天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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  • 中山 泰彰, 前田 悠一郎, 小辰 将之, 関谷 瑠璃子, 市來 政人, 佐藤 隆章, 千田 憲孝
    p. Oral1-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. 緒言

     当研究室では、糖や酒石酸などの入手容易なバイオマスを用いたキラルプール法とシグマトロピー転位を組み合わせた生物活性天然物の実用的な不斉合成法の開発に取り組んでいる。バイオマス由来のアリル-1,2-ジオール1に対しシグマトロピー転位を用いると、新たな結合の形成と同時にアリルアルコール構造を有する2が生成する。生じた2に対し、即座に2回目のシグマトロピー転位を適用すれば、連続的転位体3が得られる。本法は、バイオマスより容易に合成できるジオール1から、不斉転写反応により一挙に複雑な光学活性化合物が合成できる。しかし、一般的にバイオマスに由来する複数の水酸基の区別化は困難であり、選択的保護(1→4)・脱保護(5→2)に伴う工程数の増加が問題であった。本発表では、保護基の着脱を経由しないジオール1のOverman/Claisen転位の開発 と、これを用いた(+)-neostenine (6) の全合成を報告する。

    2. 連続的Overman/Claisen転位の開発

    アリル-1,2-ジオール1からの2連続シグマトロピー転位として、1段階目にOverman転位(7→8→10)、2段階目にClaisen転位(10→11)を用いることにした(スキーム2)。ジオール1より2つのシグマトロピー転位を連続的に達成するためには、1段階目のOverman転位においてアリルアルコールとホモアリルアルコールの区別化が重要となる。そこで、我々は平衡反応を利用したオルトアミド型Overman転位を計画した。1をCCl3CN、DBUで処理すると、環状オルトアミド7が得られる。7を加熱すると、開環によりアリルイミデート8とホモアリルイミデート9が生じる。9は閉環により7に戻るのに対し、8はOverman転位が進行してアリルアルコール10を与えると考えた。すなわち、平衡反応により保護基の着脱を経由せずに2つの水酸基が区別化可能となる。さらに、生じる10に対しワンポットにてClaisen転位を適用すれば、連続転位体11が得られると考えた。

    2-1. オルトアミド型Overman転位

     L-酒石酸より誘導したアリル-1,2-ジオール12に対し、オルトアミド型Overman転位を検討した(スキーム3)。12をCCl3CNと触媒量のDBUで処理すると、環状オルトアミド13が高収率で得られた。13をBHT存在下180 °Cに加熱すると、オルトアミドの開環とOverman転位が一挙に進行し、14が単一異性体として、収率67%で得られた。

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  • 高岡 洋輔, 岩下 利基, 岩橋 万奈, 鈴木 健史, 林 謙吾, 石丸 泰寛, 江越 脩祐, 上田 実
    p. Oral10-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【序論】

     植物病原菌Pseudomonas syringaeが分泌する植物毒素コロナチン (+)-1は、植物ホルモンである7-iso-ジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile, (+)-2)のmimicであり、植物科学研究において重要なツール分子として用いられてきた(1-3)。また近年、(+)-1は植物病原菌の感染因子として再発見され、植物病理学上からも注目を集めている(4)

     コロナチンの例のように、天然物の多くは、複数の活性を併せ持つ多機能性分子である。その詳細な作用機序を正確に解析するには、それぞれの活性を厳密に切り分けた誘導体化と、その活性を効率良く評価するアッセイ系の構築が必要不可欠である。今回我々は、コロナチンを元にこれらを達成し、その特徴的な生物活性を切れ味よく切り分けることで、それぞれの機能解明に貢献しうる強力なケミカルツールを開発したので報告する。

    1. 植物ホルモン受容体サブタイプ選択的リガンドの開発

     コロナチン (+)-1は、JA-Ileの既知受容体COI1-JAZに結合し、老化促進や生育阻害、病傷害応答など多様な生物活性を示す(2, 3)。モデル植物シロイヌナズナのゲノム中には、COI1は1種類のみコードされるが、JAZは12種類のサブタイプがコードされており、COI1とJAZ1-12の様々な組み合わせが、多様な生物活性を調節すると推定されている(5)。しかし植物科学研究で常用される遺伝学的手法は、このような遺伝的重複性をもっとも苦手とするため、各JAZサブタイプの生物学的役割は未解明である。その解明には、JAZサブタイプ選択的アゴニストの開発が強く望まれている。

     コロナチン (+)-1は、非アミノ酸部のコロナファシン酸 (+)-3((+)-CFA)と、アミノ酸部のコロナミン酸(+)-4((+)-CMA)との縮合体である。我々はすでに、天然型コロナチンを含む4種の立体化学ハイブリッド体((+)-1, (-)-1, (+)-CFA-(-)-CMA (5), (-)-CFA-(+)-CMA (6))の合成を達成している(6)(Fig. 2、第56回討論会にて報告)。

     Yeast Two Hybrid(Y2H)アッセイにおいて、(+)-1のみがCOI1-JAZ9との結合親和性を示したが(Fig. 3a)が、興味深いことに、COI1-JAZ受容体の制御下にあるジャスモン酸応答性遺伝子AOSの発現量は、(+)-1以外に6でも弱いながら増加した(Fig. 3b)。この結果は、6がJAZ9以外のJAZサブタイプとCOI1との複合体に対するアゴニストとして機能することを示唆するものである。そこで次に、6のJAZサブタイプ選択性を確かめるため、試験管レベルのCOI1-JAZ結合活性を評価する系を構築した。

     全てのJAZサブタイプを網羅するため、JAZタンパク質から20アミノ酸程度のペプチドからなるコロナチン相互作用ドメインを切り出したdegron(断片)ペプチドを用いる評価系を開発した。Zhengらは、JAZ1のdegronペプチドを用いてCOI1-コロナチン-JAZ1の三成分複合体のX線結晶構造解析に成功していることから、 degronペプチドのみでも十分な親和性をもつ複合体形成が期待できると考えたからである(Fig. 1b)(7)。そこで、JAZ1ペプチドのN末端にCysを導入し、緑色蛍光のフルオレセイン類縁体であるOregon Green (OG) を結合させた蛍光性JAZ1を化学合成した(Fig. 4a)。OG修飾JAZ1ペプチド、COI1、(+)-1を用いて、フルオレセイ

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  • 小椋 章弘, 田原 強, 野崎 聡, 尾上 浩隆, 渡辺 恭良, 田中 克典
    p. Oral11-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【序論】

    アスパラギン結合型糖タンパク質糖鎖(N-結合型糖鎖と略す)は、タンパク質のフォールディングや細胞内輸送を制御するなど、生体の維持に欠かせない役割を果たしている。血中内でもシアリル化糖鎖がタンパク質の安定性に寄与することが知られているが、その細胞外における機能、とりわけN-結合型糖鎖構造に依存する詳細な動態や臓器選択的な集積、あるいはその生体内での標的受容体については、これまでほとんど検討されていない。その要因として、N-結合型糖鎖の嵩高さと親水性の性質のために、天然、または人工の糖タンパク質を合成する際に取り扱いが難しい上に、生体内では構造が不均一な糖鎖分子が混在していることが挙げられる。さらに、天然の糖タンパク質や細胞表面では、複数の糖鎖分子が「クラスター」を形成しており、単分子では相互作用の弱い糖鎖の受容体への親和性を、複数の相互作用が相乗的に補っている。さらに異なる糖鎖の組み合わせがパターンとして認識されることにより、生体内での高度な選択性を実現しており、その解析は非常に困難であった。

    報告者らはこれまでに、独自の6p-アザ電子環状反応を活用した標識化法を開発し、ペプチドや糖タンパク質、あるいは生細胞のイメージングに成功してきた1。本手法は水中、室温程度の温和な条件下で、基質同士を混合するだけで反応が進行することから、生体分子の機能を損ねることなく極めて容易に標識を施すことができる。今回、同様のアザ電子環状反応を利用することで、アルブミンに対して10分子程度の糖鎖を効率的に導入し、生体内での糖鎖認識を疑似化する糖鎖クラスターを実現した。これら糖鎖アルブミンを動物に投与し、近赤外蛍光による非侵襲的イメージングを実施した。さらに臓器や標的タンパク質を詳細に解析することにより、N-結合型糖鎖に依存する排出過程や臓器選択的な集積を明らかにしたので、これらの経緯について報告する。

    【6p-アザ電子環状反応を利用したアルブミン上への糖鎖クラスターの構築】

    報告者らはこれまでに、人工のポリリジンを基盤としたデンドリマー担体上に糖鎖クラスターを構築し、生体内でのイメージング検討を行ってきた2。しかし、生体内での安定性に問題があり、ほとんどが速やかに代謝されるため、厳密な動態解析を行うことができなかった。そこで、新たな担体として、血中での安定性が見込めるとともに、修飾が可能なリジン残基が30程度表面に存在する、ヒト血清アルブミンを採用することとした。そこで、アルブミンのリジン残基に対して効率的にN-結合型糖鎖を導入する方法を検討した結果、歪み解消クリック反応3と6p-アザ電子環状反応を併用した新たな糖鎖導入の手法を開発した(図1)4。すなわち、シクロオクチン部位を含む不飽和アルデヒド1に対して、アジド基を導入したN-結合型糖鎖2a-f(表1)を作用させることで、まず歪み解消クリック反応を実施し、定量的に不飽和アルデヒドプローブ3a-fを得た。次いで中間体を単離することなくワンポットで、750 nm付近の近赤外領域に吸収を持つHiLyte蛍光色素であ

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  • 荒井 雅吉, 河内 崇志, 高市 伸宏, 馬田 哲也, 古徳 直之, 小林 資正
    p. Oral12-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     我々が以前に単離構造決定した沖縄県産海綿Dysidea arenaria由来の環状デプシペプチドarenastatin A (1)は、ヒト咽頭上皮がんKB3-1細胞に対して非常に強力な細胞毒性(IC50 : 140 pM)を示す1)。また、1の類縁化合物であるシアノバクテリア由来のcryptophycin (2)は抗がん剤として開発が進められ、その合成アナログ化合物は第II相臨床試験まで実施された。一方、我々は、1の作用メカニズムを解析して、1がtubulinの重合をIC50値 2.3 μMで阻害することを報告している2)。しかし、1のtubulin重合阻害活性と比較して細胞毒性は15,000倍以上強力であることから、1は単純なtubulinの重合阻害剤ではなく、細胞内の別の分子にも作用することにより、非常に強力な細胞毒性を発起していることが強く示唆された。そこで、今回我々は、1由来のプローブ分子を合成し、1の強力な細胞毒性に寄与する新たな標的分子の同定を試みた。

    1. Arenastatin Aプローブのデザイン

     我々はこれまで、1の全合成を達成するとともに、アナログ化合物合成による構造活性相関を検討し3-5)、1の強力な細胞毒性の発現にはエポキシドを含む全ての立体化学が非常に重要であることを明らかにしている。その一方で、1のベンジルアルコール体 (3)は、活性を保持する知見が得られていることから、プローブ分子4は芳香環のパラ位からリンカーを伸ばしbiotin-tagを導入して調製した。さらに、細胞毒性を示さない7,8-epi-arenastatin A (5)由来のプローブ分子6も合成して比較実験に用いた(図1)。

    図1 Arenastatin類およびプローブ分子の化学構造と活性

    2. 細胞破砕液からの結合タンパク質の同定

     我々はまず初めに、KB3-1細胞の細胞破砕液を用いた一般的なプルダウンアッセイにより、プローブ分子4に選択的に結合するタンパク質の同定を試みた。その結果、SDS-PAGE上で約50 kDa(A)および約16 kDa(B)のプローブ分子4選択的に結合するタンパク質を見出した(図2)。しかし、これら2つのタンパク質をLC-MSで解析した結果、Aはb-tubulin (TUBB)、BはTUBBと結合することが報告されているtubulin-specific chaperone A (TBCA)と同定された。また、リコンビナントTBCAタンパク質は、プローブ分子4と直接結合しないことから、TBCAはarenastatin A (1)の結合タンパク質ではないことが明らかとなった。

     以上の結果から、細胞破砕液から、一般的なプルダウンアッセイで1の新規結合タンパク質を同定することは非常に難しいと考えた。そこで次に、Phage Display法を用いて、arenastatin A (1)の結合タンパク質の同定を試みた。

          

          図2 細胞破砕液からのarenastatin A (1) 結合タンパク質の同定

    3. Phage Display法を用いた結合タンパク質の解析

     Phage Displa

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  • 宮前 友策, 西藤 有希奈, 仲井 奈緒美, 増田 誠司, 神戸 大朋, 永尾 雅哉
    p. Oral13-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     オートファジーは、栄養飢餓や異常タンパク質の蓄積に応答して細胞内のタンパク質やオルガネラを自己分解し、再利用する品質管理機構である1。細胞が種々の刺激に応答すると、二重膜構造を有する隔離膜が形成され、オートファゴソームへと成熟する過程で分解物や細胞質成分が内包される2(図1A(1),(2))。オートファゴソームはリソソームと融合し、オートリソソームを形成した後、内容物がリソソームに存在する酸性加水分解酵素により分解され、栄養源として再利用される(図1A(3),(4))。オートファジーは細胞内の不要物の消去と再生を行うことで細胞内の恒常性の維持に重要な役割を果たす。近年、がんや肝疾患、神経変性疾患などの疾病との関連が次々と明らかにされており3、創薬分野において、オートファジー制御化合物は大きな注目を集めている。演者らは、肝硬変の成因である肝線維化を阻害する化合物を探索する過程で、ツヅラフジ科植物に含まれるビスベンジルイソキノリンアルカロイドであるテトランドリン(1, 図1B)に、オートファジー制御活性を有することを見出した。作用機序を解析した結果、1がこれまでのオートファジー阻害剤とは異なる、新たな因子を標的としてオートファジー経路を阻害することを強く示唆する結果を得たので、本講演ではその詳細を報告する。

    1. テトランドリンは細胞種普遍的にオートファジーを制御する

     我々はまず、1を処理した細胞においてオートファジーのマーカータンパク質に変動が生じるか検討を行った。オートファゴソームに局在するLC3タンパク質にEGFP蛍光タンパク質を融合させたキメラタンパク質を、ラット由来肝星細胞株HSC-T6に安定発現させ、1の処理によりGFPの蛍光が増加するか観察した。その結果、1の処理によりドット状に凝集した蛍光の増加が見られたことから、オートファゴソームが増加していることが示唆された(図2A)。1がLC3タンパク質量を確かに増加させるかウェスタンブロッティングにより確認したところ、膜結合型であるLC3-IIを示すバンドが1の処理で顕著に増加したことから1は確かにオートファゴソームを増加させていることが明らかになった(図2B)。これらの形質はヒト由来肝がん細胞株HepG2やマウス由来繊維芽細胞など、オートファジーが活発に起こる組織の細胞でも観察されたため、1は細胞種普遍的にオートファジーを制御することが示された。

    2. テトランドリンはオートファジーフローを阻害する

     次に1の作用機序を明らかにするため、オートファジーフローに与える影響について解析を行った。オートファジーフローとは、隔離膜の形成に始まり、オートファゴソームの成熟、リソソームによる分解までの一連のプロセスを表す(図1A)。LC3タンパク質は、オートファジーフローが促進されている場合と、途中のステップが遮断されている場合、いずれにおいても増加することが知られるが、両者で意味合いは大きく異なる。そこでtandem-fluorescent tagged LC3(tfLC3)発現細胞を用いて、1のオートファジーフローに与える影響を解析した。tfLC3は、mRFPとEGFPをLC3タンパク質に並

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  • 竹松 知紀, 瀬戸 義哉, 宮澤 吉郎, 和久田 真司, 荻原 毅, 佐分利 亘, 森 春英, 高橋 公咲, 松浦 英幸
    p. Oral14-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【目 的】

     植物は大地に根を張り移動が困難である事から、自己の被る様々な環境要因,ストレスに適応して生活環を終結させなくてはならない。よって、植物は独自の環境応答機構を有している。この応答機構を司る生理活性物質として植物ホルモンと呼称される一群の化合物が知られ、多くの研究がなされてきた。我々の研究室では長年、植物ホルモンの一種であるジャスモン酸(JA)について、鋭意研究を行っている。JA類は植物の傷害応答シグナル物質として必須であり、他の興味ある生理活性としてバレイショ塊茎の誘導活性、植物の就眠運動における就眠誘導、花粉管伸長促進などが知られている。近年、JA類の生理活性の制御の観点から、配糖化、チトクロームP450による酸化などに注目した報告がある。

     我々はJA類の配糖体化に関して研究を進め、イネに含まれるOsSGTを12-hydroxyJA(12-OHJA)配糖化酵素として報告した[1]。OsSGT は糖供与体としてUDP-Glcを用いるが、12-OHJAよりサリチル酸(SA)に対してより高い糖転位活性を示した。しかしながら、本酵素の探索過程において、SAに対してほとんど配糖化活性を示さず、12-OHJAに特異性の高いUDP-Glc非依存性の配糖化酵素の存在も明らかとした。現在のところ、UDP-Glc非依存性の植物2次代謝産物を標的とした配糖化酵素に関しては松葉らの報告[2]があるのみであり、植物ホルモンの配糖体化に関してUDP-Glc非依存性の糖転位酵素が関与しているとの報告は一切無い。

     上記の興味ある発見の詳細を明らかとすべく我々は、1)イネカルスに含まれるUDP-Glc非依存性の配糖化酵素の精製、2)イネカルスに含まれる本配糖化酵素の糖供与体の単離精製、構造決定,3)本配糖化酵素の諸性質の究明を進めたところ、本配糖化酵素はb−glucosydase, OsBGlu1 (accession number: AK100165)であると突き止め、イネにおいてサリチル酸グルコシド(SAG)が糖供与体として働くことを明らかとした(図1)。本酵素の生理学的意義は水酸化JA類を配糖化しJAの活性調節に寄与していると示唆できた事から、本成果について報告する。

    【研究方法および結果】

    1. UDP-Glc非依存性配糖化酵素の発見

     イネカルス粗酵素溶液にUDP-Glcを糖供与体としない12-OHJA 選択的な配糖化酵素が存在する事を、市販の糖供与体を用い、以下の実験より発見した。糖転位反応液としてイネカルスより抽出した粗酵素溶液、糖受容体としてJA水酸化体の一種である12-OHJA、糖供与体として市販のGlc 1-phosphate, TDP-Glc, octyl-Glc, UDP-Glcを用いて実験を行った。その結果、octyl-Glc はUDP-Glcよりも12-OHJAにより選択的に糖を供与し、SAはほとんど配糖化されなかった。

    2. イネ由来のUDP-Glc非依存性配糖化酵素の同定

     12-OHJA選択的糖転位活性を指標に、イネカルス粗酵素溶液に含まれる糖転位酵素の同定を試みた。糖供与体としてoctyl-Glc、糖受容体として12-OHJAを用い、種々の精製操作の後、得られた精製タンパク質はペプチドマスフィンガープ

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  • 山本 崇史, 森下 陽平, 網谷 雄志, 塚田 健人, 浅井 禎吾, 大島 吉輝
    p. Oral15-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     糸状菌は、数十もの二次代謝物生産に関わる遺伝子クラスターを有している。しかし、これらの多くは通常の培養条件下では休眠しており、それらがコードする二次代謝物は明らかになっていない。当研究室では、「糸状菌の休眠遺伝子からの新規天然物探索」を行うなかで、ゲノム情報を必要としない、天然物探索に広く利用可能な二次代謝活性化法の確立を目指している。第53−55回本討論会において、ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害剤を用いたケミカルエピジェネティクスの手法を報告した。しかし、本法でも休眠遺伝子を十分には活用しきれてはいない。

     放線菌などの細菌では、リボソームを標的とする抗生物質(ストレプトマイシンなど)やRNAポリメラーゼ阻害剤(リファンピシンなど)に対する薬剤耐性変異を導入することで休眠型二次代謝物の生産を活性化する方法「リボゾーム工学」1が、越智幸三博士らによって確立され、有用物質の効率的生産や新規物質探索に活用されている。我々は、この概念を真核生物である糸状菌へと応用し、汎用性の高い二次代謝活性化法の確立を目指して研究を行っている。本研究によって、真核生物のリボソーム標的薬剤であるハイグロマイシンB (HygB) の耐性株が、休眠型二次代謝物の取得に有効であることを見出した。

    1. HygB耐性株の取得と二次代謝物生産能の評価

    図1. 本研究の概略

     胞子に変異原である1-メチル-3-ニトロ-1-ニトロソグアニジン(MNNG) を用いてランダムに突然変異を導入して、HygB耐性株の作成を試みた。まず、胞子形成能の高いAspergillus属やEupenicillium属菌のうち、HygB 500 mg/ml以下で感受性を示す菌を検討した。変異原処理の条件と選抜時のHygB濃度を検討することにより、ほとんどの菌で耐性株を取得することができた。さらに、耐性株を取得できた菌では、いずれも二次代謝が活性化した株を効率良く見出すことができた。また、十分に胞子を形成した昆虫寄生糸状菌Sporothrix pallidaでも同様に二次代謝活性型のHygB耐性株が取得でき、適応範囲の広さが示された。しかし、糸状菌の多くは胞子を十分に形成させることが難しい。そこで、菌糸体を用いてHygB耐性株が取得できるか検討した。先の検討事項に加え、MNNGと反応させる菌糸の調製法を検討した結果、数種の菌でHygB耐性株が得られ、それらは二次代謝が活性化していた。変異原処理では一般的に複数の変異が導入されてしまう。なお、昆虫寄生糸状菌Orbiocrella petchiiの菌糸から変異原処理なしでもHygB耐性株が得られ、変異原処理で取得した耐性株と同じように二次代謝が活性化していた。このことは、HygB耐性に関わる変異が二次代謝活性化に寄与している可能性を示唆している。

     HygB耐性株で二次代謝が顕著に活性化した例を図2に示す。このように、本法が、二次代謝活性型糸状菌を得るのに効果的な方法であることが示された。

    _ _ _

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  • 齋藤 駿, 藤巻 貴宏, 田代 悦, 五十嵐 康弘, 井本 正哉
    p. Oral16-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【概要】

     近年本邦において急増しているがんの一つに前立腺がんがある。前立腺がんは、男性ホルモン(アンドロゲン)がアンドロゲン受容体(以下AR)に結合することで悪性化することから、これらの結合を阻害するARアンタゴニストが治療薬の一つとして用いられている。しかし、現在臨床で用いられている第一世代のARアンタゴニストは、長期投与により耐性を示す変異体ARの出現が問題視されてきた1) 2)。さらに近年、これらの耐性を克服する第二世代のARアンタゴニストが登場したが3)、既に耐性を示す変異体ARが報告されている4)5)。この耐性が獲得される原因の一つとして、既存のARアンタゴニストの化学構造の類似性が考えられている(Figure 1)。このことから、既存のARアンタゴニストとは異なる構造を有する化合物は、新しい前立腺がん治療薬シードになり得ると考えられる。そこで我々は、構造多様性に富んだ化合物を多数生産する放線菌ライブラリーから新規ARアンタゴニストの探索を行なった。その結果、既存のARアンタゴニストの骨格とは異なる新規化合物Antarlide A-Eを取得することに成功した。本大会では、Antarlide類の単離・構造決定及び生物活性について報告する。

    Figure 1. 既存のARアンタゴニスト製剤の化学構造

    【方法と結果】

    1. スクリーニング/Antarlide A-Eの単離精製

     ARのリガンド結合部位であるC末端タンパク質とDHT(アンドロゲン)の結合阻害活性を指標としてARアンタゴニストの探索を行なった。その結果、Streptomyces sp. BB47の培養液中に目的の活性を見出した。本活性物質の精製過程で光に対して非常に不安定であることが分かったため、精製までの過程は全て遮光条件下で行なった。BB47株の10L培養液を等量の酢酸エチルで抽出し、得られた抽出物をヘキサン/90%メタノールで分配した後、90%メタノール層をさらに酢酸エチル/水(pH 10)で分配した。次に、酢酸エチル層を遠心液々分配クロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーで精製し、新規化合物Antarlide A (1, 55.2 mg), B (2, 13.8 mg), C (3, 17.7 mg), D (4, 13.8 mg), E (5, 4.6 mg)を単離した。

    2. Antarlide類の平面構造決定

     Antarlide類は薄黄色油状物質として得られ、ESIマススペクトルにより、いずれの類縁体も同一の分子式C33H44O6を持つことが分かった。続いて、各種NMRスペクトルの解析を行い、Antarlide類が22員環マクロライド構造を有する新規化合物であることを明らかにした。さらに、Antarlide類が有する二重結合の幾何異性を結合定数とNOESYスペクトルにより解析したところ、これらは互いに幾何異性体であることが判明した(Figure 2)。

    Figure 2. Antarlide類の平面構造

    3. Antarlide類の絶対立体構造決定

     次に、Antarlide類の中で最も生産性の高いAntarlide A(1)の絶対立体配置の決定を試みた。前述のようにAntarlide類は光に対して不安定であり、その原因として環構造の歪みが考えられた。そこで、21位のラクトン環をメタノリシスにより開環し、直鎖状のメチルエステル(6)へと誘導した(Figure 3)。

    Figure 3. Methanolysis of

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  • 盧 山, 西村 慎一, 平井 剛, 伊藤 将士, 河原 哲平, 泉川 美穂, 袖岡 幹子, 新家 一男, 土田 外志夫, 掛谷 秀昭
    p. Oral17-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    In the course of our chemical screening for novel microbe metabolites, we discovered three new 10-membered macrolides, saccharothriolides A-C (1-3), from a rare actinomycete Saccharothrix sp.A1506 (Figure 1). Here we presentthe isolation, structure elucidation, and biological activities of these new macrolides.1

    1. Fermentation, extraction,and isolation.

    Saccharothrix sp. A1506 was isolated from a soil sample collected in Yamanashi Prefecture, Japan. The culture broth (6 L) was extracted with n-BuOH to afford a residue (5.44 g). The residue was subjected to column chromatography on silica gel and then subjected to RP-HPLC to yield metabolites 1(24.7 mg), 2 (5.4 mg), and 3 (17.8 mg).

    2. Structure elucidation of saccharothriolides A-C (1-3).

    Saccharothriolide A (1) was obtained as a light yellow oil with [α]20 D+18.0 (c = 0.74, MeOH). The molecular formula was determined to beC26H31NO8 by HR-ESI-MS. The HMQC spectrum facilitated the assignment of the protons to the corresponding carbon atoms, and the 1H–1H COSY spectrum gave three proton sequences (Figure 2, left). The observation of HMBC correlations led to the formation of the10-membered lactone ring (Figure 2, left). The relative stereochemistry of metabolite 1 was deduced from the NOESY data to be 2R*, 3R*, 4S*, 6R*, 7R*, 8R*, 9S* (Figure 2, right).

    The relative stereochemistry of 1 were further confirmed by the advanced statistical Universal NMR Database (UDB) approach.2-4 The 13C NMR spectroscopic data for the two C5–C2 and C3–C6 segments of 4 which was obtained by reduction of 1 were subjected to statistical analysis. The analysis suggested an anti-anti-anti configuration, which was in good agreement with the NOESY data in 1 (Figure 3).

    In order to determine the absolute configuration of the secondary C-3 hydroxyl group by the Mosher’s method (Figure 4), phenolic hydroxyl groups and the carboxylic acid of 1 were first protected by methylation with CH3I to yield a tri-methyl derivative 5. The Δδ (δSR) values of (S)- and (R)-MTPA esters of 5 for the protons flanking the C-3 chiral center revealed the 3R absolute configuration, which in turn concluded the absolute configurations of 1 as 2R, 3R, 4S, 6R, 7R, 8R, 9S. The result was confirmed by comparing the measured CD spectrum of 1 and the electronic circular dichroism (ECD) spectrum calculated by time-dependent density functional theory (TDDFT) (Figure 5).

    Saccharothriolide B (2) was obtained as a light yellow oil. Its molecular formula of C25H31NO7 was established by HR-ESI-MS. The 1H and 13C NMR data of 2 were very similar to those of 1, suggesting that 2 possessed a phenolic hydroxyl group instead of a carboxylic acid at C-2”. The planar structure was deduced by the COSY, HMQC and HMBC data. Detailed analysis of the NOESY spectrum of 2 revealed that therelative stereochemistry was the same as that of 1. The absolute stereochemistry of 2 was determined by measurement and calculation of ECDas same as 1.

    Saccharothriolide C (3) was also obtained as a light yellow oil, while the molecular formula was determined to be C19H26O7 by HR-ESI-MS. The 1H and 13C NMR data of 3 were similar to those of 1 and 2. Instead of the amino aryl groups substituted at C-7 in 1 and 2, metabolite 3 possessed a hydroxyl group at C-7. The planar structure was elucidated by

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  • 福原 和哉, 高田 健太郎, 岡田 茂, 松永 茂樹
    p. Oral18-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【概要】

     カイメンTheonella swinhoeiからはこれまで40種を超えるポリケチドやペプチドが得られており、現在においても有用物質の探索源として期待されている。1, 2加えて近年、これらの二次代謝産物の多くをEntotheonellaという難培養性の共生微生物が生産していることが明らかとなった。3この研究により、カイメンには高い化合物生産能を持つ共生微生物が存在することが示され、これらの共生微生物は新たな生物資源として利用できる可能性がある。

     我々はメタボロミクスをカイメンに適用し、生物活性を示す海洋天然物を効率的に探索している。これまでに約1500の抽出物をLCMSで分析するとともに、その含有成分組成を解析し、各試料間での比較をおこなった。本研究はその一環として、T. swinhoeiの抽出物をLCMSで分析し、含有成分のODSカラムへの保持時間、UV吸収スペクトル、分子量を指標として新規細胞毒性物質を探索した。その結果、新規の細胞毒性ペプチドnazumazoles A–C (1–3)4 およびその類縁体nazumazoles D–F (4–6) を発見し、それらの構造を決定した (Figure 1)。

    Figure 1. The structures of nazumazoles A–C (1–3) and nazumazoles D–F (4–6).

    【Nazumazoles A–C (1–3) の単離】

     八丈島ナズマド産カイメンT. swinhoeiをメタノールで抽出し、LCMSで含有成分を分析した。その結果、ODSカラムから幅広いピークとして溶出し、m/z 1185, 1199, 1213 (M + H)+ を示す成分を発見した (Figure 2)。そこで、カイメン抽出物から、溶媒分画、各種カラムクロマトグラフィー、HPLCによって、当該ピークをnazumazoles A–C (1–3) の混合物として単離した。この混合物はP388マウス白血病細胞に対して毒性を示したので、その構造決定を行った。

    【構造解析】

     HRESIMSにより、1–3の分子式をそれぞれC50H68N14O16S2、C51H70N14O16S2、および

    C52H72N14O16S2と決定し、

    nazumazoles A–Cは分子式がCH2ひとつずつ異なる同族体であった。1H NMRおよび13C NMRを測定したところ、アミド水素およびアミドカルボニル炭素のシグナルが観測されたことから、1–3はペプチド性の化合物であることがわかった。各種二次元NMRの解析により、構成アミノ酸およびその配列を決定した (Figure 3)。

    1–3の構成アミノ酸はa-ケト-b-アミノ酸であるケトノルバリン (Knv)、および、ケトロイシン(Kle)、4-メチルプロリン (MePro)、ホルミル化されたジアミノプロピオン酸 (N-CHO-Dpr)、システイン、アラニンとオキサゾールが結合した構造 (AlaOX) であった。また、1–3は2種のペンタペプチド鎖

    A) -Knv-MePro-N-CHO-Dpr-Cys-AlaOX-とB) -Kle-MePro-N-CHO-Dpr-Cys-AlaOX-の二量体であり、分子式の違いはこれらペプチド鎖の組み合わせに由来していた。

    Table 1. 1H and 13C NMR data for the mixture of nazumazoles A (1)–C (3) in DMSO-d6.

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  • 賀儀山 一平, 加藤 光, 松尾 佳苗, 根平 達夫, 塚本 佐知子
    p. Oral19-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. はじめに

    Notoamidesは、能登半島で採取したAspergillus protuberus (MF297-2) から単離したプレニル化インドールアルカロイドである。当初単離した4種類の新規物質(-)-notoamides A, B (1, 2) とnotoamides C, D (3, 4) および3種類の既知物質 (+)-stephacidin A (5)、sclerotiamide (6) およびdeoxybrevianamide E (7)1の構造の多様性から生合成機構に興味を持ち、生合成研究を開始した。その後、別の真菌A. amoenus (NRRL 35600) が、A. protuberus (MF297-2) の生産する化合物のエナンチオマーである (+)- 2と (-)-5を生産することが分かった (Scheme 1)2。さらに最近、A. taichungensis (IBT19404) では、(+)-2と (-)-5の6-epi体である (+)-versicolamide B (8) と (+)-6-epi-stephacidin A (9) が主成分であることを見出した。化合物2, 5, 8, 9は、共通の基質notoamide S (10) から、分子内Diels-Alder (IMDA) 反応によるビシクロ環の形成を介して生成したと推定している (Scheme 1)。したがって、3種の真菌由来のDiels-Alderaseが基質10に対して異なる立体選択性で反応を触媒すると考えられる。3種の近縁の真菌においてIMDA反応により同一の基質からエナンチオマーやジアステレオマーが生成するという例はこれまで全く知られていないので、これら真菌の生合成機構は大変興味深い。このような背景から私たちは、3種類のAspergillus属真菌が生産するnotoamide類縁体の構造と生合成機構に関する研究を行っている。今回、A. taichungensis (IBT19404) から単離した6種類の新規化合物11-16の構造と3種のAspergillus属真菌の生合成機構に関する考察について報告する。

    2. A. taichungensis (IBT19404) の成分について

     A. taichungensis (IBT19404) の主成分は、A. protuberus (MF297-2) が生産する (-)-2 と (+)-5 の6-epi体である (+)-8と (+)-9であり、微量成分はA. amoenus (NRRL 35600) で主成分である (+)-2と (-)-5であることを明らかにした (Scheme 1)。さらに、構造の新規性が高い類縁体として6種類の新規化合物11-16を単離し、絶対立体配置も含めて構造決定した。

    2-1. 化合物11-14の構造

     化合物11は、高分解能ESIMSにより (+)-8 と同じ分子式C26H29N3O4であることが分かった。化合物11のDMSO-d6中での13C NMRスペクトルにおいて、(+)-8で観測されたアミド結合性のカルボニル炭素シグナルが1本消失し、新たにケト基に由来すると考えられるシグナル (dC 190.7, C-2) が認められた。さらに各種2D NMRスペクトルの解析により、11はベンゼン環にアゼチジン環が直接結合した構造を有していることが分かった (Figure 1)。これまでに、60種類以上のnotoamide関連化合物が単離されているが、11のような炭素骨格を有する化合物は始めての例である。また、アゼチジン環を有する天然物もあまり報告例がない。相対立体配置は、H3-24/H-21, H-19/H3-23およびH-1/H3-23のNOE相関に基づき、H-1とH-19は同じ側に存在しているがH-21はそれらと反対側に存在していると決定した (Figure 1)。絶対立体配置については、ECDスペクトルの225 nm付近のコットン効果がnotoamide類縁体におけるビシクロ環の絶対立体配置を反映していることが分かっている3。11は225 nm付近に正のコットン効果を示したので11S,17Sと決定した。した

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  • 東 雅之, 良川 哲也, 小暮 紀行, 北島 満里子, 高山 廣光
    p. Oral2-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【背景】

     ヒカゲノカズラ科植物はリコポジウムアルカロイドと総称される多様で複雑な環骨格を有する化合物群を生産することが知られている。これらアルカロイドは生合成の観点から、4つのグループに分類されている (Figure 1)。このうち、Huperzine A (1)が強力なアセチルコリンエステラーゼ (AChE)阻害活性 (IC50 = 0.082 μM)を示し1)、アルツハイマー病を含む様々な記憶障害に対して有効であることが明らかとなった。我々は、このような特異な環骨格と有用な生物活性に興味をもち、成分探索および合成化学的研究を展開している2)。今回、認知症治療薬のシード分子の創製を目指し、リコポジウムアルカロイドの生合成経路に着想を得た合成戦略を計画し、1が属するLycodine型アルカロイド類の不斉全合成研究に着手した。

    【合成計画】

     我々は、最初の合成ターゲットとしてLycodine類の代表化合物であるLycodine (2)3)と未だ合成報告のないFlabellidine (3)4)を選択し、生合成経路を模倣した合成計画を立案した (Scheme 1)。Spenserらにより提唱されている生合成経路によると、本アルカロイド群は脂肪族アミノ酸であるLysine由来の二次代謝産物である5) (Scheme 1)。Lysineから数段階を経て二つのエナミンを有する化合物 4が生成し、続く連続的環化反応によりリコポジウムアルカロイドの重要な基本骨格となる四環性Lycodine骨格5へと導かれる。さらに 5から、再環化や転位、酸化などを経てFigure 1に示す様々な骨格のリコポジウムアルカロイドが生成すると考えられている。そこで、以上の仮説に基づき、生合成仮説中の化合物 4から5が生成する連続的環化反応を鍵反応とした合成ルートを考案した。すなわち、化合物4に相当し、生合成経路と同様の立体選択的な連続的環化反応が期待できる共役イミニウムイオン中間体7を鍵中間体として設定した。7は酸性条件下、直鎖状化合物6のBoc基の脱保護を行うことにより導けると考察した。

    【環化反応基質6の合成】

     まず初めに、クロトンアミド9に対するジアステレオ選択的細見-櫻井アリル化6)により、高収率かつ良好な立体選択性にて10を得た (Scheme 2)。10のオレフィンをオゾン分解してアルデヒド11へと変換し、AcOEtより調製したリチウムエノラートを作用させることにより、不斉補助基の脱離と同時にラクトン化が進行し、12を得た。続く2工程を経てdi-Weinrebアミド13に導き、これに対して14より調製したアルキニルマグネシウム試薬を作用させることで、13の両端を同時に増炭してカップリング体15を合成した。次いで、アルキン部位のみを還元して16へと変換した後、フッ化水素ピリジンによりTES基の脱保護を行ったところ、同時に脱水反応が進行し、環化反応前駆体6を合成することができた。

    【生合成経路模擬の連続的環化反応の検討】

     目的の環化反応前駆体6が合成できたので、生合成経路模擬の連続的環化反応を行った (Scheme 3)。環化反応条件を種々検討した結果、酸として(+)-CSAを用い、CH2Cl2中、50 ℃で反応を行うことで、望みの環化反応が進行し、1段階で四環性化合物8を

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  • 西村 至央, 田中 真史, 上野 民夫, 松尾 憲忠, 香谷 康幸, 佐久間 正幸
    p. Oral20-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     ワモンゴキブリPeriplaneta americanaは世界に分布するゴキブリ目昆虫の代表種である。その配偶行動は性フェロモンperiplanone-A,-Bによって引き起されることがすでに知られている1)。一方、ゴキブリ類には若虫も含めて集合性があり、排泄物中に含まれる集合フェロモンによってその行動が引き起されることが、以前から知られていた2)。ワモンゴキブリにおいても集合フェロモンの存在が示唆されていたが3)、その化合物については長らく未知のままであった。今回、オルファクトメーター試験による本種の若虫の誘引活性を指標に4,5) 、本種のフン176kgから得た抽出物を分画・精製し、0.16~4.9mgの試料を得た。各種スペクトル分析により新規天然化合物としてイソクロマノン誘導体6化合物、鏡像異性体を含めれば10化合物の構造を推定して、不斉合成、キラルHPLC、NMR、CDスペクトルを併用して絶対構造を含め、その同定に成功した。さらに、合成フェロモンには天然化合物と同等の誘引活性を認めるに至ったので、それらの結果をまとめて報告する。

    【精製方法】

    本種のフンのジクロロメタン抽出物について、定法により液-液分配を行った後、その有機相について、シリカゲル、活性炭、スチレンジビニルベンゼン共重合体、そして再度シリカゲルを固定相として、オープンカラムクロマトグラフィーによる精製を順次行った。その間、誘引活性の低下はほとんど見られず、原料からの重量比で110,000倍の精製ができた。さらにシリカゲル順相HPLC で精製したところ、活性を有する4つの活性画分を単離することができた。それぞれについて、ODS、ナフチルシリルの逆相HPLCで精製を加え、6つの活性ピークを得た。それぞれはGC分析で単一のピークを与え、そのGC分取物は所期の活性を有していた。これにより延べ11段階の精製による活性化合物の単離を確認した。これらの画分に含まれる一連の活性化合物は、NMRを中心としたスペクトル分析の結果、すべて8-hydroxy-7-methyl-isochroman-1-oneを共通の基本構造とすることから、periplanolide (PLDと略記)-A, B, C, D, E, Fと呼ぶことにする(Fig.1)。

    PLDの化合物名、フンに含まれる鏡像体比、重量、誘引活性をTable 1にまとめた。PLD-AとB、CとDはジアステレオマーの関係にあり、それぞれエナンチオマーを含んでいた。PLD-EとFの立体異性体は、一種類しか得られなかった。誘引活性はどの化合物もほぼ同様の値を示し、ED50=0.28- 0.54 pgの範囲に収まった。PLD-Eの含量は4.9mgと最も多く、得られたPLD全体の72%を占めていた。

    【各種スペクトル分析による平面構造の推定】

    単離した化合物の構造推定について、PLD-Eを例に説明する(Fig.2)。GC/HR-TOFMSに

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  • 竹内 公平, 海原 由香理, 谷野 圭持, 難波 康祐
    p. Oral21-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. 序論

     Palau’amine (1)は、1993年にScheuerらによって西カロリン諸島に生息する海綿Stylotella agminataから単離・構造決定されたピロール・イミダゾールアルカロイドであり、優れた免疫抑制活性を示すことが報告されている1,2)。構造的特徴として、歪んだtrans-アザビシクロ[3.3.0]オクタン骨格(D/E環)、C16位含窒素4置換炭素を含む8連続不斉中心などが挙げられ、複雑な構造と顕著な生物活性から世界中で高い関心を集めている。このため、これまでに数多くの合成研究が報告されてきたが、全合成の達成は2010年のBaranらによる一例のみとなっている3)。今回我々は、Hg(OTf)触媒的オレフィン環化反応およびABDE環の1段階構築反応を鍵とする1の全合成を達成したので報告する。

    2. 合成計画

     Palau’amine (1)の逆合成解析を以下に示す。1の1級アミンおよび2級塩素はジオール2の官能基変換により導き、CF環部のグアニジノ基はジアミン誘導体3のアミン窒素を足がかりとして導入する。3の歪んだtrans-アザビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を含むBD環は、4のイミノエステル部位への連続する分子内環化反応により構築できると考えた。4は鍵中間体5を強塩基で処理することにより得られるものと期待した。すなわち、C10位の脱プロトン化と続くヒドラジド窒素の脱離によって、N-N結合の開裂とC10位の酸化が同時に進行すると考えた。5はヒドラジド6からC10位の酸化的修飾を伴う環縮小反応により合成することを計画した。6のC16位含窒素4置換炭素はヒドラジド7のHg(OTf)2触媒的オレフィン環化反応により構築し、7は市販のシクロペンテノン8から導くことにした。

    3. C16位含窒素4置換炭素の構築とE環中間体の合成

     シクロペンテノン8を出発物質とし、Baylis-Hillman反応に続くアセチル化、Luche還元、TBS保護により9とした後、Ireland-Claisen転位を行いカルボン酸10へと導いた。10とトシルヒドラジドの縮合はDMAP存在下、位置選択的に進行し11を得た 4。11を1 mol%の水銀トリフラートで処理すると、分子内アミノマーキュレーション反応が進行し窒素環化体13を与え、one-potでTBS基を除去することでC16位含窒素4置換炭素を有するアルコール14が合成できた。次に14の2級水酸基を酸化、続くIBX酸化によりエノン15とした。Baylis-Hillman反応により16とした後、ニトロメタンのMichael付加、続くケトンの還元、1級水酸基のTBS保護を行った。このときニトロメタンの付加はconvex面から進行し、ヒドロキシメチル基は側鎖との反発を避けてantiに制御されることで望みの立体配置を有するE環中間体17が合成できた。5)

    4. 鍵中間体の合成

     官能基化されたE環中間体17が得られたことから、次に環縮小に伴うC10位の酸化的修飾とピロールの導入を行った。17のヨウ化サマリウム処理と保護基の順次導入によって18とした。次いで18をシリルケテンアミナールへと変換後、NBSで処理することでC10位に臭素を導入した19を得た。なお、臭素の付加はビニル基の立体障害によりconcave面から進行した。次いで、19をMeOH中K2CO3で処理すると、メタノリ

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  • 小嶺 敬太, 野村 祐介, 高橋 圭介, 石原 淳, 畑山 範
    p. Oral22-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    緒言

    N-Me-welwitindolinone C isothiocyanate (1) は、MooreらによりシアノバクテリアHapalosiphon welwitschiiから単離されたwelwitindolinoneアルカロイドの代表的な化合物である2)。本天然物は、ヒト癌細胞において薬剤耐性 (MDR) に関わるP-糖タンパク質 (P-gp) に対して強力な阻害活性を示すことから、本天然物は癌化学療法における抗薬剤耐性薬開発のリードとして注目されている。また本天然物は、高度に官能基化されたビシクロ[4.3.1]デカノン骨格とインドリノン環が縮環した極めて特徴的な構造を有しており、イソチオシアナート基やビニル基を含む2連続4級不斉中心および、クロロオレフィンを含む。このような生物活性と合成化学的に極めて難易度の高い構造から、世界中で合成研究が盛んに行われている3)。しかし、全合成の報告はGarg4) らとRawal5) らによる2例のみである。今回、我々はPd触媒を用いるタンデム環化反応に基づくビシクロ[4.3.1]デカノン骨格の一挙構築法を開発し、N-Me-welwitindolinone C isothiocyanate (1) の全合成およびN-Me-welwitindolinone D isonitrile (2) の形式合成を達成したのでその詳細について報告する。

    逆合成解析

    本研究において、インドリノン環に隣接したビシクロ[4.3.1]デカノン骨格の構築が最大の難所であり、いかに効率的に構築するかが鍵である。我々はPd触媒を用いたエノラートのアリル化とアリール化を経るタンデム環化反応によりビシクロ骨格が一挙に構築できると考え、本反応を基軸とした合成計画を立案した。すなわち、1の前駆体として3を設定し、その合成法として4のPd触媒を用いたタンデム分子内エノラートカップリング反応を考えた。4は、6と7のジアステレオ選択的なカップリング反応とその後の変換によって容易に得られると考えられる。従って、もし4から3へのタンデム環化が立体選択的に進行すれば、1の全ての不斉点は7の不斉中心に基づき、制御できることになる。

    9および4のタンデム環化反応の検討

    8から2工程を経て7へと変換後、TMSOTf存在下6とのカップリング反応6)を行い、高選択的にanti体5を得た。その後、5に対しアセトニトリルの求核付加を行い、さらに3工程を経て9を合成した。しかし、種々の条件で9のPd触媒タンデム環化反応を検討したが、複雑な混合物が生成するのみであり、ビシクロ体10は全く得られなかった。

    続いて、anti体5をsyn体11へ速度論的プロトン化によりエピメリ化した後、同様に4へと導き、Pd触媒タンデム環化反応を検討した。その結果、Verkadeら7)の触媒系であるiBu-PAP/Pd2(dba)3を用いた際、望むビシクロ体3が2% (d.r. = 2:1) と低収率ながら生成することがわかった。

    以上の結果から、C-12位にあらかじめメチル基をもつ9や4の環化は、環化遷移状態において深刻な立体反発をもたらすため困難であると考えられた。そこで、環化下での立体反発を軽減するため、ビシクロ[4.3.1]デカノン骨格構築後にC-12位にメチル基を導入することにした。

    15および17のタンデム環化反応の検討

    市販の光学活性ラクトン(+)-12を出発原料とし、3工程を経て13

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  • 叶 直樹, 伊東 俊哉, 寺嶋 優太, 坂西 航平, 岩渕 好治, 藤田 航平, 杉山 龍介, 西村 慎一, 掛谷 秀昭
    p. Oral23-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【はじめに】Heronamides A-Cは2010年に海洋放線菌より単離・構造決定されたポリエンラクタム化合物群である (Figure 1)1。これらの化合物群は同じ放線菌より単離されることから、heronamide Cを生合成中間体とした興味深い生合成経路が提唱されている1。また、heronamide Cには動物細胞に対する液胞化誘導作用1や分裂酵母に対する生育阻害作用2など興味深い生物活性が知られており、類縁化合物の8-deoxyheronamide C (7)2と共に新しいクラスの脂質認識化合物であることが分かっている。

     我々は heronamide類の構造、生物活性発現機構、および生合成仮説に興味を持ち、全合成研究と作用機作解析を行なってきた。一昨年の本大会ではheronamide 類の単離と構造決定2,3、昨年の本大会ではheronamide Cの提唱構造 (3) の全合成と改訂構造 (6) の合成研究4,5について報告したが、今回、6 の全合成と、6からheronamide AおよびBの改訂構造 (4, 5) への非酵素的変換を達成し、改訂構造の確認と構造活性相関に関する興味深い知見が得られたので、一連の研究成果をまとめて報告する。

    Figure 1. Heronamides A-C の提唱構造と改訂構造、および8-deoxyheronamide Cの構造

    【Heronamide C提唱構造の合成と天然物との比較5】我々は heronamide C の高度に不飽和なマクロラクタム骨格構築には、分子内で最も不安定と考えられるC10-C17テトラエンを合成終盤で構築することが必要と考えた。そこで、逆合成的にC11-C12間とアミド結合で切断した二つのフラグメント8, 9を想定し (Scheme 1a)、カルボン酸8をD-リボース由来の内部アルキン10とエンイン11の還元的アルキンーアルキンカップリング反応6により、またアミン9は小林不斉アミノアリル化反応により95% eeの光学純度で合成したホモアリルアミン127を出発原料として、遠隔アミン制御下での位置選択的スタニルキュープレーション反応5,8 によりそれぞれ合成した (Scheme 1b)。次にHATUを縮合剤として両者を縮合した後、暗所下で分子内Stille カップリングに付したところ、中程度の収率ではあるがマクロラクタムの構築に成功し、続いて保護基を除去することで提唱構造3の合成を達成した。

    Scheme 1. Heronamide C提唱構造3の逆合成解析と合成経路

    そこで、合成した化合物と天然物の各種スペクトルデータを比較したが、両者は一致しなかった。一方、興味深いことに、両者のCDスペクトルを測定したところ、ほぼ鏡像に近いスペクトルが得られた (Figure 2a)。我々は、(1) heronamide Aを独自に天然から抽出し構造解析した結果、8R,9S の立体化学を持つ構造1ではなく 8S, 9R の構造4であること9、(2) 同じく独自に単離したheronamide CのNOESY相関解析の結果、8S,9R,19R の立体化学を有する構造6が示唆されたこと2,3、(3) 8R,9S,19Rおよび8S,9R,19Rの立体化学を有するモデル化合物16, 17の、計算により導かれた安定配座がCD励起子キラリティー則に基づいた上記スペクトルを良く説明できること (Figure 2b) などからheronamide Cの真の構造は6であると推定した。なお、上記合成品3と天然heronamide Cの1H-NMRにおける挙動は大

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  • 野村 勇作, Frederic Thuaud, 関根 大介, 平井 剛, 前田 里子, 伊藤 昭博, 市川 聡, 松田 彰, 吉田 稔, 袖 ...
    p. Oral24-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【研究背景】

    タンパク質SUMO(Small Ubiquitin-like MOdifier)化は、細胞周期調節などの多様な細胞現象に関与するタンパク質翻訳後修飾である。近年、SUMO化と様々な疾病との関連が示唆されているが、その詳細は明らかになっていない。このことからSUMO化阻害剤は、有用なSUMO化研究ツールとなるだけでなく、創薬研究のリード化合物としても利用可能と期待される。このような背景の中、ごく最近2量体構造を有するspectomycin B1(SMB1、Figure 1A)が、SUMO活性化酵素E2に結合しSUMO化を阻害することが見出された1)。SMB1は、1994年に抗菌物質として単離された天然物であり、この時単量体型のSMA1、SMA2も同定されている2)。これら単量体は抗菌活性を示さないが、SUMO化阻害活性の有無については明らかになっていない。そこで今回我々は、SMB1の構造活性相関研究の一環として、SMA1の合成法を確立し、そのSUMO化阻害能を明らかにすることを計画した。この際、4、5位の可能な立体異性体全てを合成し、それらの阻害活性と未決定であった天然物の相対・絶対立体化学も明らかにしようと考えた。合成上のポイントは、芳香環化しやすいC環β-ヒドロキシテトラロン構造と、4位に存在し芳香環と共役していないβ-メトキシアクリレート構造を如何に構築するかにある。また、我々は3-4位結合間に軸不斉があり、H-4とOMe基の2面角が180 °になるP体と0 °になるM体が存在すると予想した(Figure 1B)。DFT計算によってP体が安定と見積もられたが、合成中間体では異性化し、回転異性体間で異なる反応性を示す可能性が考えられた。

    Figure 1. A)Spectomycin類の構造;B)(4S5S)-SMA1の3-4位間の軸不斉

    【合成戦略】

    今回我々は、全ての立体異性体を効率的に得るため、1つの共通中間体からlate-stageでそれぞれの異性体に導ける合成法を立案した。SMA1に必要な全炭素と置換基を有する1を共通中間体として設定し、これを4-5位間の結合形成反応によって環化し、2のすべての立体異性体を得ようと考えた。環化反応は、π-アリルパラジウム種の極性転換反応を利用することを考え、この時同時にE体のβ-メトキシアクリレート構造を構築することを計画した。7位には5位ケトンが存在しても脱離しにくいシリル基を導入し、環化後に短工程でβ-ヒドロキシケトンに導くとした。

    Scheme 1. SMA1全立体異性体の合成計画

    【共通中間体の合成】

    m-アニスアルデヒド(3)から、Snyderらの報告3)に従って調製したナフタレン誘導体4のエステルを還元した後、塩基性条件下、フェノール性水酸基のオルト位選択的にヨウ素化4)して5に導いた。2つの水酸基をMOM基で保護した6をDDQ酸化し、アルデヒド7を合成した。これをDBU存在下、ホスホニウム塩8 5)と処理し、Z選択的にα-メトキシ不飽和エステル9へ変換した。生じたエステルを還元した後、MVKとのMizoroki-Heck反応により3炭素増炭し、エノン体10を得た。これとヘキサメチルジシラン、MeLi、およびCuIより調製した(Me3Si)2CuLiを処理すると、7位へシリル基導入が円滑に進行し11を得た6)。アリルアルコールを酸化し、12に変換した後、M

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  • 安藤 吉勇, 花木 淳子, 佐々木 亮太, 松本 隆司, 大森 建, 鈴木 啓介
    p. Oral25-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     キノン類は色素として広く天然に存在し、生体内における酸化還元過程に重要な役割を果たしている。また、DDQのように有機合成用の反応剤として用いられているものもある。

     ところで、キノンは光照射を契機として特異な反応性を示すことがある。その一例として、アントラキノン1の光照射によるベンジル位の酸化反応がある1。これはNorrish II型反応を経由して生じるビラジカル2が酸素と反応することによると理解されている。このような分子変換は、特定部位のみを化学選択的に修飾できるため合成化学上、魅力的である。

     我々はプルラマイシン系抗生物質の合成途上2、光照射を契機とするナフトキノンの興味深い分子内酸化還元反応に遭遇した。すなわち、ナフタレン5を酸化してナフトキノン6を得ようとしたところ、予期に反してスピロアセタール7が生成した。検討の結果、一旦生じた6が光により7に変化していることが分った。この生成物7は、一時生成物6のベンジル位が酸化され、キノン部位が還元された形に相当するので、この過程は分子内酸化還元反応と見なすことができる。これに類似した形式の反応は過去に数例あるものの3、合成化学的な利用はなされていなかったので、我々は、この反応の合成化学的有用性を調べることにした。その結果、反応の基質適用範囲を明らかにするとともに、立体化学的に興味深い知見が得られ、それを活用して、天然物スピロキシンCの不斉全合成を行うことができたので、併せて報告する。

    【ナフトキノンの光酸化還元反応】

     様々な置換基を有するナフトキノンを調製し、光反応を検討した。その結果、反応の成否はベンジル位の置換様式に依存することが分った。酸素原子が置換した基質、またベンジル位に二つアルキル基を有する基質については反応が進行し、対応するスピロエーテル12が得られた。一方、第一級、第二級アルキル基を持つ基質は分解してしまった。このことは、本反応がラジカル経由であることと符号しており、先述のNorrish II型反応と同様のビラジカル中間体8を経由して進行していると考えている。

    【立体特異性】

     興味深いことに、この光酸化還元反応は立体特異的に進行することが分った。たとえば、下図のようにベンジル位の立体化学の異なる立体異性体13および15について反応を行うと、それぞれ単一異性体の生成物を与え、立体保持で反応が進行することが分った。この知見は、この光酸化還元反応を多段階合成に組み込む上で極めて重要なものである。実際、以下に述べるようにスピロキシン系天然物の合成において効力を発揮することが分った。なお、講演では、この立体特異性の発現機構や他の反応基質への適用についても言及する予定である。

    【スピロキシン類】

     (-)–スピロキシンC (17)は、1999年にMcDonaldらによって海産の菌類LL-37H248より単離、構造決定された天然物である4。その構造的特徴としてスピロアセタールとスピロエーテルを介してナフトキノンが二量

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  • 西井 良典, 村松 優太, 伊藤 純樹, 石田 夏希, 山田 謙太, 高田 成二郎
    p. Oral26-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    ジヒドロナフタレン骨格を有するリグナンには、シクロガルグラビン(抗マラリア活性を示す植物から抽出される)やトリロバチン A および B (ゼニゴケから抽出される)の他に、細胞毒性およびアポトーシス誘導などの有力な生物活性を有するポドフィリックアルデヒド A-C(天然ポドフィロトキシンから誘導化される)などがある (Fig. 1)。これらの中で、シクロガルグラビン以外の全合成は達成されていなかった。一方、シクロプロパンは炭素最小員環であり、環構造に由来する配座異性体は存在しない。また、環を構成する3つの炭素がエクリプス配座になる点で、その置換基のリジッドな立体配置をうまく活用すれば、置換シクロプロパンの特徴を生かした高立体選択的合成ができる1

    【(±)-シクロガルグラビンの全合成】まず、我々は、ジクロロシクロプロパンを出発物質とする四置換シクロプロパンの高立体選択的合成と環拡大反応を鍵反応として (±)-シクロガルグラビンおよびそのジカルボキシ類縁体の全合成を行った。ここで、四置換シクロプロパンのジアステレオ選択的制御(高トランス選択的)環拡大反応を行うことが必要になった。まず、オレフィン 1a にジクロロカルベンを付加し、ジクロロシクロプロパン 2a を得た(Scheme 1)。続いて、ブチルリチウムを作用させ二つの塩素の一方をリチオ化し、メトキシカルボニル化して、α—クロロエステル 3aを合成した。同様にして、オレフィン 1b からジクロロシクロプロパン 2bを経て、続いてリチオ化を経由するカルボキシル化の後、カルボン酸をメチル化しエステル3b を合成した。次に、SmI2 を用いる高立体選択的 Reformatsky 型反応2によりα-クロロエステル 3aおよび 3b よりβ-ヒドロキシエステル4a および 4b をそれぞれ合成し、Sc(OTf)3 をそれぞれに作用させたところ、高トランス選択的に環拡大反応が進行しジヒドロナフタレン 5a および 5b をそれぞれ与えた。すなわち、環拡大反応におけるジアステレオ選択性は、R 基(メチル基およびベンジロキシメチル基)に対して、トランス配置にアリール基が位置するように六員環が構築される。つまり、β-ヒドロキシエステル 4 のシクプロパン環の二つの不斉炭素の相対立体配置を保持する形で反応が進行し、望む立体のジヒドロナフタレン 5 を得ることができた。側鎖の変換は Scheme 2 に示す方法で行った。まず、ジヒドロナフタレン5a をDIBAH 還元した後、SmI2 を用いる Marko らの方法3により脱ヒドロキシ化を行い (±)-シクロガルグラビンの全合成を達成した4。合成したシクロガルグラビンの NMR スペクトルデータは天然から単離されたものと完全に一致した。一方、ジヒドロナフタレン5b を接触水素添加により脱保護した後、Dess-Martin酸化に続いてPinnick(Kraus)酸化する二段階の極めて穏和な酸化によりカルボン酸 9 (シクロガルグラビンまたはトリロバチン類縁体)を得た。トリロバチン類の合成を見据えて、9 をベンジル保護して10とし、接触水素添加により脱保護できることも確認した。

    Scheme 1

    Scheme 2

    【ポドフィリックアル

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  • 滝 直人, 鴇田 百栄, 中井 遥, 星野 晃大, 森野 光耶子, 児玉 猛, 西川 慶祐, 舘 祥光, 森本 善樹
    p. Oral27-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    生物活性天然物の絶対配置を含めた全構造を決定することは、その分子サイエンスを展開する上で必須の極めて重要なステップである。現在では、NMR を中心とした構造解析により複雑な構造多様性をもつ天然物の全構造決定が可能になってきてはいるが、分光学的手法においても技術限界があり、その解決法が強く切望されている。特に立体構造が完全に決まらない場合が多々見受けられ、当研究室では有機合成の立場からそのような問題に取り組んで来た1。本討論会においては、NMR を中心とした構造解析により部分的な立体構造しか解明されていない細胞毒性海洋産含臭素オキサスクアレノイド (+)-ユーボールの不斉全合成を達成することにより提出構造式の改訂を行うとともに、類縁体 (+)-22-ヒドロキシ-15(28)-デヒドロベヌスタトリオールの不斉全合成も達成し、それらの全立体構造を決定したので報告する。

    ユーボールと22-ヒドロキシ-15(28)-デヒドロベヌスタトリオール(推定構造式をそれぞれ1a and 2a で表す)は2011 年大西洋のマカロネシアにあるカナリア諸島周辺の紅藻Laurencia viridis から、Fernandez らにより微量成分として単離、構造決定されたオキサスクアレノイドである(Scheme 1)2。これらの化合物はJurkat 腫瘍細胞に対し、それぞれIC50 = 3.5 and 2.0 μM で成長阻害活性を示す。平面構造は二次元NMR スペクトルにより決定された。A,B,C 環部分の相対配置は同じく1984年にMartinらによって紅藻Laurencia pinnatifidaから単離された絶対配置既知の類縁体デヒドロチルシフェロールのNMR スペクトルデータ3との比較により決定され、D 環の構造および相対配置はNMR スペクトル解析及び生合成仮説に基づき推定されている。しかしながらA,B,C 環とD 環はアルキル鎖で隔てられており、両フラグメント間での相対的な配置及び分子の絶対配置は未決定である。我々はこれら微量成分である両天然物の絶対配置を含めた全立体構造の解明のためには、やはり有機合成によるアプローチが有効であると考え、それらの合成研究に着手した。またこれら微量成分の構造活性相関研究や作用機序解明等のためには、誘導体合成が可能な柔軟性のある化学合成法の確立が必要不可欠である。

    合成計画をScheme 1 に示す。両化合物のA,B,C 環部は共通であり違うのはD 環部だけなので、C15–C16 部分で二つのフラグメント3と4 (or 5) に分け、両者を鈴木−宮浦クロスカップリングにより収束的に連結する計画である。連結後、A 環をブロモエーテル化により構築する。THP 環が縮環したB,C 環3 は、エポキシド7 とスルフィド8 を連結したアルコール6 を適当なエポキシアルコールへと誘導した後、順次6-exo オキサ環化により構築する。B,C 環部の合成法はいくつか報告されているが、C 環部は図に示すようなツイストボート型の構造をとっている事が知られており、C14位のエピマー化が起こらないマイルドかつ効率的な構築法を開発する必要がある。7 は既知の光学活性エポキシアルコール94 から導く。1a のD 環部4 は、既知の光学活性ジオール10 から化学量論的Sharpless 不斉エポキシ化を経て調製する。2a のD 環部の場合はC22 位のヘミケタールを分

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  • 不破 春彦, 山縣 直哉, 奥秋 佑太, 尾形 有也, 斎藤 麻美, 佐々木 誠
    p. Oral28-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【序】

     シアノバクテリアは,配糖体マクロリドや環状ペプチドなど,構造的複雑さと顕著な生物活性を併せ持つ,多様な二次代謝産物の生産者として知られる。Mooreらは,パラオで採取したシアノバクテリアLyngbyasp.の二次代謝産物として,リングビアロシドB(提出構造式:1)を単離した1。本天然物の平面構造及び相対立体配置は,詳細な二次元NMR解析により帰属されたが,絶対立体配置は未決定であった。本天然物は,アシル化された第3級アルコールを含む特徴的な14員環マクロラクトン骨格に,末端が臭素化されたジエン側鎖及びL-ラムノース誘導体を配した,複雑な分子構造を有する。また,本天然物はヒト口腔類上皮細胞KBに対し,中程度の細胞毒性を示すことが知られている。現在までに,本天然物の類縁化合物として18E-及び18Z-リングビアロシドC(2及び3)2やリングボウイロシド(4)3が報告されており,いずれも培養ヒトがん細胞に対する毒性が認められている。

     化合物1–4は全合成の標的化合物として多くの興味を集めてきた4。Ley4cとCossy4dらは,4のアグリコン部分の合成に成功したものの,合成品のNMRスペクトルデータが,天然物の当該部分のそれと顕著に異なることを独立に報告しており,提出構造式の再検討の必要性が示唆されていた。

     我々は今回,リングビアロシドBの提出構造式1の全合成を初めて達成したが,合成品と天然物とのNMRスペクトルは一致しなかった。そこで,天然物のNMRスペクトルデータと候補となる立体異性体に関する分子力場計算から,本天然物の立体配置を一部帰属しなおした改訂構造式を提唱し,それが天然物の真の構造式であることを全合成により実証したので,その詳細を報告する5

    【合成計画】

     モデル化合物での研究4fを踏まえ,我々の当初の合成計画は,1の14員環骨格を,C13位ヒドロキシ基のエステル化と閉環メタセシス反応を鍵工程として構築することであった(Scheme 1)。しかし,立体的に混雑したC13位ヒドロキシ基は反応性が著しく低く,例えばアルコール5とカルボン酸6とのアシル化反応を種々の方法で試みたが,目的とするエステル7は得られなかった。また,セコ酸8のマクロラクトン化反応も同様に困難を極め,目的の化合物9は得られなかった。

    Scheme 1. C13位ヒドロキシ基のアシル化の試み

     以上の結果に基づき,我々は新たな合成計画を以下のように定めた(Scheme 2)。化合物1のL-ラムノース誘導体及びジエン側鎖は,それぞれSchmidtらによるグリコシル化6とStille型反応7で立体選択的に導入することにした。Hoye4aやCossy4dらの先行研究を参考に,14員環骨格10は,ジオキシノン11を熱分解して生じるアシルケテンを経由するマクロラクトン化で構築することにした。化合物11はアルデヒド12,エステル13及びシリルジエノールエーテル148を,我孫子−正宗アルドール反応9とビニロガス向山アルドール反応10を鍵工程として,収束的に構築することとした。

    Scheme 2. 合成計画

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  • 坂井 健男, 松下 真吾, 荒川 正悟, 森 巧一, 谷本 美樹, 徳升 晃大, 吉田 達司, 森 裕二
    p. Oral29-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     海洋生物から単離されるポリ環状エーテル化合物は、その強力な生物活性に加え、巨大な分子サイズや、多くのエーテル環がトランス縮環した特異な構造のため、合成化学的に魅力的な研究対象である。Gymnocin-Aは赤潮形成渦鞭毛藻の一種であるKarenia mikimotoiから単離構造決定された、細胞毒性を有する14環性ポリ環状エーテル化合物である1。この14という縮環数は現在構造決定されているポリ環状エーテル類の中で第3位であり、本化合物の最も特徴的な点であると言える。しかし、巨大な構造のためか、その合成研究例は少なく、現在までに佐々木らによる全合成例が1例報告されているのみである2。我々は独自のオキシラニルアニオン収束的合成法3を反復利用することで、この巨大分子の攻略に挑戦した。まずは、DE環およびIJ環部位を連結点として逆合成解析し、ABC, FGH, KLMNの3つのフラグメント(3–5)に分割した (Scheme 1)。そして、これらのBC, GH, LM環も、オキシラニルアニオン法で9–13から構築する計画を立てた。このように、計5回オキシラニルアニ

    Scheme 1. Gymnocin-Aの逆合成解析

    オン法を用いることで、Gymnocin-Aの14環性システム構築を目指す。本合成戦略では、F環およびK環トリフラート11が同一化合物であり、原料供給における利点があることも重要である。この5回のカップリングの中でIJ環部位は無置換6-6員環システムであり問題なく構築出来ると考えられるが、BC環およびDE環部位は共にB環およびD環オキセパン環上に水酸基が存在するため、この立体選択的導入が鍵となる。また、GH環およびLM環システムの構築時には、反応性が低い第3級アルコールを求核剤とする環化反応を行う必要があるのが大きな課題である。

    【第3級アルコールエーテル環化反応とFGH環フラグメントの合成】

     我々は、既にK環トリフラート11およびN環エポキシスルホン13からKLMN環フラグメント5を合成する効率的なルートを確立している4a。これを参考にFGHフラグメント17の合成を行った (Scheme 2)。まず、11と12をオキシラニルアニオン法で連結し7とした後、ブロモケトン14へと変換した。KLMN環フラグメント合成時に確立した環化条件である、18-crown-6存在下での1 M NaOH処理を行うと、第3級アルコールのWilliamsonエーテル環化反応が収率よく進行し、6員環ケトン15が得られた。環拡大、アセタール環形成、還元的エーテル化を経て3環性システム16を構築し、シリレン除去およびワンポット法でのトリフラート化を経てFGHフラグメント17を合成した。

    Scheme 2. FGHフラグメントの合成

    【FGHおよびKLMNフラグメントの連結と9環性エポキシスルホンの合成】

     次いで、合成したFGHトリフラート17とKLMNエポキシスルホン5を収束的合成法で連結した (Scheme 3)。これらの混合物のTHF/HMPA溶液を–100 °Cに冷却し、n-BuLiで処理するとカップリング体18が高収率で得られた。3工程からなる環化反応でI環を構築し19とした後、メチルアセタール化に続く還元により9環性エーテル20を得た。N環上水酸基をTBS化し、接触還元でベンジル基を外してジオール21とした。次いで両水酸基をDEIPS

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  • 山田 諒介, 安達 庸平, 横島 聡, 福山 透
    p. Oral3-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. 背景

     ダフェニリン(1)は、ユズリハ属植物であるDaphniphyllum loungerasemosumの果実より単離されたダフニフィラムアルカロイドの一種である1。このアルカロイド群には、抗HIV

    活性やマウス腫瘍細胞に対する細胞毒性などの生物活性を有するものが知られており2、1に関しても有用な生物活性が期待される。しかし、現在までに十分な生物活性評価はなされておらず、その生物活性は不明である。一方で、1の構造的特徴としては、6つの不斉中心を含む複雑な六環性骨格を有していることが挙げられる。さらに、他のダフニフィラムアルカロイドにはない芳香環を有しており、合成化学的に興味深い化合物である。今回我々は独自の合成戦略に基づき、効率的な合成経路の確立を目的として、1の合成に着手した。

    2. 合成計画

     まず我々は、芳香環を含むDEF環に着目し、本三環性骨格の立体配座について考察を行うこととした。そこで、D環内にAC環構築の足がかりとなる二重結合を有するモデル化合物2を用いて配座解析を行い、最安定配座を求めた。その結果、C5位メチル基はC10位不斉炭素上の水素原子と同一方向に配向していることが示唆された。C10位不斉中心より誘起された三環性構造の立体的特性を利用し、残る不斉中心を構築できるのではないかと考え、逆合成解析を行った。

     ダフェニリンの有するABC環部位は、合成終盤において3のような環状アゾメチンイリドからの分子内1,3-双極子付加環化反応により一挙に構築することとした。3はアルデヒド4より導くこととし、さらにこのアルデヒドの有するC2位不斉中心は、[3,3]シグマトロピー転位により制御できるものと考え、5へと逆合成した。この2つの反応における面選択性は、先程考察した三環性構造の立体的特性により制御できるものと期待した。続いて、5は三環性化合物6に対して増炭を行うことで容易に合成可能である。まずはラセミ体での全合成を目指し、文献既知の三環性ケトン73より合成を開始することとした。

    3. [3,3]シグマトロピー転位前駆体の合成

     まず、インデン8を出発原料として文献既知法に従い三環性ケトン7へと導いた(Scheme 1)。続いて、位置選択的なC-H酸化反応4によりC1位に炭素ユニット導入の足がかりとなる水酸基を導入した後、ケトンへのメチル基の付加と位置選択的な脱水、続くフェノール性水酸基のトリフラート化によって11とした。つぎに、薗頭カップリングにより炭素ユニットを導入後、三重結合部位をRed-AlRまたは、Lindlar触媒により部分還元することで、EもしくはZ体のアリルアルコール13a,bを合成した。次に、それぞれのアリルアルコールをビニルエーテル化することで14a,bとした。

    4. C2位不斉中心の構築

     得られたビニルエーテルに対して、トリイソブチルアルミニウムをルイス酸としたClaisen転位5の検討を行った(Table 1)。はじめにE体の14aを用いたところ、反応は円滑に進行したものの、新たに形成されるC2位不斉中心の立体選択性は、2:1と乏しかった(entry 1)。次に、Z体の14bを用いたとこ

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  • 橋本 拓哉, 新家 一男, 広川 貴次, 池田 治生, 西山 真, 葛山 智久
    p. Oral30-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    はじめに

     スピロテトロン酸化合物は放線菌からのみ単離されるポリケタイド化合物群であり、スピロ炭素により連なったテトロン酸構造と6員環、およびC−C結合のみから成る大環状骨格に特徴づけられる(図1左)。これらの化合物はその特徴的な分子骨格から、ユニークな生物活性を示すことがこれまでに報告されてきた。この特徴的なスピロテトロン酸骨格は、図1に示す分子内 [4+2] 環化付加反応によって形成されることが提唱されている(図1右)。しかしながら、これまでに多くのスピロテトロン酸化合物の生合成遺伝子クラスターが取得されたにも関わらず、[4+2] 環化付加反応を担う酵素は発見されず、その存在すら不明であった。今回、スピロテトロン酸化合物であるversipelostatin(VST)1-4の生合成遺伝子クラスターを同定し、さらに、わずか142アミノ酸残基から成る機能未知酵素が分子内 [4+2] 環化付加反応を触媒してスピロテトロン酸骨格を形成することを明らかにした5

    異種発現によるVST生合成遺伝子クラスターの同定

     まず、VST生合成遺伝子クラスター領域の推定のため、VST生産菌であるStreptomyces versipellis4083-SVS6株のドラフトゲノムシーケンスデータを取得した。得られたシーケンスデータを精査し、ポリケタイド合成酵素遺伝子群をクエリーとして生合成遺伝子クラスターを探索した結果、108 kb にわたる推定VST生合成遺伝子クラスター領域を見出した(図2)。次に、BAC(細菌人工染色体)を用いて構築した4083-SVS6株のゲノムライブラリーから、推定VST生合成遺伝子クラスターの全長を含むBACクローンを取得した。取得した推定遺伝子クラスター領域をファージ由来のインテグラーゼを利用して放線菌Streptomyces albus J1074株染色体へ導入し、その培養抽出物をLCにより分析したところVSTが検出された。以上、VSTの異種生産に成功するとともに、VST生合成遺伝子クラスター全長を同定することができた(図3)。

    [4+2] 環化付加反応を行う遺伝子の探索

     取得した遺伝子クラスターを既知のスピロテトロン酸化合物の生合成遺伝子クラスターを詳細に解析して比較し、すべてに共通して存在する遺伝子を探索したところ、429 bp の小さな機能未知遺伝子vstJを見出した(図4)。VstJは既知のタンパク質と有意な相同性を示さなかったが、これらのホモログ間で30 %程度の相同性を示した。VstJの機能を明らかにするため、VST生合成遺伝子クラスター異種発現ホストを用いて、vstJの遺伝子破壊株を作製した。その培養抽出物のLCによる分析の結果、遺伝子破壊株ではVSTの生産は失われ、代わりに生合成中間体と考えられる化合物1が蓄積した(図5)。MSおよび各種NMRスペクトルから、化合物1は共役ジエンと末端オレフィンを有する構造であることが判明した(図5)。

    VstJの in vitro解析

     得られた1に対してVstJの組換え酵素を用いてin vitroの機能解析を行った結果、VstJは化合物1に対して [4+2] 環化付加反応を触媒し、VSTと同一の立体化学を持つ37-デオキシVSTアグリコン2のみを与えることがLC-MSおよびNMRによる解析から明らかとなった(図6)。意外なことに、非酵素

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  • 松田 侑大, 岩渕 大輝, 脇本 敏幸, 森 貴裕, 淡川 孝義, 阿部 郁朗
    p. Oral31-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. 背景・目的

     メロテルペノイドとは、テルペノイドの部分構造を有する化合物の総称であり、糸状菌からは構造多様性ならびに生物活性に富む多数のメロテルペノイドが報告されている。なかでも3,5-dimethylorsellinic acid (DMOA) に由来するメロテルペノイドにはとりわけ大きな構造多様性が見られるのみならず、特異な分子構造を有する化合物も少なくない(Figure 1)1。これら糸状菌メロテルペノイド生合成機構の網羅的な解明は、新奇な化学反応を担う酵素の発見に繋がるのみならず、生合成経路の組み替えによる新規代謝経路の創出、ひいては新たな創薬リードの獲得などにも応用し得る。我々はすでに種々のDMOA由来化合物の生合成研究に取り組み、terretonin生合成の初期段階、austinol生合成におけるスピロラクトン生成機構の解明、抗腫瘍活性物質andrastin A生合成の全容解明などを報告してきた2-6。本研究では、新たに特異な分子内架橋構造を有するanditominに着目し、その生合成の全容解明を目指した。加えて、引き続きterretoninの生合成研究を実施し、これまで未解明であった生合成後期段階を明らかにするとともに、特徴的な環拡大反応を担う酵素の同定を試みた。

    Figure 1. 代表的なDMOA由来メロテルペノイド化合物

    2. Anditominの生合成研究

     Anditominならびにその生合成前駆体であるandilesin類は、特徴的な分子内架橋構造を有する化合物であり、このユニークな骨格は分子内Diels-Alder反応を経て生合成されると予想されてきた7。これまでに、種々の標識化合物を用いた生合成研究が行われてきた一方でanditominの生合成遺伝子は全く明らかになっていなかったことから、anditomin生合成遺伝子の探索ならびにその機能解析による、Diels-Alder反応を担う酵素(Diels-Alderase)の探索、ひいては生合成の全容解明を目指すこととした。まず、anditomin生産菌のドラフトゲノムシーケンス解析により、13遺伝子からなる推定生合成遺伝子クラスター(andクラスター)を見出した。本クラスターを精査したところ、5つの遺伝子(andM, K, D, E, B)が生合成の初期段階に関与するものと予想された(Scheme 1)。

    Scheme 1. 予想されたanditomin生合成の初期段階

     上記予想生合成経路を実証すべく、これら5つの遺伝子を異種糸状菌Aspergillus oryzae NSAR1株にて発現させたところ、導入遺伝子特異的に順次、化合物1-3ならびに4のエポキシド加水分解体が得られた。しかしながら、5遺伝子導入時特異的に生成した化合物(5)は、当初の予想に反し、五環性の分子骨格を有していた(Scheme 2)。化合物5がanditomin生合成の中間体であるか否かを検討するとともに、anditomin生合成の全容を明らかにすべく、次いで、修飾酵素遺伝子群の機能解析に着手した。化合物5以降の生合成経路を予測することは困難であったため、種々の組み合わせの修飾酵素発現系を構築し、得られた形質転換体に5を投与後、その代謝物を分析することで、各修飾酵素の機能ならびに生合成経路を推定した(Scheme 2)。各生合成中間体の単離、構造決定にあたっては、化合物5の合成に関わる5つの遺伝子も合わせて発現する系(6~11遺

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  • 平山 裕一郎, 石川 格靖, 野口 博司, Tang Yi, 渡辺 賢二
    p. Oral32-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【背景・目的】

    キノリンあるいは キノロンアルカロイドは放線菌から糸状菌や植物に至るまで幅広い生物から単離報告があり、抗菌作用、抗マラリア作用、抗ウイルス作用や抗腫瘍作用など様々な生物活性が報告されている。

    糸状菌Aspergillus nidulansHKI0410株からはaspoquinolone (1)1)、またいくつかのPenicillium sp.からはpenigequinolone A (2) 2)やyaequinolone C (3)などの類縁体が単離されている(図1)。これらのキノロンアルカロイドは共通の4-phenyl-2-quinolone構造を有しているが、このキノロン骨格の生合成機構について詳細を明らかにした研究は報告されていなかった。またモノテルペン由来の部分構造の環化様式の相違や酸化部位の違いから構造多様性が生み出されていると考えられ、その生合成機構に興味が持たれた。そこで、これらのモノテルペンキノロンアルカロイドの生合成研究を行った。

    【結果・考察】

    png遺伝子クラスターの同定

    前年度の本討論会にて、A. nidulansのゲノム情報から1の生合成遺伝子であるasq遺伝子クラスターを同定し、生合成中間体である4’-methoxy-viridicatin (6)の生合成機構について報告した3)。しかし通常の培養条件ではasq遺伝子クラスターは転写不活性状態であり、遺伝子破壊によってさらなる解析を進めることは困難であった。

    そこで液体培養で容易にpenigequinolone類を生産するPenicillium sp. FKI-2140(一部の実験ではPenicillium thymicola)を用いて2の生合成機構の解明を試みることとした。次世代シークエンサーを用いてPenicillium sp. FKI-2140の全ゲノムを解析した後、asq遺伝子との比較により2の生合成遺伝子クラスターを探索した。相同性検索の結果、asq遺伝子クラスターと類似した遺伝子クラスターとしてpng遺伝子クラスター(Penicillium thymicolaからは”pen”遺伝子クラスター)を見出した(図2)。タンパク質相同性検索により、各生合成酵素の機能を推定した。非リボソーム型ペプチド合成酵素 (NRPS)と推定される”penN”(pngJに対応)を遺伝子破壊した変異株は2を生産しなくなったことから、確かにこれらの遺伝子クラスターが2の生合成遺伝子クラスターであると特定した。

    図2 asq, pngおよびpen遺伝子クラスター

    Cyclopenaseの同定

    前討論会で化合物5から6への変換が自発的に進行することを報告したが、この反応を触媒するcyclopenaseの存在が先行研究から指摘されており4)、その酵素の同定を試みた(図3 a)。機能が不明であることから、推定遺伝子のいずれがcyclopenaseか予想できなかったため、直接酵素を単離することで同定を試みた。Penicillium sp. FKI-2140の菌糸抽出液と予想基質である5を反応せさたところ、期待通り6を生産することが確認できた(図3 b)。従って菌糸抽出液にcyclopenase活性を有する酵素が含まれていることが確認できた。続いて各種イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水クロマトグラフィーを用いて酵素精製を行った。その結果、ほぼ単一のタンパク質としてcyclopenase活性を有するタンパク質を分離した。分離したタンパク質は分子量が約75 kDaであり、補酵素要求性を調べたところNADP+依存的な

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  • 宮永 顕正, 篠原 雄治, 岩沢 翔平, Jolanta Cieslak, 工藤 史貴, 江口 正
    p. Oral33-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     微生物が生産するポリケチド化合物は多様な化学構造と生物活性を有している。その構造多様性の一因としてポリケチド合成酵素(PKS)が用いるスターター基質の多様性が挙げられる。そのうち、マクロラクタム化合物は一般にアミノ基を有する基質をスターターとして形成され、様々な抗菌性や抗腫瘍性を有する化合物が多数知られている(図1)1。これらマクロラクタム化合物のスターター部位を生合成工学的手法により改変させることにより、生物活性が改善した類縁体の創製が期待できる。

     ビセニスタチンは、放線菌Streptomyces halstedii HC34が生産する20員環マクロラクタム抗生物質であり、ヒト大腸がん細胞に対して強い細胞毒性を示す2。ビセニスタチンのポリケチド骨格にはb-アミノ酸である3-アミノイソブタン酸(3-AIB)に由来するスターター部位が含まれている。当研究室ではこれまでに、その生合成において、アデニル化酵素VinNがb-アミノ酸である(2S,3S)-3-メチルアスパラギン酸(3-MeAsp)を選択的に認識して単独のアシルキャリアータンパク質 (ACP) であるVinLに受け渡すこと、脱炭酸反応後に生じた3-AIBユニットのアミノ基はアデニル化酵素VinMによりアラニル化されること、生じたジペプチドAla-3-AIBはアシル基転移酵素VinKによりPKS上のACPドメイン(VinP1LdACP)に転移されること、アラニル基は最終的にアミド加水分解酵素VinJにより除去されることを明らかにした(図2)3。また、他のマクロラクタム化合物であるクレミマイシンとインセドニンの生合成遺伝子クラスターを解析した結果、b-アミノ酸スターター部位の運搬に関わるVinN、VinL、VinM、VinK、VinJの各ホモログ酵素遺伝子が保存されていたことから、共通の機構によりb-アミノ酸がPKSへと運搬され、生合成されると提唱した1,4,5。今回、我々はこれら酵素のうち、VinN、VinL、VinK、VinJのX線結晶構造解析と変異体解析を行い、マクロラクタム化合物生合成におけるb-アミノ酸の選択的な認識機構とポリケチド構造への融合機構を原子・分子レベルで解明したので、報告する。

    図2 ビセニスタチンの生合成機構

    [アデニル化酵素VinNの結晶構造解析]

     アデニル化酵素VinNはビセニスタチン生合成におけるゲートキーパーの役割をしており、b-アミノ酸である3-MeAspを厳密に認識する。これまでに、a-アミノ酸を認識するアデニル化酵素の結晶構造はいくつか報告されており、これらによるa-アミノ酸の認識機構は明らかになっているものの、b-アミノ酸を認識するアデニル化酵素の結晶構造の報告例はない。そこで、VinNのb-アミノ酸認識機構を明らかにすべく、結晶構造解析を行った。その結果、VinNのN末ドメインと3-MeAspとの複合体構造を分解能2.2 Aにて決定することに成功した(図3)6。複合体構造において、3-MeAspの1位の(アデニル化されない側の)カルボキシ基はLys330とArg331の2つの塩基性残基により厳密に認識されていた。また、3-MeAspのb-アミノ基はAsp230により認識されていた。a-アミノ酸であるl-a-フェニルアラニンを認識するアデニル化酵素GrsAではa-アミノ基はAsp235により認識されていること

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  • 南 篤志, 劉 成偉, 田上 紘一, 松本 知之, Jens Christian Frisvad, 鈴木 秀幸, 石川 淳, 五味 勝也, ...
    p. Oral34-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     ペニトレムA(1)は、Penicillium crustosumなどの糸状菌から単離されたインドールジテルペンである(図1)1。同菌は、酸化度や修飾様式が異なる構造類縁体{ペニトレムB-F(2-6)}に加えてパスパリン(7)2、PC-M5(8)、PC-M4(9)なども生産する3, 4。1は、パキシリン(10)やアフラトレム、ロリトレムなどの多くのインドールジテルペンと同様に7をコア骨格とする一方、インドール環上にある4-6縮環骨格や8員環エーテルなど他のインドールジテルペンではみられない特徴的な構造を有する(図1)。その特異な化学構造は有機合成化学者からも注目され、4については全合成も達成されている5。一方、その生合成については、標識化合物の投与実験などから1-6が生合成後期における酸化的修飾によって構築されると推定されていたものの6、骨格構築機構については不明であった。最近我々は、麹菌異種発現系を用いることで17種の遺伝子が関与するペニトレム生合成マシナリーの解明に成功し、特徴的な骨格構築機構を含む生合成経路の解明に成功した7。本討論会ではその詳細を報告するとともに、我々が改良してきた麹菌異種発現の有用性についても議論したい。

    ペニトレム生合成遺伝子クラスターの同定

     ペニトレム生合成マシナリーの解明へ向け、生合成遺伝子の探索を試みた。予想生合成中間体である7の生合成に関与する遺伝子(paxGCMB)8を指標としてペニトレム生産菌(P. simplicissimum9)のドラフトゲノムデータを精査したところ、ptmGCMBを含む15個の読み枠から構成される生合成遺伝子クラスター(cluster 1:図2)を見いだした。しかしながら、酸化的な修飾反応を触媒する酵素遺伝子が明らかに不足していたため、遺伝子クラスターの分断が示唆された。分断した遺伝子クラスターを同定するためにRNA-Seqによる発現解析を生産/非生産条件で行ったところ、4種の酸化酵素遺伝子と1種のプレニル基転移酵素を含む遺伝子クラスター(cluster 2:図2)を新たに見いだした。1と同じ分散型生合成遺伝子クラスターはfusicoccin10、austinol11などで報告されているが、いずれも類縁化合物の相同遺伝子もしくは経路特異的な遺伝子を指標としてゲノムデータから探索されたものである。これに対して本結果は、植物由来の天然物と同様、発現解析が糸状菌天然物における分散型遺伝子クラスターの同定において有効であることを示す結果であると考えている。

    麹菌異種発現系を利用したペニトレム生合成マシナリーの解明

     最近我々は麹菌を宿主とした異種発現システムに着目し、代表的な糸状菌由来二次代謝産物であるインドールジテルペン7,8,12、テルペン13、ポリケタイド14の生合成マシナリーの再構築と物質生産を行ってきた。本手法の特徴は、①導入した遺伝子の確かな機能発現、②生合成経路の同定と物

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  • 伊藤 卓, 濱野 真理子, 加藤 優, 久保 亜紀子, 末松 誠, 中田 雅也, 犀川 陽子
    p. Oral35-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     鳥類の卵は、その表面が約97%の炭酸カルシウムと約3%の有機物からなる卵殻で覆われている。卵殻は、胚(雛)が成長して孵化するのに必要なカルシウムの約80%を供給し、主に骨形成に利用される1)。その際のカルシウム移動のメカニズムの解明を目的として研究を行った。これまでに、ラットにおいて卵殻食群の骨密度は炭酸カルシウム食群に比べて有意に増大することや2)、人工容器を用いたニワトリの体外培養において、卵殻をカルシウム源として用いた際に、炭酸カルシウムを用いた場合に比べて胚の生存率が上昇する3)という報告があることから、卵殻中にカルシウム移動に関与する化合物が存在すると推測し、その探索を行った。

    【石灰化阻害活性を指標とした化合物の探索】

    カルシウムに作用する化合物を探索する方法として石灰化阻害試験4)を採用した。石灰化阻害活性は、炭酸カルシウムが生成する条件下に、注目する試料を共存させ、その際に析出する炭酸カルシウムの量を反応溶液の濁度として測定し評価するものである。溶液中のカルシウムイオンや析出した炭酸カルシウムと積極的に作用する物質があれば、濁度の低下を指標として検出できると考えた。

    【走査型電子顕微鏡による卵殻の観察】

     まず、サイズが大きく観察が容易なダチョウの卵殻を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した(図1、2)。次亜塩素酸ナトリウムにより卵殻膜などの表面の有機物を除去した卵殻を乳頭層内面から観察したところ、胚成長および骨形成が十分に進行した後の卵殻では無数の突起状の構造にくぼみが生じるように溶解している様子が見られた。そこで、その溶解の見られた部分に存在する化合物に注目して探索を行った。

              

    【ダチョウ卵殻からの抽出・精製】

     SEMによる卵殻の観察において溶解の見られた部分に存在する化合物を調べるために、酸性水溶液を用いてダチョウの卵殻内面からの抽出を行った。すなわち、卵の上部に穴を開け、卵黄や卵白などの内容物を除いた後、開けた穴から10%酢酸水溶液を流し込み、卵殻内部を満たして1時間攪拌した。残った卵殻内面をSEMで観察すると乳頭層の突起部分までが完全に溶解したことがわかった。得られた抽出液中のカルシウムイオンは、陽イオン交換クロマトグラフィーにより除去した(スキーム1)。こ

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  • Di Mao, Ying Qin, Ting-Fang Kuo, 川瀬 栄八郎, 佐藤 慎一, 平田 直, 中辻 憲夫, 上杉 志成
    p. Oral36-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    Human induced pluripotent stem cells (hiPSCs) serve as highly valuable resource both for basic research and regeneration therapy. Despite the advantages, however, there are still a number of problems that limit the clinical application. One of them is a tumorigenic risk of undifferentiated cells during transplantation. For safer transplantation, it is necessary to eliminate the undifferentiated cells selectively.

    We previously discovered Kyoto probe 1(KP-1), a fluorescent molecule that selectively labels hiPSCs. Mechanistic study showed that its selectivity results primarily from a distinct expression pattern of ABC transporters in human pluripotent stem cells and from the transporter selectivity of KP-1. Expression of ABCB1 (MDR1) and ABCG2 (BCRP), both of which cause the efflux of KP-1, is repressed in human pluripotent stem cells1 (Figure 1).

    The different expression levels of ABCB1 and ABCG2 on hiPS cell and differentiated cell membrane allowed us to develop the strategies for selective elimination of hiPSCs. In one approach, we screened a chemical library of 333 anticancer drugs, cytotoxic natural products, and their derivatives and found an okadaic acid derivative (molecule 1) to be a substrate both for ABCB1 and ABCG2. This synthetic derivative of okadaic acid selectively eliminated hiPSCs from cell mixtures2 (Figure 2). For example, we compared the IC50 values of molecule 1 in hiPSCs, human somatic primary cells, and human cancer cells. Molecule 1 was highly toxic to hiPSCs, with an IC50 value of 0.78 μM, even lower than the IC50 value of astrocytes (2.1 μM), a neuronal cell lineage known to express low levels of ABC transporters. In contrast, cells primarily involved in secretory functions (adrenal gland), metabolic functions (liver), barrier functions (bronchia), and reproductive organs (prostate) tend to express higher levels of ABC transporters and exhibited greater resistance to molecule 1 (IC50 > 5 μM).

    Another approach to developing molecules that eliminate hiPSCs is direct conjugation of KP-1 with cytotoxic anticancer drugs (Figure 3), hoping that the conjugation maintains the KP-1’s selectivity. To seek potential conjugation sites in KP-1, we carried out structure activity-relationship (SAR) studies. Fifteen KP-1 analogs were synthesized and estimated for their selectivity for ABCB1, ABCG2, and ABCC1 in cultured cells. The ABC transporter selectivity of KP-1 was tolerated with the alkylation at one of the exocyclic amines, which was subsequently selected as a conjugation site. Initially, combretastatin A-4 (CA4), a cytotoxic natural product that is not a substrate of any of the ABC transporters, was selected for conjugation with KP-1. Unfortunately the conjugate (conjugate 1) failed to maintain its selectivity for ABCG2, although the ABCB1 selectivity was intact.

    To recover the selectivity for ABCG2, we next tested ABCG2 selective cytotoxic natural products: SN38 and Mitoxantrone. Their conjugates with KP-1 (conjugate 2 and 3) exhibited selectivity both for ABCB1 and ABCG2. The selectivity of these two conjugates was evaluated with partially differentiated human iPS cells. Just as KP-1 does, conjugate 2 and 3 fluorescently labeled undifferentiated cells significantly stronger than differentiated cells. Longer incubation led to selective elimination of hiPSCs from the cell mixtures. Alkaline Phosphatase (ALP), a marker of pluripotency, was utilized for detection of hiPSCs. Treatment with conjugate 2 or 3 eliminated ALP-positive hiPS cells from the cell mixtures, while the SNL feeder cells and differentiated cells had little effects.

    The present study offers two chemical approaches to selective elimination of pluripotent stem cells for safer transplantation. The results

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  • 天池 一真, 武藤 慶, 伊丹 健一郎, 山口 潤一郎
    p. Oral37-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     チオペプチド抗生物質はグラム陽性菌のタンパク質合成阻害剤として、現在急速に注目を集めている(Figure 1)。例えばNovartis社はチオペプチド抗生物質GE2270Aをリード化合物とした誘導体LFF571を開発し、臨床試験(Phase II)を行っている。このような背景の中、チオペプチド抗生物質群の効率的合成法の確立が求められている。構造的特徴としてはアゾール環(チアゾール、オキサゾール)を置換基とした多置換ピリジン骨格を含む大環状ペプチド構造を有しており、誘導体は50種類以上存在する極めてユニークな化合物群である。これらの化合物の主骨格である多置換ピリジン部位の構築は、付加環化反応によるピリジン合成[1]や有機金属化合物と有機ハロゲン化物のクロスカップリング反応[2]によって行われることが多かった。しかしながら、いずれの合成法においても前駆体の調製を必要とし、合成に多段階を要するため、より直接的な多置換ピリジン骨格構築法が望まれている。

     Figure 1. GE2270 and its derivative, LFF571

     そこで我々はチオペプチド抗生物質群の迅速合成法の確立を指向し、多置換ピリジン骨格を構築する新手法、「カップリング反応/環変換反応」を考案した(Scheme 1)。すなわち、オキサゾール誘導体を2つの新規カップリング反応により、ジアリールオキサゾールへと誘導した後、2炭素ユニットとの[4+2]付加環化反応を進行させ、トリアリールピリジンを合成する手法である。有機金属化合物や有機ハロゲン化物を用いないカップリング反応の開発は近年盛んに研究が行われており、例えば炭素–水素結合(C–H結合)直接アリール化反応を用いた5員環ヘテロ芳香環の位置選択的多アリール化反応は多く知られている[3]。一方で、6員環ヘテロ芳香環の位置選択的な多アリール化反応は現在でも未だ困難を極める。今回、5員環ヘテロ芳香環をC–H結合直接アリール化反応を含む「脱エステル型カップリング反応」でアリール化した後、環変換反応(5員環→6員環)により6員環ヘテロ芳香環を合成する手法を用いて、チオペプチド抗生物質群の合成を試みた。

     Scheme 1. Synthetic Strategy toward Triarylpyridines

    【脱エステル型カップリング反応の開発】

     オキサゾールのC–H結合直接変換反応におけるアリール化剤は、芳香族ハロゲン化物、芳香族ホウ素およびケイ素化合物、フェノール誘導体などが用いられてきた。我々は独自に開発した新規ニッケル触媒 (Ni(cod)2/dcype: bis(dicyclohexylphosphino)

    ethane)の存在下、アゾール類に対し、アリール化剤に芳香族エステル(Ar–CO2Ph)を用いることで、脱エステル型C–H結合アリール化反応が進行することを見出した(Scheme 2)[4]。本反応は、電子不足芳香環であるピリジンをはじめ、電子豊富芳香環であるフラン、チオフェン、チアゾールなど様々なヘテロ芳香環において反応が良好に進行した。さらに、本反応を用いて複雑天然物muscoride Aの形式全合成にも成功した。

     Scheme 2. Decarbonylative C–H Coupling of Azoles and Aryl Esters

     

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  • 君嶋 葵, 高田 拓和, 菅原 章公, 安藤 博康, 諸留 圭介, 松丸 尊紀, 山田 健, 廣瀬 友靖, 大村 智, 砂塚 敏明
    p. Oral38-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    背景・目的 ルミナミシン (1)は、1985年に北里研究所の大村らによって放線菌Streptomyces sp. OMR-59株の培養液から単離されたマクロジオライドであり、嫌気性菌、特にClostridium属に対して選択的抗菌活性を示す(Clostridium difficile: MIC = 1.0 μg/mL)(Fig. 1)。1,2) その構造的特徴は、中央部分の三置換オレフィン含有10員環ラクトンを中心に、無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンと酸素架橋含有シスデカリン骨格がそれぞれ縮環した点である。これまでに、1の部分骨格の合成研究が報告されているが未だ全合成の報告はない。3-6) 我々はこのように生物活性及び有機合成化学的にも興味深い1の全合成経路の確立と、構造活性相関の解明を目的として研究に着手した。本討論会では、酸素架橋シスデカリン含有10員環ラクトンと無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築を行い、1の全合成が達成目前になっており、その経過を報告する。

    合成戦略 複雑かつ特徴的な構造を有するルミナミシン (1)を合成するにあたり、中央部分の三置換オレフィンとエステル部分で分割し、それぞれのパートを上部 2と下部 3とした。そして、それぞれを合成最終段階でカップリングさせることで、収束的な1の全合成を行う計画を立案した (Scheme 1)。まず、上部 2についてはセコ酸 4からのマクロラクトン化に続くフラン環部分の酸化により導けるものとし、4の共役エノールエーテル部分についてはビニルスズ 6とヨウ化フラン 5とのStilleカップリングにより構築できると考えた。続いて、下部 3はその酸素架橋部分を共役アルデヒド 7からの1,6-oxa-Michael反応により構築することで得られるものとし、7のシスデカリン骨格部分については、適切な官能基を揃えたアシル体 8からのMichael-aldol反応により構築するものとした。

    無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築

     まず、上部 2の合成に取り組んだ (Scheme 2)。既知化合物 97)から9工程を経てエチニルエーテル 10とした後に、位置選択的なヒドロスズ化を行った。種々検討の結果、Bu3SnH, Pd(t-Bu3P)2の条件で、β位選択的に望みのビニルスズ 11を得ることができた。しかし、11が不安定であったため、その反応系から溶媒を留去後、ヨウ化フラン 5とのStilleカップリングを行うことで共役エノールエーテル部分を構築し、12を1ポット、2工程、収率75%の高収率で得る条件を見出した。続いて、12のエステル部分の加水分解を行い、椎名マクロラクトン化により14員環ラクトンを構築した。最後に、Pinnick 酸化に続く、Dess-Martin酸化により無水マレイン酸へと導き、16を合成した。これにより、無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築を達成した。

    酸素架橋含有シスデカリン骨格の構築

     次に、下部 3の合成に取り組んだ (Scheme 3)。まず、市販化合物から11工程を経て適切な官能基を揃えたアシル体 18とした後に、Michael-aldol反応により、シスデカリン骨格を有した三環性化合物 19を単一の生成物として得た。続いて、共役アルデヒド 20へと変換し、嵩高いルイ

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  • 小清水 正樹, 長友 優典, 井上 将行
    p. Oral39-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
    会議録・要旨集 フリー HTML

    多様な生物活性を有するリアノジン (1)などのリアノイド類は、複雑に縮環し、高度に酸素官能基化された共通炭素骨格を持つ。1はカルシウムチャネルの開閉制御活性、リアノドール(2)およびシンゼイラノール(4)は殺虫活性、シンナカソール(7)は免疫抑制活性を持つことが知られる。特異な構造と生物活性から、リアノイド類は多くの合成化学者の興味を惹きつけてきたが、類縁天然物の全合成例はDeslongchampsらによる2の全合成1)、 我々による1および2の全合成2)の3例に留まっている。我々は、リアノイド類の精密構造活性相関研究を志向した網羅的合成法の確立を目指し合成研究を行った。

    【合成計画】

    Scheme 1に合成計画を示す。リアノイド類の網羅的合成を視野に入れ、構造の主たる相違点であるC2, 3位の合成終盤での官能基導入を計画した。そこで、リアノイド骨格に内在する対称性を利用した二方向同時官能基変換と続く非対称化により合成できる11をリアノイド類合成の共通中間体に設定した2)。11から12へ誘導後、C2, 3位を官能基化すれば3-5を合成できると予想した。

    Scheme 1. Divergent strategy for construction of ryanoids

    【3-エピリアノドール(3)の全合成】

    3-エピリアノドール合成のために、C3位ヒドロキシ基の立体選択的構築を検討した(Scheme 2)。我々はすでに、リアノドール(2)のα配向C3位ヒドロキシ基を、近接ヒドロキシ基を足がかりとしたC3位ケトンの立体選択的ヒドリド還元により構築している(14→15)。一方、C3位ケトンのβ面を覆う嵩高いアセトニド基を持つ13に対しヒドリド還元を行えば、β配向のヒドロキシ基が構築されると期待した。しかしながら、13のC3位ケトンは、極めて反応性に乏しく還元反応は進行しなかった。C3位近傍の立体障害を減らすため、C2-イソプロペニル基を導入前に基質のC3位ケトンの還元を試みた。すなわち、11のC10位ヒドロキシ基をMOM保護した後、LiBH4を作用させるとC3位ケトンの立体選択的還元が進行すると同時に、TMS基の転位が進行し、18を与えた。18のDess-Martin酸化により、C3位にβ配向の酸素官能基を持つケトン12を得た。

    C2位の官能基化を経て3-エピリアノドール(3)の全合成を達成した。12に対し、アルケニルリチウムを作用させて立体選択的にイソプロペニル基を導入し、付加体19を得た。19のTMS基、アセトニド基とMOM基を、それぞれTAS-Fと酸処理により除去しヘキサオール20とした。最後に接触水素化により、ベンジル基の除去とイソプロペニル基の還元を行い3の合成を実現した。

    Scheme 2. Stereocontrolled construction of C3-hydroxy group for total synthesis of 3-epi-ryanodol

    【シンゼイラノール(4)の全合成】

     続いて、シンゼイラノール(4)の合成を検討した(Scheme 3)。12に対し、ヨウ化サマリウムを作用させてC3位酸素官能基を還元的に除去しケトン21を得た。21に対して、イソプロペニル基およびイソプロピル基導入を試みたが、付加体を与えなかった。これは21のエノール化が優先したためと考えられる。種々検討の結果、塩化ランタン存在下3)、シクロプロピルリチウムを作用させると、C2位へ立体選択的にシクロプ

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  • 黒木 太一, 岡谷 駿, 岡野 健太郎, 徳山 英利
    p. Oral4-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【序論】MPC1001B (1)は2004年、協和発酵工業(株)の小野寺、神田らによって糸状菌Cladorrhinumsp. KY4922株から単離、構造決定されたジチオジケトピペラジンアルカロイドである。1 1は生物活性としてヒト前立腺がん細胞に対して強力な増殖抑制作用(IC50 = 39 nM)を示すことから広く注目を集め、合成研究が行われている。2,3しかし、ジヒドロオキセピン環や15員環マクロラクトン、アルドール構造を持つジチオジケトピペラジンなど、強い塩基性ならびに酸性条件下では損なわれることが懸念される複雑な構造を有するためいまだ全合成報告はなく、基本骨格の構築すら達成されていない。そこで我々は、1の初の全合成達成を目的として研究に着手した。

    【逆合成解析】1の逆合成解析を以下に示す。1のジスルフィド結合は、Nicolaouらによって報告されている手法を用いて合成終盤に導入することとした。2の15員環骨格は、3の分子内光延反応によって構築できると期待した。環化前駆体3は、ビアリールエーテル構造を有するb-ヒドロキシ-a-アミノエステル4と、我々が全合成を達成した(–)-acetylaranotin (6)の合成中間体であるカルボン酸5との縮合を経て合成可能であると考えた。4

    【b-ヒドロキシ-a-アミノエステル4の合成】Bogerらの報告を参考にb-ヒドロキシ-a-アミノエステル4を合成した。5まず、フェノール7とアリールブロミド8をMaらの条件6に付し、ビアリールエーテル9を収率38%で得た。つづいて、Wittig反応で増炭した後、不斉ジヒドロキシル化によって光学活性ジオール10へと導いた。エステルa位のヒドロキシ基を選択的にp-Ns化した後、アジ化ナトリウムを作用させアジド11を合成した。その後、アジド基を還元し、N,O-アセタール形成を経る還元的メチル化を行うことで所望のb-ヒドロキシ-a-アミノエステル4へと導いた。

    【分子内光延反応による15員環構築の試み】b-ヒドロキシ-a-アミノエステル4をカルボン酸5と縮合させアミド12を得た。つづいて、パラジウム触媒存在下、Et3SiHによりCbz基を除去した後、TBAFを作用させジケトピペラジン13を合成した。7"位ヒドロキシ基をMOPアセタールとして保護した後、TBS基の除去とMe3SnOHを用いるエステルのカルボン酸への変換7を経て、セコ酸14へと導いた。しかし、14をPMe3とDEADを用いる光延条件に付したところ、望みの環化体15は全く得られず、位置異性体16が収率74%で得られるのみだった。

    【マクロラクトン化による15員環構築の試み】光延反応により目的の15員環を構築できなかったため、次にマクロラクトン化を検討した。まず、AZADO酸化8とLuche還元により17のヒドロキシ基の立体化学を反転させた。その後、Me3SnOHによってメチルエステルをカルボン酸へと変換し、セコ酸18を得た。しかし、18をジクロロエタン中加熱還流条件下に付し、椎名らによって報告されているマクロラクトン化の条件9を検討したところ、環化体15は全く生成しなかった。

    【分子内アルドール反応による15員環構築】分子内でのエステ

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  • 上田 毅, 鈴木 愛, 佐々木 舞, 星谷 尚亨, 上西 潤一
    p. Oral40-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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      アセトゲニンは、炭素鎖32および34の脂肪酸の2位に3炭素ユニットが結合しγ—ラクトン環を形成した化合物群であり、主にバンレイシ科植物から得られている。1982年にuvaricinが単離されて以来、これまで400種近いアセトゲニンが単離され構造が決定されている。1 アセトゲニン類は抗がん作用、免疫抑制作用、殺虫作用など多様な生理活性作用を示すが、中でもがん細胞に対して著しく強力な殺細胞活性を示す化合物が多い。2 この作用機序はミトコンドリアにおけるユビキノン酸化還元酵素(complex I)の阻害とされており、がん細胞のアポトーシスを引き起こす。3 しかしながら、これまでアセトゲニン類が高い注目を集めてきた長い歴史や幾多の精力的研究にも関わらず、残念ながらこれらの化合物や関連する誘導体が実際に医薬品につながった例はない。

      これらの分子の構造的特徴は、長鎖脂肪酸上の炭素が多様に酸化された構造にあり、複数の第2級不斉水酸基とともにTHF環やTHP環が存在する。しかし乍ら、それら不斉水酸基や環構造に基づく炭素鎖上の立体中心は規則性に乏しい。一方で片方の末端に存在する(S)-メチル置換不飽和g-ブチロラクトン環が共通したユニットとして存在する。そして長鎖炭素鎖に由来する自由度の高いコンフォーメーションから、確かな構造活性相関を議論出来るには至っていない。

    Figure 1.

     アセトゲニン類には2つのTHF環が連続して結合した化合物が数多く存在しており、その立体構造パターンも様々である。その中でTHF環が3つtransに連結したアセトゲニンとしてはgoniocin (1)が唯一報告されている。4 我々は、goniocinおよび連続するbis-THF環が鏡像関係にある天然化合物goniodenin (2) 5 そして2から化学変換されたcyclogoniodenin-Tについて興味をもち、これらの合成に取り組んだ。その結果、これら(+)-goniocin、(+)-goniodenin、および(+)-cyclogoniodenin-Tの全合成を達成したので報告する。

    【連続するTHF環の合成戦略】これらアセトゲニン合成においては連続するTHF環をいかに構築するかが問題となる。これまで様々なTHF環合成法が報告されてきたが、THF環の2位と5位の置換基の立体化学(transとcis)およびTHF環結合部位の立体化学(threoとerythro)を厳密に制御できる柔軟性の高い合成法は少なかった。我々はこれまでPd触媒を用いる立体特異的な酸素環構築反応を展開してきた。6 この環化反応を軸に合成計画を考えれば、その環化前駆体として求核的な不斉第2級水酸基と面選択性を誘導する不斉アリルアルコールを如何に作り出すかが鍵となる。次のスキームには2種類のbis-THF環構築を示してある。即ち、アルデヒドの選択的ブテニル化、交差メタセシス反応によるアリルアルコールの導入、そして環化の3段階である。この方法では、第2級アルコールとアリルアルコールの立体化学を組合わせる事によりあらゆる立体化学のbis-THF環構築が可能となる。

    Scheme 1.

    以下ここでは、tran

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  • 山越 博幸, 澤山 侑季, 赤堀 禎紘, 中村 精一
    p. Oral41-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. 研究背景

     トリテルペノイドやステロイドのC17位、ラブダンジテルペノイドのC9位は酸化を受け易いため、シラシロシドE-1(1)やマルリブアセタール(2)のような酸化型テルペノイドが自然界から多数見出されている(図1)。これらの化合物には二連続四置換炭素を持つ共通モチーフ3a、3bが含まれている。したがって、酸素原子が置換した第四級不斉中心の立体化学のみが異なる両モチーフを含む化合物は、天然物およびその誘導体を合成するための中間体として有用と考えられる。そこで我々は、Ireland–Claisen転位により二連続第四級不斉中心を一段階で構築する計画に基づき、3を含むキラルビルディングブロックの立体制御合成と得られた化合物を中間体とする天然物合成を目指すことにした。

    2. Ireland–Claisen転位による二連続第四級不斉中心の構築1)

     文献上、Ireland–Claisen転位で二連続第四級不斉中心を立体選択的に構築している例は限られる2)。そこで、我々は1のようなTHF環を持つ天然物を念頭に置き、立体選択性に関する知見を得るため、はじめにエステル9のIreland–Claisen転位を行ってみることにした(スキーム1)。文献既知のラクトン4を出発原料として、Corey– Seebach法によるフェニルチオメチル基の導入とPummerer転位を行ってアルデヒド6を得た。Tollens酸化によりカルボン酸塩7に変換した後、別途調製した光学活性なアルコール8と縮合させることで9へと導いた。9をシリルケテンアセタールとした後昇温したところ、転位生成物が分離困難な異性体混合物として収率74%で得られることがわかった。メチルエステルに変換して確認した異性体比は94:6と高く、主生成物はカルボニルa位がR配置のエステル13であった。THF環上のメチル基とシクロヘキセン環の間に立体反発が生じるため、いす形遷移状態11はエネルギー的に不利となり、舟形遷移状態10を経て反応が進行したためと考えられる。

    本考察の妥当性を検証するため、THF環を持たないエステル15およびTHF環3位をsp2炭素に変更したエステル19を調製してIreland–Claisen転位を試みた3)。その結果、反応はどちらもいす形遷移状態16および20を経て進行し、カルボニルa

    位がS配置の転位生成物17および21を高立体選択的に与えることがわかった。以上の結果から、2-テトラヒドロフランカルボン酸誘導体を基質としてIreland–Claisen転位を行った場合、生成物のカルボニルa位の立体化学はTHF環3位の置換様式によって制御されることが明らかとなった。転位生成物をメチル化し

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  • 高村 浩由, 菊地 崇浩, 岩本 浩平, 仲尾 英史, 原田 直樹, 大野 修, 末永 聖武, 遠藤 紀之, 福田 祐司, 門田 功
    p. Oral42-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【序論】

     サルコフィトノライド類(Figure 1)は、海南に生息する軟質サンゴSarcophyton sp.より単離されたセンブラノライドジテルペンである1。本化合物群は、共通構造としてブテノライドを含んだ14員環マクロラクトンを有しており、種々官能基化された同族体が多数存在する。本化合物の平面構造は、詳細なNMR解析により決定されているが、サルコフィトノライドC(1)のように絶対立体配置が決定していないものも存在する。また生物活性については、サルコフィトノライドH(5)やJがフジツボに対する付着阻害活性を有することが報告されているが2、多くのサルコフィトノライド類の生物活性については未だ未解明のままである。我々は、サルコフィトノライド類の共通構造に注目し、マクロラクトン化と続く渡環型閉環メタセシスを鍵反応とすることで本化合物群を統一的に合成できると考え、研究に取り組んでいる。本討論会では、Figure 1 に示す六つのサルコフィトノライドの全合成、立体構造の決定および確認、ならびに構造活性相関について報告する3

    【基本骨格構築法】

    サルコフィトノライド類の合成を行う前にモデル化合物による検討を行った(Scheme 1)。すなわちセコ酸7に対して椎名マクロラクトン化を行うことでラクトンへと誘導後、メチレン部位の導入を行いジエン8を得た。合成したジエン8に対して第二世代Hoveyda-Grubbs触媒を作用させることでブテノライド部位を有する化合物9を得ることに成功した。本方法、すなわちマクロラクトン化と続く渡環型閉環メタセシスにより上記のサルコフィトノライド類を統一的に合成できると考え、その合成に着手した。

    【サルコフィトノライドCの全合成】

    はじめにサルコフィトノライドC(1)の合成に取り組んだ。本化合物は、C8位の立体化学が未解明であったため1aおよび1bを合成する必要があった(Figure 2)。そこで光学活性なシトロネロールを用いることで二つの候補化合物を作り分けることを計画した。まず候補化合物1aの合成を行った(Scheme 2)。cis-2-ブテン-1,4-ジオール(10)よりAstlesらによって報告された方法に従いジオール11へと誘導した4。得られたジオール11に対しチオエーテル化を行った後、酸化を施すことでカップリング前駆体であるスルホン12を合成した。得られたスルホン12と(S)-シトロネロールより合成したアリルブロマイド13を連結することで所望のカップリング体14を得ることができた。続いて化合物14をバーチ条件に付すことでスルホニル基を除去した後、一級選択的なTBS基の除去を行うことでアルコール15へと変換した。合成したアルコール15に対しTEMPO酸化と続くWittig反応により末端オレフィンを導入した。続いて、Piv基の除去ならびに酸化を行うことでアリル化前駆体であるアルデヒド16を得ることができた。合成したアルデヒド16とアリルブロマイド17をBarbier反応により連結することでホモアリルアルコールとし、遊離の水酸基をMOM基にて保護し化合物18へと変換した。得られた化合物18のTBS基をTBAFにより除去し、エステル部位の加水分解を行うことで環化前駆体であるセコ酸19を

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  • 木内 達人, 村上 真淑, 岡本 亮, 和泉 雅之, 伊藤 幸成, 梶原 康宏
    p. Oral43-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     糖タンパク質の生合成は、小胞体で開始され、その際、タンパク質に付加されるハイマンノース型糖鎖は、多数の酵素、シャペロンにより構成される小胞体内糖タンパク質品質管理機構にタグとして利用されながら、タンパク質部分が正しくフォールディングされるように管理されている(Figure 1)1)

     この機構で正しくフォールディングしたと認識された糖タンパク質は、ゴルジ体に送られ、ハイマンノース型糖鎖のプロセッシングおよびシアリル糖鎖への再構築を経て完成品となり、細胞膜や細胞外へと分泌されていく。特に、糖タンパク質が、酸性のシアリル糖鎖を持つことで、血中に分泌された後、その水溶性の向上や、糖タンパク質の凝集の防止、血中寿命、抗原性が制御される。

     しかしながら、糖鎖構造が、糖タンパク質の生合成経路ならびに生理活性発現に与える影響を化学的視点で緻密に調べることは困難であった。これは、糖タンパク質分子がバイオテクノロジーを用いた方法でしか調製できなかったことと、その際、糖鎖構造を自在に制御して、任意の糖鎖を持つ糖タンパク質を得ることが不可能であったことが、その大きな理由である。

     我々は化学合成により特有の糖鎖構造を持つ糖タンパク質を、目的に合わせて調製できれば、強力なプローブになると考え、エリスロポエチン(EPO)を選び、その精密化学合成に挑戦してきた2)。EPOは腎不全による貧血の治療薬としても世界中で用いられている、造血ホルモンで、その糖鎖の構造、有無がin vivoでの活性に大きく影響することが調べられてきたが、常に糖鎖構造が不均一で、具体的に糖鎖のどのような分子構造が活性に影響するのか理解できていなかった。

     本発表では、ハイマンノース型糖鎖が小胞体での糖タンパク質の品質管理機構においてどのように利用されているのか、さらにはシアリル糖鎖が血中でのEPOの赤血球増殖活性をどのように制御しているのかを調べ、糖タンパク質の生合成の初期段階から血中で活性を発現するまでの糖鎖の機能を包括的に理解することを目指し、14種類のEPOを精密に化学合成し、糖鎖機能を系統的に調べた結果について述べる。

     EPOはアミノ酸166残基からなり、その24、38、83位のアスパラギンの側鎖にNグリコシル結合した糖鎖を3本持ち、126位のセリンの側鎖にOグリコシル結合した糖鎖を持つ。Oグリコシル結合した糖鎖は小胞体を通過後のゴルジ体で付加する上に、in vivoでの赤血球増殖活性に影響がないことが報告されていることから、今回はNグリコシル化した糖鎖を持つEPOのみを合成することにした。

     まず、ハイマンノース型糖鎖を持つEPOの合成について述べる。166残基からなるEPOをひとつなぎに合成することは困難であるため、短いペプチドセグメントに分けて複数のセグメントを調製後、これらをペプチド連結反応により連結することとした。

     またアスパラギンに結合したハイマンノース型糖鎖(Figure1)は卵黄から単離し、これをペプチド固相合成の際、24、38、83位のいずれかの位置に糖鎖を導入することで鍵となる糖ペプチドチオエステルを合成した

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  • 藤森 悠介, 竹内 裕紀, 上田 善弘, 芝山 啓允, 吉村 智之, 古田 巧, 川端 猛夫
    p. Oral44-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     配糖体の合成においてグリコシル化は鍵となる重要な工程である。一般的なグリコシル化では、あらかじめ適切に保護・活性化した糖誘導体をグリコシルドナーとするのが通例である。一方、近年では無保護糖を用いた光延反応条件下での一段階グリコシル化が報告されている1)が、立体選択性の制御に課題を残していた。当研究室はこれまでに直線的・効率的な糖類の合成を指向し、無保護グルコースと保護没食子酸との直接的かつ立体選択的グリコシル化反応を見出し、本法を用いたエラジタンニン類のtellimagrandin II と strictinin の合成を第54回本討論会(2012年)にて報告した2)。今回我々は本グリコシル化をさらに最適化し、種々のカルボン酸と無保護グルコースを用いたβ-アシルグルコシドの一般的な一段階合成法として確立した。また本グリコシル化を鍵反応とし、二量体構造を持つ天然物coriariin A (1) の全合成を行った(Figure 1)。さらに、本グリコシル化法と当研究室で開発した基質認識型触媒による位置選択的アシル化3)を駆使しpterocarinin C (2) の短段階全合成を達成したので報告する。

    Figure 1. 無保護グルコースから短段階で合成したエラジタンニン類の構造

    【立体選択的グリコシル化の一般化】

     これまで我々は光延反応条件下、1,4-dioxaneを溶媒として用いることで保護ガロイルグルコシドをβ選択的に得られることを報告していた。本研究ではさらなる最適化を行った結果、種々のカルボン酸を求核剤として本グリコシル化法に適応可能Table 1. β-アシルグルコシドの一段階合成

    であることがわかった。本法は天然β-アシルグルコシドをグルコースから一段階で入手可能な合成法であり、天然に存在する配糖体 thotneoside C (3)、perilloside B (4)、tecomin (5) をそれぞれ67%、71%、70%の収率で、いずれも高いβ選択性で得た(Table 1)。また、グラムスケールでの合成も可能であり、5 を一回の操作で1.44 g 得ることに成功した。

     本法で使用したグルコース(Becton Dickinson社製)は結晶形、および重DMSO中での1H-NMRスペクトルからα体の単一結晶であることがわかった。グルコースの精製時、適切な再結晶溶媒を選ぶことでα体とβ体の単結晶を作り分けることが出来る4)。このことから、本グリコシル化のβ選択性を以下のように考察した(Scheme 1)。α-グルコースから生じたα-ホスホニウム a を経由し、SN2により直接カルボキシラートが置換する場合(path A)と、脱離したホスフィンオキシドがα面に近接したオキソカルベニウムイオン bにカルボキシラートが付加する場合(path B)のいずれかまたは両方の経路でβ-アシルグルコシドが得られると推定した。今後はさらなるメカニズム解析を進める予定である。

    Scheme 1. 本グリコシル化の推定メカニズム

    【coriariin Aの全合成】

     我々は、本グリコシル化法をジカルボン酸 6 の2カ所同時グリコシル化工程として適応した coriariin A (1) の全合成を計画した。coriariin A (1) は1986年奥田ら5)によってドクウツギの葉から単離された二量体エラジタンニ

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  • 長崎 政裕, 源 直也, 初村 洋紀, 真鍋 良幸, 田中 克典, 深瀬 浩一
    p. Oral45-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. 序論

    タンパク質への糖鎖の付加は最も重要かつ普遍的な翻訳後修飾の1つであり,生体内のタンパク質のおよそ50%が糖鎖の付加を受けている。中でもアスパラギン残基に結合したN-結合型糖鎖は,糖タンパク質の品質管理や血中での動態制御に関わるほか,タンパク質の機能にも大きな影響を与えており,細胞の発生・分化,ガンの転移・浸潤,免疫応答など様々な生命現象に関与することが知られている。しかし,生体内に存在する糖鎖は様々な構造の不均一な混合物(グライコフォーム)となっており,これは糖鎖の詳細な機能研究を行う上で大きな障壁となってきた。すなわち,それぞれの糖鎖構造にはそれと関連した機能があると考えられるが,複雑な構造の糖鎖を天然より単離・精製するのは困難であり,糖転移酵素のノックアウトなどによる“間接的”な機能研究しか行われてこなかった。我々は,均一な構造の糖鎖を用いた直接的な機能研究によって糖鎖の構造と機能の関連性を明らかにするため,化学合成による糖鎖の供給を目指し,特に複合型N-結合型糖鎖に含まれるコアフコース及びバイセクティンググルコサミン(図1)に着目した。コアフコースは糖鎖の還元末端のグルコサミンにa結合したフコースで,シグナル認識の制御機能及びガン細胞との関連などが報告されている。一方,バイセクティンググルコサミンは糖鎖の分子マンノースC4位にb結合したグルコサミンで,ガンの転移やアルツハイマー病との関連が報告されている。本研究では,これらの構造を持つ糖鎖の効率的な合成のため,分岐部での2度のグリコシル化を鍵とする収束的な合成戦略を用いた(図1)。本発表では,糖鎖フラグメント調製のための効率的グリコシル化,及び構築されたフラグメントのグリコシル化による目的糖鎖の合成について詳細を報告する。

    2. マイクロフロー系を利用した効率的グリコシル化

    本研究における目的化合物であるN-結合型糖鎖には数多くのグリコシド結合が存在しているが,糖の構造や反応点などにより,グリコシル化反応の収率及び立体選択性が問題となる場合がある。我々は,マイクロフロー系を用いた効率的なグリコシル化を開発してきた(スキーム1)。マイクロフロー反応では,通常のフラスコ内での反応と異なり,マイクロミキサー内で基質と試薬を混合して反応を行い,基質と試薬が適切な比率で効率的に混合されるほか,反応時に発生する熱も効果的に除去される。これにより,副反応である糖供与体の分解や,望まない立体異性体の生成を抑制することができる。更に,この混合効率を保ったままスケールアップを行うことも容易である。例えば,C5位にNAc基を持つシアル酸供与体1を用いたa-シアリル化は,フラスコ反応では中程度の立体選択性にとどまっていた(a / b = 77 / 23)が,マイクロフロー反応ではその立体選択性を大きく向上させることができた(a / b = 94 / 6, スキーム1a)1。供与体4を用いたb-マンノシル化は,反応スケールを高めた場合に収率が低下する(73%, 900 mg scale)ことが問題となったが,マイクロフロー系を適用することで

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  • Wang Chao, 大木 麻菜, 西川 徹, 越野 広雪, 長澤 和夫
    p. Oral5-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. Introduction

    Saxitoxin (STX, 1), firstly isolated as a paralytic shellfish poison, is a potent and specific blocker of voltage-gated sodium channels.1 So far, more than 50 members in this family were discovered.2 Among this big family, only 11-saxitoxinethanoic acid (SEA, 5)3 and zetekitoxin AB (ZTX, 6)4 characteristically contain an unusual C-C bond at the C11 position (Figure 1), which may suggest a new biosynthetic pathway for these STX derivatives.5 This report described a total synthesis of SEA (5).

    2. Previous achievements in our laboratory

    Our group has reported a series of synthetic studies of saxitoxin and its derivatives.6 In these synthesis, we commenced 1,3-dipolar reaction of nitro olefin 7 and nitrone 8 followed by epimerization and hemi-reduction to obtain 9. After conversion of 9 into bicyclic guanidine 10 in 5 steps, compound 11 was obtained with sequential oxidation and reduction, and introduction of guanidine group. Then, cyclization of guanidine at C4 gave 12, which is a key synthetic intermediate for STXs. With the intermediate 12, we have achieved synthesis of STX (1) and its derivatives 2~4 (Scheme 1).

    Scheme 1. Our achievements in the synthesis of STX (1) and its derivatives 2 ~ 4.

    3. Synthetic strategies of SEA (5)

    In the synthesis of SEA (5), construction of the C-C bond at C11 is the crucial issue. In the retrosynthetic analysis, we planned two approaches (Scheme 2), i.e., (i) early stage introduction of acetate group by utilizing nitrone 13 (strategy 1), and (ii) later stage construction of C-C bond at C11 by reacting with enolate 14 and electrophile 15 (strategy 2). Both approaches were examined as follows.

    Scheme 2. Two approaches for SEA (5).

    4. Synthesis of SEA (5)

    (1) Strategy 1: Early stage introduction of acetate group at C11 by utilizing nitrone 13.

    Based upon our previous synthetic works for STXs (Scheme 1), we chose nitrone 13, which contains a protected acetic acid group at the C11, as a key compound for the synthesis of SEA (5). Synthesis of nitrone 13 was examines as shown in Scheme 3. Diol 17, derived from L-(+)-tartaric acid, was converted into ketone 18 by selective protection of hydroxyl group with TIPS ether followed by Swern oxidation in 65%. Then, aldol reaction of ketone 18 with acetate was examined. Reaction of 18 with tert-butyl acetate in the presence of NaHMDS gave aldol 19 in 85% as a diastereomer mixture (dr = 7:1), which was further purified by a recrystallization. With 19 in hand, then we examined to remove the hydroxyl group under various conditions. Unfortunately, the hydroxyl group was less reactive due to its sterically hindered environment, and we could not obtain 20or 21. Then, we examined to oxidize 19 into nitrone 22. After deprotection of Ts group, the resulting pyrrolidine was subjected under variety oxidation conditions, however, we obtained nitrones 22 and 23 as 1:1.1 ratio with an inseparable mixture.

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  • 中根 嘉祈, 中崎 敦夫, 石川 裕生, 澤山 裕介, 山下 まり, 西川 俊夫
    p. Oral6-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【背景】

     クランベシンBは、1990年代にBraekmanらによって地中海に生息する海綿Crambe crambeから単離された環状グアニジンアルカロイドであり、これまでにクランベシンAやクランベシンCを含む複数の類縁体が報告されている1,2)。我々は、クランベシン Bのグアニジン側鎖が欠落したクランベシン B カルボン酸(1)2)が持つ電荷の空間配置が、電位依存性Na+チャネル(Nav)の強力な阻害剤として知られるテトロドトキシンのそれと類似していることから、1が新たなNavの阻害剤の基本骨格となり得ると考えた。そこで、まず始めに1のラセミ体を合成しその阻害活性を評価することとした。次いで、これまでに不斉合成の報告がない1および、その類縁体であるクランベシンAカルボン酸(2)とクランベシンCカルボン酸(3)の両鏡像体を合成し、構造活性研究へと展開することを計画した。本講演では、これらの結果と天然物であるクランベシンAの絶対立体化学の決定について報告する。

    Figure 1. Tetrodotoxin and crambescin carboxylic acids

    【合成計画】

    クランベシンBカルボン酸のスピロヘミアミナール構造は、当研究室で開発されたカスケード型ブロモ環化反応3)によってホモプロパルギルアルコール7から構築できると考えた(Scheme 1)。すなわち、ブロモカチオンによるアセチレンの活性化と分子内のグアニジン窒素の求核付加反応で中間体8が生成した後、更にブロモカチオンと反応することで発生する9からスピロヘミアミナール10を立体選択的に構築する。なお、環化前駆体であるホモプロパルギルアルコール7は、エンイン4のエポキシ化と立体配置の反転を伴うアジリジン化の後、グアニジノアジリジン6のプロパルジル位にヒドロキシメチル基を導入することで合成する。10から誘導できるアルコール11を共通の中間体とし、各種クランベシンカルボン酸1~3を網羅的に合成する計画である。このルートでは、エポキシド5を光学活性体として合成出来れば、1~3の不斉合成が可能である。

    Scheme 1. Synthetic strategy of crambescin carboxylic acids

    【クランベシンBカルボン酸のラセミ合成と活性評価】4)

    1-ドデカノールから4工程で調製したcis-エンイン4をmCPBAによってラセミ体のエポキシド5へ変換した(Scheme 2)。アジドの付加とそれに続く還元的な環化でアジリジンとした後、水酸基の保護、グアニル化によりアルキニルアジリジン 12を合成した。大野らの方法5)に従い、パラジウム触媒存在下、ヨウ化インジウムとホルマリンを作用させたところ、期待したヒドロキシメチル化体 13を単一の立体異性体として得た。続いて、当研究室で開発されたカスケード型ブロモ環化反応を検討した。その結果、保護基を変換した環化前駆体 14から、期待通り望む立体化学を有するスピロヘミアミナール 15が単一の立体異性体で得られることを見出した。gem-ジブロモ基を還元的に除去した後、脱保護とJones酸化により(±)-クランベシンBカルボン酸 (1)の合成を達成した。

    合成した1を、Navの活性化剤ベラトリジンとNa+

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  • 増田 裕一, 田中 錬, 甲斐 建次, Ganesan A., 土井 隆行
    p. Oral7-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. 序論

    天然由来の環状ペプチドには、特異な立体配座を取ることにより生体分子と相互作用し、生物活性を発現するものがある。子嚢菌OK-128株がオカラ培地において生産する環状ペプチドPF1171類(Fig. 1)は、カイコに対して経口投与で麻痺を引き起こす1)。PF1171類は、アントラニル酸(Ant)やピペコリン酸(Pip)などの非タンパク質構成アミノ酸を含有しており、これらが活性立体配座の形成に関与していることが予想される。我々は、PF1171類がどのような立体配座を取って生物活性を発現するのかに興味を持ち、三次元構造に着目した構造-活性相関研究を行うため、本化合物の全合成に着手した。

    2. 合成計画

    まず、共同研究者の甲斐らによって初めて単離・構造決定されたPF1171Fの全合成を行うこととした(Scheme 1)。本化合物を合成する上で課題となるのは、L-MeLeuやL-Pipの第二級アミンおよびAntの芳香族アミンへの縮合であると考えられる。そこで、収率が低くなりがちな環化反応はこれらのアミンへのアシル化を避け、第一級アミンを有するL-Pheと立体障害が小さいD-Alaのカルボニル基との間で行うこととした。ペプチド鎖の伸長は効率的な類縁体合成を指向して固相法で行い、固相担体にはスプリット&ミックス合成が容易なSynPhaseTM Lantern2)(提灯の形に成型された固相担体)を用いることとした。

    Scheme 1 PF1171Fの逆合成解析

    3. PF1171類の固相法を用いた全合成

    PF1171Fの合成経路の概略をScheme 2 に示した。Trityl alcohol Lanternに1残基目を担持した後、ペプチド鎖をFmoc法により伸長させ、4残基ペプチドを得た。求核性が低いアントラニル酸の芳香族アミンに対する縮合は、トリホスゲンを用いて系中でFmocアミノ酸の酸クロリドを発生させる方法3)により、反応を定量的に進行させることができた。6残基まで伸長した後、Fmoc基の脱保護および固相からの切り出しを行い、環化前駆体ペプチドを得た。続くマクロラクタム化は、HATU/DIEAを用いて高希釈条件で行うことにより効率的に進行し、PF1171Fの全合成を達成した。同様の合成法を用いることにより、PF1171A、C、Gの全合成も達成した。合成したPF1171類をカイコの幼虫に静脈注射したところ、顕著な麻痺活性を示し、その活性の強さが天然物と同程度であることを確認した4)

    Scheme 2 PF1171Fの固相法を用いた全合成

    4. X線結晶構造解析およびNMRによる三次元構造解析

     環状ペプチドは骨格が柔軟であるため、多様な立体配座を取り得る。活性発現に係わる立体配座を解明する目的で、PF1171類の三次元構造解析を行った。クロロホルム/エーテル/ヘキサンの混溶媒より調製したPF1171 F単結晶のX線結晶構造解析を行った結果、4つの分子内水素結合の存在が確認され(Fig. 2)、これらが立体配座の維持に重要な役割を果たしていることが示唆された4)。また、重クロロホルム中におけるPF1171Fの三次元構造をNMRにより解析し、NOEとJカップリング値からそれぞれ得られた核間距離情報と二面角情報を拘束条件として、分子力学計算によ

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  • 米田 耕三, 胡 亚萍, 北 将樹, 木越 英夫
    p. Oral8-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1. 緒言

     生物活性リガンドの標的タンパク質への結合様式の解析は、創薬研究の発展において重要である。その解析法の一つとして、リガンドに検出基と反応性官能基を導入したケミカルプローブを用いる手法が発展してきた (図1)。この方法では、プローブと標的タンパク質との間に共有結合を形成させた後、酵素消化で得たペプチド混合物から、検出基を指標としてプローブでラベル化されたペプチドを精製する。その後MS解析と計算化学のアプローチにより、リガンドの結合位置を解析することができる。しかし、この方法にはペプチドの精製過程で回収量が低下するなどの問題がある。

    図1. ケミカルプローブを用いた結合位置の解析

     そこで我々は、精製を必要としない新しいケミカルプローブとして、検出基としてピレンを導入した化合物をデザインした。ピレン基を持つ化合物は、マトリックスを使用しないレーザー脱離イオン化法による質量分析法 (label-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry, LA-LDI MS) で選択的に検出される1)。すなわち、酵素消化までは既存のプローブと同様に行ってペプチド混合物を得た後、LA-LDI MSを測定することで、リガンド結合ペプチドだけを精製せずに検出できると考えた(図2)。今回、本手法を適用する例として、細胞骨格タンパク質アクチンに結合する抗腫瘍性天然物アプリロニンA 2を選択した (図3)。この複合体の構造はX線結晶構造解析で明らかとなっており3)、また近年我々の研究室でアクチンとの複合体がチューブリンのヘテロダイマーに作用することを明らかにした4)。今回、アクチンとの結晶構造と本手法で検出したペプチド断片を比較することで、その有用性を評価することとした。

    2. ピレン構造の最適化

     MS解析で一般的なμg~ng量のタンパク質を酵素消化する場合、pmol以下の量でラベル化ペプチドを検出する必要がある。しかし355 nmのレーザーを備えたMALDI装置で1-ピレン酪酸(1)のLA-LDI MSを測定したところ、再現よく検出するには100 pmol程度必要であった(図4a)。そこでLDI MSの感度向上を目指して、355 nmに強い吸収を持つよう、ピレン基に窒素官能基を導入することとした。

     アミノピレン2およびアミドピレン3の合成をScheme 1に示す。原料の1-ピレン酪酸を定量的にメチルエステル化し、その後、硝酸を用いることでニトロピレン5の異性体混合物を得た。続く接触水素化によってニトロ基を還元し、ピレンの6位にアミノ基が置換した化合物2を単一の異性体としてクロマトグラフィーで分離することで得た。その後、無水酢酸を用いてN-アセチル化を行ってアミドピレン3を合成した。

    Scheme 1. アミノピレン2とアミドピレン3の合成

     アミノピレン2とアミドピレン3のLA-LDI MSを測定した結果、2は系内で酸化的な二量化が起こり、マススペクトルが複雑化した(図4b)。一方で3は0.1 pmol量でも高いS/N比で分子イオンピークが検出され、またMS系内でケテン(CH2CO,分子量42)が脱離し、アミノピレン2がフラグメントイオンとして検出された(図4c)。さらにMALDI-TOF MSの標準物質

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  • 梅川 雄一, 中川 泰男, 松下 直広, 土川 博史, 花島 慎弥, 大石 徹, 松森 信明, 村田 道雄
    p. Oral9-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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     アンフォテリシンB(AmB, 図1a)は放線菌Streptomyces nodosusの生産するポリエンマクロライド化合物であり、その強力な抗カビ活性と耐性のできにくい性質から、現在でも抗真菌薬として広く用いられている。AmBの活性は細胞膜中に形成されるイオン透過性チャネル(図1-b)に起因するとされており1)、また選択毒性はチャネル形成時にヒト細胞膜中のコレステロール(Cho, 図1a)よりも真菌由来のエルゴステロール(Erg, 図1a)とより高い親和性を示すことに由来するとされている。その一方で、リン脂質膜環境下での解析の困難さもあり、現在でもAmBの活性本体は議論の対象となっている2)。従って、AmBの作用機構の全容解明にはAmB-ステロール間の詳細な分子認識機構の理解が必要不可欠である。

    図1 (a)AmBおよびステロールの化学構造; (b)樽板モデル.

     我々はこのAmB-ステロールの相互作用様式の解明を目指して、種々研究を行ってきた3)。ErgとChoの構造の違いは、ステロイド環に含まれる二重結合の数、および側鎖に存在する24位のメチル基と22位の二重結合の有無のみである。そこで、系統的なステロール誘導体の合成と、pH感受性蛍光色素を用いたイオン透過活性能の評価系を構築し、AmBとの親和性について構造活性相関実験を行った。その結果、AmBはステロールの3次元的な構造を認識しているということが示唆され、第53回の本討論会において報告した4)。今回、更なる詳細な解析や固体NMRによる分子間距離測定を行うことでAmB-ステロールの相互作用様式に新たな知見が得られたので報告する。

    (1) AmB-ステロール炭素環間の相互作用5)

    ステロール炭素環の不飽和結合の数と位置を異にする誘導体を調製し、これらを含有するリポソームに対するAmBのチャネル活性試験を行った(図2)。Cho 側鎖構造を持つ誘導体を含む膜に対して、いずれもErg側鎖構造を持つ誘導体の膜に比べてAmBのイオン透過活性が低下したが、その炭素環構造の依存性の傾向には共通性が認められた (Δ5,7≥ Δ7> Δ5> Δ5,7,9)。このことは、ステロイド環の構造と側鎖構造がそれぞれ独立にAmBのイオン透過活性に寄与していることを示唆している。また、二重結合の数と位置に着目すると、共役トリエン体、5位に二重結合を1つだけ持つ誘導体や、完全に飽和な誘導体含有膜ではAmBのイオン透過活性は大きく低下していた。そこで、これらステロール誘導体の配座計算を行った結果(図3)、AmBとの親和性が低い共役トリエン構造を有する誘導体の立体配座は、他のステロールに比べA環部分が大きく歪んだ構造を示すことが明らかとなった(図3d)。これによりAmBのマクロライドとの密な接触が妨げられ、親和性が低下したと考えられる。一方、その他のステロール誘導体の配座にはそれほど違いが見られず、いずれのステロールも平面性の高い環構造を有するように見える。そこで、AmBとの親和性が低下した5位に二重結合を持つ誘導体(図3b)と完全に飽和な誘導体(図3e)のみに共通する構造を考えると、ステロイド炭素環の最も外側に位置するB環7位のアキシアル水素が挙げられる。おそらく、このアキシアル水素

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  • 荒井 緑, 赤嶺 隆太, 米山 達朗, 岡本 隆一, 小谷野 喬, Thaworn Kowithayakorn, 石橋 正己
    p. PosterP1-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【背景】

     神経幹細胞はニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトに分化できる多分化能を持つ細胞であり,神経幹細胞の分化・増殖においてはbasic helix-loop-helix (bHLH) 型転写因子が重要な働きをしている(図1).Hairy and enhancer of split 1 (Hes1) , Hes5は抑制型のbHLH因子であり,Mash1やNgn2などの分化を促進する活性型bHLH因子の転写を抑制することで神経幹細胞を未分化のまま維持している.Hes1, Hes5の発現は,Notchシグナル伝達経路により制御されることが知られている.

     Notchシグナル伝達経路は細胞の増殖や分化において重要な役割を担っている経路である1)(図2).Notchは細胞膜上に発現する受容体であり,隣接する細胞上に存在するリガンドであるDeltaやJaggedが結合することで,内在性のg-セクレターゼによってNotch細胞内ドメイン(NICD)が切断される.NICDは核内に移行し,DNA結合タンパク質であるRBP-J, MAMLと安定な複合体を形成することで標的遺伝子であるHes1, Hes5の転写を活性化している.そのため,Notchシグナルを阻害する化合物は,Hes1やHes5の発現を抑制,神経幹細胞の分化を誘導し,新たな神経再生医薬の候補となることが期待される.

    【レポーターアッセイ系の構築】

     Notchシグナル阻害活性を評価するため,以前に岡本らが構築したNICD安定発現株2)(ヒト結腸腺癌細胞LS174T)を用いてレポーターアッセイ系の構築を行った(図3).RBP-J結合配列を12個有するルシフェラーゼプラスミドを作製後,安定発現株を得た.本アッセイ系では通常時,テトラサイクリンリプレッサー(TetR)によってNICDの発現が抑制されている.ドキシサイクリン(Dox)を添加することで,TetRが解離し,NICDのN末端に40アミノ酸残基が結合したNotchDEが発現する.NotchDEは内在性のg-セクレターゼによって切断され,NICDが生じる.NICDは核内に移行し,RBP-J, MAMLと安定な複合体を形成することで下流のルシフェラーゼ遺伝子を転写する.ルシフェラーゼ活性を測定することで,NICDの転写活性を定量する.

     構築したアッセイ系を用いて当研究室保有のタイ産植物エキスライブラリーについてスクリーニングを行い,良好な活性を示したフクギ科

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  • 塩見 慎也, 菅原 絵里香, 石川 勇人
    p. PosterP10-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【序論】

     自然界には高度に置換された光学活性ピペリジン環を有する天然物が数多く存在する。我々はその中でC4位がアルキル基で置換された非対称ピペリジンアルカロイドに着目した。例えば、血圧降下作用が報告されているa-スキタンチン(1)や抗マラリア薬として、また近年は高機能有機触媒として注目されているキニーネ(2)などである1), 2)。このようなアルカロイド群を網羅的に合成する上で、高度に置換された光学活性ピペリジン環の自在な構築を可能とする力量のある方法論の開発が求められる。我々は多置換ピペリジン環を合成するにあたり、ジヒドロピリドン誘導体3が有用な合成素子として機能すると考えた。すなわち、3の有するエナミン構造、エステルおよびアミド構造を活かした化学変換によりピペリジン環上に自由度の高い置換基導入を行う。このような戦略のもと、有機触媒を用いた形式的アザ[3+3]付加環化反応による3の効率的合成法を独自に開発することとした。近年、高い不斉誘起能を持つ2級アミン型触媒は大きな注目を集めており、本触媒反応を鍵工程とする優れた全合成が報告されている。一方で、通常の有機触媒反応はその触媒量が10〜20モル%であり、触媒量低減化が課題であった。今回、我々は0.1モル%の触媒量で成される形式的アザ[3+3]付加環化反応を開発し、その手法を用いてa-スキタンチン(1)の効率的全合成を達成した。

    【形式的アザ[3+3]付加環化反応の開発】

     ジヒドロピリドン誘導体3の合成戦略をScheme 1に示す。アルキル側鎖を有するa, b-不飽和アルデヒド4とマロナメート誘導体5をプロリン由来の不斉有機触媒存在下、形式的アザ[3+3]付加環化反応(マイケル付加/ヘミアミナール化反応)を進行させ、続いて脱水反応を行えば目的とする3が合成できると考えた。本触媒反応においてピペリジン環上のC4位にアルキル側鎖を導入するためには、基質として用いるアルデヒド4のb位にアルキル基が必須となる。しかしながら、4を基質とする触媒反応はシンナムアルデヒドのようなb位が芳香環のものに比べて報告例が極めて少ない。その理由として、生成するイミニウムカチオン中間体は不安定で5からの求核攻撃を受けずにエナミン体となり、これが自己縮合によって分解してしまう為である。一方で、アルキル側鎖を有するa, b-不飽和アルデヒドに対する不斉マイケル付加反応が既に報告3)されており、反応条件を精査すれば目的とする形式的アザ[3+3]付加環化反応が開発できると考えた。

    モデル基質としてフェニルペンテナール7を求電子剤に用い不斉触媒反応の検討を開始した(Table 1)。求核剤としてマロナメート8を用い、トルエン中でジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒Aを作用させたが、望む付加環化反応は全く進行せずにアルデヒド7の消費のみが観測された(entry 1)。これは懸念した通り不安定なアルデヒド7と触媒から生成するイミニウムイオンが8の求核攻撃を受けずに自己分解した結果である。種々の反応条件を検討したが、目的とする11を効率的に合成するには至らなかった。そこで、所望する反応を円滑に進行させるにはより高い

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  • 松浦 正憲, 齊藤 菜穂子, 中村 純二
    p. PosterP11-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    1.背景

    幾つかの種類のヤドカリは、神奈川県三浦市や三重県志摩市周辺等の一部の地域で刺身や味噌汁として食されている。不思議なことに、ヤドカリの中でもオニヤドカリ(Aniculus miyakei)摂食後、水を飲むと甘味が誘導される現象が知られている。このように水を甘く感じる作用から、オニヤドカリは「あまがに」とも呼ばれている。この現象を引き起こす甘味誘導物質については、水や有機溶媒に可溶な低分子化合物であることが報告されていたが、詳細は未解明であった1)。そこで、この特異な味覚修飾作用に着目し、甘味誘導成分の解明を目的として研究に着手した2)

    2.甘味誘導成分の同定

     実験材料として三重県伊勢市にて採取したオニヤドカリを用いた。まず、ヤドカリを身と内臓部分に分けて、水飲用時の甘味誘導を検討したところ、内臓部分(中腸腺)に甘味誘導作用があることが確認できた。摂取直後はほとんど味を感じないが、10秒ほどして徐々に弱い甘味を感じるようになり、水を飲用すると甘味が明確に誘導される。そこで、この水飲用時の甘味誘導作用を指標に、関与成分の探索を行った。凍結乾燥した内臓部分をクロロホルム/メタノールで抽出後、ヘキサンと90%メタノールで分配した。続いて、90%メタノール層をブタノールと水にて再分配し、ブタノール層を得た。得られたブタノール層を、逆相クロマトグラフィーによる精製を繰り返すことで、甘味誘導画分を得た。得られた甘味誘導画分は、クロマトグラム上では複数のピークを示すものの、NMRスペクトル上では、ほぼ単一成分であったため、各種NMRスペクトル解析により、この画分の主成分はオクテニル硫酸エステル(1)であると決定した(Figure 1)。そこで別途合成品を調製し(Scheme 1)、スペクトルを比較したところ、良い一致を示し(Figure 2)、さらに官能評価の結果、甘味誘導画分と同様の水飲用による甘味誘導作用が確認できたことから、オニヤドカリ由来の甘味誘導成分は1であると決定した。なお1は新規化合物であった。

     

    続いて、オニヤドカリ中の1の含有量を調べた。オニヤドカリの内臓部分の抽出液をLC-MS/MS MRMモードにて定量分析したところ、乾燥内臓部分1 gあたり(約1個体分)、50mg以上の1を含有していることがわかった。1はおおよそ数mgの摂取で水飲用時に甘味が誘導されるため、オニヤドカリ中には甘味誘導に十分な1が含まれていることがわかった。また、比較対象として甘味誘導作用を示さない別種のヤドカリ(未同定)についても、その含有量を調べたところ、1が若干量含まれているものの、オニヤドカリと比較してその含有量は1/10程度であった(Figure 3)。この結果から、オニヤドカリ特有の甘味誘導現象は、1の含有量の差が原因であると考えられた。

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  • 古田 未有, 花屋 賢悟, 須貝 威, 庄司 満
    p. PosterP12-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
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    【序論】

     ステロイド骨格を有する化合物は自然界に数多く存在し、さまざまな生理活性を有することが知られている。アルドステロン(1)、ヒドロコルチゾンなどの副腎皮質ホルモンは、スクアレンから立体選択的に合成されるコレステロールの位置および立体選択的酸化を経て生合成される。現在、生化学研究に向け、これら生理活性物質の量的供給および類縁体合成が望まれているが、容易に入手可能なコレステロールの位置・官能基選択的修飾は非常に困難である。一方、オキシドスクアレンから出発するステロイド骨格の一挙構築が報告されている1) が、多官能性鎖状化合物のドミノ環化による高酸化型ステロイドの合成はほとんど報告されていない。そこで我々は、予め官能基化した鎖状前駆体2のドミノ環化による、四環一挙構築を鍵反応とする生理活性ステロイドの合成手法確立を目指し、研究に着手した(Scheme 1)。

    Scheme 1

    【ラジカルドミノ環化による三環性骨格構築】

    現在までのところ、高度に官能基化された基質を用いたドミノ環化の例はほとんど報告されていない。我々は生合成経路を活用し、1ヶ所の不斉中心を足がかりとして他のすべての不斉中心の立体化学を制御しながら、ドミノ環化でステロイド骨格を一挙に構築しようと考えた。まず、四環性骨格合成に先立ち、11位に不斉中心を有する鎖状トリエン5のドミノ環化によるアルドステロン(1)のABC環部モデル4を、Zoreticらの報告2)を参考に合成することとした(Scheme 2)。環化前駆体5はア

    Scheme 2

    セト酢酸エステル6、シアノリン酸エステル72)、アルデヒド8をそれぞれ合成したのちに連結し、収束的に合成しようと考えた。

    D-マンニトール由来のアルコール93)のヒドロキシ基をベンジル基で保護した後に、酸性条件下アセタールを除去し、ジオール10を得た(Scheme 3)。酸化開裂によりアルデヒドへ変換し、シアノリン酸エステル7とのHorner-Wadsworth-Emmons反応でBC環部骨格炭素を有するトリエン11を合成した。続いて、脱保護で生じたアルコールを臭素原子で置換後、a-クロロアセト酢酸エステルでアルキル化・伸長し、環化前駆体12および13を調製した。

    Scheme 3

     

    環化前駆体12に対し、酢酸溶媒中、酢酸マンガン(III)と酢酸銅(II)を用いるZoreticらの条件2) でラジカルドミノ環化を試みたところ、環化が途中で停止した単環性化合物が主生成物であった(Scheme 4, entry 1)。非プロトン性極性溶媒を用いた場合、望むall-trans型に縮環した三環性化合物14a、14bが生成したものの、収率は低かった(entry 2)。さらに検討を重ね、エタノール中でアルドステロン型の立体化学を有する14aと縮環部の立体化学が鏡像関係にある14bを合計収率55%で得ることに成功した(entry 3)。反応温度を40 °Cに昇温すると、収率が若干向上した(entry 4)。また、基質をメチルエステル13に代えてもほぼ同様の結果であった(entry 5)。

     得られたエチルエステル14に対しKrapcho脱アルコキシカルボニル化を試みたところ、14a、14bともに反応は全く進行しなかった。

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  • 荒山 美紀, 前多 隼人, 田中 和明, 根平 達夫, 宮川 恒, 上野 民夫, 細川 誠二郎, 橋本 勝
    p. PosterP13-
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/10/01
    会議録・要旨集 フリー HTML

    分子計算の発達により、NMR化学シフトやECDスペクトルを予測することが可能になってきた1,2。今回、Helminthosporium velutinum TS28 から単離したepi-cochlioquinone D (1)、12-a-hydroxy-epi-cochlioquinone D (2) の構造決定ではこれらが重要な役割を果たした3。これら化合物はCochliobolus miyabeanusに対する抗菌活性を指標に見出し、構造活性相関ではC. miyabeanusの場合、側鎖や環構造部分について構造を厳密に区別することを明らかにした。また、H. velutinum TS28から1のポリケチド部分のみを有するprecochlioquinol D (3) を単離し、これを基にこれら化合物の生合成を考察した。

    epi-Cochlioquinone D (1) 及びその12-a-hydroxy体 (2) の構造

    1について通常のスペクトル解析を行ったところ、cochlioquinone D (4) と同一の平面構造を推定した。しかしNMRデータは4の文献値とよく似ているもののC12-C13位を中心に明確な違いがみられた。H-13のシグナル形状(d, J =8.3 Hz)、また、Ha-12及びH-13がともに14-Meとの間にNOEを観測したことなどにより、1は4の14-Meに関するジアステレオマーであると決定した。2はHa-12が水酸基に酸化されたものであると判明した。しかし、5位メチル基については、他の不斉中心から遠く、NMRスペクトルからその立体配置を議論することができなかった。

    ECDを利用した立体化学の決定

    1の5位はC2-C4位の不飽和ケトン及びC6-C11位ベンゾキノンの二つの発色団に囲まれていることから、それらのUV吸収波長領域において電子円二色性 (ECD)効果が予想される。実際に測定したところ、p→p*遷移 (K帯) に起因すると思われる200-350 nm領域において特徴的なECDスペクトルを観測した。2も同様のスペクトルを与え、水酸基の影響は無視できると考えた。合成品を含めた類縁体4,5のスペクトルを測定・比較したところ、200-350 nm 付近のECDは同一の発色団を持つ1と4に共通するもので、発色団が異なる場合 (5,6) のECDは明確に異なっていた。以上のことから1で観測したこの領域のECDは上記二つのクロモフォアによる相互作用であり、4と同じ(5S)-配置であると結論した。密度汎関数を用いた計算スペクトルもこれを支持した。興味深いことに計算した(5R)-配置のスペクトルは、この波長領域で(5S)-配置とほぼ鏡像のスペクトルであった(Figure 3、スペクトルA)。この結果は、C12‐C22位テルペン部分の絶対配置が逆であっても、ほぼ同一のスペクトルを与えることになり、旋光度による解析では全構造の絶対配置の決定には不十分であることを示している。5位についての両異性体のECD計算値では、高波長領域 (350-500 nm) で実測値との明確な違いがみられる。実際のスペクトルにおいても14a-Me体の1と5は側鎖発色団が異なるためK帯では異なったECDを示すものの、高波長領域ではどちらも正の分裂型コットン効果を与えたのに対し、14b-Me体である4及び6は、この領域では共通の負の分裂型コットンを与えることが判明した(スペクトルB、C) 。以上のことからこの領域のECDはテルペン部分の立体に由来するベンゾキノンのひずみがECD のn→p*遷移 (R帯) に反映されると考察、5がX線結晶解析により絶対配置が確定していることを考慮して、1のC12‐C22位テルペン部分の絶対配置を図に示したよ

    (View PDFfor the rest of the abstract.)

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