformationが正しいことを論文のなかで特に明示した。6)この事例が示すように、基質アナログによる研究は反応機構解明に向けて重要なツールとなっている。また、基質のメチル基が多段階反応にどのような影響を果たすのかも古くから研究されてきた。1968年van Tamelenらは15位のMe(Me-28)が欠損5しても、正常なconformationが進行し、18-norlanosterol 10が生成すると報告した。7)1992年Coreyらは、27, 28- bisnorOXSQ 6の環化物としてchair/chair /boat型で進行した6/6/5+4 11の4環性化合物を報告し、van TamelenのMe-28のノル体の結果と合わせてMe-27が正常な環化反応に最も重要であると報告した(図1)。8)しかし、Me-27のみが欠損したOXSQ 7やMe-29が欠損したアナログ8の酵素反応は未だ報告されてない。我々は、7及び8の環化産物を同定し、Me基の重要性について更に検討した。6)また、嵩高いホモメチル基(Et基)が置換したアナログ9も合成し、その嵩高さの重要性についても検討した。我々は植物に普遍的に存在するβ-アミリン合成酵素(ミドリサンゴ由来)を多く発現する系を確立し、精製酵素を簡便に得ることに成功したので、9)24-, 30-ノルアナログを合成してβ-アミリン環化反応に及ぼすメチル基の影響も検討した。β-アミリン合成酵素を用いたアナログの研究は、ラノステロールやホペン合成酵素10)と比較して立ち遅れている。膜タンパク質のため、活性型酵素として精製することが困難であったことが要因である。b-amyrinはchair/chair/chair/boat/boatのconformationで生成される(Scheme 2)。

    2.ラノステロール合成酵素

    化学合成した基質アナログ7, 8を豚肝臓ミクロソーム画分から酵素を部分精製し反応を行った。7からは12と13(9:1)が得られた。12は正常なchair/boat/chair/chair foldingで13は異常なchair/chair/boat foldingで環化した産物である。また、8

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  • 天貝 啓太, 高久 亮磨, 工藤 史貴, 江口 正
    p. Oral31-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    クレミマイシンは放線菌Streptomyces sp. MJ635-86F5が生産する19員環マクロラクタム配糖体抗生物質で、β-アミノ脂肪酸スターター部位を含む二環性アグリコン骨格や、希少糖であるシマロースが結合している構造となっており、メチシリン耐性菌を含むグラム陽性菌に対して幅広い抗菌活性を有することが知られている (Fig. 1)[1]。当研究室では前年度、前々年度に本討論会にて報告したように、既にビセニスタチンやインセドニンといったβ-アミノ酸含有型マクロラクタム抗生物質の生合成遺伝子クラスターを取得している。そしてこれらのスターター基質はグルタミン酸から生合成され、天然の保護基 (アミノ酸) によってβ位のアミノ基が保護された後にアグリコン骨格構築のためのポリケチド合成酵素 (PKS) へローディングされることを見出している[2]。一方、クレミマイシンの予想スターターは3-アミノノナン酸であり、これが天然のアミノ酸から誘導されるとは考えにくく、その生合成機構に非常に興味が持たれた。そこで、β-アミノ酸含有型マクロラクタム生合成マシナリーを応用した新規抗生物質の創製も見据え、クレミマイシン生合成機構の酵素・遺伝子レベルでの解明を目指し、研究を展開した。その結果、クレミマイシン生合成前駆体ならびに遺伝子クラスターに関する知見、さらにはスターターである3-アミノノナン酸のアミノ基導入機構について、非常に興味深い結果を得ることができたので報告する。

    1. 安定同位体標識化合物を用いた投与実験

     まず始めにクレミマイシンの生合成前駆体に関する知見を得るため、安定同位体標識化合物を用いた投与実験を行った。その構造からポリケチド化合物であることが予想されたため、ポリケチド生合成の伸長基質として一般的に使用される生合成前駆体の安定同位体標識化合物、[1-13C]酢酸ナトリウム、[1,2-13C2]酢酸ナトリウム、[1-13C]プロピオン酸ナトリウムと、d-[6,6-2H2]グルコースをそれぞれクレミマイシン生産菌培養液中に投与し、得られたクレミマイシンを13C-NMR, INADEQUATE, 2H-NMRで解析した。その結果、クレミマイシンのアグリコン骨格は11個の酢酸ユニット, 2個のプロピオン酸ユニットで構築され、シマロースの生合成前駆体はd-グルコースであることが明らかとなった。また、プロピオン酸ユニットが生合成前駆体として導入される部分では、酢酸がクエン酸回路にて変換されたコハク酸を経由して導入されることを、[2,3-2H4]コハク酸を用いた投与実験で明らかとした[3] (Fig. 3)。さらにクレミマイシン生産菌に予想スターターである3-アミノノナン酸の重水素標識化物を投与したところ、クレミマイシンの生産量の減少が見られたが、LC/MS解析により重水素が取り込まれたクレミマイシンを検出したことから、3-アミノノナン酸がクレミマイシン生合成におけるスターターであることが明らかとなった。また、この部分には標識化酢酸やプロピオン酸が取り込まれたことから、クレミマイシンのβ-アミノ酸スターターユニットは、アミノ酸から誘導されるのではなく、PKSによって伸

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  • 南 篤志, 田上 紘一, 千葉 諒太, 藤居 瑠彌, 劉 成偉, 井坂 哲也, 笛木 周平, 七條 好宏, 戸嶋 浩明, 五味 勝也, 大利 ...
    p. Oral32-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     糸状菌は放線菌と並ぶ多様な構造を有する天然物の宝庫であり、生理活性物質の主要供給源であることが知られている1。また、シーケンス技術の急速な発展に伴い、糸状菌ゲノム中には既知化合物から予想されるよりも遥かに多い数の生合成遺伝子群が存在することも明らかにされつつある。これより、二次代謝産物生合成遺伝子(群)の機能を最大限に活用するための汎用性の高い方法論を確立すれば、既知物質の効率的生産に加えて新規生理活性物質の発見につながると考えられる。

     麹菌異種発現系は、糸状菌由来の有用タンパク質の生産において優れた実績を持つ発現系である2。藤井・海老塚らは、この信頼性の高い麹菌発現系を二次代謝産物の生合成研究へと応用し、ポリケチド合成酵素の機能解析において先駆的な研究を行ってきた3。また近年では、複数遺伝子の導入による天然物とその中間体の合成例(tenellin4、pyripyropene5)も報告されている。我々もaphidicolinの酵素的全合成6の達成を契機として、麹菌異種発現系を利用した生合成遺伝子の網羅的解析と物質生産への展開を図ってきた。本討論会では、インドールジテルペンpaxiline(1)の酵素的全合成7、機能未知遺伝子の強制発現によるophiobolin F(8)合成酵素の同定8を例として、麹菌異種発現系の有用性について議論する。

    1. インドールジテルペンpaxiline(1)の酵素的全合成

     Paxiline(1)に代表されるインドールジテルペンは、糸状菌が生産する代表的なマイコトキシンである。ポリプレニル鎖の鎖長(炭素数15もしくは20)と環化様式、酸化度などの違いにより構造多様性が創出され、類縁化合物の総数は百以上にも及ぶ9(図1)。Scottらによる先行研究から、1の生合成遺伝子クラスターの特定と多段階酸化反応を触媒する2種の酸化酵素(PaxP、PaxQ)の機能解析が行われていたものの9、インドールジテルペンの共通中間体であると考えられてきたpaspaline(2)までの生合成経路については不明であった。そこで我々は1の生合成マシナリーの再構築と酵素的全合成を目指し、麹菌異種発現系を利用した1の生合成研究に着手した。

     まず、同位体標識化合物の投与実験10から環化直前の中間体であることが確認された3-geranylgeranylindole(3)の合成に必要な遺伝子を実験的に特定することにした。麹菌NSAR1株に対し、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)合成酵素遺伝子paxGとプレニル基転移酵素遺伝子paxCを導入したところ、期待した通り、3が合成された(図2-iv)。次に6環性骨格の構築機構を調べるため、paxG/C株に対してエポキシ化酵素遺伝子paxMと環化酵素遺伝子paxBを追加導入した。各形質転換体が生産した化合物の単離・構造決定から、paxG/C/M株ではモノエポキシド4(図2-iii)、paxG/C/M/B株では2の生産を確認した(図2-ii)。paxG/C/M株が4を生産したことを考慮すると、エポキシ化と環化が段階的に進行することで3から2へと変換されることが予想された。そこで、paxB単独導入株を用いて4及び有機合成的に調製したビスエポキシド6の微生物変換反応を行った。反応生成物の

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  • 松田 侑大, 淡川 孝義, 脇本 敏幸, 阿部 郁朗
    p. Oral33-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1. はじめに

     メロテルペノイドとはテルペノイド骨格を部分構造として有する化合物の総称である1。特に糸状菌からは、コレステロール低下剤として臨床応用が期待されるpyripyropene A2や、その誘導体が免疫抑制剤として用いられるmycophenolic acid3を始めとして、構造多様性ならびに生物活性に富むメロテルペノイドが報告されている(Figure 1)。したがって、その生合成遺伝子の解明や生合成酵素の機能解析は、今後の創薬を指向した物質生産において重要である。

    Figure 1. 代表的な糸状菌メロテルペノイド

     糸状菌メロテルペノイドのうち、3,5-dimethylorsellinic acid(DMOA)を共通中間体とするメロテルペノイドにはとりわけ多様な骨格が知られている。Terretonin4、austinol5、andrastin A6は、いずれも共通中間体であるDMOAおよびファルネシル二リン酸に由来するが、テルペノイド部位の環化様式や閉環後の種々の修飾反応の多様性によって、これら化合物群の構造多様性が生み出される。当研究室ではこれまでに、terretoninの生合成遺伝子クラスターを同定し、その生合成経路の最初の5つの反応を異種糸状菌にて再構築するとともに、生合成に関わるテルペン環化酵素(Trt1)の同定に成功している7, 8。すなわち、本生合成経路においては、ポリケタイド合成酵素(PKS、Trt4)、プレニル基転移酵素(PT、Trt2)、メチル基転移酵素(MT、Trt5)、フラビン依存型酸化酵素(FMO、Trt8)、ならびに、Trt1により環化体preterretonin Aが生成する(Figure 2)。興味深いことに、Trt1はepoxyfarnesyl-DMOA methyl esterのみを基質として受容し、そのカルボン酸体からは環化産物を与えない。

    Figure 2. Terretoninの生合成経路

     今回我々は、DMOA由来メロテルペノイドの構造多様性を生み出す酵素群についてさらなる知見を得るべく、Trt1とは閉環様式を異にする環化酵素や、閉環後の修飾反応に関わる酵素群の探索ならびに機能解析を行うこととした。

    2. テルペン環化酵素群の機能解析

     新規活性を有するテルペン環化酵素を探索すべく、Trt1とは閉環様式を異にする環化酵素の生合成への関与が予想されるaustinolおよびandrastin Aに着目した。Austinol生合成に関しては、すでにAspergillus nidulansのゲノムデータベースより生合成遺伝子クラスターが同定され、ausLと命名された遺伝子が環化酵素をコードすると推定されているが、その詳細な機能は不明であった9。一方、andrastin A生合成に関しては、これまでに生合成遺伝子の報告はなかったため、andrastin類の生産が報告されている糸状菌種のうち、ゲノム情報が公開されているPenicillium chrysogenumのゲノムデータベース中に生合成遺伝子群を探索した。その結果、11遺伝子からなる推定生合成遺伝子クラスターを見出し、環化酵素をコードすると予想した遺伝子をadrIと命名した。次いで、Trt1に代えてAusLまたはAdrIを発現する5遺伝子発現系を異種糸状菌Aspergillus oryzaeにて構築したところ、それぞれ異なる閉環産物protoaustinoid A(1)およびandrastin E(2)を生成した(Figure 3)。AusLおよびAdrIによる閉

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  • 劉 成偉, 南 篤志, 野池 基義, 田上 紘一, 及川 英秋, 大利 徹
    p. Oral34-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【目的】インドールジテルペンは、糸状菌が生産する代表的なマイコトキシンであり古くから研究が行われてきた。その生合成研究は、Scottらによりpaxilline (3)生産菌である糸状菌Penicillium paxilliを用いて、主に遺伝学的手法により進められてきた1)。その結果、生合成遺伝子クラスター中のpaxG, paxC, paxM, paxB, paxP, paxQの6つの遺伝子が3の生成に必要であると示唆されていた2, 3)。つい最近我々は、Aspergillus oryzaeを用いて6つの遺伝子を異種発現させることにより個々の遺伝子の機能を明らかにした(図1)4)。しかし、初発反応を触媒しgeranylgeranyl indole (1)を生成するPaxCの真の基質や、クラスターに存在しプレニル転移酵素と相同性を有するpaxDの機能など不明な点も多い。またAspergillus flavusが生産し3の類縁体であるaflatrem (10)の推定生合成遺伝子クラスターも同定されているが、プレニル転移酵素と相同性を有するatmD遺伝子の機能解明は行われていない。そこで、組換えPaxC、PaxDおよびAtmDに関して詳細な解析を行った。その結果、これらインドールジテルペン生合成に関与するプレニル転移酵素は幅広い基質特異性と柔軟なregular/reverse選択性を併せ持つことが解ったので報告する。

    図1 パキシリン生合成遺伝子クラスターと判明している遺伝子機能

    【方法および結果】

    (1)PaxCの機能解析:これまで2つのグループがトレーサー実験を行い、PaxCの基質として各々L-Trp とindole-3-glycerol phosphate (IGP)を示唆する報告をして                いるが真の基質は定かではない。そこで組換えPaxC酵素を用いて解析を行った結果、IGPが基質となった(図2)。さらにindoleも基質になることが解ったため、両基質を用いてkcat/Km値を求めた結果、IGPに対しては28.2 mM-1S-1、indoleに対しては3.6 mM-1S-1を示したことからIGPが真の基質であると推定された4)。さらに、PaxCはGGDPに加えfarnesyl diphosphateをIGPに付加しfarnesyl indole(FI, 12)を生成する活性も有していた。 

    図2 PaxCの機能解析

    (2)PaxDの機能解析:上記6つの遺伝子を含む生合成遺伝子クラスター近傍には、プレニル転移酵素と相同性を有するpaxDが存在する(図1)。6つの遺伝子で3が生成した事実に加え、これまでP. paxilliからは3以上に修飾された化合物が単離されていないことから、paxDが菌体内で発現していない可能性も考えられる。そこでcDNAの取得を試みた結果、paxC遺伝子と同様に容易に取得できたことから、paxDもin vivoで機能していると推定された。そこで組換え酵素を用いて機能解析を試みた。上述したように6つの遺伝子で3が生成したことから、PaxDは3をプレニル化すると予想し検討した。その結果、3の21,22位がdi-プレニル化された4が生成した(図3)。4はP. paxilliの培養液中にも微量存在したことから最終産物は3ではなく4であることも解った5)。既知のカビ由来プレニル転移酵素はmono-プレニル化する例しか報告が無く、PaxDはdi-プレニル化を触媒する初めての例である。

    図3 Paxillineを基質に用いたPaxDの機能解析

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  • 恒松 雄太, 猿渡 隆佳, 杉山 智啓, 加藤 広樹, 野口 博司, 守屋 央朗, 渡辺 賢二
    p. Oral35-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1. 研究背景

     新しい化学構造、生物活性を有する天然物を獲得することは、学術的にも産業的にも重要である。しかしながら、現在では容易に獲得できる天然物は既に取り尽くされたといっても過言ではない状況にあり、実際に多数の大手製薬企業が天然物をリード化合物とした創薬研究を縮小廃止している。その原因として、新規天然物の獲得には多大な時間と労力が費やされること、獲得効率が悪いこと、生産性が低いなどの理由が挙げられ、これらの問題点を解決した「次世代型の天然物獲得法」が望まれている。

     ところで、次世代シーケンサーによるDNA配列解読技術の革新により、現在では様々な微生物のゲノム配列を短時間、低コストにて解読可能になった。Cyclosporine A、lovastatin などといった数多くの医薬品を輩出してきた糸状菌についても数多くの種のゲノムが解読されてきた1。その結果、たった一種の糸状菌のゲノム中に数十種類もの天然物生合成遺伝子が含まれていることが明らかにされた。ところが、実験室内における一般的な培養条件において、実際に代謝産物として単離、同定される天然物の数はそれよりも遥かに少数である。近年のトランスクリプトーム解析により、これら天然物生合成遺伝子の多くが不活性化状態、すなわち休眠状態であることが示された2。つまり、我々は微生物のもつ天然物生産能力のうち、氷山の一角のみを利用していたに過ぎないのかも知れない。一方で、このような生合成遺伝子を人為的に制御し、発現させることができれば、これまでに発見されてこなかった天然物の獲得が期待できる。本研究では、糸状菌に対して遺伝子操作を施すことにより、本来は休眠状態であった天然物生合成経路を覚醒させることで、新規天然物の獲得を目指した。

    2. 黒麹菌Aspergillus nigerにおける休眠型生合成遺伝子の覚醒

    i. 休眠型生合成遺伝子のin silico解析

    A. nigerは工業的に有機酸の製造に用いられている麹菌の一種であり、既にそのゲノム解読が完了している1。そのゲノム中には33個のポリケタイド合成酵素(PKS)、15個の非リボゾーム性ペプチド合成酵素(NRPS)および9つのPKS-NRPS hybrid型酵素遺伝子(HPN)を有する3。我々は、コンピューター上にてこれら天然物生合成遺伝子クラスターを詳細に解析し、新規天然物生合成を担う遺伝子クラスターを推測した。具体的には、まず機能未知の生合成遺伝子クラスターを抽出し、Basic Local Alignment Search Tool (BLAST)検索等により各構成遺伝子の機能を予測した。これらの情報と、既知天然物の生合成経路の文献情報から、一部の生合成遺伝子クラスターについてはその生合成産物が予測可能であった。一方、我々の研究対象はその生合成産物が予測不可能な生合成遺伝子クラスターであり、本クラスターはこれまでに発見されていない天然物(新規化合物)、あるいは生合成経路が明らかになっていない天然物を生合成する可能性を秘めていた。続いて選抜した数十種の生合成遺伝子クラスターについて、様々な培養条件にて得たmRNAをもとに、半定量RT-PCR法によりその転写量の解析を行った。その結果、い

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  • 王 寧, 長谷川 瑞穂, 平田 晃義, 猪原 直弘, 軒原 清史, 藤本 ゆかり, 深瀬 浩一
    p. Oral36-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    Peptidoglycan (PGN) is a component of bacterial cell wall consisting of glycans and peptide chains forming a three-dimensional mesh-like structure outside the plasma membrane. PGN has been known as a stimulating component of innate immune system. PGN activates sensor proteins, nucleotide-binding oligomerization domain protein 1 (Nod1) and 2 (Nod2), which belong to Nod-like receptor (NLR) family,1-3 one of the major pathogen-recognizing receptor (PRR) families. Peptidoglycan recognition proteins (PGRP) are the other important protein families that recognize PGN. In addition, various kinds of enzymes and lectins have been proven to recognize PGN. However, the comprehensive analysis of the substrate structures of recognizing proteins has been not really conducted, because of the lack of pure PGN fragments. Herein, we report the chemical synthesis of the PGN fragment library in order to analyze various ligand/protein interactions. The PGN-fragments microarray was also developed for the rapid and quantitative analysis of the interactions, leading to understanding of the defense system against infection of bacteria.

    1. Synthesis of PGN fragments and their glycan sequence-dependent Nod2 activation

    Our previous studies revealed that MDP (MurNAc-L-Ala-γ-D-isoGln) showed the most potent activity in Nod2 stimulation. We also found that the activity was decreased as the glycan chain length and peptide chain length increased by using synthesized tetrasaccharide and octasaccharide fragments that contain GlcNAc-MurNAc (GM) repeating units (Figure 1, 2a~2d).4-6 These fragments with GM units are considered to be produced by the lysozyme in host organisms which cleaves 1,4-β-linkages between N-acetylmuramic acid and N-acetyl-D-glucosamine residues in PGN. On the other hand, PGN fragments having more than two MurNAc-GlcNAc (MG) repeating units, which are expected to be produced by bacterial N-acetylglucosaminidase and release to the environment, had not been synthesized. Thus, we synthesized the library of PGN fragments (Figure 1) to explore their biological functions, especially the Nod2 activation.7

    1-1. Synthetic strategy of PGN fragments

    The syntheses of disaccharide analogues were carried out via the intermediate 3 as illustrated in scheme 1. Introduction of appropriate peptides to the liberated carboxylic acid 6 and hydrogenation gave the disaccharide fragments 1a, 1c and 1e.

    Tetrasaccharide 9 was then synthesized by using 3 as common synthetic intermediate for both glycosyl donor and the acceptor (Scheme 2). Disaccharide donors 7a and 7b were prepared via cleavage of the allyl glycoside and subsequent conversion to the imidate forms (7a: trichloroacetimidate, 7b: N-phenyltrifluoroacetimidate). For the preparation of the tetrasaccharide 9, trichloroacetimidate 7a was first used as the glycosyl donor to couple with the glycosyl acceptor 8. However, the glycosylation between 7a and 8 in the presence of TMSOTf gave the desired tetrasaccharide 9 only in 16% yield, accompanied with 62% yield of recovered 8. The low yield was probably due to the low reactivity of 4-OH group of the disaccharide acceptor 8 caused by steric hindrance of 3-O-lactyl moiety in muramic acid moiety. We then used the N-phenyltrifluoroacetimidate 7b as the glycosyl donor which has similar high reactivity but improved stability in comparison to the corresponding trichloroacetimidates.8Excess acceptor 8 was used (ratio of donor : acceptor was 1 : 1.5) in order to promote the reaction. The yield of glycosylation was dramatically improved to give tetrasaccharide 9 in 61% yield. The glycan backbone 10 was then coupled with peptides to give the corresponding protected intermediates. All benzyl and benzylidene groups

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  • 志村 聡美, 石間 正浩, 太田 育恵, 筒井 悦子, 紙透 伸治, 村田 寛, 山崎 隆之, 鈴木 孝洋, 倉持 幸司, 竹内 倫文, 小 ...
    p. Oral37-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【 背景 】

    水産養殖の現場では、魚類病原ウイルスによる感染症の発生が水産資源の安定供給に深刻な影響を及ぼす。サケ科魚類の伝染性造血器壊死症ウイルス(Infectious hematopoietic necrosis virus : IHNV) はニジマス養殖に甚大な被害をもたらすが、同じ養殖池の中でもIHNVに耐性を示す個体と耐性を示さない個体がいた。両者の違いを調べると、前者では特定の細菌が消化管に生息していた。この細菌が生産し、抗ウイルス活性を示す物質としてMA026 (1) が単離された1)。MA026は当研究室で単離、構造決定された新規環状デプシペプチドであり、アミノ酸14残基からなる鎖環デプシペプチドに脂肪酸が結合した複雑な構造を有する (Figure 1)。本化合物はIHNVだけでなく、エンベロープを有する複数種のウイルスの増殖を抑制するが、その作用機序は解明されていない。本研究は、MA026の効率的な化学合成法の確立と標的分子の同定を目的とした。

    【 合成戦略 】

    MA026はアミノ酸8残基からなるマクロラクトン構造に、アミノ酸6残基からなる鎖状ペプチド、N末端に (R)-3-ヒドロキシデカノイル基が結合した構造を有する。我々は、MA026を2つのセグメント2, 3に分割し、それぞれ合成した後縮合し、収束的に合成する計画を立案した (Scheme 1)。環状デプシペプチド3の合成では、アミド化に比べて反応性の低いエステル化を合成の早い段階で行うこととし、ペプチド主鎖の分岐構造を有する2つの環化基質4, 5を設定した。また、4と5は共通中間体ヘキサデプシペプチド6から導くこととした。6にテトラペプチドを縮合し、2行程で4 を合成したが、4の環化は進行しなかった2)。4の環化部位はD-Leu13-D-Val14であるが、2つの反応点の分岐からの距離が大きく異なるため、分子内マクロラクタム化が進行するにはより大きなコンフォメーション変化が必要になると予想された。一方、環化部位がD-Gln11-L-Leu12となる5では、2つの反応点の分岐からの距離はほぼ同じであり、4よりも環化しやすいと考えた。よって、3はデカデプシペプチド5の分子内マクロラクタム化により導くこととした。

    【 デカデプシペプチド5の合成 】

     

    Alloc-L-Gln-OH (7) を出発原料とし、5行程でジペプチド9を合成した (Scheme 2)。また、MA026を構成する保護アミノ酸を調製し、それらを縮合し、脱保護することでジペプチド10、11、12、13を得た。次に9と10を縮合し、テトラペプチド14を得た (Scheme 3)。14のD-Ser側鎖ヒドロキシ基と11をエステル縮合することでヘキサデプシペプチド6 を合成した。6の有機溶媒に対する溶解性は高いが、ペプチド鎖の伸長と伴に溶解性の減少が観察された。ペプチドの溶解性を維持するためBCBを用いて6のTr基は除去せずBoc基を選択的に除去し、アミンとした。得られたアミンと12を縮合し、オクタデプシペプチド15を得た。次に15のBn基の脱保護を検討した。ジペプチド9の合成では (Scheme 2) THF溶媒中、Pd/Cを触媒とした加水素分解反応によりBn基のみを除去し、目的のカルボン酸を98%の収率で得ることができた。一方、15はTHFのような非プロトン性溶媒に難溶であり、MeOHを溶媒として加水素分解を行ったとこ

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  • 和泉 雅之, デドラ シモーネ, 木内 達人, 來間 利江, 牧村 裕, 瀬古 玲, 金森 審子, 迫野 昌文, 伊藤 幸成, 梶原 康宏
    p. Oral38-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1. 序 論

    小胞体内では、糖タンパク質生合成の第一ステップとして、ハイマンノース型糖鎖をもつポリペプチド鎖が合成され、天然型(ネイティブ)のタンパク質三次元構造に折りたたまれる(フォールディング)。この過程で折りたたみ不全(ミスフォールディング)が起こると糖タンパク質は正しく機能しなくなり、それらが蓄積することで毒性を持つこともある。これを回避し生体の恒常性を維持するため、小胞体内には糖タンパク質の「品質管理」機構が備わっている。フォールディングセンサー酵素UDP-glucose:glycoprotein glucosyltransferase (UGGT) は、ミスフォールドした糖タンパク質を見つけてそのハイマンノース型糖鎖末端にグルコースを1残基転移する1)。このモノグルコシル化が目印となりレクチン様分子シャペロンであるカルネキシン・カルレティキュリンが介助する再度の折りたたみが行われ、効率的にネイティブ構造の糖タンパク質が生産される。UGGTはこの品質管理機構において折りたたみ不全を見つける鍵因子として重要であるが、小胞体内で生合成される多種類の糖タンパク質の折りたたみ不全をどのように識別するのか、その詳細な分子認識機構は明らかにされていない。その原因として、1つにはUGGTはアミノ酸約1500残基からなる大きなタンパク質でその立体構造が明らかにされていないこと、もう1つにはUGGTの基質となるミスフォールド糖タンパク質を均一な状態で得ることが難しいことが上げられる。そこで、我々は糖タンパク質の精密合成技術を用いて均一なハイマンノース型糖鎖を有するミスフォールド糖タンパク質を合成し、それらを用いてUGGTの基質認識を調べてきた。今回は、1)ジスルフィド結合のかけ違え、並びに、2)アミノ酸残基の変異によるUGGTの認識の変化、3)糖タンパク質フォールディングの速度を調整しフォールディング中間体がUGGTにどのように認識されるか、そして4)糖鎖不全時に生じる糖鎖が一部欠損した糖タンパク質とUGGTとの相互作用、の4点に着目してUGGTの性質を調べた結果を報告する。

    2. ジスルフィドのかけ違えによるミスフォールド糖タンパク質の認識

    これまでの糖タンパク質の化学合成において天然型の立体構造を持ったものの報告はあったが、ミスフォールド体を目的とした合成例はなかった。そこで、我々はジスルフィド結合を持つ糖タンパク質をモデルとして、ジスルフィド結合のかけ違えを起こさせることで安定なミスフォールド体を合成する戦略を立てた。天然にはジスルフィド結合を持つ糖タンパク質が数多く存在しており、ジスルフィド結合のかけ違えは生体内で実際に存在し得るミスフォールドの形式のひとつと考えられる。まず、UGGTの基質となるハイマンノース型糖鎖(特にMan9GlcNAc2:M9)の生物材料からの単離を検討し、鶏卵黄からM9-アズパラギン誘導体を必要量得る方法を確立した2)。そして、これを原料として固相合成法による糖タンパク質の合成を行った。モデルタンパク質として72アミノ酸残基からなるジスルフィド結合を2本持つInterleukin 8 (IL-8) を用いた。IL-8は本来糖鎖を持たないため、報告されてい

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  • 武藤 崇史, 関根 久美子, 不破 春彦, 佐々木 誠
    p. Oral39-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1.序論

     ディデムナケタールA–C(1–3, Figure 1)は、Faulknerらによりパラオ産のDidemnum属ホヤから単離・構造決定された複雑な構造を有する海洋天然物である1,2)。当初、1及び2は天然物と考えられていたが、のちに生物試料をメタノール中で長期間保存したことで、天然物である3が分解物して1及び2が生成したことが判明した2)。ディデムナケタール類の平面構造は詳細な二次元NMR解析により決定され、さらに2の全立体構造は天然物の分解・誘導化実験、キラル異方性試薬の適用、部分構造に対するX線結晶構造解析を組み合わせて提唱された3)。化合物1及び2は顕著なHIV-1プロテアーゼ阻害活性を示すため(IC50値 2及び10 μM)1)、これまで全合成のターゲット分子として興味を集めてきた。

     昨年Tuらにより1の提出構造式の全合成が初めて報告されたが、合成品のNMRスペクトルデータが天然物のそれらと一致せず、Faulknerらの提出構造式に誤りがあることが強く示唆された4)。今回、我々は2の提出構造式の全合成と部分構造に対するPGME法5)の適用を含む詳細なNMR解析を独自に行うことで、提出構造式のC10–C20位部分の絶対立体配置の帰属に誤りがあると結論し、本天然物の構造改訂を行った。さらに改訂構造式の全合成を達成し、そのNMRスペクトルデータが天然物のそれらと良い一致を示したことから、本天然物の完全立体構造決定に初めて成功したので、その詳細を報告する。

    2.ディデムナケタールBの提出構造式2の全合成

    合成計画:化合物2は、最終段階におけるアルデヒド4とビニルヨージド5との野崎−檜山−岸(NHK)反応6)によるC21–C28側鎖導入によって得られると考えた(Scheme 1)。化合物4はアルコール6からビニロガス向山アルドール反応7)によるC1–C5部分の構築とC5, C7, C8, C11位ヒドロキシ基のアシル化により合成することを計画した。化合物6はEvans syn-アルドール反応8)によってアルコール7から誘導することとした。化合物7はヨウ素体9から調製できるアルキルボレート8とエノールホスフェート10との鈴木−宮浦反応9)と続く酸触媒を用いた熱力学支配条件下でのスピロアセタール化10)を行うことで立体選択的に構築できると考えた。

    ディデムナケタールBの提出構造式2の全合成:文献既知のラクトン1111)を出発原料とし、5段階でスルホン14へと誘導した後、別途調製したアルデヒド15とのJulia–Kocienski反応12)によりオレフィン16を得た(Scheme 2)。続いて、Sharpless不斉ジヒドロキシ化13)によりC11位及びC12位の不斉中心を導入した後、2段階で保護基の変換を行いアルコール18とし、さらに2段階でヨウ素体9へと変換した。

     次に化合物9と別途調製したエノールホスフェート1010a)との鈴木−宮浦反応を行い、エノールエーテル19を収率84%で得た(Scheme 3)。続いて、シリル基の除去と酸処理により熱力学的に有利なスピロアセタール20を単一の立体異性体として得た。化合物20の相対立体配置はNOE実験により確認した。化合物20から4段

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  • 佐藤 隆章, 白兼 研史, 和田 崇正, 寄立 麻琴, 南川 亮, 高山 展明, 千田 憲孝
    p. Oral4-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【緒言】

     近年、創薬化学を中心に、合成標的分子の構造が急速に複雑化している。しかし、複数の官能基が共存する基質において、望みの官能基選択的な化学変換は、現在の有機化学をもってしても容易ではない。多くの場合、反応性の高い官能基の保護・脱保護というプロセスが必要となり、複雑な分子を迅速に構築するためには、高い官能基選択性を示す反応の開発が不可欠となっている。 

     官能基選択性の発現により合成的有用性が高まる反応として、我々はアミド基への求核付加反応に着目した(スキーム1)。アミドのカルボニル基はケトンやエステルに比べ、求電子性が極端に低いために求核付加反応が困難である。一般的な求核付加の手法としては、アミド基を高活性中間体(例:イミド2、チオアミド3)へと活性化した後、グリニャール試薬などの強力な求核剤を付加する(1→2, 3→4)1)。しかし、この手法では、活性化段階による工程数の増加と、強い求核剤による低い官能基選択性が問題であった。今回、我々はN-メトキシアミドとSchwartz試薬の特徴を利用して、アミド基選択的な求核付加反応を開発した(5→6)2)。さらに、本反応を応用し、ゲフィロトキシンの効率的な全合成を達成した。

    Scheme 1. Nucleophilic Additions to Amide

    【N-メトキシアミドに対する還元的アリル化反応】

     研究開始当初、アミド基への求核付加における2つの課題(1.活性化段階の除去、2.高い官能基選択性)を同時に解決することが難しかったため、まず1つ目の課題に取り組んだ。“活性化段階の除去”にあたり、N-メトキシアミド5に着目した(表1)。5をDIBAL還元すると5員環キレート中間体7を形成し、これを加水分解するとアルデヒドになる(Weinreb法)。我々は7にアリルトリブチルスズとSc(OTf)3を添加すると、8を経由して還元的アリル化が一挙に進行することを見出した。本反応は、幅広い基質一般性を有しており、脂肪族アミド、芳香族アミドともに高収率で望む生成物を与えた(10: 92%, 11: 91%)。アミノ基側に置換基を有した基質も良好な収率で進行した(12: 72%, dr = 1.6:1)。本反応は6員環ラクタムにも適用できた(13: 93%)。窒素原子のα位に置換基を有した基質では高立体選択的にピペリジンおよびピロリジンを与えた(14: 83%, single, 15: 91%, dr = 12:1)。また、大環状ラクタムにおいても、望みの大環状アミンが高収率で得られた(16: 90%)。

    Table 1. Reductive Allylation to N-Methoxyamides

    【官能基選択的な還元的アリル化反応】

     続いて、最大の課題である“高い官能基選択性”を実現するため、Schwartz試薬(Cp2ZrHCl)に着目した。Georgらは、N-メトキシアミド5をSchwartz試薬で処理すると7を経由し、加水分解によりアルデヒドを与えると報告している(表2)3)。DIBALを用いた場合と同様に、7に対して触媒量のSc(OTf)3とアリルトリブチルスズを添加したところ、還元的アリル化が進行した。本反応は、様々な官能基共存下、N-メトキシアミド選択的に反応が進行した。アミド基より求電子性の高いエステル基が共存

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  • 池内 和忠, 林 萌未, 山本 倫広, 稲井 誠, 浅川 倫宏, 濱島 義隆, 菅 敏幸
    p. Oral40-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    [目的] Sphingofungin E (1) は 1992 年、Merck 社のグループにより真菌 Paecilomyces variotii から単離・構造決定された α-二置換-α-アミノ酸である1) (Figure 1)。1 は強い免疫抑制活性を有し、cyclosporine とは作用機序が異なるため、新規免疫抑制剤のリード化合物として期待されている。当研究室では 1 の類縁体である 5 位に水酸基を有さない (-)-myriocin (2) の全合成をすでに報告している2)。そこで我々は本合成法をさらに応用すべく、2 の 5 位にさらに酸素官能基化された 1 の合成研究に着手した。

    [逆合成解析] 当研究室では安息香酸から合成可能な環状ジエンカルボン酸 3 に対する不斉ブロモラクトン化反応を報告している3)。本反応は通常構築困難な第四級不斉炭素を含む三連続不斉中心を一挙に構築することができる。また得られるラクトン 4 から変換可能なヒドロキシカルボン酸誘導体 5 は転位反応と酸化反応を利用することで α-二置換-α-アミノ酸骨格の構築に展開可能である (Scheme 1)。

    Scheme 1. Asymmetric bromolactonization of carboxylic acid 3.

     そこで, 本反応を鍵反応に用いた以下のような 1 の逆合成解析を考案した (Scheme 2)。脂肪鎖の導入と α-二置換-α-アミノ酸の構築は合成の終盤にて行うこととし、ジアルデヒド 7 を前駆体として設定した。7 の二つのホルミル基は立体障害により反応性が異なることを期待し、左側ホルミル基に対する位置選択的炭素鎖伸長反応により脂肪鎖を導入できると考えた。また、a-二置換-a-アミノ酸骨格の構築はアミド基に対する Hofmann 転位反応と一級水酸基の酸化により構築することとした。 7 は望みの四連続不斉中心を有するシクロヘキセン 8 の酸化的開裂により調製可能と考え、8 はエポキシド 9 の 3 位に対する位置選択的開環反応により誘導することとした。9 は b-ラクトン 4 から変換可能なエポキシド 10 に対するアリル位 C-H 酸化反応により 5 位に立体選択的に水酸基を導入することで合成できると考えた。

    Scheme 2. Retrosynthetic analysis of 1.

    [四連続不斉中心の立体選択的構築法の確立] TIPS カルボン酸 12 の不斉ブロモラクトン化反応は触媒量を 3 mol % に低減しても問題なく反応が進行し、b-ラクトン 13 を高収率・高エナンチオ選択的に得ることができた。3 段階を経て誘導したエポキシド 14 に対し、種々アリル位 C-H 酸化反応を試みたところ Shing らによって報告された Mn(OAc)3/TBHP を用いる条件が最も良い結果を与えた4)。また生成するエノンを NaBH4/(MeO)3B の条件に付すことで位置・立体選択的還元反応が進行し、アリルアルコール 15 を高ジアステレオ選択的に得ることに成功した。続いて 1 に対応する四連続不斉中心の構築を行った。まず 5 位の立体化学を反転するために安息香酸 (11) との光延反応を行い、16 とした。続いて BF3・OEt2 を作用させたところ、Boc 基からの分子内6-exo 環化反応が進行した目的物は得られず、ジオール 17 を主生成物として得た。Bz 基の隣接基関与の影響が考えられたため、光延反応における求核剤を変更することとした。検討の結果、p-ニトロフェノールとの光延

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  • 石川 勇人, 只野 慎治, 迎田 友里
    p. Oral41-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【序論】

     バイオインスパイアード反応とは生物から発想される有機合成反応を指す。トリプトファンから派生した二量体型ジケトピペラジンアルカロイド類は自然界に数多く存在し、その二量化様式などの構造多様性、及び幅広い生物活性が知られている。アスペルギルス属の細菌から見出されたWIN 64821 (1)、ジトリプトフェナリン(2)はフェニルアラニンとトリプトファンのジケトピペラジンが3位同士で二量化した構造を有しており、サブスタンスPアンタゴニスト活性を有する1)。また,2009年、3位と7位の結合を有するナセセアジンB(3)がストレプトマイセス属の細菌から見い出され、その後、Movassaghiらの全合成により構造が訂正された2), 3)。また、最近では3位とN1位で架橋したペスタラジンBや7位とN1位で結合し、抗インフルエンザ活性を有するアスペラギラジンAが天然より見出されている4), 5)。我々は異なる架橋様式を有するこれら二量体アルカロイド類が同一の生合成経路から成り立っていると推定し、独自に生合成仮説を立案した。更に、提案する生合成をフラスコ内で再現し、5種の天然物を短段階で合成する事に成功したので報告する6)

    【生合成仮説】

     生物は酵素を巧みに用い水中で化学変換を行っている。しかしながら、フラスコ内で反応を再現しようとする場合、基質となる有機化合物は水に溶解しない場合が多く、また、用いる試薬によっては水により失活してしまうという問題が生じる。一方、我々は生合成においてアルカロイドを基質とする場合、酸の役割が重要であると考えた(Scheme 1)。塩基性部位を持つアルカロイドは酸性条件において酸と塩を形成し、水に可溶となる。また、塩を形成する事により窒素の求核性は失活し、系内で保護されている状態となる。我々は二量体型ジケトピペラジンアルカロイドにおいて、1級アミン部位を持つトリプトファン誘導体が酸性水溶液中塩を形成した後、インドール環部が選択的に一電子酸化反応を受けると考えた。結果として生じるラジカルは共鳴混成体としてラジカル中間体A、B、Cが存在する。これら中間体がそれぞれの組み合わせで二量化し、更に、対応するアミノ酸とジケトピペラジン形成後、天然物へと導かれると考えた。

    【バイオインスパイアード二量化反応の開発】

     提案する生合成仮説をフラスコ内で再現するべく、Nb-メチルトリプタミン(6)をモデル基質として1M塩酸水溶液中、二量化反応を促進させる酸化剤の検討を行った。MoCl5, Cu(acac)2, CuBr2, FeCl3を用いて検討を行ったが、反応は全く進行せず、原料を回収するのみであった(entries 1–4)。一方、Mn(OAc)3を用いた場合に3位同士の二量化生成物であるキモナンチン(7)を7%、ナセセアジンB(3)と同様の結合様式を有する8を37%、天然からの報告例は無い3位—5位に架橋を有する9を9%で得た(entry 5)。更なる検討の結果、VOF3、V2O5でも同様に二量化反応が進行する事を見出した(entries 6, 7)。いずれの反応も化合物8が主生成物であった。望む二量化反応を水中で進行させ

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  • 海原 浩辰, 吉野 友美, 下川 淳, 北村 雅人, 福山 透
    p. Oral42-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【背景•目的】

     マメ科Erythrina属植物より単離されるエリスリナアルカロイドは、主な生物活性として経口投与によるクラーレ様の筋弛緩作用を示すことが知られており、古来より様々な民間療法に用いられてきた化合物群である。これらは、5位スピロアミン構造を中心としたA〜D環からなる4環性骨格を有しており、古くから多くの合成化学者の興味をひきつけてきた。我々はその特異な構造に興味を抱き、生合成経路1を模倣した独自の合成戦略を用いて効率的に主骨格を構築し、種々の類縁体合成へ適用することを計画した。そこで、最初の標的化合物として代表的なエリスリナアルカロイドであるerythraline (1) 2を選択し、その合成研究に着手した。

    【逆合成解析】

     我々の合成計画をScheme 1に示す。1は2の酸化段階を調整することで合成することができるものと考えた。2のスピロ4置換炭素は、3のラクタム窒素原子からの渡環マイケル付加反応によって構築することとした。3をフェノールの酸化反応によって導くこととすると、4がその前駆体として適当であると考えられる。4は、5と6との鈴木–宮浦カップリング反応と、引き続くラクタム化で合成可能であると考えた。なお、光学活性な5を用いることにより、11位の酸素官能基を足がかりとした4に対する面選択的な反応が進行すれば、本合成経路は不斉全合成に適用可能であると考えられる。

    【ラセミ体全合成】

     まずは鍵となるフェノールの酸化と引き続く渡環マイケル付加反応の検討を行うため、11位に酸素官能基を持たない化合物を用いて合成を行うこととした。市販のカルボン酸7の保護及びフェノール性水酸基の保護基の変更と、引き続く宮浦ホウ素化を経て、ボロン酸エステル9を調製した (Scheme 2)。

     続いて、ピペロナール (10) への窒素官能基の導入及び保護、そして芳香環のヨウ素化により、ヨウ化アリール中間体 12 を得た(Scheme 3)。12と9との鈴木–宮浦カップリング反応と、続くメチルエステルの加水分解によりカルボン酸13とした。次に13のBoc基を除去し、生じたアミノ酸の分子内縮合反応とメシル基の除去を行うことで鍵反応前駆体のフェノール14を合成した。14に対する酸化反応を種々検討した結果、塩基存在下、一重項酸素酸化を行うことで、フェノールの酸化と渡環マイケル付加反応が一挙に進行し、天然物の主骨格を有する16を単一のジアステレオマーとして収率良く得ることに成功した。続いて、脱水反応により不飽和ラクタム17へと導いた後、文献既知の変換3を行うことで、erythraline (1)のラセミ体全合成を達成した。

    【軸不斉を制御した鍵反応前駆体の構築】

     ラセミ体全合成を達成したので、次に不斉全合成に向けて、11位に不斉点を有する基質を用いて検討を行った(Scheme 4)。文献既知の不斉へンリー反応を用いて調製した光学活性なニトロアルコール18 4を還元し、生じたアミノアルコールの窒素原子と酸素原子を順次保護することにより、19を得た。19の位置選択的な臭素化を行うことで臭化アリール20を合成した。20と9

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  • 高橋 正人, 鈴木 紀行, 石川 勉, 陳 益昇
    p. Oral43-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【背景・目的】

     アジリジンはその高い

    ひずみの為に反応性に

    富んだ、有機合成上有用な

    化合物である。我々は

    グアニジニウム塩と芳香族アルデヒドから不斉合成

    にも展開できる3-アリールアジリジン-2-カルボキシ

    レートの立体選択的な合成法を開発1)し、得られるアジリジンに対し各種条件による開環反応を報告 2)している。今回、これらの反応を天然物合成へ応用

    すべく、リグナン類である (-)-ポドフィロトキシン (1) の効率的な不斉合成

    及びネオリグナン類である新規2量化フェニルプロパノイド類 2の絶対配置を含む構造決定を目的とした不斉全合成研究を開始した (Figure 1)。

    【(-)-ポドフィロトキシン (1) の合成研究】

    合成計画

     我々が開発したアジリジン化反応により得られる 3-アリールアジリジン-2-

    カルボキシレート 3 は C3 位において求核攻撃を受けやすいことを経験的に

    認めている。そこで、合成するアジリジン基質の C3 位に 3,4-メチレンジオキシフェニル基または3,4,5-トリメトキシフェニル基 (Ar1) を導入しておくことで、

    (-)-ポドフィロトキシン (1) の1つの芳香環ユニットとして利用し、さらにこのものに対し一方の芳香環 (Ar2) による立体特異的環開裂反応を行うことによって、1 に

    おけるジアリール部位が構築可能となる。開環体 4 にC環構築のためのC2

    ユニットを導入した後、ビニル体 5 に対し更なる官能基変換を行うことで、

    (-)-ポドフィロトキシン (1) へと変換しようと考えた (Scheme 1)。

    アジリジン開環反応の検討

     市販のアルデヒド 6 と別途合成したグアニジニウム塩 7 を反応させトランス-アジリジン3a, 3bを得た後、メチレンジオキシ体 3a に対し、様々な芳香族求核剤 8 を用いて開環反応を行った (Table 1)。電子密度が高い芳香族化合物では

    中程度の収率で開環体が得られるものの (entry1-5)、フェノールやアニリン誘導体では、その官能基自身が反応した(entry 6, 7)。一方、トリメトキシ体 3b に対し、

    ポドフィロトキシンの部分構造であるメチレンジオキシベンゼンを用いたところ、反応は複雑化した (entry 8) が、セサモール及びその保護体では目的の位置で反応を起こすことを認めた (entry 9, 10)。また、本反応は、Lewis酸としてInCl3 を用いたが、Zn(OTf)2 に変えることでジアステレオ選択比が向上した (entry 10)。

    ビニル体 5 の合成

     セサモール (8j) 由来の開環体4j を用いてポドフィロトキシンの合成を進めた。CN結合開裂 3) によるアミノ基の除去、Tf化を行った後、Stille反応によりビニル体 5 に導いた。このものの光学純度は再結晶により99% eeまで高められた (Scheme 2)

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  • 山口 悟, 湯山 大輔, 高橋 伸幸, 鈴木 啓介, 松本 隆司
    p. Oral44-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     デルモカナリン類は,南半球の森に生息する毒キノコDermocybe canariaから単離•構造決定された色素成分で,アントラセン骨格とナフタレン骨格とが直接sp2炭素原子間で結合した構造をもち,軸不斉をもつ。また,そのsp2炭素原子間の結合を含む形で9員環ラクトン構造が架橋しており,その架橋鎖には不斉炭素原子が存在する1)。高度に酸素官能基化された多環骨格の構築に加え,軸不斉と中心不斉の相対および絶対立体配置をいかに制御するかという課題を提起し,合成標的として興味深い。我々は,生理活性天然物の中にしばしば見出される,このような軸不斉と中心不斉が混在する系を立体選択的に構築するための効率的手法の開発を目指し,デルモカナリン類の一つであるデルモカナリン 2 (2) を標的化合物とする全合成研究を行った。

     Figure 1

    1.合成計画

    合成計画の概略をScheme 1に示す。我々は,まず,架橋ラクトン構造を合成の最終段階で構築することとし,その前駆体4を,適切な立体配置を備えたビフェニル8に対して環構造を付け加えていくことにより合成する計画を立てた。ナフトキノン骨格は,ビフェニル8の上部芳香環を対応するベンゾキノンに酸化してシロキシジエン6とのDiels−Alder反応により構築することを想定した。一方,ビフェニル8の下部芳香環にベンゾシクロブテン構造を導入し,電子環状反応によりアントラキノン骨格を構築することを考えた2)。また,鍵中間体となるビフェニル8の合成については,まず,当研究室で開発した酵素触媒による不斉非対称化反応を利用してアキラルなビフェニル11よりキラルなビフェニル10をエナンチオ選択的に合成し3),続いて,この化合物の軸不斉を活かしたジアステレオ選択的アルドール反応により,側鎖部に不斉中心を構築することを考えた。

     Scheme 1

    2.鍵中間体8の合成

     まず,臭化アリール12とアリールホウ酸13とを鈴木•宮浦反応によりカップリングさせた後,Wittig反応による側鎖の伸長を経て4),σ対称性をもつビフェニルジアセタート11を合成した(Scheme 2)。この化合物11を基質として種々の加水分解酵素による反応を検討した結果,Rhizopus oryzae由来のリパーゼを用いる表記の条件により光学活性なモノアセタート10を収率79%,鏡像体過剰率99%以上で得ることに成功した。

     Scheme 2

     

     

     つぎに,側鎖メチルケトン部位へのエステルエノラートの付加反応を検討した。その結果,立体選択性の発現には下部芳香環の二つのフェノールの保護基が決定的要因となることが判明し,一方の水酸基を保護せずに酢酸エチル由来のリチウムエノラートを作用させたところ,きわめて高い立体選択性 (97 : 3) で目的とする立体配置をもつ付加体を得ることに成功した(Table 1, entry 4–6)。

     Table 1

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  • 坂井 健男, 松下 真吾, 浅野 晴日, 大島 里恵, 森 巧一, 森 裕二
    p. Oral45-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     Gymnocin-A (1)は、深刻な漁業被害をもたらす赤潮の原因生物である渦鞭毛藻の一種Karenia Mikimotoiから単離構造決定された14環性の海洋ポリ環状エーテル化合物である。マウス白血病細胞P388に対する細胞毒性 (IC50: 1.3 mg/mL)を有するものの、1440Lの培養液からわずか1.5 mgしか単離できないため、更なる生物活性解明に向けて全合成による物質供給は重要である。しかし、現在までに全合成は2003年の佐々木らによる1例のみである[1]。我々は、独自に開発した収束的合成法を用いてgymnocin-A(1)全合成研究を行ったので報告する。

    【逆合成戦略とその基盤となる収束的合成法】

     DE環、IJ環を連結部として、後述のオキシラニルアニオン法による収束的合成法を適用すると、ABCフラグメント(2)、FGHフラグメント(3)、KLMNフラグメント(4)の3つに分割できる。さらに、2のBC環、3のGH環、4のLM環をそれぞれ収束的合成法で構築する計画を立て、5–8の各ユニットからの全合成を目指した。この戦略の特徴は、エポキシスルホン6、F環とK環ユニット7が各フラグメント合成の共通原料であるため、効率的に原料供給ができるという点である。

    Scheme 1 Retrosynthetic analysis of gymnocin-A (1)

     逆合成戦略の基盤となるのが、オキシラニルアニオンを用いた[X+2+Y]型の収束的合成法である(Scheme 2)[2]。エポキシスルホンから発生させたオキシラニルアニオンIをトリフラートIIに求核置換させてカップリング体IIIとし、環化反応を経て6員環ケトンIVとする。次いで環拡大反応に付してVとし、還元的エーテル化すると新たな連結体VIが得られる。本手法の特徴は、連結部に新たに生成する環サイズを、IVの環拡大反応の回数によって変えられる柔軟性にあり、6-6員環であるIJ環部、6-7員環であるBC, DE, GH, LM環部の合成に適用できる。

    Scheme 2 Convergent synthesis method of polycyclic ethers using oxiranyl anions

    【ユニット6–8の合成】

    Scheme 3. Synthesis of units 6–8

     ユニット6–8は、その構造の類似性に着目して全て2-デオキシ-D-リボースから合成した (Scheme 3)。6は2-デオキシ-D-リボース骨格をそのまま利用して合成した。7と8では、4位OH基に不飽和エステルを導入した後、ラジカル環化にてテトラヒドロピラン環を構築し合成した。このうち7の合成の詳細をScheme 4に示す。2-デオキシ-D-リボースをメチルアセタール化した後、ジオールを保護し、ジチオアセタール9へと変換した。ヘテロマイケル反応の後にジチアンを除去して環化前駆体10とした後、ラジカル環化により11とした。エステルの還元とベンジル保護で12、保護基の掛け替えと酸化でケトン13とした。メチル基をアキシアル側から付加させ14とした後、脱保護の後のワンポット法によるトリフラート合成にて7を得た。

    Scheme 4. Synthesis of F/K unit 7

    【ABC環フラグメント合成】

     逆合成解析に基づき5と6をオキシラニルアニオン法により連結して15とした後、脱TES化、ブロモケトン化を経て16とした。しかし16は、5員環(A環)上置換基がtrans配置であるため環化せず、17を得ることは出来なかった (Scheme 5

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  • 安立 昌篤, 今津 拓也, 榊原 良, 佐竹 佳樹, 磯部 稔, 西川 俊夫
    p. Oral46-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【目的】

     古くから知られているフグ毒テトロドトキシン(TTX, 1)は、電位依存性ナトリウムチャネルの強力な特異的阻害剤である。自然界には多くのTTX類縁体が存在し、コスタリカ産矢毒カエルAtelopus chiriquiensisから単離されたチリキトシキン(CHTX, 2)もその一つである1)。その化学構造は1990年に山下・安元らによって決定され2)、CHTXはTTXの11位にグリシンが結合した最も複雑な構造を持つ天然TTX類縁体である。また、TTX類縁体の中で唯一ナトリウムチャネルだけでなくカリウムチャネルに対しても作用することが報告されているが3)、CHTXは天然からの入手が困難なため、その詳細は現在も明らかにされていない。当研究室では、TTXが関与する様々な生命現象を分子レベルで解明するために、TTXとその類縁体の合成研究を行っている4),5)。本研究では、イオンチャネルに対する作用の詳細を明らかにするために、CHTX (2)の全合成を検討した。

    【合成計画】

     当研究室では最近、8位と11位に水酸基を持つ汎用性の高い中間体3の合成を報告し6)、3からの5-deoxyTTXの全合成に成功している7)。本研究でも3を用いることで、TTX (1)およびCHTX (2)が効率的に合成できると考えた(Scheme 1)。すなわち、アリル酸化によって位置選択的に5位へ水酸基を導入した後、エポキシ化とオゾン酸化によりアルデヒド4へ誘導する。カルボン酸等価体としてアセチリドを4へ付加させ5とし、アセチレンの酸化開裂とエポキシドの開環を伴うラクトン化、続くオルトエステルへの変換によって、重要中間体6を合成する計画である。最後に、6にグアニジンを導入すればTTX (1)が得られ、また6の11位水酸基を酸化しアルデヒド7とした後、D-camphor由来のグリシン等価体とのanti選択的なアルドール反応によってCHTX (2)の合成が可能であると考えた。

    Scheme 1

    【方法および結果】

     まず、中間体3からラクトン化前駆体15を合成した(Scheme 2)。8位水酸基の立体配置を反転した後、二酸化セレンを用いたアリル酸化による5位への水酸基導入を検討した。その結果、アセテート8を使うと望むアリルアルコール9が良好な収率で得られることが明らかとなった。続いて、9のアセチル基をTBS基へ変換した後、環内オレフィンをエポキシ化して10を合成した。エポキシド10の5位水酸基をPMB基で保護し、ビニル基のオゾン酸化によってアルデヒド11とした。得られた11にリチウムアセチリドを作用させたところ、10:1の比で9位水酸基の立体配置がTTXと同一のアルコール12を優先的に得た。次いで、12の水酸基をアセチル化した後、TMS基を脱保護し末端アセチレン13とした。得られた13の5位水酸基の立体配置はTTX (1)とは逆であったため、その立体配置の反転を行った。DDQによりPMB基を脱保護し、PCC酸化とNaBH4 による立体選択的な還元によってジアセテート15に変換した。

    Scheme 2

     続いて、得られた15から鍵中間体17を合成した(Scheme 3)。まず、15のアセチレンを四酸化ルテニウムと過酸化水素水で段階的に酸化してカルボン酸とした後、エポキシドの開環を伴ったラクトン化とオルトエステル化によ

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  • 藤原 栄人, 黒木 太一, 岡谷 駿, 山田 香織, Sappan Malipan, 伊坂 雅彦, 岡野 健太郎, 徳山 英利
    p. Oral5-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【序論】(–)-Acetylaranotin (1)は、Neussらによって真菌Arachniotus aureusの代謝物より単離、構造決定されたジチオジケトピペラジンであり、ウイルスRNAポリメラーゼ阻害作用やヒト結腸がん細胞に対する細胞毒性を示す。1 特徴的なジヒドロオキセピンを有することから、広く注目されているにもかかわらず、全合成報告はReismanらによる一例のみであった。2 今回、ジヒドロオキセピン骨格を有するMPC1001 (2)に加えて、6員環炭素骨格を有するacetylapoaranotin (3)やepicoccin G (4)の合成にも展開可能な1の合成経路の確立を目的として合成研究を行い、1の全合成を達成した。また、1の関連化合物であり、昆虫病原性糸状菌Hirsutella kobayasii BCC1660から単離構造決定されたhirsutellomycin (5)3の立体構造を、1を用いた半合成により決定した。

    【逆合成解析】C2対称中心を有する1は、ジヒドロオキセピン6の二量化を経て得られると考えた。6員環構造を有する誘導体の合成も視野に入れ、7員環ジヒドロオキセピン骨格をシクロへキセノン8のBaeyer-Villiger酸化を経る環拡大反応により構築することとした。8のg-ヒドロキシエノン構造は、エポキシケトン10のWharton転位により得られると予想されるエノン9のアリル位酸化により誘導できると期待した。10は文献既知のb,g-不飽和ケトン114から誘導可能であると考えた。

    【ビニロガスRubottom酸化反応の開発とg-ヒドロキシエノンの形成】文献既知の手法に従い合成した11を、Wharton転位を含む4工程の変換により、エノン13へ導いた。続いて、アリル位酸化によるエノンg位のヒドロキシ化を検討した。まず、二酸化セレンを用いてヒドロキシ基の直接的な導入を試みたが、対応するg-ヒドロキシエノン14は得られなかった。また、Danishefskyらの条件5に従って、ラジカル的ブロモ化を経る方法も検討したが、ブロモ化体15は得られなかった。そこで、桑嶋らの報告6を参考に、ビニロガスRubottom酸化を検討したところ、ヒドロキシ基をエノンg位へ位置選択的に導入することに成功したが、予想に反して、天然物とは逆の立体化学を有するアルコール17が得られた。

    【ジヒドロオキセピン骨格の構築】ヒドロキシ基の反転は合成終盤に行うこととし、まずはジヒドロオキセピン骨格の構築を検討した。アルコール17をTBSエーテル18として保護した後、トリフルオロ過酢酸を作用させたところ、sp2炭素が選択的に転位したエノールラクトン19を得た。その後、エノールトリフラート20を経るカルボニル基の還元的除去によりジヒドロオキセピン21を合成した。

    【ジヒドロオキセピンの二量化】興味深いことに、ジヒドロオキセピンの二量化反応では、ジヒドロオキセピン21から誘導した非天然型の立体化学を有するアミン22とカルボン酸23を用いることが必須であった。すなわち、22と23のTBSオキシ基に関して天然物と同一の立体化学を有するエピマー同士の縮合反応は低収率であったのに対し、21から誘導体した22と23のBOP-Clを用いた縮合反応は、良好な収率でアミド24を与えた。続いて、Cbz

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  • 小早川 優, 中田 雅久
    p. Oral6-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1.序論

     Scabronine類は仙台近郊にて採取された担子菌ケロウジ(Sarcodon scabrosus)から見いだされたジテルペノイドである(Figure 1)。1)(–)-scabronine A(1)およびG(3)は1321N1ヒトアストロサイトーマ細胞を用いた生物活性試験において、強力な神経成長因子(NGF)の合成促進活性が確認されたことから、アルツハイマー病の新規治療薬のシード化合物として注目されている。構造的特徴として、本化合物群は2つの全炭素4級不斉中心を縮環部に持つ3環式骨格(サイアタン骨格)を基本骨格とする。さらに1および2は、C環部が6連続不斉中心を伴って高度に酸素官能基化されているため、合成化学的にも興味深い化合物である。これまでに2例の(–)-scabronine G(3)の全合成2)が報告されているが、最も強力な生物活性と最も複雑な化学構造を併せ持つ(–)-scabronine A(1)の全合成は未だ報告がない。そこで我々は、scabronine類の効率的合成ルートの開発と(–)-scabronine A(1)の世界初の不斉全合成に着手した。

    Figure 1. Selected members of scabronines, and cyathane scaffold

    2.研究計画

     1-3の逆合成解析をScheme 1に示す。Figure 1に示した通りscabronine類はC環上の酸化度がそれぞれ異なり、(–)-scabronine G(3)が最も酸化状態が低く、(–)-scabronine A(1)が最も高い酸化状態を有する。そこで、(–)-scabronine G(3)の酸化状態に近い化合物6を鍵中間体に設定し、それぞれの標的分子に合わせて酸化度を調節することで1-3の不斉全合成を効率的に達成できるものと考えた。ここで(+)-scabronine B,DのC11,C14位の立体化学に注目すると、1のそれと同じであることから、(+)-scabronine B,Dは1や2の生合成中間体であると予想される。

    Scheme 1. Retrosynthetic analysis

    この生合成仮説をもとにして、我々は化合物6を化合物4,5に誘導し、oxa-Michael反応を起点とする連続反応による化合物1,2の立体選択的合成を計画した。すなわち、連続反応(oxa-Michael/protonation/acetalization cascade)により、C12位およびC13位、またはC11-C13位の連続不斉中心の制御と、アセタール環構築を一挙に行なうことで(–)-scabronine A(1)、(–)-episcabronine A(2)の不斉全合成を達成できると考えた。また、化合物6のC環部は7の閉環メタセシス(RCM)によって得られると予想した。7はC6位とC9位に2つの全炭素4級不斉中心を含む3つの不斉中心、および嵩高いイソプロピル基が置換する4置換オレフィンを有する。7の効率的構築に関しては、キラルアレンを含むフェノール9の酸化的脱芳香族化/分子内逆電子要請型 Diels-Alder(IEDDA)連続反応により8を立体選択的に合成し、8から7へ変換することを立案した。9は10から不斉転写を伴った構造変換によって得られると考えた。

    3.酸化的脱芳香族化/IEDDA連続反応を利用した8の高立体選択的合成

     既知化合物であるアルデヒド11を出発原料として数工程の変換によってイノン14を合成した(Scheme 2)。14の野依触媒を用いた不斉還元と、続くリン酸エステル化によって95% eeの10を得た。不斉転写を伴う10の3置換アレン9への構造変換を検討した結果、Grignard試薬と2LiCl•CuCNを用いる条件によりラセミ化を伴うことなく高収

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  • 西丸 達也, 近藤 維志, 竹下 公人, 高橋 圭介, 石原 淳, 畑山 範
    p. Oral7-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    研究の背景:マリノマイシンAは、2006年Fenicalらによりカリフォルニアで採取された新規海産放線菌Marinispora CNQ-140が産生する抗生物質で1)、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やVREF(バンコマイシン耐性腸球菌)に対して強力な抗菌活性を示す。また、ヒト結腸癌細胞HCT-116に対しても強力な抗腫瘍作用を示すため、医薬開発の観点から大きな期待が持たれている。本化合物は、サリチル酸に連結した共役テトラエン部とポリオール部を構成成分とするこれまでに例のない44員環マクロジオリド構造を有しており、サリチル酸と25位水酸基とのエステル結合により二量体として存在している。このように本化合物は有機合成化学、医薬品開発の両方の観点から極めて興味深い合成標的であり、既にNicolaouら2)やEvansら3)よる全合成を含め多くの合成研究4)が行われている。

    合成戦略:ポリオール部の合成に際し、我々はアルドール反応等の既存の方法に依らない独自の戦略を基軸とする合成計画を立案した。すなわち、当研究室では1に対して香月-Sharpless不斉エポキシ化を行うと分子の非対称化を伴いながらキラルなエポキシアルコール2が得られることを見出している。さらに、2の水酸基を光延反転後、Red-Alとトルエン中加熱還流するとアリルアルコールとRed-Alから生じたアート錯体が分子内で作用し、エポキシドの位置選択的開裂及びベンジルアルコールの脱離が起こり、キラルC7ユニット4が選択的に得られることも見出している5) (Scheme 1)。我々は4がマリノマイシンAを構成するポリオール部の合成におけるキラルビルディングブロックになり得ると考えた。すなわち、4のアセトニド保護体5よりエポキシド6及びアルキン7を合成し、両者のカップリングと生じた内部アルキンのE選択的な還元によりマリノマイシンAの有する多数の不斉中心は一挙に導入できると期待した。一方、共役テトラエン部とエステル部に関しては合成の終盤において鈴木-宮浦カップリング及び芳香環フラグメント8との光延反応により構築することとした(Scheme 2)。

    Scheme 1

    Scheme 2

    エポキシド6の合成:エポキシド6の合成に際し、共通中間体5の有する不斉中心を足掛かりとして新たな不斉中心を導入することにより3つの不斉中心を構築する方法を取った。まず、4からアセトニド化、脱ベンジル化、メシル化、LAH還元、脱アセトニド化を経る5段階操作により1,3ジオール10とした。この10に対してCardilloら6)のヨードカーボネーション法を用いて、熱力学的に安定なsynのカーボネート体11を選択的に構築した。続いて、水酸基の保護、メタノリシスを連続的に行うと、エポキシ化が起こり、12が収率良く得られた。最後に、12をベンジルオキシメチルエーテルとして保護し、エポキシド6に導いた(Scheme 3)。

    Scheme 3

    アルキン7の合成:一方、アルキン7も同様の中間体5より合成した。すなわち、末端2重結合のWacker酸化後、メチルケトン13をHWE反応に付し、E/Z比8対1で14を得た。続いて、幾何異性体を分離後、DIBAL-H還元、TBDPS保護、脱ベンジル化

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  • 松浦 英幸, 佐藤 千鶴, 武石 翔平, 相川 健亮, 北岡 直樹, 高橋 公咲
    p. Oral8-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     植物は大地に根を張り、その場で様々な環境要因、ストレスに呼応して生活環を終結させなくてはならない。よって、植物はこれらの環境シグナルに対して独自の応答機構を有している。一般に、植物は毛虫やウイルスの類いより傷害を被った場合にただひたすら、この苦難を受け入れていると解釈されがちであるが、上述の応答機構を駆使して、積極的に自己武装を行いこの苦難を乗り越えている。その典型例として、植物が病虫害などの傷害を受けた場合、当該の部位より緊急を知らせるシグナルが非傷害部位へ発せられ、更なる攻撃に備える。これは植物の全身獲得抵抗性として位置づけられ、植物における免疫応答とも解釈でき大変興味深い生物現象である。

     植物の全身獲得抵抗性については大まかに二種類が知られている。その一つ目はウイルスなどの感染により引き起こされる全身獲得抵抗性で、感染する側が生きた植物細胞を必要とする。この時の非傷害部への傷害伝令物質としてサリチル酸のメチルエステル体が報告されている。二つ目の機構として、虫害など細胞壊死を伴う傷害に対する別個の応答機構が知られている。1991年に非傷害部への伝令物質として、18アミノ酸から構成されるSystemin1)と命名されたペプチドが報告された。しかし、Systeminの伝令物質としての役割は2002年に否定され、ジャスモン酸(JA)非感受性の変異体トマトを用いた実験により、JA類が伝令物質の最有力候補であると報告された。2)しかし、その実態は長い間、謎のままであり、大変興味のもたれる所である。本研究の目的はこの謎の傷害伝令物質を明らかにする事である。

    傷害情報伝達物質の絞り込み

      『JA類が伝令物質の最有力候補である』との報告から、傷害情報伝令物質の候補になり得るJA類の絞り込みを行った。本目的を達成する為、最近進歩目覚ましいMS/MS分析を用いて傷害後のJA類の蓄積量を経時的に測定する事とした。まず最初に報告のあったJA類をほぼ全て合成した。精密なMS/MS分析には内部標準物質は必須である事から、重水素ラベルJA類も合成した。合成した化合物の一例をFig. 2に示した。実験植物にトマト(Solanum lycopersicum cv.Castlemart)をもちいた。十分に展開した上位葉を第1葉として、第4、5葉にピンセットにて傷害を施し、経時的に傷害葉(第4、5葉)と第1〜3葉(非傷害葉)を採取した。この結果、傷害30分後、非傷害葉にてイソロイシンとJAが結合したjasmonoyl isoleucine (JA-Ile)およびJAの蓄積量の上昇が確認された (Fig. 3A,3B) 。この事から、傷害伝令物質は1時間以内に非傷害葉へ到達すると結論づけた。そこで、傷害葉にて1時間以内に有意に蓄積するJA類を検討した所、JAとJA-Ileの両化合物のみがこれに該当した(Fig. 3C,3D)。タバコ(Nicotiana tabacum ca. Xanthi nc)を用いても同様な結果が得られた。以上の事から、傷害情報伝令物質の候補をJAとJA-Ileとした。

    化合物の移動性を検証する為の安定同位体ラベルJA, JA-Ileの投与実験

     前述の実験で伝令物質の候補をJAとJA-Ileに絞り込んだ。次に候補化合物の植物内での移動能を検証した。この種の実験にはラジオアイソトープラベル

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  • 安元 剛, 廣瀬(安元) 美奈, 村田 龍, 佐藤 駿一, 馬場 愛美, 安元 純, 安元 加奈未, 坂田 剛, 神保 充, 大島 泰克, ...
    p. Oral9-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    1. 序論

    地球上に存在する炭素のうち約40%は石灰岩やドロマイトなどの炭酸塩堆積物である.この炭酸塩堆積物は有孔虫や円石藻といった石灰化(CaCO3形成)を行う海洋生物などの死骸が堆積したものが主である1).原始地球のCO2は30気圧下で97%に上ると見積もられており,現在の1気圧下で0.03%まで大きく減少してきたことになる2).地球上の全炭素の4割が炭酸塩堆積物であることから考えても,このCO2減少には海洋生物によるCaCO3形成が大きく関与したことは明らかである.しかし,海洋生物のCaCO3形成は,今までは海水中に溶け込んだHCO3-を基質とすると考えられており,CaCO3形成に伴いHが生じる(Ca2++HCO3-→CaCO3+H).生じたH+は,海水中の炭酸平衡を酸性側に傾けるため二酸化炭素が発生すると推測されている(HCO3-+H+⇋H2CO3⇋CO2+H2O)3).つまり,このCaCO3形成機構では CO2濃度を減少させてきた海洋生物の役割を説明できない.一方,海洋生物のCaCO3形成に関する研究は石灰化組織中の有機基質に着目して行われてきており,アコヤガイのナクレインや円石藻の酸性多糖PS-2などが単離,構造解析されてきた.しかし,これらの有機基質に配列上の関連性は見出されておらず,種をまたぐようなCaCO3形成機構は未だ提案されていない.

    上記の背景から,Ca2を含む培地上で菌体外にCaCO3顆粒形成を行う海洋細菌に着目した.海洋細菌によるCaCO3形成は,硫酸塩還元菌,尿素分解菌および光合成細菌などの特定の種が有する代謝機構によって説明されている1).しかし,多くの異なる種の海洋細菌がCaCO3顆粒形成を行うことから,上記とは異なるCaCO3形成機構の存在が示唆されている.本研究では,真のより普遍的な CaCO3形成機構を解明する第一歩として,海洋細菌の菌体外にみられるCaCO3形成機構を明らかにすることを目的とした.

    2. 海洋細菌によるCaCO3形成

    深海熱水噴出孔付近の環境および熱帯域の生物より単離された海洋細菌のCaCO3形成能と16S rRNA系統解析を行った.その結果,αおよびγ-プロテオバクテリア,バチルスおよび放線菌といった広範な菌種でCaCO3形成を確認した.この結果は,これまでに報告されているCaCO3顆粒形成機構とは異なる,より普遍的な機構の存在を示唆している.培養条件によるCaCO3形成能の変化を調べたところ,空気と接触するような条件でCaCO3形成が顕著に促進された.この結果から,海洋細菌の培地中に形成されるCaCO3の炭素源は培地由来ではなく,空気中のCO2であることが示唆された.また,海洋細菌の代謝物として普遍的に存在し,CO2と親和性の高い化合物

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  • 秋元 隆史, 西川 徹, 岩本 理, 越野 広雪, 長澤 和夫
    p. PosterP-1-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    【目的】

     ゼテキトキシンAB (ZTX, 1)はパナマ産矢毒ガエルAteropus zetekiから単離された貝毒サキシトキシン (STX, 2)の類縁化合物であり、STXの約100〜1000倍強力な電位依存性ナトリウムチャネル (NaVCh)阻害活性を示す[1]。ZTX (1)の構造はSTX (2)の基本骨格、即ち三環性ビスグアニジン骨格に加え、6-11位に架橋したイソキサゾリジンを含む渡環ラクタム構造や7位にN-ヒドロキシカーバメート基等、他のSTX類には存在しない特徴的な官能基を有する。このことからZTX (1)の強力なNaVCh阻害活性はこれらの特異な構造や官能基に起因すると考えられる。我々はその特異な構造に着目してZTX (1)の合成研究を行い、1の主炭素鎖を有する36を合成したので報告する。

    【合成計画】

     ZTX (1) の逆合成解析をScheme 1に示した。 ZTX (1)に特徴的な渡環ラクタム構造は、3のC11位側鎖上に存在するイソキサゾリジンとC6位カルボン酸との分子内アミド化反応により構築できると考えた。また、3のイソキサゾリジンはニトロン4とアクリル酸誘導体との1,3-双極子付加環化反応によって合成することを計画した。さらに、4の前駆体としてC11位に四級炭素を有するSTX骨格5 を設定した。5は我々が以前報告したSTX (2)の合成法を基盤に合成できると考えた[2]。即ち、ニトロン8とニトロオレフィン9の1,3-双極子付加環化反応を基盤に得られる7の全ての水酸基をアシル化した後、低温条件下でルイス酸を作用させることで5を得ることを計画した。本手法は穏和にグアニジンを環化することができるため、官能基が脱保護されることなくSTX骨格を構築できる。

    Scheme 1. ZTX (1)の合成計画

    【ニトロン8の合成と1,3-双極子付加環化反応】

     まずニトロン8の合成について検討した (Scheme 2)。8を合成するにはC11位四級炭素の立体選択的な構築と位置選択的なニトロンへの酸化が必要となる。C11位に四級炭素を有する11を合成するため、L-酒石酸から誘導したピロリジン10に対する酢酸エステルを用いたアルドール反応を行った。その結果、塩基としてNaHMDSを用いて-78 °Cで反応させることで、 7:1の選択性でC11位四級炭素を構築することができた。なお、11は再結晶を行うことにより単一のジアステレオマーとして得ることができた。次いで、11のTs基を脱保護した後、得られた12に対するDavis試薬を用いたニトロンへの酸化を行った。その結果、13aを用いた場合には8及び14の選択性は2:3であったが、芳香環上に電子吸引基を有する13bを作用させたところ、選択性は1:1まで向上した。なお、これら2つの生成物は分離することは困難であったため、混合物のまま次の反応に用いることとした。8と14の混合物に対しニトロオレフィン9を作用させ1,3-双極子付加環化反応を行ったところ、15を収率43%、16を収率15%、さらに9と未反応の14を収率22%で得た。本反応では立体障害の少ない8から優先的に生成物が得られたと考えられる(遷移状態TS-1)。なお、回収した14はヒドロキシ

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  • ウォン チン ピオウ, 出口 潤, ヌグロホ アルファリウス エコ, 平澤 祐介, 金田 利夫, ハディ ア ハミド ア, 森田 博史
    p. PosterP-10-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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    In the era of ever improving living status, lifestyle disease such as diabetes and obesity has become one of the major health problems for people living in developed countries. These health problems are often associated with increased adipocyte differentiation or accumulation of lipid. In effort to provide new lead compound that can improve the symptoms of lifestyle disease, we focused on species from the Meliaceae family due to their various significant biological activities. We subsequently identified Chisocheton ceramicus bark extracts to possess in vitroanti-lipid droplets accumulation (LDA) activity on pre-adipocyte cell line. Following research led to identification of 12 limonoids, ceramicines A-L (Fig. 1) 1-4. Their relative structures were elucidated by using 1D and 2D NMR data.

    Structure Elucidation of Ceramicine B from C. ceramicus Bark

    Ceramicine B (2) was isolated as a colorless amorphous solid with molecular formula, C26H32O4as determined by high resolution-electrospray ionization-time of flight-mass spectra. The planar structure was elucidated with 1D and 2D NMR data (Figure 2). Thus, 2 was established as a new limonoid with cyclopenta[α]phenanthren ring system with a β-furyl ring at C-17 and a tetrahydofuran ring. The relative stereochemistry of 2 was elucidated by NOESY correlations as shown in computer-generated 3D rendering (Figure 2). NOESY correlations of H-6/Hb-28, H3-19, and H3-30, H-7/H-15, and H-12/H-17 together with 3J proton coupling constants (3JH-5/H-6 = 12.4 Hz and 3JH-6/H-7 = 3.8 Hz) suggested that H-6, H-7, and H-17 adopts β-configuration. While NOESY correlation of H-5/H-9 indicates both H-5 and H-9 adopt α-configuration.

    Absolute Configuration of Ceramicine B

    The absolute configuration of 2, a major limonoid from C. ceramicus, was elucidated by X-ray crystallography and CD spectrum of p-Br-benzoyl derivative results (Fig. 3). The CD spectrum of p-Br-benzoyl derivative of 2indicated that the mutual relationship of dipole moment of the benzoate and α,β-unsaturated ketone chromophores was oriented in a counter clockwise manner, indicating absolute configuration at C-7 as S configured. Further X-ray crystallography analysis results confirmed the total structure of 2 including its absolute structure [Flack parameter, c = -0.0(2)].

    Ceramicines with Anti-Lipid Droplets Accumulation Activity

    The LDA activities were examined on murine pre-adipocyte cell line, MC3T3-G2/PA6, and measured via nile red lipid droplets staining. Results showed that ceramicine B was demonstrated as most potent (IC50= 1.8 μM) among the ceramicine compound series 5. The potency prompted us to further investigate the structural-activity relationship of ceramicines. Nine derivatives based on the potent ceramicine B were synthesized, and the summaries of ceramicines and its derivatives SAR were shown at Fig. 4.

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  • 黒米 雄次, 小木曽 将也, 雷 国光, 服部 恭尚, 今野 博行, 廣田 満, 真壁 秀文
    p. PosterP-11-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
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     アルカロイド類は顕著な生物活性示す大変多くの化合物が知られており,最も研究の盛んな分野である。中でも2,6-二置換ピペリジンアルカロイドは天然に最も豊富に含まれており,多くの有機合成化学者の標的化合物になっている。生物活性は局所麻酔作用や抗アレルギー作用, 抗菌作用など広範な活性が報告されている。

    これらの化合物の合成では2,6-二置換ピペリジン環の合成が鍵である。我々は第48回の本討論会で立体選択的なアミノパラデーションを用いた立体選択的な2,6-cis-二置換ピペリジン環の合成を報告した。1今回我々は立体選択的なアミノパラデーション反応の最適化を行い,2,6-二置換ピペリジンアルカロイドである (-)-cassine (1) の改良合成および(+)-azimine (2) の全合成を達成したので報告する (Figure 1)。

    Figure 1. The structures of (-)-cassine (1) and (+)-azimine (2).

    1. (-)-Cassine (1)と(+)-azimine (2)の逆合成解析

     Scheme 1に(-)-cassine (1) と (+)-azimine (2)の逆合成解析を示した。(-)-Cassine (1)に関しては側鎖とピペリジン環部分を別個に合成し,両者をGrubbs触媒によるクロスメタセシスにより合成出来ると考えた。ピペリジン環部分は2価のパラジウム触媒を用いたアミノアルコールの立体選択的なアミノパラデーションにより構築できると考えた。環化前駆体であるアミノアリルアルコールは1,5-hexadiyneより既に第48回の本討論会で報告した方法により数工程で合成出来ると考えた。1一方,(+)-azimine (2)は(-)-cassine (1)の合成に用いたピペリジン環のエナンチオマーであるピペリジン環とmethyl 5-hexenateをGrubbs触媒によるクロスメタセシスを経て側鎖を導入できると考えた。その後,アミンの保護基をCbz基としたヒドロキシカルボン酸を合成し,マクロラクトン化反応を行い,Cbz基の脱保護により全合成を達成することが出来ると考えた(Scheme 1)。

    Scheme 1. Synthetic strategies of (-)-cassine (1) and (+)-azimine (2).

     

    2. (-)-Cassine (1)の改良合成

    (-)-Cassine (1) は1963年にHighetによってCassia excelsaから単離され, その絶対立体配置は1966年にRiceらによって2S, 3R, 6Sと決定されている。2,3 我々は第48回の本討論会で立体選択的なアミノパラデーションを用いた全合成を報告したが,1,4アミノパラデーションの収率と側鎖の導入における工程数が多く,必ずしも効率的な合成法とはいえなかった。本研究ではアミノパラデーションにおける条件検討を行うとともに,Grubbsクロスメタセシス反応を用いて効率的な合成方法を確立した。

    1,5-Hexadiyne (3)を出発物質とし以前に本討論会で報告した方法を用いてアルコール3を合成した。1,4 アルコール3からアジド4の合成は以前報告した方法ではトシル化を経てNaN3により合成を行ったが低収率であった。1,4 そこで2級水酸基をDPPAによりアジド化を行ったところ収率良く4を得ることに成功した。続いて,アジドの還元とアミノ基のBoc化を行って6を得た。その後,脱ベンジル化を行いアミノパラデーションの前駆体7を得た (Scheme 2)。

    Scheme

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  • 浅井 禎吾, 羅 丹, 大槻 紗恵, 布木 純, 大島 吉輝
    p. PosterP-12-
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/03/09
    会議録・要旨集 フリー HTML

     糸状菌のゲノム解読が進み,数多くの二次代謝物生合成遺伝子が通常培養では休眠状態にあることが示唆されてから,これら未利用生合成遺伝子にコードされる新規物質の取得を目指す研究が天然物化学の主流の1つになってきている.当研究室では,エピジェネティクスを制御する化学修飾酵素の低分子阻害剤を添加して培養することにより,糸状菌の様々な未利用生合成遺伝子の発現を誘導し,従来の培養条件では取得困難であった新規物質の発見を目的として研究を行っている.これまでに,二次代謝活性化に有効な酵素阻害剤の種類や濃度を見出し,それを用いて多様な新規物質の取得に成功し,第53,54回天然有機化合物討論会において報告した1.その後,新規物質の探索資源として内生糸状菌に着目し,酵素阻害剤を用いて培養したところ,多様な新規天然物の取得に成功したので報告する.

    1. 内生糸状菌の分離

     [探索資源X培養方法=二次代謝物] であることを考慮すると,得られる二次代謝物の構造あるいは薬理活性における新規性や多様性は,その探索資源に大きく依存する.特に,エピジェネティック制御を介した二次代謝活性化法では,探索資源に潜在する二次代謝能を引き出すものであり,探索資源の生合成遺伝子の”質”がきわめて重要になる.すなわち,多様性に富み,特徴ある生合成系を有する菌群をいかにして選択するかが,効率的な新規物質発見の鍵となる.そこで,本研究では,「生物間相互作用」をキーワードに,植物および節足動物の内生糸状菌に着目した.植物内生糸状菌は,近年,興味深い構造や薬理活性を示す二次代謝物の良い探索源として,盛んに天然物探索研究が行われるようになってきている.その宿主である植物種の多様性を考慮すれば,探索の余地は今でも十分にあると考えられる.植物内生糸状菌の中には,タキソール,カンプトテシン,ギンコライド,ピペリンなどの宿主植物の有用成分を微量ながら生産するものも報告されており,独自の生合成系を有している可能性がある2.一方,節足動物の内生糸状菌に関する研究はみられないものの,それらの種の多様性を考えると,植物と同様に,多様な糸状菌の良い分離源となり得ることが期待される.内生糸状菌の二次代謝物の生産が,宿主内部という特殊な環境下で様々な外部刺激により誘導されるならば,従来の培養条件下では,これらに関わる生合成遺伝子は休眠している可能性があり,本法に適した探索資源と言える.

     採取した薬用植物や節足動物から,形態の違いを指標に,内生糸状菌を分離した.それらのD1/D2領域の塩基配列を基に系統樹を作成し,いずれも宿主ごとに分離される菌種が異なること,多様性に富んだ菌が分離されることがわかった (図1).

    図1.

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