天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
第60回天然有機化合物討論会実行委員会
選択された号の論文の125件中1~50を表示しています
  • p. 0-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
  • 瀧澤 伊織, 小林 豊晴, 川本 諭一郎, 阿部 秀樹, 伊藤 久央
    p. 1-6-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
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    【緒言】  ポリケチド部位およびテルペノイド部位から構成されるメロテルペノイドは、その生合成経路や生理活性により注目されている二次代謝産物であり、近年メロテルペノイドの一種である tricycloalternarene (TCA) 類の単離・構造決定が多数報告されている。Guignardone H (1) および I (2) は、2012年に中国海南省に生息するマングローブ植物 Scyphiphora hydrophyllacea の内生菌より単離された新規TCA類であり、 guignardone I (2) はMRSAに対する抗菌活性を有する1)。そこでTCA類の詳細な生理活性試験のための試料供給や、構造活性相関研究を視野に入れた網羅的合成法の確立を目的とし、1 および 2 の合成研究に着手した。 【合成計画】  合成研究を行うにあたり、C2対称性を有する新規光学活性ジケトンを用いた、Knoevenagel 縮合と続く電子環状反応、すなわち縮合環化連続反応により基本骨格である三環性骨格の構築および立体選択的水素化による三連続不斉中心の構築を鍵反応とする合成経路を立案した (Scheme 1)。 Scheme 1. テルペノイドユニットであるアルデヒド 3 とポリケチドユニットである新規光学活性ジケトン 4 を別途合成し、縮合環化連続反応により三環性化合物 5 へと導く。次いで化合物 5 の立体選択的な接触水素化によるテルペノイドユニットの三連続不斉中心を構築した後、数工程の官能基変換により guignardone H (1) および I (2) を合成する計画である。
  • 須貝 智也, 奥山 優也, 臼井 駿馬, 津崎 俊, 申 在賢, 大石 宙輝, 安嶋 大智, 小山内 亮介, 久田 祥子, 福安 崇宏, 大 ...
    p. 7-12-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
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    【研究背景】 β-ヒドロキシ-α,α-二置換アミノ酸(1)は、スフィンゴファンジンF(2)や(–)-カイトセファリン(3)など生物活性天然物に広く見られる重要な構造モチーフである(Figure 1A)。これまで1の立体選択的な合成法は精力的に開発されてきたが、4種すべての立体異性体を作り分ける合成法は、数例しか報告されていなかった1)。そこで、私達は次のような基本合成戦略を立てた(Figure 1B)。不飽和エステルを有するオルトアミド4のOverman転位によって、1,4-アミドアルコール5を合成する。続いて、分子内SN2’反応を用いてオキサゾリン6または7を立体選択的に合成すれば、β-ヒドロキシ-α,α-二置換アミノ酸の立体選択的な作り分けが実現できると考えた。本発表では不飽和エステルのOverman転位と立体選択的SN2’反応によるβ-ヒドロキシ-α,α-二置換アミノ酸の合成法の開発と、これを用いたスフィンゴファンジンF(2)および(–)-カイトセファリン(3)の不斉合成を報告する。 【不飽和エステルのOverman転位】2,3) Overman転位は立体選択的に、窒素原子を導入する手法として広く利用されているシグマトロピー転位の1つである。Overman転位が不飽和エステル8に対して適用できれば、アミノ酸構造を一挙に構築できる有用な手法となる(8→9→11)。しかし、イミデート9を加熱するとaza-Michael反応(9→10)が進行するため、Overman転位は利用できないと報告されていた4)。そのため、既存の手法では保護体12へと
  • 芝山 啓允, 竹内 裕紀, 上田 善弘, 古田 巧, 川端 猛夫
    p. 13-18-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    エラジタンニン類は1910年代から知られている化合物群であり、その抗腫瘍活性や抗ウイルス活性が再注目され、近年活発な研究対象となっている。二量体エラジタンニン類の一種であるcoriariin A (1) は1986年に奥田ら1)によってドクウツギの葉から単離され、免疫賦活作用による抗腫瘍活性2)を示すことが報告されている。2000年にFeldmanら3)によって、適切に保護されたグルコピラノシド2を鍵中間体とし、初の全合成が達成された。本全合成では、全15工程の内約半数の7工程をグルコースから中間体2への変換に費やしている (Scheme 1)。一方、当研究室では糖水酸基に保護基を用いない直線的な経路での配糖体天然物の全合成に取り組み、無保護グルコースを出発物質とし、グルコースの水酸基に一切保護基を用いずに5つの水酸基を順次位置選択的に官能基化していく手法により、単量体エラジタンニンであるstrictinin 4)、tellimagrandin II 4)及びpterocarinin C 5)の短工程全合成を達成している。今回、本手法を二量体エラジタンニンで巨大な構造 (分子量 : 1875、分子径 : ~3 nm) を持つcoriariin A (1) の全合成へと適用し、グルコースから7工程で達成した。 【逆合成解析】 Scheme 2に示した逆合成解析に基づき1の合成を行うこととした。無保護グルコースとジカルボン酸3との光延条件β-選択的ダブルグリコシル化によりβ,β-ジグリコシド4を合成する。4の2つのグルコース部分では6,6’位第一級水酸基が本来高い反応性を持つが、分子認識型触媒を用いる位置選択的ダブルアシル化により、4,4’位第二級水酸基がガロイル化されたジガロイル体5を選択的に得ると想定した。その後、糖水酸基本来の反応性に基づいて順次ガロイル化を行いオクタガロイル体6へと変換し、適切に保護されたガロイル基間のジアステレオ選択的ダブル酸化的カ
  • 中山 淳, 財間 俊宏, 藤本 沙帆, Karanjit Sangita, 難波 康祐
    p. 19-24-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【緒言】 Chippiine型アルカロイドは、キョウチクトウ科Tabernaemontana属植物より単離・構造決定された複雑なかご型骨格とインドール二位隣接四級炭素を有するモノテルペノイドインドールアルカロイドである。これに属するtronocarpine (1) 1)およびdippinine B (2) 2)は、KamらによりTabernaemontana corymbosaからそれぞれ2000年及び2001年に単離・構造決定されたchippiine型アルカロイドである。これらは共通して、1) インドールに6-6-7員環が縮環した五環性かご型骨格、2) インドール二位隣接四級炭素、3) インドール窒素部分のへミアミナール構造を有している。1の生物活性はこれまでに報告がないものの、2はビンクリスチン耐性がん細胞に対して、その耐性を阻害するという興味深い生物活性が報告されていることから有望な医薬品シード分子と考えられている3)。しかしながら、これまでに1の骨格合成は行われているものの、これらの全合成は報告されていない。そこで我々は、1及び2の創薬化学研究へと展開するための基盤として、これら化合物群の初の全合成を目指し研究を開始した。 【合成戦略】 Scheme 1: Tronocarpine (1)とDippinine B (2)の合成戦略
  • 田中 将道, 中川 彰, 西 信哉, 高橋 大介, 戸嶋 一敦
    p. 25-30-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【研究背景・目的】 天然には多様な生物活性を有する糖質が存在し、その効率的合成法の開発は作用機序解明や医薬品開発に展開する上で非常に重要である。これまでに、数多くの有用なグリコシル化反応が開発され、複雑な構造を有する糖質の合成が達成されているが、それらはグリコシル化反応における位置及び立体選択性を制御するために、保護基戦略に大きく依存しており、工程数の増加や原子効率の低下が問題となっていた。そのため、保護基を必要としない、位置及び立体選択的なグリコシル化反応の開発が強く求められている。このような背景の中、演者らは、ボロン酸触媒を用いた無保護糖に対する位置及び立体選択的グリコシル化反応の開発を行った。すなわち、ドナーとして選択した1,2-アンヒドロ糖1に対し、ボロン酸と無保護糖2を複合化したボロン酸―糖受容体エステル触媒3を作用させることで、無保護糖から直接的かつ位置及び立体選択的に1,2-cis-グリコシド6が合成できると考えた(Scheme 1)。 【ボロン酸触媒を用いた無保護糖に対する位置及び立体選択的グリコシル化反応】 まず、ドナーとして1,2-アンヒドログルコース7、無保護糖アクセプターとしてD-グルカール(8)を選択し、種々のボロン酸触媒9a-eを用いてグリコシル化反応を検討した(Table 1)。その結果、p-ニトロフェニルボロン酸(9e)を用いた場合に高い反応性を示し、望む(1,4)グリコシド10が49%の収率、過剰反応による三糖12及び13がそれぞれ8%及び15%の収率で得られることを見出した(entries 1-5)。望まない三糖12及び13は、ボロン酸エステル14eとドナー7のグリコシル化反応後に生じる9員環ボロン酸エステル15eによるドナーの活性化によって副生したと考えた(Figure 1)。そこで、反応系中に水を添加することで9員環ボロン酸エステル15eを速やかに加水分解し、15eによる7の活性化を阻害できるとの仮説を立て、水共存下で本グリコシル化反応を検討した。その結果、水を5当量加えた場合に、三糖12及び13の副生を伴わずに、望む(1,4)グリコシド10が92%の高収率かつ高い位置及び立体選択性で得られる事を初めて見出した(entry 6)。  次に、アクセプターの基質一般性を検討した(Table 2)。その結果、ドナー7を用い
  • 馮 若茵, 佐藤 康治, 小笠原 泰志, 森田 洋行, 吉村 徹, 大利 徹
    p. 31-36-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    微生物の増殖に不可欠な一次代謝経路はモデル微生物を対象に解明され、普遍的に存在すると考えられてきた。しかし、多種多様な微生物のゲノム配列が決定されるにつれ、一次代謝に関与する遺伝子の一部が欠落した微生物の存在が明らかになった。これら微生物は、欠損遺伝子に対応する化合物の要求性を示す場合も多いが、近縁の微生物も同じ経路の遺伝子を欠落している場合は新規な生合成経路の存在が示唆される。実際に我々は、ピロリ菌に代表される一部の微生物では生育に必須なメナキノンが既知経路とは全く異なる経路で生合成されること1)、また、葉酸の構成成分であるパラアミノ安息香酸の生合成に関与する新規遺伝子(酵素)も見出した2)。本研究では、同様の手法でD-グルタミン酸(D-Glu)の生成に関与する新規酵素を見出したので報告する。 ペプチドグリカンの新規生合成酵素の発見 ほとんどの微生物はペプチドグリカンを有する。ペプチドグリカンの1ユニットであるUDP-N-アセチルムラミン酸(UDP-MurNAc)にペンタペプチドが結合した中間体は、6つの酵素によりUDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)から生合成される(図1)。最初にMurAとMurBによりUDP-GlcNAcからUDP-MurNAcが生成し、次いでMurCからMurFの4つの酵素により、順次L-アラニン(L-Ala)、D-Glu、メソジアミノピメリン酸(またはL-リシン)、D-Ala-D-Alaが付加される。この際に用いられるD-Gluは、多くの場合、Glu racemaseにより供給されるが、一部の細菌ではD-amino acid aminotransferaseによりD-Alaと2-ケトグルタル酸から生合成される。しかし筆者らは、Xanthomonas属とXylella属細菌のゲノムデータを精査した結果、全てのMur遺伝子が存在するにもかかわらず、D-Gluを供給する上記2つの遺伝子を見出せなかった。したがって、これらの菌株ではD-Gluは新規酵素・経路で供給されると考えられたことから、その解明を行った。  生育にD-Gluを要求する大腸菌変異株を宿主に用い、X. oryzae ゲノムDNAを供与体としたショットガンクローニングを行った結果、XOO_1319とXOO_1320の2つの遺伝子が相補に必須であることが分かった。前者は機能未知であったが、後者はMurD(UDP-MurNAc-L-AlaにD-Gluを付加する酵素)と相同性を有していた。したがって、XOO_1319は新規なGlu racemaseと予想された。そこで、XOO_1319の組換え酵素を調製しL-Gluを基質に様々な反応条件で解析を行ったが、活性を確認することはできなかった。また、MurDと相同性を有するXOO_1320に関しても、予想された活性を有するか組換え酵素を用いて検証したが、比較対照に用いた大腸菌由来のMurDに比べ微弱の活性しか検出できなかった(図2)。 そこで、上述した相補実験でXOO_1319とXOO_1320の両者が相補に必須であった結果、およびUDP-MurNAc-L-AlaとL-Glu はD-Glu要求大腸菌が供給可能であることを踏まえ、両組換え酵素と両基質を用いて反応を行ったところ、著量の
  • 岸本 真治, 原 幸大, 石川 格靖, 山田 陽香, 恒松 雄太, 橋本 博, Tang Yi, Houk Kendall N., 渡辺 賢 ...
    p. 37-42-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    シクロペナーゼはcyclopenin (1) をviridicatin (2) へと変換する糸状菌酵素として1967年にLucknerによって存在が提唱された酵素である (図1) 1。その正体は未解明のままであったが、近年我々はpenigequinoloneの生合成に関与するヘモシアニン類似タンパク質PngLがシクロペナーゼであることを見出し本討論会で報告している 2, 3 。しかし、ヘモシアニンに似た酵素が二次代謝に関わっている例は他になく、どのようなメカニズムで骨格変化を伴う反応を触媒しているか不明であった。今回、このシクロペナーゼの反応機構について各種実験と計算化学によって検証したのでこれを報告する。 シクロペナーゼの生化学的解析 シクロペナーゼの生化学的な解析のため、PngLおよびAspergillus nidulansが有するホモログAsqIをそれぞれ大腸菌に合成させることを試みた。両遺伝子ともに大腸菌での発現に成功し、その菌体破砕液を用いて酵素活性を調べたところ、PngLは4’-methoxycyclopenin (MCPN, 3) のみを、AsqIは1と3の両方を基質として対応する2および4’-methoxyviridicatin (MVDT, 4) へと変換した。続いて酵素反応の詳細な情報を得るべく両酵素の精製を試みた。PngLは各種発現ベクターの検討を行っても溶解性に乏しかったため少量の獲得にとどまった。一方、AsqIは6xHisタグを利用したアフィニティ精製後、ゲル濾過クロマトグラフィーに付すことで酵素活性を保った状態で必要量を精製することができた。 シクロペナーゼであるAsqIはヘモシアニンに類似したアミノ酸配列を有している。ヘモシアニンとは甲殻類や軟体動物の酸素運搬タンパク質であり、金属結合
  • 淡川 孝義, 藤岡 拓真, 張 驪駻, 星野 翔太郎, 胡 志娟, 橋本 絢子, 小曽根 郁子, 池田 治生, 新家 一男, 劉 文, 阿部 ...
    p. 43-48-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    ポリケタイド、非リボソームペプチドは医薬品資源の宝庫として知られるが、その生合成酵素は巨大なモジュール酵素(複数の触媒ドメインが単一のポリペプチドに存在した構造)であることが多く、酵素の反応改変による新規化合物生産は容易ではない。モジュール酵素は、個々の触媒ドメインの基質特異性、中間体の受け渡しが厳密に制御されており、モジュール、ドメインを組換えた場合には、生成物が生成しない、またはその収量が大きく低下する場合が多く知られている。この問題を打破するためには、触媒ドメインあるいはモジュールの構造情報による、触媒メカニズムの解明が必要であるが、モジュール酵素は分子量200 kDaを超える巨大タンパク質であり、X線結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡などでの構造解析は容易ではなく、現在その解析技術の発展が待たれている状態である。本研究では、いまだに酵素エンジニアリングの報告例が少ない、非リボソームペプチド合成酵素-ポリケタイド合成酵素(NRPS-PKS)をターゲットとして、その改変による新規物質生産モジュール酵素の創出を目的とした。 医薬品資源としてのポテンシャルを秘めるantimycin化合物群のモジュール改変による新規類縁体合成に着手した。本化合物群は、ジラクトンantimycin、トリラクトンJBIR-06、テトララクトンneoantimycinなど、共通のホルムアミドサリチル酸(FSA)のスターター基質から合成されるものの、ラクトン環サイズの異なるデプシペプチド構造を持つ(図1)。これらの合成酵素はそれぞれアミノ酸相同性が高く、いわば”天然の改変酵素”と呼ばれるものである。これらの触媒ドメインやドメイン、モジュール間の繋ぎ目となる、リンカー、ドッキングドメイン(モジュール間を連結するドメイン)の配列を詳細に比較することで、モジュール、ドメインの組換えが円滑に進行することが期待された。そこで、本研究では、それぞれの生合成酵素群のアミノ酸配列比較に基づく機能改変によって、新規antimycin化合物の合成を試みた。それぞれの化合物の生合成遺伝子クラスターはBACベクターpKU5181,2にて放線菌発現宿主に導入し、それぞれの目的に応じて遺伝子組換え手法を用いて改変を行い、モジュール構造を作り変えることで物質生産を行った。 図1 Antimycin化合物群の化学構造
  • 尾崎 太郎, 山根 桃華, 田澤 聡大, 叶 英, 劉 成偉, 小笠原 泰志, 大利 徹, 南 篤志, 及川 英秋
    p. 49-54-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    テルペノイドは8万以上の化合物が知られる構造多様な天然有機化合物の一群である。これまでに我々は、麹菌を宿主とする生合成遺伝子群の異種発現によってaphidicolinやpenitrem A、terpestacin等様々な糸状菌由来テルペノイドの生合成経路の解明や酵素的全合成を達成してきた1。物質生産能に優れた麹菌を宿主とすることで、天然有機化合物やその誘導体(生合成中間体)を高い収量で得ながら、生合成経路を解析することが可能となる。本討論会では二種の真菌由来ジテルペンを例として麹菌異種発現系による天然物生合成について議論する。 1. 植物感染時に生産される新規brassiciceneの酵素的全合成  糸状菌Pseudocercospora fijienesisはバナナの病害の原因菌として知られている。本菌は宿主植物への感染時に複数の二次代謝産物生合成遺伝子群を転写活性化する2。それらの二次代謝産物は糸状菌が天然有機化合物を生産する真の意義を知る上で好適な研究対象であるといえ、本研究ではその中のジテルペン生合成遺伝子クラスターに着目した。本クラスター (以下bscクラスター) の各遺伝子産物は、brassicicene (BC) 生合成酵素3と70%以上の高い相同性を示し、BC 類縁体の生合成に関与することが予測された。BCは、Alternaria brassicicolaが生産するジテルペンであり、これまでに10種以上の類縁体が単離されている4。また、fusicoccin Aやcotylenin Aと同様の5-8-5員環骨格を有するbrassicicene A (BC-A) の他に、BC-Dのような5-9-5員環骨格等も知られる構造多様な化合物群である (図1) 。従来5-8-5員環骨格の12位にカルボカチオンが生じた後Wagner-Meerwein転位が進行することが提唱されていたが (図2) 5C、その詳細は不明であった。本研究では特にBCの構造多様性創出において鍵となるこの反応の解明を目指し、研究を行った。  まず、先行研究に基づき生合成経路の初期段階を再構築し、生合成中間体の異種生産を試みた4,5。麹菌NSAR1株に対し、fusicocca-2,10(14)-diene (FD) 合成酵素遺伝子bscA及び2種のP450遺伝子bscBとbscCを導入したところ、期待通りFD-8,16-diol (1) が合成された。さらに、この形質転換体にジオキシゲナーゼ遺伝子bscDとメチル基転移酵素遺伝子bscEを導入したところ、BC類の共通中間体と考えられる既知
  • 松田 研一, 小林 雅和, 佐野 文映, 倉永 健史, 高田 健太郎, 松永 茂樹, 脇本 敏幸
    p. 55-60-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    カテプシンB阻害物質としてStreptomyces属海洋放線菌より単離された環状オクタペプチドsurugamides A-E (SA-SE) は、ふたつの非リボソーム型ペプチド合成酵素(NRPS) 、SurA/SurDによって生合成される1,2,3 (Fig 1)。さらに、これらNRPS遺伝子の間には、別の2つのNRPS、SurB/SurCをコードする遺伝子が挿入されており、SurB/SurCはSA-SEとは全く異なる直鎖状デカペプチドsurugamide F (SF) を生合成する2,3 (Fig 1)。NRPSは、複数ドメインからなる巨大多機能酵素であり、通常、タンパク質C末端に位置するTEドメインがペプチド鎖チオエステル中間体の放出および環化を担う。この他にC末端のCドメインやRドメインがチオエステル中間体の放出を担う例は知られているが4、SurA/SurD, SurB/SurCはいずれもC末端にこれらのドメイン欠いたTE-less NRPSであり、生合成中間体の環化放出機構は全く未知の状況である。そこで本研究では、surugamide類生合成における中間体ペプチド鎖のNRPSからの環化を伴った放出機構を明らかにすることを目的とした。 Fig. 1 Surugamide類の化学構造及び生合成遺伝子クラスター
  • 村瀬 裕貴, 野口 幹晴, 脇坂 元太郎, Wu Ting, 佐々木 茂貴
    p. 61-66-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【序論】  Chromomycin A3 (CMA3) はStreptmyces griseusから単離・精製されたaureolic acid型の抗腫瘍活性物質である(Fig. 1)。Mg2+などの二価金属イオンを介して形成されるCMA3二量体は、GC-richな二本鎖DNAマイナーグルーブに強く結合することで、DNA複製やRNAへの転写を阻害する[1]。以前は、抗がん剤として臨床使用されていたが、重度の副作用から使用が停止された経緯がある。しかしながら、DAPIなどの一般的なAT選択的マイナーグルーブ結合分子とは異なり、CMA3はGC選択性を有することから、現在もCMA3のDNA結合解析は精力的に研究されている。一方で、我々はDNA繰り返し配列に結合性を示す分子の開発を目指している。繰り返し配列は正常ゲノム中にも存在するが、この繰り返しの異常伸長により疾患を引き起こすことが知られている。このような背景のもと、我々はCMA3のDNA 繰り返し配列に対する結合特性に興味を持った。本研究ではDNA 繰り返し配列に対する同時結合性を評価するアッセイ法を独自に構築したが、興味深いことに、CMA3はDNA 繰り返し配列に対する同時結合性を示すことが明らかになった。そこで、本研究ではCMA3の分子構造をモチーフとした新規合成リガンド開発について検討し、DNA 繰り返し配列に選択的に集積する低分子リガンドを見出すことに成功した。 【同時結合性を評価可能なアッセイ法の開発】  CMA3のDNA結合は、Mg2+錯体形成、DNAとの複合体形成、DNAのコンフォメーション変化を順に伴うため、等温滴定型熱量測定(ITC)などによる結合解析が非常に複雑化する。一般的なフットプリンティング法ではDNA鎖の一か所の切断を観測するため、同時結合性の評価は困難である。そこで我々は、連続するDNA結合部位に対するリガンド結合性を簡便に評価可能な、制限酵素阻害アッセイ法を開発した (Fig. 2)。制限酵素は特定の塩基配列を認識し特異的に切断するエンドヌクレアーゼである。結合分子がDNAの酵素認識部位に結合していると制限酵素のDNAへの接近が阻害されDNA切断が阻害される。本研究ではCMA3結合配列d(CGCG)2を複数個もつDNA鎖を基質として用い、この部位を切断する制限酵素Acc IIの切断阻害を観測し
  • 坂本 渓太, 袴田 旺弘, 岩﨑 有紘, 末永 聖武, 津田 正史, 不破 春彦
    p. 67-72-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【序論】  海洋渦鞭毛藻Amphidinium種は、構造的に複雑で多様な二次代謝産物を生産することが知られている。特に、本種が生産する12〜29員環のマクロリド化合物は、骨格の複雑性と多様性に加え、培養がん細胞に対する顕著な増殖抑制活性を示し、構造・合成・活性のあらゆる面で注目を集めている1。イリオモテオリド-2a(提出構造式1)は、沖縄県西表島の海底砂泥に生息する渦鞭毛藻Amphidinium種の培養藻体(HYA024株)から単離、構造決定されたマクロリドである2。本天然物の相対配置ならびに絶対配置は、JBCA法3とROE相関を基盤とした詳細な立体配座解析、および、新Mosher法により帰属され、23員環の大環状マクロリド骨格中に2つのテトラヒドロフラン環が存在し、さらに不斉中心の密集した側鎖部分構造をもつ非常に特徴的な構造であることが報告された。さらに本天然物は、複数の培養がん細胞に対する低濃度での増殖抑制活性と担がんマウスにおける抗腫瘍活性も認められており、非常に興味深い天然物である。  我々は今回、イリオモテオリド-2aの提出構造式1とその立体異性体の全合成により、本天然物の相対配置を改訂するとともに、キラルHPLC分析により絶対配置を決定したので詳細を報告する。 【合成計画】  我々は1の全合成に向け合成計画を以下のように定めた(Figure 1)。すなわち、ビニルヨージド2とオレフィン3を鈴木-宮浦カップリングで連結後、カルボン酸4とエステル化し、最後に閉環メタセシス反応を行うことで1を収束的に得ることとした。全合成終盤で各フラグメントを連結する本合成戦略は、1の実践的な合成を可能するだけでなく、多様な構造類縁体合成にも展開が可能である。 Figure 1. 合成計画 【ビニルヨージド2の合成】 市販原料よりそれぞれ7工程で得た化合物5および6を第二世代Hoveyda–Grubbs触媒4で連結し、得られたエノン7をCorey–Bakshi–Shibata還元5することで、アリルアルコール8を高立体選択的に得た。化合物8をSharpless不斉エポキシ化とヒドロキシ基の保護により化合物9へと導き、続いてPMB基の除去と酸処理を施すことでテトラヒドロフラン10を得た。さらに分子内環化で生じたヒドロキシ基をメシル化した後、メタノール中塩基処理することでベンゾイル基の除去を伴った分子内求核置換反応6を行い、ビステトラヒドロフラン11へと誘導した。その後9工程の官
  • 河崎 悠也, 瀬戸 祐樹, 河原 慎太朗, 井川 和宣, 友岡 克彦
    p. 73-78-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    はじめに  近代の生物有機化学や機能性材料の研究においては,クリック反応と総称される選択的かつ効率的な分子連結法が重要な役割を果たしている1.末端アルキンとアジドの付加環化反応(Huisgen反応)はその代表例であり,従来から幅広く利用されてきた2.しかしながら,その反応加速には細胞毒性の高い銅触媒を必要とすることが生細胞を対象とする研究の障害となっていた3,4.これに対して最近我々は,銅触媒がなくともアジドとのHuisgen反応が迅速に進行する含窒素9員環アルキンDACN: 4,8-diazacyclononyne (1)の開発に成功した(式1)5.1は,高いクリック反応性とともに,優れた化学的,熱的安定性を併せ持ち,また,その環上に種々の官能基を導入することができる.  今回,1のさらなる応用展開を目指して,その効率的ワンポット合成法を開発するとともに,生体分子の化学修飾に有用で,かつ,アルキン部位でのHuisgen反応と相互に干渉しない分子連結部位を導入した多分子連結型DACN [DACN-MMC: DACN derived Multi-Molecule Connector (2)]を新たに設計して,その合成と応用について検討した(式2). DACNのワンポット合成法の開発6  我々は初期研究において,1を1) 2-ブチン-1,4-ジオールのコバルト錯体化,2) BF3·OEt2を用いた1,3-プロパンジアミン誘導体との二重Nicholas反応,3) 硝酸アンモニウムセリウム (CAN)によるコバルト部位の除去,の3工程で合成していたが,各段階で精製を要するために非効率であった(式3-1).これを改善するために今回,1のワンポット合成を試みたところ,窒素上の保護基が異なる1a-1c,側鎖にエステ
  • 山本 智也, 梅川 雄一, 中川 泰男, 鈴木 大河, 山上 正輝, 土川 博史, 花島 慎弥, 村田 道雄, 松森 信明, Seo San ...
    p. 79-84-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    アンフォテリシンB (AmB 1, 図1a) は放線菌Streptomyces nodosusが生産する抗真菌剤であり、真菌症の治療薬として広く用いられている。AmBの薬理活性はイオン透過性チャネル複合体の形成に由来すると考えられており、ヒト細胞膜中のコレステロール(Chol, 図1a)よりも、真菌特有のエルゴステロール (Erg, 図1b) と選択的に会合し、樽板型モデルのチャネル複合体 (図1b) を形成することで選択毒性を示すと考えられている1)。 図1 (a)AmBおよびステロールの化学構造; (b)樽板モデル.  我々は、AmBの作用機構の全容解明を目指して、固体NMRを用いたチャネル複合体の構造解析を行っている。これまでの分子間距離情報を基盤とした構造解析では、AmBとErgに13Cまたは19F標識を導入し、REDOR測定により標識核間距離を得ることで、分子間距離を測定してきた2)。これらの研究によって、第57回の本討論会ではAmB/Erg二分子複合体の構造解析について報告している3)。   一方、これまでの分子間距離情報を基盤とした構造解析では得られる情報が限定されるという問題があった。分子間距離情報に基づいた解析では、チャネルを構成する分子の相対位置を解明できる一方で、チャネル複合体の脂質二重膜に対する配向を取得することは困難である。AmBの配向はチャネル複合体構造を決定する上でも、必要不可欠な情報である。特に近年新たな活性モデルとして提唱されているステロールスポンジモデル (図2a) ではAmBが膜法線に対して垂直に配向するが、従来の樽板型モデル (図2b) ではほぼ平行に配向するため、AmBの配向を測定することで、これらのモデルを明確に区別できる。またAmBのβグリコシド結合まわりの配座は自由度が高く、チャネル複合体の構造解析やステロール選択性の解明において必要不可欠な情報であるが、分子間距離情報を元にこの配座を推定することは困難であった。過去のMD計算や構造活性相関から、マイコサミン部分の立体配座がチャネル形成に重要であること、およびマイコサミン部分がステロールと相互作用し、βグリコシド結合を固定することで活性やステロール選択性を制御しているこ
  • 藤川 紘樹, 鈴木 苑実, 永瀬 良平, 池田 汐里, 森 祥子, 野村 薫, 西山 賢一, 島本 啓子
    p. 85-90-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【研究背景】 膜タンパク質は、全ての生物の細胞膜に存在しており、細胞内外の情報伝達や代謝物の輸送など基本的な生命現象に深く関与している。近年、我々は大腸菌内膜における膜タンパク質の膜挿入に必須の因子として、新規な糖脂質MPIase (Membrane Protein Integrase)を発見した1)。MPIaseは、N-アセチル-4-アミノフコース(Fuc4NAc)、N-アセチルマンノサミンウロン酸(ManNAcA)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の3種のアミノ糖からなるユニットが10回程度繰り返された糖鎖構造に、ジアシルグリセロール(DAG)がピロリン酸を介して結合した構造を持ち、GlcNAcの6位水酸基は全体の1/3程度O-アセチル(Ac)化されていた2)。(図1) 本研究では、MPIaseの最小活性構造、および膜タンパク質膜挿入機構の解明を目的に、MPIaseの最小構成単位である3糖ピロリン脂質[mini-MPIase-3]およびその類縁体の化学合成を行い、それらの膜タンパク質膜挿入活性を評価した。 【MPIase類縁体の合成】 mini-MPIase-3の合成では、不安定なピロリン酸を合成の終盤に形成する事とし、3糖リン酸体とリン脂質試薬の縮合反応で構築した。(図2) 3糖の保護基には、合成の最終段階でGlcNAc6位のAc基、DAGおよびピロリン酸存在下、温和な条件で脱保護可能なBn系の保護基を用いる事とした。3糖は比較的構築しやすいフコサミニド結合で分割し、Fuc4N
  • 河内  元希, 梅宮  茂伸, 谷口  透, 門出  健次, 林  雄二郎
    p. 91-96-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景】 ラタノプロスト(1)は、ファイザー社により開発されたプロスタグランジンF2αの誘導体であり、緑内障及び高眼圧症の治療薬として用いられている。その構造的な特徴として、五員環上に4つの連続する不斉点、及びω鎖上に不斉点を有することが挙げられる。本発表では、有機触媒を用いた不斉α-アミノオキシ化によるω鎖上の不斉点構築及び形式的不斉[3+2]付加環化反応による光学活性シクロペンタン骨格の構築、またその後の五員環上の4つの連続する不斉点の構築を基盤とするラタノプロスト(1)の全合成について報告する。 【鍵反応の説明】 まず、今回の合成の鍵反応について説明する。有機分子触媒は水や空気に安定であり取り扱いが容易であるという点から、近年有機触媒を用いた反応開発が盛んに行われている。当研究室においても有機触媒を用いた反応開発を行っている。 1) 当研究室が独自に開発したジフェニルプロリノールシリルエーテルを用いたスクシンアルデヒドとニトロアルケンの形式的不斉[3+2]付加環化反応による光学活性シクロペンタン骨格構築法を開発し(式1)1)、その反応を鍵とするPGE1メチルエステルの3ポット合成を達成した2)。 2) プロリンを触媒とするアルデヒドとニトロソベンゼンの不斉α-アミノオキシ化反応が高いエナンチオ選択性で進行することを2003年に報告した3)が、2017年にはプロリンカリウム塩を触媒として用いると、プロリンを用いた場合と比べ反応性が格段に向上することを見出した(式2)4)。 一方で、当研究室では入手容易な化合物からの有用な骨格への変換反応法の開発も行っている。 3) アルドール反応と続くWittig反応により容易に入手可能なδ-ヒドロキシエノンに対し、Bi(OTf)3及びNaClO4存在下、アルデヒドを作用させると立体選択的に1,3-syn-ジオール骨格が合成できることを報告した(式3)5)。 4) ニトロアルケンに対し酸素雰囲気下でDABCOを作用させるとNef反応が進行し、α,β-不飽和ケトンが得られることを見出した(式4)6)。
  • Taejung Kim, 松平 壮, 松下 昇平, 土井 剛, 廣田 真司, Young Tae Park, Jungyeob Ham, 犀 ...
    p. 97-102-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    パクタマイシン(1)1は1961年、Argoudelisらのグループにより放線菌Streptomyces pactum var. pactumの培養液より単離され、1972年にその誘導体のX線結晶構造解析により絶対立体化学が決定された抗生物質である。1は、長年にわたり生物活性に関する研究が数多く報告されており、in vitro及びin vivoにおける抗癌、抗マラリア、抗ウイルス活性はもとより、タンパク合成阻害による強力な抗菌活性を示す代表的な天然物として報告されている。しかし、次々と興味深い生物学的研究がなされているものの、正常細胞に対する強い毒性により臨床的な研究には用いられていないことから、その類似の骨格を有する類縁体及び合成中間体を含む誘導体からの新規有用物質の探索研究が強く求められている。我々はその第一段階として、1と類似の骨格を有しながら培養液からは極微量でしか得られないパクタラクタム(2)2に着目した。2は未だ全合成の例は報告されておらず、詳細な生物活性に関する研究が行われていないため、今回独自の合成戦略に基づき2の全合成研究に着手した。2の全合成を達成するためには、最も難関とされる3連続含窒素官能基を有する八置換シクロペンタン骨格の構築をいかに効率的に行うかが重要である。まず我々は左側のα-アミノアルコールに相当する部分(C1, C7, C8)がアミノ酸であるL-トレオニン(3)より誘導できるオキサゾリン4の構造と一致することに注目し、出発原料として3を用いることにした(Scheme 1)。そして、アンチ型の窒素官能基を持つ二つの不斉炭素(C2, C3)は3のメチル基の立体環境を利用して、5から立体選択的にアジリジン6へ導いた後、位置選択的アジリジンの開環反応を行うことでコア化合物7を構築できると考えた。まず、 望む立体化学を有する含窒素不斉四置換炭素及び中心骨格となるシクロペンタンの構築について次のように行った。 Scheme 1. Synthetic strategy of pactalactam (2) from L-threonine (3). 1.シクロペンタン中心骨格の構築 最初にL-トレオニン(3)より既知の工程にて得られるオキサゾリン43に対しアルデヒド8とのカップリングを行い、分離可能なアルコール9と10を1:1で得た
  • 太田 英介, 三瓶 悠, 臼井 一晃, 大沼 可奈, 越野 広雪, 長澤 和夫, 西山 繁, 平井 剛, 袖岡 幹子
    p. 103-108-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景・目的】 光照射により反応性活性種を生じる光反応性基を利用して、標的生体分子と生物活性分子との間に共有結合を形成する光親和性標識法は、天然物の標的探索において広く用いられる手法である1)(Figure 1)。本手法は、生物活性分子と標的分子の可逆的な相互作用を、アミノ酸残基非特異的に共有結合で捕捉でき、また生細胞中でも実施可能であることが特徴である。この際、天然物に光反応性基を導入した分子プローブを準備する必要がある。光反応基としては、反応性に優れた芳香族アジド1、芳香族ジアジリン2、ベンゾフェノン3などが汎用されており、多くの標的同定に寄与してきた。しかしこれらの疎水的で嵩高い光反応性基は、しばしば天然物自体の性質を変化させてしまい、本来標的としないタンパク質との非特異的な結合形成を誘発する。その結果、真の標的が非特異的に結合したタンパク質に埋もれてしまい、標的探索が困難になることもあった2)。そこで我々は、低疎水性でよりコンパクトな光反応性基を開発すれば、非特異的標識を軽減でき、(特に親水性の)天然物の標的同定研究に貢献できると考えた。 Figure 1. 光親和性標識の概略と代表的な光反応性基1-3 【α-ケトアミドの設計指針と光反応性基としての妥当性の検証】 α-ケトアミドの設計指針 我々は、ベンゾフェノン3のような繰り返し励起可能な性質と高い標識能力を持ち、かつコンパクトで疎水性の低い光反応基の開発を目指した。そこで、タンパク質に損傷を与えない350 nm以上の波長で励起可能で、一級アミンのアシル化によって容易に生物活性物質に連結できるα-ケトアミド4に着目した3)(Figure 2)。α-ケトアミド4は、3と同様の機構、すなわち光励起で生じるビラジカル様中間体6に、近傍のタンパク質のH原子が移動し、生じたラジカルが炭素ラジカル7と結合形成することで、光親和性標識が達成可能と考えた。しかし、α-ケトアミド4のケト基は求電子性が高く、光不活性なハイドレート5を生成する4)、もしくは非特異的に求核性アミノ酸残基とヘミアセタール、ヘミアミナールを形成し結合する可能性がある。またこれまでの光化学研究5)から、α-ケトアミドから生じるビラジカル様中間体6は短寿命であり、電子移動してzwitterion 9を生成し分子内環化、もしくは分解することが予想された。実際、これまでにα-ケトアミド4を光反応性基として利用
  • 北 将樹, 武仲 敏子, 別所 学, Andres D. Maturana, 木越 英夫, 大舘 智志, 上村 大輔
    p. 109-114-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1.はじめに 新規神経毒の化学的解明は,薬理学,神経科学,精神医学など,広範な生命科学の発展に寄与する.自然界からは様々な生物から有毒物質が見いだされているが,毒を持つ哺乳類は非常に稀であり,食虫目トガリネズミやソレノドン,単孔目カモノハシなどしか知られていない.またこれらの毒は稀少かつ不安定であり,活性物質は長らく未解明であった.トガリネズミは唾液に毒を持ち,ミミズなど獲物を麻痺させる小型哺乳類である.北米に棲息するブラリナトガリネズミBlarina brevicaudaは特に強い毒を持ち,カエルやネズミなど脊椎動物も餌としてしまう(図1).演者らはこれまでに,この種の顎下腺から脊椎動物に対して麻痺と痙攣を引き起こす致死毒ブラリナトキシンを発見し,その構造を分子量35 kDaの糖タンパク質と決定した1).ブラリナトキシンはセリンプロテアーゼの一種カリクレインと高い相同性を示し,またセリンプロテアーゼ阻害剤によりその酵素活性およびマウス致死活性が阻害されることから,致死毒の本体であると結論づけた. 一方で,ブラリナトキシンを獲物に注入してから毒性を示すまで数時間以上かかること,およびトガリネズミが主な餌とするミミズや昆虫など無脊椎動物には効かないことから,この動物の唾液成分にはタンパク毒素とは異なる麻痺物質が含まれると予想し,顎下腺抽出物の分離を再検討することとした.
  • 伊藤 誉明, 尾山 公一, 青木 弾, 福島 和彦, 吉田 久美
    p. 115-120-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【はじめに】 アジサイ(Hydrangea macrohpylla)の花と目される部分はガク片に相当し、花色は青から赤色まで七変化する。20世紀半ばまでに、酸性土壌で育てると土壌中のアルミニウムイオン(Al3+)が溶解して根から吸収されて青色になることや1)、ガク片の有機成分が明らかにされた2,3)。いずれの色のガク片にも、全く同じ構造のアントシアニン(3-O-グルコシルデルフィニジン, 1)が含まれ、助色素として5-O-カフェオイルキナ酸 (2)、5-O-p-クマロイルキナ酸 (3)、および3-O-カフェオイルキナ酸 (4)が存在する (図1)。我々は、ガク片をプロトプラスト化して、着色細胞の液胞pH測定、色素、助色素及びアルミニウムイオンの定量分析を行い、成分の組成比と液胞pHのわずかな違いが発色に大きく影響することを既に報告した4-6)。アジサイの青色発色にはアントシアニン、5-O-アシル化キナ酸、およびAl3+の3成分が必要である。しかし、これら成分の組成比や青色超分子錯体の化学構造は不明のままであった4-8)。今回、再構築した青色溶液の
  • 森下 陽平, 伊藤 芽衣, 青木 優, 浜口 昌武, 張 恵平, 清水 公徳, 浅井 禎吾
    p. 121-126-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    近年、ゲノム解読技術の進展にともない生物のゲノム情報が安価かつ短期間で入手できるようになると、遺伝子情報の蓄積が急激に増加するようになった。それにともない、二次代謝物とリンクしていない膨大な未利用生合成遺伝子の存在が明らかになってきた。これら膨大な未利用生合成遺伝子資源を天然物へと変換することが、21世紀、すなわちポストゲノム時代の天然物探索研究の大きな課題である。  糸状菌は、これまでに数多くの有用天然物を輩出してきた重要な微生物資源であり、また、ゲノム上には数十から100近くの二次代謝物生合成遺伝子クラスターが存在し、その大半が未利用遺伝子である。これらのことから、当研究室では、糸状菌を天然物探索における魅力的な遺伝子資源として着目し、糸状菌の未利用生合成遺伝子を活用するポストゲノム型天然物探索を実施している(図1)。ポストゲノム型天然物探索は、植物や昆虫から分離した糸状菌に対して、①次世代シーケンス解析によるドラフトゲノム情報の取得、②ゲノムマイニングによる標的二次代謝物生合成遺伝子クラスターの探索、③標的遺伝子クラスターの過剰発現ベクターの作製と麹菌への導入、④遺伝子導入麹菌の培養と単離•構造決定からなる。新規天然物が得られるかどうかはどのような生合成遺伝子クラスターを標的とするかが重要である。当研究室では、修飾酵素遺伝子の組み合わせや骨格形成遺伝子の新規性を指標に、新規天然物をコードすると予想される遺伝子クラスターを選択している。当研究室で志向するポストゲノム型天然物探索と従来の天然物探索では、これまで探索資源として扱われてきた糸状菌を遺伝子供与体として扱い、異種宿主 (本研究では麹菌) に天然物を生産させる点で大きく異なる。第59回天然有機化合物討論会では、糸状菌ジテルペノイド類を標的としたポストゲノム型天然物探索について報告した1。本研究では、糸状菌マクロライド天然物のポストゲノム型探索について報告する。
  • 原 康雅, 荒井 緑, 原 昇子, 小林 菜摘, 當銘 一文, 小松 かつ子, 矢口 貴志, 石橋 正己
    p. 127-132-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    放線菌は多様な構造と活性をもつ二次代謝産物を産生する.ゲノム解析技術の飛躍的向上により,放線菌の二次代謝産物生合成遺伝子の大部分は二次代謝産物を産生せずに眠っていることが明らかとされた.そこで,新たな二次代謝産物を得るため,培地条件の検討,薬物刺激,異種発現などにより,休眠遺伝子の活性化が行われている.最近では,異なる菌株同士による「微生物-微生物」間の相互作用を利用した共培養法により休眠遺伝子を活性化し,新たな二次代謝産物を探索する試みなどが報告されている2).  放線菌の一種であるNocardia属はグラム陽性細菌であり,その多くが病原性をそなえ,ヒトでは肺や皮膚,脳などに日和見感染を引き起こす.本属は感染により免疫細胞などの生体細胞と相互作用をもつと考えられる.そこで,Nocardia属が動物細胞に感染する状態を模倣し,本属を動物細胞存在下で培養(共培養)することで,相互作用により本属が新たな化合物を産生することを期待して研究に着手した.このような「微生物-動物細胞」の共培養による天然物探索についてはこれまで報告がなかった.  一方,Nocardia属放線菌は近年のゲノム解析により,Streptomyces属と同程度の二次代謝産物生合成遺伝子群をもつことが明らかにされたが,Streptomyces属ほど天然物探索研究は進んでいない3).そこでNocardia属は天然物探索のための有用な未開拓資源と考え,生合成遺伝子活性化の一方法として,Nocardia属を様々な培地で培養(単培養)し,新規天然物の探索を試みた.  本討論会では,上記のような方法に基づく病原性放線菌Nocardia属からの新規天然物の探索について報告する. 1. 共培養法 1) 動物細胞との共培養法の条件設定  千葉大学真菌医学研究センターが保有する基準株を含む76種のNocardia 属放線菌のドラフトゲノムの解析を行い,感染因子として報告のあるnocobactin NA生合成遺伝子の特定のドメイン配列を指標に系統樹を作製し,6種を選別した.Nocardia属は人体に感染した際,マクロファージによる補食を受ける.そこで共培養に用いる動物細胞は,感染初期の状態を模倣する目的でマウスマクロファージ様細胞(J774.1)株を使用した.選別菌株6種について,動物細胞J774.1存在(共培養)および非存在(単培養)下,多様な条件下で培養を行い,得られた抽出物をLC-MSで分析した.その結果,J774.1細胞存在下,Nocardia tenerifensis IFM 10554T株を培養した抽出物に共培養特有のピークが複数観察されたことから,本菌株を選択し大量培養を行った.共培養時の菌株と動物細胞数の比率は抽出物のLC-MSの結果より,modified Czapek-Dox(mCD)培地において菌数:動物細胞数=10:1,DMEM+10%FBS培地において菌数:動物細胞数=5:1と決定した.
  • 中川 優, 土井 崇嗣, 竹腰 清乃理, 菅原 貴弘, 赤瀬 大, 相田 美砂子, 都築 麗江, 渡邉 泰典, 戸村 友彦, 小鹿 一, 五 ...
    p. 133-138-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    近年,糖鎖は多彩な生物学的機能を持つことが明らかになり,核酸やタンパク質と並ぶ第三の生命鎖として脚光を浴びている。それに伴い,創薬リードあるいは糖鎖機能を解析するツール分子として糖鎖に結合する低分子化合物の需要が急速に高まっている。しかしながら,生物学的に重要な糖鎖の主要構成糖であるD-mannose (Man) と特異的に結合する人工分子の開発に成功した例はない。  その一方で,天然にはManを認識する低分子化合物が存在する。Pradimicin (PRM) 類 (Fig. 1; A) は放線菌由来の抗生物質群であり,Ca2+ 存在下でManと特異的に結合する1,2)。『人工分子に成し得ない「Manの特異的認識」をPRMがいかに実現しているのか』という点には大きな関心が寄せられており,PRMの発見以来約30年間にわたってそのMan認識機構の解析が進められてきた。しかしながら,PRMは高い凝集性を有するうえ,Ca2+ およびMan存在下で複数の複合体および会合体を形成するために (Fig. 1; B),X線結晶構造解析や溶液NMR解析を適用することができず,PRMとManとの結合様式の解析はほとんど進んでいなかった。  我々は,PRMのなかでも凝集性の高いPRM-A (Fig. 1; A) とmethyl -D-manno- pyranoside (Man-OMe) との1:1複合体 ([PRM-A2/Ca2+/Man-OMe2] 複合体) を固体サンプルとして調製し,その構造を固体NMRで解析することで複合体におけるPRM-AとMan-OMeの分子間距離相関を明らかにしてきた3-5)。しかしながら,Ca2+ 結合部位が明確ではなく,PRM-AとManの結合様式の解明には至っていなかった。 Fig. 1 Pradimicinの構造 (A) と複合体形成スキーム (B)
  • 坪倉 一輝, Kenward Vong, Ambara Pradipta, 中尾 洋一, 田中 克典
    p. 139-144-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    創薬過程において、試験管内で好ましい活性を示していたとしても、動物での評価時には体内での安定性や副作用などの要因からドロップアウトすることが少なくない。多くの顕著な活性を持つ天然物がこの問題のために創薬候補から除外されてきた。もし直接、疾患動物内で生理活性分子を合成することができれば、これまでに見捨てられてきた多くの分子が再び見直される可能性が生まれる。例えば、動物の臓器や疾患部位に対して選択的に試薬を送り込み、さらにその場で生体夾雑物が存在していても特定の金属触媒反応を起こす技術が発展すれば、現地の望む時間枠で生理活性天然物を合成し(現地合成)、その場で治療(現地治療)することも夢ではない。発表者らはこの新概念を「生体内合成化学治療」と名付け、動物内の血中や標的の臓器上で自在に分子を合成して治療することを目指してきた。今回、哺乳動物内の標的の臓器上で初めて選択的に遷移金属触媒反応を起こすことに成功した。さらにこの哺乳動物内での金属触媒反応を用いて、疾患上で生理活性分子を複合化したり、あるいは天然物誘導体を合成することによって「生体内合成化学治療」を実現したので、これらの経緯について報告する。 1.アルブミン糖鎖クラスターを利用した金属触媒デリバリーシステム  まず、体内の狙った臓器で選択的に遷移金属触媒反応を起こすためには、不安定な金属触媒を短時間で目的の臓器に運搬しなければならない。一般に抗体に金属触媒を結合して運ぶ方法が考えられるが、抗体は巨大分子(分子量:約15万)のため、目的の臓器に到達するには1日程度を要し、血液中を巡る間に金属触媒が壊れてしまう。さらに臓器に到達しても、臓器の細胞内に取り込まれてしまうため、表面で金属触媒反応を効率的に行うことができない。  そこで発表者らは、独自に開発したアルブミン糖鎖クラスター1を利用することを計画した(図1)。この糖鎖クラスターは、発表者らの「理研クリック反応」2によって様々なN-型糖鎖を効率的に導入することが可能であり、糖鎖クラスターの「パターン認識」を経て目的の臓器へ素早く選択的に移行する3,4。特に、末端に(2,6)結合で繋がるシアル酸、およびガラクトースを持つアルブミン糖鎖クラスターは、それぞれ肝臓と腸管に30分程度で移行することが分かっていた。そこでこれらの糖鎖クラスターを遷移金属触媒のデリバリーシステムとして用い、肝臓、および腸管での金属触媒反応を検討することにした。
  • 伊藤 寛晃, 喜多村 佳委, 櫻井 香里, 井上 将行
    p. 145-150-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【序】  ヤクアミドB (1, Figure 1)は、屋久新曽根産の希少深海海綿Ceratopsion sp.から単離された複雑構造ペプチド系天然物である1)。13アミノ酸残基からなる1の配列は、4つの,-ジアルキルデヒドロアミノ酸構造を含む多数の非タンパク質構成アミノ酸を有し、特異なN末端およびC末端構造(N-terminal acyl group = NTA、C-terminal amine = CTA)を持つ。また、1はJFCR39ヒトがん細胞パネルに対して、既存の抗がん薬とは異なるパターンで強力な細胞増殖阻害活性を示すことが明らかになっている。1は、上述のような構造的特徴と生物活性特性により、新規抗がん薬のシード化合物として有望であるが、天然由来化合物の希少性に加え、構造変換に適した官能基を持たないことから、詳細な生物学的機能解析への展開はこれまで困難であった。当研究室では、銅(I)触媒カップリング反応による,-ジアルキルデヒドロアミノ酸部位の構築を鍵とした1の収束的全合成を達成している2)。本研究では、確立した全合成ルートを基盤として、エナンチオマーを含む様々なケミカルプローブを合成した。さらに、得られたケミカルプローブ群を用いた解析により、1の標的タンパク質としてFoF1-ATP合成酵素を見出した。以下に詳細を報告する。 Figure 1. Structures of yaku’amide B (1), fluorescent probes (2 and 3), and biotinylated probes (4 and 5).
  • 山本  一貴, 市川  聡
    p. 151-155-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【研究背景】  Tunicamycin類は、1971年に放線菌Streptomyces属から単離されたヌクレオシド系天然物であり1)、細菌のペプチドグリカン生合成酵素の一つであるphospho-MurNAc-pentapeptide transferase (MraY)を阻害することでグラム陽性菌に対して抗菌活性を示す(Figure 1)。一方で、真核生物の糖タンパク質糖鎖生合成酵素の一つであるUDP-GlcNAc:dolichyl-phosphate GlcNAc-phosphotransferase (GPT)を阻害することで、ヒト細胞に対する強力な細胞毒性を示すため、抗菌剤として用いることはできない。本研究では、1) tunicamycin V (1)の全合成、2) tunicamycin-GPT複合体構造の解明、3) 構造に基づいた薬物設計によるMraY選択的阻害剤の創製について取り組んだ。 【tunicamycin V (1)の逆合成解析】  Tunicamycinが有する、D-ガラクトサミンとウリジンがC5'-C6'で連結したtunicaminyluracil骨格、11',1''-トレハロース型グリコシド結合という特異な構造は合成化学的にも興味深く、3例の全合成と8例の合成研究が報告されている2)。これまでの合成法はガラクトサミンを原料とした合成法であるが、本研究では、合成終盤で置換基導入を行うde novo糖合成法に基づいた合成計画を立案した(Scheme 1)。誘導体合成を見据え、脂溶性側鎖3、GlcNAc部4は合成終盤で導入することとし、MraY阻害活性に重要と考えられるtunicaminyluracil 2を先に構築することとした。Tunicaminyluracil保護体2は、アリルアミン5のジヒドロキシル化により導くこととし、5の10'-アミノ基は、カーバメート6のアリルシアネート転位により立体特異的に導入することとした。カーバメート6は、ピラノン7のTBS保護とLuche還元により導くこととし、ピラノン7は、ウリジンから導くこととした。
  • 若宮 佑真, 海老根 真琴, 大石 徹
    p. 157-162-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
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    【研究背景】重篤な真菌感染症である深在性真菌症は,世界で年間約150万人もの死者を出しており1),大きな社会問題となっている。効果的な治療法の確立には,選択毒性が高く,耐性菌の出現しにくい新規抗真菌薬の開発が必要である。アンフィジノール3(AM3)は,渦鞭毛藻Amphidinium klebsiiが生産する鎖状ポリケチド化合物であり2),強力な抗真菌活性を示す3)。作用機構の詳細は未解明だが,AM3は真菌の細胞膜に直接作用して細孔を形成すると推定されており4),耐性菌の出現しにくい抗真菌剤のリード化合物として注目を集めている。AM3の絶対配置の決定は,NMR解析を駆使して1999年に達成された5)。しかし,C2位の絶対配置およびC38–C39位,C50–C51位の相対配置は一義的な決定が困難であり,化学合成による構造確認の必要性が指摘されていた。 Figure1. アンフィジノール3の構造 【研究目的】当研究室では,化学合成に基づいたAM3の構造確認を行っており,合成した部分構造と天然物のNMRデータの比較により,C2位およびC51位の絶対配置が逆であることを明らかにした6,7)。しかし,C38–C39位の相対配置は未確認のままであった。そこで,本研究では,AM3のさらなる部分構造の合成と,天然物の分解実験を行うことで,C38–C39位の相対配置の確認を行うとともに,AM3の全合成を行うことで全立体配置を確認することにした。 【C31–C67部分の合成とNMRデータの比較】C38–C39位の相対配置を確認するために,C31–C67部分に相当する化合物1(提出構造)を合成することにした。また,AM3のC39位の絶対配置は改良Mosher法により決定されたため,信頼性が高いと考えられる。そこで,C32–C38部分が逆の絶対配置を有する2(ジアステレオマー型)を合成し,これらのNMRデータを天然物と比較することにした。 Figure 2. AM3のC31–C67部分の構造
  • 浦山 泰洋, 小嶺 敬太, 保坂  拓, 山下 裕貴, 福田  隼, 石原  淳, 畑山  範
    p. 163-168-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【緒言】 ハリクロニンA(1)はチェジュ島近海の海綿Haliclona sp. から単離構造決定された大環状アルカロイドである1)。本天然物は黄色ぶどう球菌を始めとする多様な細胞に対し抗菌活性を示し、ヒト白血病細胞K562に対して中程度の細胞毒性 (IC50 = 15.9 μg/mL) を有する。1は特異なアザビシクロ[3.3.1]ノナン骨格を母核とし、Z,Z-スキップジエンを含む15員環と17員環の二つのアンサ鎖で架橋した複雑な四環性構造を有する。この多様な生物活性と特異な構造から合成標的として大変魅力的であり、世界中で合成研究が展開されている。2016年にはHuangらによる初の全合成が報告され2)、最近、福山、横島らも合成研究を報告している3)。我々は、タンデムラジカル反応を基軸とする独自の方法による合成を検討し、今回、その形式合成を達成したので報告する。 【合成戦略】 我々は1のアザビシクロ[3.3.1]ノナン骨格に注目し、本部位をタンデムラジカル反応にて一挙に構築することを計画した(Scheme 1)。すなわち、セレノカルバメートから求核的なカルバモイルラジカルが生じれば、求電子的な,-不飽和ケトンと容易に反応し、分子内6-exo環化した中間体が生じる。生じた-ラジカルは求電子的ラジカルであり、求核的なアリルスズと反応する。この際、ビシクロ骨格のconvex面から選択的に反応が進行することが期待される。最終段階で生じたスズラジカルは再び基質と反応し、触媒サイクルが完成する。本反応は、中性条件かつ一挙に望む二環性骨格を選択的に生じることから、有機合成的にも非常に魅力的と言える。 Scheme 1.
  • 新木 悠介, 野倉 吉彦, 花木 祐輔, 中崎 敦夫, 北 将樹, 入江 一浩, 西川 俊夫
    p. 169-174-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【研究背景】 Oscillatoxin D (1) は海洋性シアノバクテリアより単離されたポリケチド系天然物である 1)。その構造は、プロテインキナーゼC(PKC)の強力な活性化剤として知られているaplysiatoxin (3)と類似しており、スピロエーテル骨格とβ-ケトエステルにβ-hydroxy- γ-lactoneが結合した非常にユニークなものである(Figure 1)。そして、その全合成は1995年に市原らによってのみ達成されている2)。Aplysiatoxinは強力な炎症作用、発がん促進作用を示すが、近年開発されたaplysiatoxinの構造単純化アナログは発がん促進作用をもたず強力ながん細胞増殖抑制活性を示すことで非常に注目を集めている 3)。一方で、oscillatoxin Dの生物活性はマウス白血病由来のL1210細胞に対して細胞毒性を示すことが合成論文中に単離したR. E. Mooreからの私信として記述されているだけで、その詳細はまったく分かっていない。しかし、oscillatoxin Dはaplysaitoxinが有するPKCへの結合に必要なジオリド構造をもっていないことから、PKC活性化によらない新たな細胞毒性発現メカニズムの発見が期待できる。そこで我々は、oscillatoxin Dとそのアナログの供給可能な合成法を開発し、生物活性の詳細を明らかにすることとした。本発表では、O-methyloscillatoxin Dの合成とその生物活性に関して報告する。 【合成計画】 Oscillatoxin Dを含むaplysiatoxin類は上記のように様々な生物活性を有する。そこで、我々は、oscillatoxin Dのみならずaplysiatoxin類を網羅的に合成できる以下のような合成計画を立てた(Scheme 1)。すなわち、aplysiatoxin類に共通する炭素骨格を含む中間体Aを設定し、この共通中間体Aから両化合物群を合成するというものである。Oscillatoxin Dの合成ではこの共通中間体Aからオキソニウムイオン(G)を生じさせ、続くβ-ケトエステルからの求核攻撃によりスピロエーテル骨格を構築できると考えた。共通中間体AはLeft Segment BとRight Segment Cのカップリング反応により合成する計画である。Left Segment Bは既
  • 甲斐 大敬, 山田  愛, 福島 悠貴, 小椋 章弘, 吉田 圭佑, 高尾 賢一
    p. 175-180-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    1.背景  (+)-アクアトリドは,1989年にSan Felicianoらにより,キク科植物Asteriscus aquaticusより単離されたセスキテルペノイドである1).当初,-ラクトン,ビシクロ[2.2.0]ヘキサン骨格,炭素7員環からなる四環性骨格を有する1aの構造が提唱されていた.しかし,2012年にShawおよびTantilloらがNMRスペクトルの量子化学計算によりその誤りに気づき,最終的には再単離されたサンプルのX線結晶構造解析により,ビシクロ[2.1.1]ヘキサン骨格および炭素8員環を有する1bに構造が訂正された2).その興味深い縮合環構造から本天然物は注目を集め,最近になり2つのグループによってラセミ体での全合成が報告された3).今回私たちは,当研究室にて開発されたシクロブテンの骨格変換を伴う開環/閉環メタセシス反応を鍵として4),短工程でより効率的な1bの全合成を達成したので詳細を報告する. 2.合成計画  標的化合物1bの逆合成解析をScheme 1に示す.1bは,類縁天然物である(—)-
  • 伊東 龍生, 鳥塚 誠, 森 元気, 吉村 文彦, 谷野 圭持
    p. 181-186-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    ブラシリカルジン類(1–4)は、病原性放線菌Nocardia Brasiliensisから単離・構造決定された化合物群であり、強力な免疫抑制作用および抗腫瘍活性を示す1)。その中でも免疫抑制作用を示す1は、作用機序がシクロスポリンなどの既存の免疫抑制剤とは異なるため、新たな免疫抑制剤のリード化合物として期待されている。本化合物群は、テルペン骨格にアミノ酸側鎖と二糖または単糖が結合した特異なハイブリッド型構造を共通して有する。特にテルペン骨格は、中央B環部が歪んだ舟形配座となるアンチ−シン−アンチ縮環ペルヒドロフェナントレン骨格(ABC環)をとり、本骨格をいかに構築するかが、合成上の最重要課題となる。今回我々は、独自に開発した三度の分子内共役付加反応を基軸とする立体選択的なABC環の構築、アミノ酸部の立体選択的な構築、および立体選択的なグリコシル化反応を経てブラシリカルジン類(1–4)の不斉全合成を達成したので報告する2)。 1. 合成計画  糖およびアミノ酸部が異なる1–4の共通中間体として三環性化合物(ABC環部)6を設定し、6に対応するアミノ酸部の構築と糖の導入を順に行うことで、1–4が合成できると考えた。6のC環は当研究室で開発されたジブロモオレフィン側鎖を有する不飽和エステル7の分子内共役付加反応3)により構築することとした。7は二環性化合物8から炭素鎖を伸長して合成する。8のB環部は、ニトリル側鎖を有するZ
  • 上森 理弘, 長田 龍之助, 杉山 亮司, 中田 雅久
    p. 187-192-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景】コチレニンA (1)は、植物成長調整物質としてCladosorium sp.から単離されたジテルペン配糖体である1。1は、前骨髄性白血病細胞に対して分化誘導活性を示す。さらにINF-と併用することで種々のがん細胞に対し てタンパク質間相互作用に基づく腫瘍増殖抑制活性を示す2。このため1は新規抗がん剤として注目されているが、1の生産菌の継代培養が途絶えているため、化学合成が供給手段の一つである。しかし、これまでに1のアグリコンであるコチレノール2の全合成については報告されているものの3、1の全合成は報告がない4。今回我々は、1および2の不斉全合成を達成したので報告する。 【合成計画】1は、糖フラグメント3とアグリコンフラグメント4とのグリコシル化反応を経由して合成し、4はケトン5からの変換を考えた(Scheme 1)。5の8員環はパラジウムを用いたメチルケトン6の分子内アルケニル化反応5により構築し、6は不斉合成によりそれぞれ調製したA、C環フラグメント(7, 8)からカップリングを経由して合成する計画を立てた。 Scheme 1. Retrosynthetic analysis of cotylenin A (1) 【A環フラグメントの合成】市販の9とメシチルメチルスルホンのジアニオンの反応と続くジアゾ基の導入がワンポットで行えることを見出し、9から10を77%で得た(Scheme 2)。次に当研究室で開発した触媒的分子内シクロプロパン化反応6とシクロプロパン環の開環反応も溶媒を代えることによりワンポットで行えることを見出し、10から12を81%で得た。12は再結晶により99% eeとした。次に12から7へ
  • 松村 匡浩, 吉田 浩明, 高見 麻衣, 小山 智之, 西川 慶祐, 森本 善樹
    p. 193-198-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【 背景 】  ヒストリオニコトキシン類は、コロンビア原産毒カエルの皮膚から抽出されたアルカロイドであり、原住民の矢毒成分として利用された。本天然物群で最も有名なヒストリオニコトキシン 283A (HTX-283A、Figure 1、1) は、1971 年 Witkop らによってヤドクガエル Dendrobates histrionicus から単離され、ニコチン性アセチルコリン受容チャネルをアロステリックに阻害することで、強力な神経毒性を発現する1)。天然物 1 の構造的特徴は、1-アザスピロ [5.5] ウンデカン骨格を母格とし、二つのエンイン側鎖を有する点である。このヒストリオニコトキシン類に共通する含窒素スピロ環の効率的構築法の開発が、本天然物群の合成における重要な課題となっており、これまでに含窒素スピロ環を一段階で構築した例は報告されていない。また 1 にはヒストリオニコトキシン 235A (HTX-235A、2) の様な側鎖の異なる類縁体が複数存在し、それらの生物活性は十分に検討されていない。今後、網羅的な構造活性相関研究や、新規バイオプローブ分子の開発へと展開する際、HTX 類の効率的合成法を確立しておくことは必須である。所属研究室では、水銀トリフラート (Hg(OTf)2) を触媒2)とし、鎖状基質 3 から 1-アザスピロ [4.5] デカン骨格 4 を、効率的に構築する環化異性化反応を開発している (Scheme 1)3)。今回我々は、上記環化異性化と環拡大反応を組み合わせた 1 の形式合成を達成した4)。またさらなる効率化を目指す過程で、上記環化異性化反応を、HTX 類の1-アザスピロ [5.5] ウンデカン骨格の一挙構築法へと拡張することに成功し、ヒストリオニコトキシン 235A (2) の全合成を達成したので報告する。 【 HTX-283A(1)の形式合成 】  ヒストリオニコトキシン類の逆合成解析を Scheme 2 に示す。天然物 1 は、スピロ環 5 より既知の手法で誘導する。HTX 類の1-アザスピロ [5.5] ウンデカン骨格5は、1-アザスピロ [4.5] デカン 6 よりヨウ化サマリウム(SmI2)を用いる環拡大反応により構築する。スピロ環 7 は、鎖状基質 8 の水銀触媒による環化異性化反応により合成し、8 は既知のピロリジノン 9 5) とスルホン10 を連結して調製する。スルホン 10 は市販の1,3-シヨードプロパン(11)と既知のアルキン 12 6)との求核置換反応により合成する。
  • 高橋 紀人, Bonepally Karunakar Reddy, 松岡 直弥, 岩月 正人, 石山 亜紀, 穗苅 玲, 乙黒 一彦, 大村 ...
    p. 199-204-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【はじめに】 アルテミシニン 1 は赤血球内に侵入したマラリア原虫を速やかにほぼ一掃する薬効を示し、副作用が少ない。1 の水溶性を改善した半合成誘導体アルテスネート 3 は、マラリアの第一選択薬となっている。最近では、アルテミシニン類をがんや他の感染症へ適用する研究も活発になっている。1 の全合成が多数報告されてきたが1)、近年、合成生物学的な手法で 1 を供給できるようになった。Keasling らは生合成前駆体 2 を遺伝子改変酵母で生産した後、四工程の化学変換を経て、1 を半合成している2)。一方、簡便に化学合成できる抗マラリア剤候補として、1 の構造を簡略化した OZ439 (4) 等が開発されている3)。 我々は次世代の抗感染症薬・制がん薬に発展しうる化合物群を設計し、骨格多様化合成するアプローチを展開している4)。本研究では 1 の構成要素を可能な限り簡略化せずに窒素官能基や非天然型置換基を導入した6-アザ-アルテミシニン群を設計した。6位不斉炭素を窒素に置き換える“元素置換戦略”により、①モジュラー式触媒的不斉合成、②置換基の自在導入、③母骨格の水溶性改善を目論んだ。実際にシンプルな三つの構築ブロックから僅か四工程で6-アザ-アルテミシニン骨格を構築する触媒的不斉合成プロセスを開発した5)。 図1. アルテミシニン類の半合成、6-アザ-アルテミシニン群の設計と迅速合成
  • 工藤 史貴, 平山 茜, 張 家浩, 宮永 顕正, 江口 正
    p. 205-210-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    パクタマイシンはStreptomyces pactum NBRC13433が生産する抗腫瘍抗生物質であり、炭素五員環アミノサイクリトールが3-アミノアセトフェノン(3AAP)や6-メチルサリチル酸(6MSA)などにより高度に修飾された興味深い構造を有している(Fig. 1)1。Rinehartらによる取り込み実験から、炭素五員環アミノサイクリトールはグルコースに由来すること、3AAPのアミノ安息香酸ユニットはシキミ酸経路の中間体から派生して構築されること、6MSAはポリケチド経路により生合成されることが示唆されている2-3。3AAPのメチル基も酢酸に由来することから、3-アミノ安息香酸(3ABA)と酢酸ユニットとの縮合後、脱炭酸反応を経て構築されると推定されている。また、メチオニンの取り込み実験から、炭素五員環アミノサイクリトールの炭素骨格がC-メチル化されて生合成されることが示唆されている。本研究ではパクタマイシンの生合成機構を酵素反応レベルで解明することを目指した。結果として現在までに、パクタマイシン生合成遺伝子クラスターを特定し、生合成に関わる鍵酵素の機能を解明することができたので報告する。 <遺伝子クラスターの特定と推定生合成経路> まず、パクタマイシン生合成遺伝子を特定する手がかりとして、ラジカルS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)C-メチル化酵素の関与を推定した。パクタマイシン生産菌のゲノム配列を探索した結果、3つのラジカルSAM C-メチル化酵素をコードする遺伝子を含む生合成遺伝子クラスターを見出すことができた(Table 1)4。
  • 加藤 直樹, 野川 俊彦, 滝田 良, 衣笠 清美, 金井 美紗衣, 内山 真伸, 長田 裕之, 高橋 俊二
    p. 211-216-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    天然物の特徴のひとつとして、不斉炭素に富んだ複雑な構造が挙げられる。その立体配置は特徴的な生物活性に大きく寄与しており、グルタミン酸やリモネンなどを始め、立体異性体の間で生物機能が異なることも多い。有機合成化学の分野では,立体異性体の一方を選択的に合成する手法が、不斉合成として大きな発展を遂げ、医薬・農薬開発に大きな貢献をした。一方、天然物の生合成経路を構成する酵素の多くは、厳密な位置・立体選択性を有しており、本来とは異なる立体異性体が産み出されることはほとんどない。もし、その厳密な選択性を自在に操ることが出来れば、天然にはない立体配置を有する新規天然物誘導体の創製が可能となる。天然物生合成経路において、立体配置を規定する鍵酵素を同定し、その反応機構を理解することは「不斉生合成」の実現に向けた第一歩である。 【立体選択的[4+2]環化付加反応を触媒する酵素Fsa2】 [4+2]環化付加反応は、有機合成化学では炭素骨格構築における最重要反応の1つである。一方、天然物化学においては、本反応が関わると考えられる構造は数多く存在するものの、それを触媒する酵素の詳細は永らく不明であったが、近年のゲノム解読技術の飛躍的な発展に伴い、本反応を触媒する酵素の発見が相次いでいる1)。Fusarium属糸状菌の生産するequisetin (1) 2)の生合成経路において、立体選択的デカリン形成を担うFsa2もその1つである3)。しかしながら、それらの進化的起源は異なっており、各々の生合成経路に特化していることから、酵素機能の統合的な理解には至っていない。 化合物1に代表される、デカリン含有2-ピロリジノン化合物(Fig. 1A)は糸状菌によって生産される二次代謝物の一群であり、多様な生物活性を示すことが知れられている4)。PKS-NRPSハイブリッド酵素により生合成される多様な構造を有する直鎖状ポリエン中間体が、Fsa2とそのホモログ5)が関与する[4+2]環化
  • Edward A. Lilla, 横山 健一
    p. 217-222-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    真菌による感染症は近年増加傾向にあるが、臨床薬として用いられている抗真菌性抗生物質は種類が限られており、強い副作用を有するものや耐性菌が頻繁に観測されているものがほとんどである。そのため、新たな抗真菌性抗生物質の開発が求められている。ニッコウマイシンZやポリオキシンD(図1a)に代表されるペプチジルヌクレオシド系抗真菌性抗生物質は真菌の細胞壁生合成を阻害し、極めて選択的な抗真菌作用を有する重要な化合物群である。しかしながら、その共通構造であり特徴的な六炭糖を有するヌクレオシド部位(アミノヘクスロン酸、AHA、図1a)の生合成についてはそのほとんどが未解明である。今回、我々はAHA生合成に関して、C5′-C6′結合形成反応をラジカル機構で触媒する酵素の機能および反応機構解析に成功したので、これを発表する。  AHAは、ウリジン一リン酸(UMP)とホスホエノールピルビン酸(PEP)からエノールピルビルUMP(EP-UMP)とオクトシル酸(OA)またはその誘導体を経て生合成されることが知られていた1-2(図1a)。しかし、AHAやOAが有するC5′-C6′結合(図1aの楕円)の生合成機構は未解明であった。C5′-C6′結合はAHAやOAをはじめとした、6炭素以上の糖を有する多くのヌクレオシド系天然物に見出される。近年、C5′-C6′結合形成に関して、抗細菌性抗生物質カプラザマイシン生合成研究から、αケトグルタル酸(αKG)依存型酸化酵素によってC5′位がアルデヒドへ
  • 大城 太一, 川口 未央, 豊田 雅幸, 大手 聡, 猪腰 淳嗣, 藤井 勲, 供田 洋
    p. 223-228-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【概要】 微生物や植物から、ナフトピラノンやアンスラキノン、キサントンなどの3環性芳香族化合物が炭素-炭素結合で二量体化したビアリル型化合物が数多く単離されている1-6) (図1)。この二量体の結合様式で分類すると頭部分同士や胴体部分同士、頭部分と胴体部分の結合などさまざまであり、その生産者によって特異な位置で立体選択的に結合し、軸異性を生じうる。これらの化合物は、色素として働く場合や抗菌活性、細胞傷害活性、酵素阻害活性などの様々な生物学的活性を示す。しかし、この二量体化酵素の実体はほとんどわかっていない。我々研究グループは、微生物資源から脂質代謝調節剤の探索を実施し,この過程で真菌Talaromyces pinophilus FKI-3864の培養液中からナフトピラノン環を有するmonapinone A (MPA)とこれが8-8’位で結合し二量体化し軸異性を生じたdinapinone A1 (M体, DPA1)とA2 (P体, DPA2) を発見した(図2)7-11)。水道水で作った培地ではdinapinoneを生産するが,海水で作った培地ではその単量体であるmonapinone Aを生産することを報告した (図2)8)。さらに、T. pinophilus FKI-3864より調製した無細胞液に MPAを加え反応を行なうとDPA1と DPA2を生成したことから、T. pinophilus FKI-3864に二量体化を担う酵素の存在が示唆された11)。 本研究では、MPA から DPA を二量体化するmonapinone coupling enzyme (MCE) の単離精製および酵素学的特徴、基質特異性、MCE遺伝子の特定について報告する。
  • 澤田 光平, 南 篤志, 久米田 博之, 斎尾 智英, 松丸 尊紀, 及川 英秋, 前仲 勝実, 尾瀬 農之
    p. 229-234-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【背景】  ポリエーテル化合物は,海産微細藻由来のブレベトキシン,放線菌由来のモネンシン,ラサロシド,キジマイシンなどに代表されるように様々な生物が多種多様な骨格を持つポリエーテルを生産している。これら天然物は連続したエーテル環を分子骨格に持ち,生理活性において重要な役割を果たしている。例えば,ポリエーテル骨格による金属イオンのキレーション機構が知られており2, 3, エーテル環上の酸素原子が特定の金属イオンをキレートして電荷を包み込み,外側に疎水性領域の炭素骨格を向ける。これによって細胞内外のイオンの透過性が増加し,抗菌活性などを示す(イオノフォア)。ポリエーテル骨格としては,テトラヒドロフラン(THF)やテトラヒドロピラン(THP)のようなエーテル環が数珠玉状(モネンシンなど),もしくは梯子状(ブレベトキシンなど)に連結されたものである。こうしたポリエーテル系天然物の生合成経路,特に多くの不斉点を有するエーテル環の構築機構は,有機化学的にも非常に興味が持たれてきた。ポリエーテル骨格の構築機構は1983年に提唱されたCane-Celmer-Westley (CCW)モデル「ポリエン-ポリエポキシド仮説」(1)において,環化機構が統一的に説明された。このモデルでは,鎖状ポリオレフィン前駆体がエポキシ化され,生成したポリエポキシドが位置選択的なエポキシド開環反応によりポリエーテル骨格が構築される。 Scheme 1. Monensin B biosynthesis pathway catalyzed by MonBI and MonBII oligomer  私達は,Monensin生合成をモデルケースとしてポリエーテル骨格構築機構の解明に取り組んできた。多様性を決定づけるエーテル環の導入は,エポキシド加水分解酵素ホモログである環化酵素が担うことが,最近は広く知られてる。Monensinの場合,その骨格を構築するために3 回の5-exo 環化反応が必要である (Scheme 1)。しかしながら,モネンシン生合成遺伝子クラスター中には、環化酵素と相同性を持つ遺伝子がmonBI, monBII の2つしか存在しないため、この2つの環化酵素がどのように3 回の環化反応を触媒するかを解明することが,複雑なポリエーテル骨格構築メカニズムを一般化することと同義であると考えた。組換え発現させたMonBI,
  • 狩野 有宏, 深見 契弥, Moses Kamita, 岩崎 琢磨, 岩田 隆幸, 新藤 充
    p. 235-240-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    緒言  ボンクレキン酸 (BKA) は、ココナッツ発酵食品による致死性の食中毒成分として同定された天然有機化合物である。その食中毒において、摂取後の血糖値の上昇、それに続く肝臓と筋肉のグリコーゲン放出、そして低血糖を呈し死に至る ことが1930年代に言及されている1。その後1970年代にBKAの構造決定がなされると共に、ミトコンドリアの内膜タンパク質Adenine Nucleotide Translocator (ANT) を特異的に阻害することが示された (Fig. 1)2, 3。ANTはミトコンドリアで産生されたATPをADPとの交換反応により細胞質に供給する役割を持つ一方、他のミトコンドリアタンパク質と複合体を形成して、ミトコンドリア膜透過性遷移孔 (MPTP) を形成する二作用性のユニークなタンパク質である。アポトーシス誘導の際には、MPTPからcytochrome C等の放出が起こり、その後のカスケードが開始される事が報告されている4。このことを踏まえ、BKAがMPTPを塞ぐことによりアポトーシスの誘導を抑制するとの報告があるものの、ANTタンパク質欠損肝細胞もアポトーシスに感受性を有しているとの報告もなされ矛盾がある5, 6。しかしながら、BKAは大量入手が難しいために、生物活性は未だ十分には解明されていない。我々はBKAの効率的全合成及び活性アナログ(第55回本討論会)に関して報告し、その端緒を拓いている7, 8, 9。本研究ではマウス培養細胞を用い、BKAによる細胞障害性について解析を行った。 方法と結果  BKAはがん細胞選択的に細胞障害を誘導する  はじめにWST-8試薬を用いて乳がん細胞4T1に及ぼすBKAの細胞障害性を検討した。種々検討の結果、BKAは4T1の播種細胞数依存的に細胞障害を誘導することを見いだした (Fig. 2A)。2.5万cells/wellにて播種したとき、50 µM以上にて細胞障害性が観察された (Fig. 2B)。一方正常細胞のNIH3T3ではBKAによる細胞障害はいずれも観察されなかった。同様の細胞障害はマウスがん細胞のHepa1-6、B16F1、 およびヒトがん細胞HelaおよびHepG2でも観察している。一方、BKAは細胞死をおこさず、細胞の増殖能にも大きな影響を及ぼさないことを観察している。WST-8は細胞のNADHレベルに応じて呈色すると報告されていることから、実際の細胞内レベルを定量した結果、BKAによって4T1細胞のNADH濃度が低下していることが判明した。BKA刺激によって、細胞NADHレベルが低下し、このことがWST-8試薬による細胞アッセイのレベルを低下させたと考えられた。
  • 真鍋 良幸, 長崎 政裕, 初村 洋紀, 源 直也, 岡村 壮一郎, 三宅 秀斗, 波多野 佳奈枝, 樺山 一哉, 田中 克典, 深瀬 浩一
    p. 241-246-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    タンパク質の60%以上は糖鎖修飾を受け,免疫,がんなど様々な生体現象と関与する.一方,生体内で糖鎖は様々な構造の混合物(グライコフォーム)として存在するため,糖鎖の生物機能を分子構造に基づいて解明することは困難であった.N-結合型糖鎖(N-グリカン)はタンパク質のアスパラギン残基に結合する翻訳後修飾糖鎖で,多様な構造を持ち,それぞれの構造に基づき,タンパク質の機能を調節する.中でも,コアフコース,バイセクティンググルコサミン(GlcNAc),ポリラクトサミン,末端シアル酸などの構造は,免疫調節やタンパク質の活性制御に重要であることが,その生合成酵素のノックアウト実験により明らかにされている(Fig. 1).これは,N-グリカンが,レクチンをはじめとする種々の分子と相互作用し,タンパク質の局在や運動性などを調整して,その機能を制御するためである.本研究では,N-グリカンの機能解明のための合成糖鎖ライブラリ構築を目的とし,種々の構造を持つN-グリカンを合成した.さらに,糖鎖修飾がタンパク質の動態に及ぼす影響を解析するために,合成N-グリカンで修飾したタンパク質を調製し,ライブセルイメージングを行った. 1.N-グリカンの合成 1-1.コアフコース含有N-グリカン3の合成 まず,コアフコースとシアル酸を持つN-グリカン3を合成した.効率的合成を実現するために,還元末端の4糖1に対して非還元末端の4糖2を2度グリコシル化する収束的ルートを採用した.この際,カギとなるグリコシル化は大きなフラグメント同士のカップリ
  • 大森 建, 武田 梨花子, 野口 柚華, 三坂 巧, 鈴木 啓介
    p. 247-252-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    植物に多く含まれるフラバンオリゴマーは、古くから健康を促進する物質として知られ、特にそのポリフェノール構造に起因する抗酸化作用が注目されてきた。また、本化合物群の織りなす多様な構造には、さらなる生理作用や未知の機能の発見も期待される。しかし、これらの化合物を天然から純度よく得ることは容易でなく、この物質供給の問題が関連研究の進展を妨げている。 フラバンオリゴマーの構造は、その結合様式により二つのタイプに大別される(図1)。一つはフラバン単位同士がC–C単結合により直鎖状に連結されているものである(例、プロシアニジンC1)。もう一つはフラバン単位がC–C間とC–O間の二つの結合で連結され、特異な[3.3.1]ビシクロ構造を形成しているものである(例、エスクリタンニンC)。前者の合成例は比較的多く、合成誘導体について構造活性相関研究も盛んに行われている1a)。一方、後者は潜在的に興味深い性質が示唆されているが合成例は限られている1b)。今回、我々は糖鎖合成において頻用されるオルトゴナル法と、独自に見出したアヌレーション法を組合せ、連続した二重連結構造を有するフラバンオリゴマーの合成に成功した。また一部の類縁体についてヒト甘味受容体を安定発現する培養細胞を用いた活性評価において、興味深い活性が観察されたので併せて報告する。 フラバンアヌレーション:先に我々は二重連結構造を有するオリゴマーの基本構造を構築する手法として、“flavan annulation”を見出した(図2)2a)。本法は、フラバン骨格上の2位と4位に脱離基を導入した合成単位Iをジカチオン等価体として用い、それをフェノール誘導体IIと反応させ、ビシクロ構造IVを一挙に構築するというものである。詳細な検討の結果、カチオン種は二箇所同時ではなく、段階的に生じることが分った。すなわち、Iに活性化剤を作用させると、まず4位が選択的に活性化され、フラバン誘導体IIとの炭素求核部位(8位)と反応する。続いて生じた中間体IIIの2位が活性化され、生成したカチオン種が分子内の水酸基に捕捉されてビシクロ体IVを与える。この反応において、はじめに求電子単位の4位が活性化される理由は、生じるカチオン種の安定性を考えると容易に理解できる。すなわち、4位に生じたカチオンは芳香環を介し三つの酸素原子による安定化を受けるのに対し、2位に生じたそれは、都合二つの酸素原子からしか恩恵を受けられない。なお、当反応は3位に導入した不斉炭素原子の効果により立体選択的に進行する。
  • 鯉沼 僚輔, 東田 和樹, 青柳 拓, 田中 浩士
    p. 253-258-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    ポリシアル酸は、生物学上重要な酸性9単糖であるシアル酸が重合した多糖であり、主に、α(2,8)またα(2,9)重合体1,2また、それらの交互重合体3が報告されている(図1)。特に、α(2,8)ポリシアル酸は、脳神経細胞表面に存在し、神経形成に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。1)さらに、近年、ポリシアル酸が脳由来神経因子(BDNF)に結合し、脳内のキャリアーとして機能していることが明らかにされている。2)ポリシアル酸をハプテンとして用いて合成した抗体(ポリシアル酸抗体)が、8量体以上のα(2,8)シアル酸1aを認識することから、これら糖鎖をポリシアル酸と呼び、3〜7量体シアル酸(オリゴシアル酸)1bとは区別している。そのため、シアル酸8量体はポリシアル酸が形成する特異な高次構造の最小単位であると考えられている。そこで、ポリシアル酸が形成する高次構造の解明およびポリシアル酸の基盤とした生体機能性分子の創製をために、構造が明らかで重合度が制御された構造の明らかな(2,8)オクタシアル酸(ポリシアル酸)およびその類縁体の合成法の開発が求められている。我々は、これまで化学合成によるα(2,8)シアル酸重合体の合成を検討してきた。その結果、4,5位に環状カルバメート基を有したシアル酸を用いるシアル酸オリゴマー合成法(第一世代)の開発に成功した。3)4,5位に環状カルバメート基は、シアル酸のグリコシル化に対する反応性およびα選択性を向上させるとともに、糖受容体となる8位水酸基の求核性の向上にも寄与する。その結果、世界で初めてα(2,8)テトラシアル酸4の化学合成を達成した。しかしながら、糖鎖伸長とともに、糖受容体の反応性が低下し、グリコシル化収率の大幅な低下がみられたため、それ以上の多量体(ポリシアル酸)の合成は困難であった。本研究では、環状保護基により立体配座が制御された側鎖を有するシアル酸を用いるα(2,8)オクタシアル酸(ポリシアル酸)の化学合成について報告する。 図1オリゴ・ポリシアル酸 図2に第二世代のシアル酸オリゴマーの合成戦略を示す。本合成法では、4,5位にN-アセチル環状カーバマートおよび7,9位に環状炭酸エステルを有するシアル酸糖供与体6と糖受容体7のグリコシル化を基盤としている。得られたグリコシド8は8位の保護基を脱保護することにより、同様な糖受容体7へと変換できる。これを繰り返すことにより、シアル酸のオリゴマーおよびポリマーを合成する。その際、N-アセチル環状カルバマートは、シアル酸糖供与体の高いα選択性の発現に寄与す
  • 石川 勇人, 三坂 玲美, 塩見 慎也
    p. 259-264-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【序論】 キニーネ(1)はアンデス原産のキナの木から見出されたモノテルペノイドインドールアルカロイドに属するキノリンアルカロイドであり、1820年に単結晶として単離されてから、マラリアの特効薬として用いられてきた医薬品である(Figure 1)1)。現代社会においてもマラリアの脅威は決して衰えておらず、医薬として確固たる地位を築いている。一方、キニーネ(1)をはじめとするシンコナアルカロイド類およびその誘導体は、近年、有機分子触媒として数多くの不斉反応に用いられており、現在でも矢継ぎ早に新規反応が報告されている2)。シンコナアルカロイド類の供給は、現在でも植物からの単離に依存しているため、キニーネ(1)のエナンチオマーを手に入れる事はできない(少なくとも購入できない)。不斉反応の開発において、両エナンチオマーが作り分けられないとすれば、致命的な欠点となるが、幸いにも同属植物から見出されるキニジンがキニーネ(1)の擬エナンチオマーとして用いることができるため、大きな問題となっていない。しかしながら、両化合物は15位と20位の立体が双方とも15S、20Rであり、いわゆるジアステレオマーであるため、化学反応性や不斉誘起能は完全に同じではない。故に、非天然型キニーネ(ent-1)の全合成による供給は、現代科学において解決するべき重要課題である。キニーネ(1)の全合成の歴史は非常に古く、1944年にWoodwardによってキニーネ(1)の初ラセミ合成が達成され、歴史的偉業として大きく取り上げられた3)。その後、2001年にStorkらにより初の不斉全合成が達成され4)、これを皮切りにいくつかの不斉全合成が達成されている。いずれの合成も独自の手法を駆使した素晴らしい全合成であるが、人工供給のためには、より実用的な全合成が求められている。今回、我々は有機触媒としての利用を前提とした逆合成に基づく非天然型キニーネ(ent-1)の全合成を達成したので、以下報告する。   【逆合成解析】  シンコナアルカロイド類を用いた不斉反応の多くは、キヌクリジン環の窒素に由来する塩基性が重要な役割を果たしており、キノリン環の持つ塩基性は必ずしも必要ではない。故に、全合成達成後に展開する新規触媒設計において、キノリン環部には自由度を持たせるべきである。そこで、ent-1の全合成に向けたキノリン環部の導入は、合成の終盤でのアルデヒド2に対する有機金属種を用いた求核付加反応を利用する事にした(Scheme 1)。また、キヌクリジン環は分子内SN2反応により構築する。化合物2はシアノ基を有する光学活性ピペリジン化合物3の段階的なチオカルボニル基の除去、エステルから末端二重結合の構築、シアノ基の還元によるアルデヒドへの変換を経て合成できると考えた。3のシアノ基はヘミアミナール化合物
  • 田中 静也, 本村 優奈, 前多 隼人, 田中 和明, 木村 賢一, 上杉 祥太, 福士 江里, 根平 達夫, 橋本 勝
    p. 265-270-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    Helminthosporium veltinum yone96から6置換スピロシクロプロパンを有するcyclohelminthol X (1)1、及び二つのスピロシクロプロパンを有するcyclohelminthol Y1-Y4 (2-5)2を単離した(図1)。これら化合物には重要骨格部分にプロトンが無く、HMBCを中心とした解析では構造情報が不十分であった。我々は密度汎関数による13C化学シフト及び電子円二色性(ECD)スペクトル予想により補足することで、全構造を絶対配置を含めて明らかにした。また生物活性を明らかにした。 Cyclohelminthol X (1)のESIMSにおける分子イオンの同位体分布は塩素原子1個の存在を示唆した。高分解能MSによる推定分子式、及びNMR解析より導き出した部分構造を基に文献を検索したところ、AD0157(6)3の13CNMRスペクトルデータと良い一致を示した。しかし、146 ppm付近の13Cシグナルにおいて塩素の同位体比に基づく強度比約3:1の分裂を観測した(図2)。一方、文献で塩素原子が結合するシクロプロパン炭素はシングレットとして観測された。したがって単離した1は、6とは異なる別の構造を有すると結論した。HMBCを中心とした詳細なスペクトル解析により、二つの推定構造A, B(図3)を得たが、構造情報は少なく、それ以上
  • 濱田 博喜, 上杉 大介, 藤高 侑也, 下田 恵, 小崎 紳一, 和氣 駿之, 中山 亨, 福田 庸太, 井上 豪
    p. 271-276-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【目 的】 近年, グリーンケミストリーの観点から微生物や酵素などの生体触媒を利用した有機合成が注目されている. 一般的にこれまでの企業は安く大量に製品を作ることを第一目標とし, 研究開発を行ってきた. 言い換えれば「環境汚染しないように」注意を向けてきた. 現在では, 出来た物を処理するのではなく, 「汚染物質そのものを作らないようにする」という考えが広まってきている. つまり, 環境問題に根本から考え直そうということである. 根本的に汚染物質を使用せず, また出さずに欲しいものを作る手段を模索する学問が「グリーンケミストリー」である. 我々は現在定められているグリーンケミストリーの12箇条の中の「できるだけ生体触媒を使う」という点に注目し, 植物培養細胞に注目をして研究を行っている. 植物細胞培養技術は,細胞の生育,代謝に必要な成分を含んだ培地で,植物の組織の一部を培養し,細胞を増殖する技術である.植物や糸状菌, 細菌などは, 二次代謝産物と呼ばれる特定の種特異的で多様な化合物群を生合成し, 自らの生存戦略に利用している. 植物培養細胞が行う反応には酵素が関与しており, 有機化学合成のような過激な反応条件を必要としない. また, 植物培養細胞は元の植物の遺伝情報を全て備えているため, 物質代謝に関しても同様の情報を持っていることを示している. よって, 植物培養細胞が植物成分の生産手段となりうることが原理的に期待できる. そこで, 植物細胞, 器官および組織をin vitroで大量に培養することで, 有用な植物成分を計画的に生産し, その安定供給を行う試みが,近年進められている. 植物培養細胞は, 植物培養細胞に含まれない外来物質に対して,水酸化, 酸化, 還元, メチル化, 配糖化などの変換を, 微生物を利用したときと同様に行うことが知られている. なかでも,芳香族系の化合物を効率よく配糖化することができる. この配糖化反応は植物の特徴であり, 微生物では稀にしか起こらない. 外来物質として, サリチル酸, カプサイシン, ジギトキシゲニンなどが植物培養細胞によって効率的に配糖化されている. ヨウシュヤマゴボウ培養細胞は, 当研究室において高い配糖化能力が見出されている. これまでに多くの植物由来の酵素の結晶解析が報告されているが, ヨウシュヤマゴボウ由来の酵素の構造は知られていない. 本研究では, ヨウシュヤマゴボウ培養細胞を生体触媒として, 機能性化合物の物質変換研究を行った. さらに, ヨウシュヤマゴボウ培養細胞の変換メカニズムの解明を目的として, 培養細胞へ基質を投与した際に発現したⅿRNAを単離し糖転移酵素(PaGT2, PaGT3)およびメチル化酵素(PaOMT1~4)を精製した. また, 精製したPaGTによる位置選択的配糖化機構を明らかにすることを目的として, PaGT2の結晶構造解析を行ったので報告する.
  • 秋原 由依, 紙川 小百合, 原内 優衣, 太田 恵美, 根平 達夫, 大村 尚, 太田 伸二
    p. 277-282-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    ザウテルマメゾウムシ(Sulcobruchus sauteri)は、マメ科のつる性植物であるジャケツイバラ(Caesalpinia decapetala var. japonica)の種子に寄主特異的に寄生する体長約 3 mmのハムシ科の甲虫である。卵から孵化した幼虫は種子に穿孔し、子葉部を栄養源に成長する。その後、蛹から成虫へと変態して種子から脱出することが知られている1)。寄主植物であるジャケツイバラは本州、四国、九州、南西諸島に自生する日本原産の植物であり、その乾燥種子は「雲実」と呼ばれ下痢止めや解熱のための生薬として用いられている2)。我々はザウテルマメゾウムシが摂食するジャケツイバラ種子の子葉部からフラノジテルペノイド類であるcaesaljaponin A (1)3)、caesaljaponin B (2)3)、caesalacetal (3)4) および caesaljapin (4)4,5) を単離し、X線結晶解析などに基づいて構造決定を行い第57回の本討論会で報告した6)。その後、これらの種子子葉成分のうち化合物 3 および 4 が比較的強い殺幼虫活性を有していることがわかった。このことから、種子子葉部を摂食して成長するザウテルマメゾウムシはその殺幼虫活性成分を無毒化する何らかのメカニズムを有しているのではないかと考えられた。そこで、ザウテルマメゾウムシ幼虫が自らの分泌物および排泄物を使って作り出す蛹室 (Fig. 1)の化学成分について分析を行った結果、7種の新規ジテルペノイド類を単離し、それらの構造をNMRおよびMS等のスペクトルデータに基づいて解析した (Fig. 2)。今回、これらザウテルマメゾウムシ蛹室由来の新規化合物の構造と関連化合物の生理活性について報告する。
  • 大多和 正樹, 有馬 志保, 市田 直樹, 寺山 富明, 大野 浩直, 山碕 隆也, 大城 太一, 佐藤 倫子, 大村 智, 供田 洋, 長 ...
    p. 283-288-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【はじめに】  Sterol O-acyltransferase (SOAT) は体内の遊離コレステロールのヒドロキシ基にアシル基を転移しコレステリルエステルの生成を触媒する酵素であり、その阻害剤は血中コレステロール量の低下や動脈硬化抑制が期待できる。このような背景の下、多くの製薬企業は1980年代より合成SOAT 阻害剤の開発を展開していたが、副腎毒性や下痢などの副作用からその開発が中断された。一方、北里グループは合成剤と異なる骨格を求めて微生物資源よりSOAT 阻害剤の探索を行った結果、1993 年に真菌の生産するpyripyropene A (1) を天然由来の最も強力な阻害剤として発見し1)、1をリード化合物として多くの誘導体を合成した2)。ところが1990 年代に入り、SOAT には2 種のアイソザイムSOAT1 とSOAT2 が存在することが判明し、近年、その機能の相違も明らかとなり、現在では脂質異常症予防治療薬開発のためには特にSOAT2選択的な阻害剤の開発が必要と考えられている。そこで、既知の天然由来および合成SOAT阻害剤についてその選択性の再評価を行った結果、ほとんどの化合物が両アイソザイムを同程度阻害するか、あるいはSOAT1をより強く阻害することが分かり3)、1のみがSOAT2を選択的に阻害する唯一の化合物であることを明らかとした4)。さらに最近、1が経口投与により動脈硬化発症モデルマウスで有効であ
  • 黒田 智明, 花井 亮, 岡本 育子, 柴山 千絵美, 清水 杏菜, 鈴木 結里香, 井上 恭輔, 福田 あかね, 神田 翠, 山田 ひろか ...
    p. 289-294-
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/26
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【序論】  中国横断山脈地域およびその近隣地域に生息するキク科Ligularia属植物には100種以上が知られており、現在も進化・種分化が進行中と言われている。我々はこれらの植物を題材として選び、根の化学成分および中立塩基配列(主にITS領域)を指標として、テルペン類をはじめとする二次代謝産物多様化のメカニズム解明に関する研究を行っている。これまでに、本討論会などにおいて、多くの種で種内多様性が存在すること、類似近縁種では化学的に区別できないケースがあることなどを報告してきた1。雑種形成を経る新規化学成分生産能の獲得過程があることもわかってきた。  L. fischeriは横断山脈地域のみならず、日本まで含めた広い範囲に分布する種で(日本名:オタカラコウ)、韓国では薬用野菜として用いられている。横断山脈地域では近縁種にL. anoleucaおよびL. veitchianaが生育している。この3種は苞葉や葉柄の形によって分類されているが、形態的には互いに似通っている。L. veitchianaは生薬「山紫苑」のひとつでもある。今回は、雲南省、四川省(一部甘粛省)、および重慶市の各地にて採集したこれら3種の相同性と多様性について報告する2。         Figure 1. L. veitchiana, L. anoleuca, およびL. fischeriの採集地(□)。          実線は川、点線は省界、○は主要都市。
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